遺伝子操作でファンタジーの住人を創るならエルフよりオークの方がよいと思うのでやってみた。

かみゅG

文字の大きさ
23 / 64
エルフを創ってみよう

023.世界樹の植え場所

しおりを挟む
 エルの性別を確認するのに失敗してから、しばらくが経った。
 あいかわらずエルの性別はわからないのだが、もうその辺りは気にしないことにした。

 エルの訓練は順調だ。
 植物を成長させる能力の方は問題ない。
 弓の技術の方も問題がない――

「ただいま帰りました」
「うむ。おかえり」

 ――と言いたいところだが、実はひとつ問題がある。
 技術は問題ないのだが、威力が向上しないようなのだ。
 エルは、ぼたんと違って成長が早いというわけじゃない。
 寿命は人間より長いのだが、逆に成長は人間より遅い。
 つまり、短期間で筋肉が増えることが無い。
 エルは中学生くらいの見た目だから、筋肉もそれに見合った量だ。
 当然、筋力も弱い。
 道場で的を狙うだけなら問題ないのだが、動物を狩るとなると不安だ。
 鳥くらいならともかく、猪などの分厚い毛皮を持つ動物は貫けないのではないだろうか。
 さらに、エルは動く的を狙ったことがない。
 動物を狩ろうとしても、当てるのは難しいだろう。
 距離を詰められて反撃されるのが目に見えている。
 エルはもともと世界樹を害獣から護るために弓を始めた。
 しかし、今の状態では護りきれないだろう。
 無理をさせない方がよさそうだ。
 それに、植える場所さえ選べば、害虫はともかく、害獣の被害を防ぐのは難しくない。

「ところで、エルよ。世界樹を植える場所は決めたのか?」

 エルは渡した苗をまだ植えていない。
 特に急かすつもりはないのだが、植える場所は気を付けなければならないので、尋ねてみる。

「ごめんなさい、父様。どこに植えようか迷っているんです」
「別に謝る必要はないぞ。エルの好きなところに植えるといい」
「はい。でも、研究室の外に植えたら迷惑ですよね?」
「まあ、大きくなるからな。距離を空ければ大丈夫だとは思うが、植える場合はどのくらいの距離が必要か計算するから事前に教えてくれ」
「わかりました」

 たしかに、研究室の外に植えれば、世話はしやすい。
 害獣からも護りやすいだろう。
 目の付け所は悪くない。
 しかし、研究の目的からすると、本当は自然の中に植えて欲しいところだ。
 エルもそのことが分かっているのだろう。
 選択肢に入れてはいるようだが、迷っているようだ。

 植える場所が決まっていない世界樹の苗は、常にエルが持ち歩いている。
 最終的に雲を超えるほどの大きくなるとはいえ、今はまだ小枝ほどの大きさだ。
 持ち歩くのが困難な重量ではない。
 しかし、地面に根を張っていないので、こまめに水を与えたりする必要があるなど、手間はかかる。
 それなのに持ち歩いているのは、エルがそれだけ大切にしているということだろう。
 どこに植えたとしても、大切に育てるに違いない。

「教授、大変です!」

 吾輩とエルが話をしていると、それを遮るような大声を上げながら、我が助手が研究室に飛び込んでくる。
 拳は飛んで来なかったから、吾輩の研究に対するいつもの言いがかりではないようだ。

「落ち着け、我が助手よ。梅昆布茶でも飲むか? アミノ酸は身体によいぞ?」
「飲みません!」

 主婦じみてきた我が助手は気に入るかと思ったのだが、断られてしまった。
 美味しいのだが。

「なら、いつものコーヒーでよいか? 冷たいのがよければ、ミネラル麦茶もあるぞ。エルはなにがよい?」
「あ、ミネラル麦茶をお願いします」
「飲んでる場合じゃないんですって!」
「水分補給は大切なのだが……」
「いいから、テレビを見てください!」
「テレビ?」

 エルにミネラル麦茶を渡している間に、我が助手がテレビをつける。
 放送されているのは報道番組のようだ。

『……県の山中で行方不明者が多発している事件の続報です……』

 ふむ。
 このニュースは知っている。
 登山をしている人間が下山して来ないというものだ。
 人知れず世界を救うことを信条としている吾輩であるが、世界中の事件や事故を全て解決しようとしているわけではない。
 そんなことは不可能だ。
 それに、山での行方不明者であれば、それを捜索する専門の人間がいる。
 専門外の吾輩が解決するより、そういった人間に任せた方がよほど効率的だろう。
 だから、わからない。
 なぜ、我が助手はこのニュースを見せて騒いでいるのだろう。

「このニュースがどうかしたのか? 知人が行方不明にでもなっているのか?」
「違います。いえ、ある意味、違いませんけど」
「?」

 そういえば、ニュースでは行方不明者が多発していると言っているな。
 多発ということは、単なる遭難ではなく、何かしらの原因があるということだろうか。
 いつの間にか崖崩れがあって地図が変わっていたというのは、山での遭難でよくある原因だ。
 そういった原因であるなら、多発というのも頷ける。
 しかし、そうだったとして、我が助手が騒ぐ理由は、あいかわらずわからない。

「そのうち、映像が出ると思います」
「ふむ?」

 吾輩が疑問に思っていることがわかったのだろう。
 我が助手が映像を待つように言ってきたので、それに従う。
 エルも一緒にテレビに注目している。

「…………なるほど」

 そして問題の映像が流れた瞬間、吾輩は我が助手が騒ぐ理由を理解した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

処理中です...