美味しくて切なくて優しい、ちいさな恋物語

かみゅG

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スイート・ツリー

三年目の夏(その1)

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「最近、暑くなってきたわねー」

 梅雨が明け、本格的に夏に入った。

「陽も高くなって気持ちがいいな」

 光合成が捗る。
 そして、光合成が捗るということは、養分をたくさん作ることができるということだ。

「赤ちゃんも大きくなってきました」

 小娘の子供も、養分をたっぷりと与えられて、大きくなってきている。
 それに、色づいてきている。

「こうして自分の子供が少しずつ大きくなるのを見るのも、いいものだな」

 感慨深い。
 養分を与えている小娘の方が実感があるだろうが、吾輩でもそう感じられる。

「ウメさんったら、わたしのときには全く興味を示さないのに、スモモちゃんのときは興味深々なんだからー」

 ピンク色がそんなことを言ってくる。
 決して興味が無かったわけではないのだが、嫉妬もあったからな。
 吾輩は子を成すことができないのに、ピンク色は子を成すことができるのだと。
 だから、素直に口には出さなかったかも知れない。

「夫婦ですからっ!」

 ピンク色の言葉に、小娘がそう応える。
 そうだな。
 こうして自分の子供ができた今となっては、そんな嫉妬を感じることもない。
 心に余裕もできた気がする。
 最近では、小娘の子供を見るついでに、ピンク色の子供も見ている。
 子供の成長を見守るというのは、毎日変化があっていいものだ。
 照れくさいから、わざわざ、そんなことを口にはしないがな。

「はいはい。暑いわねー」

 そう言って、しらじらしく空を仰ぐピンク色。
 夏の暑さを指しているように見せかけて、なにを指しているかは明らかだ。

「このまま収穫の時期まで、いい天気が続けばいいのだがな」

 吾輩だけなら、どんな天候にも耐える自信がある。
 だが、子供たちはそうはいかないだろう。
 激しい雨や風には耐えきれず、充分に熟す前に落果してしまう可能性がある。
 そして、その可能性は、あり得ないと否定することができない現実味のあることなのだ。

「そうねー」

 ピンク色も気づいてはいるだろうが、口に出すことはない。
 分かっていても、どうしようもないことを、知っているからだ。
 吾輩たちにできることは、来ないことを祈り、来ても耐えられることを祈るだけなのだ。

「そうですねぇ」

 小娘は気づいているのかどうか分からない。
 最近は子供のことで頭がいっぱいのようだ。
 それなら、それでいいさ。
 不安を感じないのなら、それに越したことはない。
 不安は吾輩が感じていればいいことだ。

 収穫までの最大と言ってもいい試練。
 台風の季節が近づいていた。

☆★☆★☆★☆★☆★

「やっぱり、今年も来ちゃったわねー」

 まだ、風はさほどではない。
 だが、感じる。
 遠くから、圧倒的で暴力的な塊が近づいてきている。

「毎年、1つか2つは来るからな。今年だけ来ないということはないか」

 雨も今は弱い。
 だが、斜めに降る様子は、これからの試練を予感させる。

「うぅ、今年くらい来なくてもいいのに」

 小娘はそう言うが、なにも今年だけのことではないのだ。
 小娘も、これからは毎年のことになるだろう。
 だから、覚悟を決めるしかないのだ。

 まあ、初めての子供という点では、記念すべき年ではある。
 だから、吾輩も今年だけでもと、思ってはしまうのだが。

「人間が袋かけしてくれたからねー。少しは風よけにはなると思うけどー」

 ピンク色の言う通り、彼女と小娘の子供には袋がかけられている。
 子供が大きくなり始めた頃にかけられたものだ。
 事実、それは甘い汁を吸おうとする虫どもを防ぐ役には立ってくれた。
 雨も防いではくれるだろう。
 だが、風はどうだろうか。
 あまり、役に立つとは思えない。
 直接、風に晒されないだけ、マシではあるのだろうが。

「そうですね。身体が折れないように支えもしてくれているし、赤ちゃんを守るために袋もかけてくれているし、あとは頑張るだけですっ!」

 小娘もピンク色の言葉が気休めだということには気づいているだろうが、あえてそれを指摘はしない。
 分かっているのだ。
 耐えるしかないのだと。
 そして、耐えれば幸せが待っているのだと。
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