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エルフを創ってみよう
025.追跡してみよう
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エルと我が助手を見送った後、しばらくしたら我が助手だけが戻ってきた。
「はぁはぁ……追いつけませんでした」
「まあ、エルは若いから――」
ギッ!
「――エルは弓道で身体を鍛えているからな」
「そうですね。私も研究ばかりで身体が鈍っているのかも知れません」
眼力は鈍っていないだろう、という言葉は飲み込んだ。
あと、吾輩を殴る腕力も鈍っていないと思うが、その言葉も飲み込んだ。
「そんなことより、教授。エルちゃんを連れ戻したいんですけど、どうにかなりませんか?」
「連れ戻すことができるかどうかはわからんが、エルを追いかけることはできるぞ」
「ホントですか! お願いします!」
「いいだろう」
ぼたんが飛び出した後、吾輩は何もしなかったわけではない。
ぼたんの行動を制限する気はないが、観察できないのは研究をする上で不都合がある。
だから、観察する方法を考えたのだ。
「これに追いかけさせよう」
「これって、ド○ーンですか?」
「うむ。カメラ付きのドロ○ンだ。顔認証をおこなうサーバーと連携させることで、特定の対象を追跡することができる。もちろん、ぼたんとエルはサーバーに登録してあるぞ」
「説明はいいですから、早く追いかけさせてください」
「よかろう」
もう少し説明したいところだったが、もともと吾輩は機械工学や認証技術が専門ではない。
本来の研究に関する方を優先する。
電源を入れると、ドロー○が宙に浮かび上がる。
エルの走り去った方向はわかっている。
その方向を指定すると、○ローンが窓から外に出ていく。
あとは自動で飛んでいくので、追いつくのを待つだけだ。
「さて、あとは待つだけだ。コーヒーでも淹れるか」
「よく落ち着いていられますね」
「果報は寝て待てと言うぞ」
「待っていたら、ぼたんが女王様になっていたんですけど」
「大出世して、喜ばしいことではないか」
「日本で女王様なんて、いかがわしい店にしかいませんよ」
文句を言いつつも、やることがないのだろう。
我が助手もコーヒーを飲みながらくつろぐ。
そうして時間を潰していると、数時間後、追いついたド○ーンがエルの姿を映し出した。
*****
『……行方不明者が出たのは、この近くのはず……』
エルの姿がパソコンのディスプレイに映し出される。
エルは森の中を歩いているようだ。
「エルちゃん、どうやって、こんなところまで来たんでしょう?」
「電車とバスを乗り継いだのではないか?」
ファンタジーに出てくる種族らしくはないが、日本で長距離を移動するには一般的な手段だ。
走って目的地に行くよりは、よほど現実的と言える。
テレビでは正確な場所までは言っていなかったが、行方不明者が出た山の名前などは言っていた。
その情報から場所を予想して、ぼたんを捜しているのだろう。
広い山の中で無計画に捜しても見つけることができる可能性は低いと思うのだが、エルは植物に詳しいから、テレビに映っていた植物から場所を絞り込んでいるのかも知れない。
その推測が正しかったのかはわからないが、映像の中のエルがなにかを見つける。
『……猪、ううん、豚の足跡……こっちだ……』
手がかりを見つけたようだ。
エルは着実に、ぼたんに近付いている。
「教授! エルちゃんに帰ってくるように言ってください! 今のぼたんは何をするかわかりません!」
我が助手が、吾輩に要求してくる。
しかし、吾輩はその要求に応えることはできない。
なぜなら――
「言い忘れていたが、我が助手よ」
「なんですか? 早くしてください!」
「あのド○ーンには、音声入力の機能は付いているが、音声出力の機能は付いていない」
「早く…………はあ!?」
――要求に応える手段が無いからだ。
別に我が助手に嫌がらせをしているわけではない。
単純に手段がないのだ。
「対象と一定の距離を置いて、映像と音声をこちらに送ってくる機能しか付いていないのだ」
「なんで! それじゃ、役に立たないじゃないですか!」
「むっ。そんなことはないぞ。もともと研究対象を観察するために作ったものだからな。目的を果たすには充分な機能だろう」
「エルちゃんを連れ戻す役に立たないって言っているんです!」
「吾輩はエルを追いかける手段があると言っただけだぞ」
「ああもう、この役立たず!」
ド○ーンだけではなく、吾輩まで役立たず呼ばわりされた。
不本意だ。
しかし、今は言い争いしている場合ではない。
吾輩としても、ぼたんの成長には興味がある。
エルが追いつけば、ぼたんの現在の様子も映るはずなのだ。
「落ち着け、我が助手よ。今は見守ろうではないか」
「そう言われて見守っていたら、ぼたんが女王様になっていた経験があるんですけど」
我が助手が、しつこく文句を言ってくる。
我が助手は、もう少し優先度というものを意識する習慣を身に付けた方がよいのではないだろうか。
「ド○ーンにはGPSが付いている。それほど気になるなら、状況が落ち着いたら会いに行ってみたらよいのではないか?」
「場所がわかるんですか! それなら、今すぐ……」
我が助手が席を立ち上がりかける。
しかし、その動作は途中で止まる。
『……見つけた……』
エルのそんな声が聞こえてきたからだ。
「はぁはぁ……追いつけませんでした」
「まあ、エルは若いから――」
ギッ!
「――エルは弓道で身体を鍛えているからな」
「そうですね。私も研究ばかりで身体が鈍っているのかも知れません」
眼力は鈍っていないだろう、という言葉は飲み込んだ。
あと、吾輩を殴る腕力も鈍っていないと思うが、その言葉も飲み込んだ。
「そんなことより、教授。エルちゃんを連れ戻したいんですけど、どうにかなりませんか?」
「連れ戻すことができるかどうかはわからんが、エルを追いかけることはできるぞ」
「ホントですか! お願いします!」
「いいだろう」
ぼたんが飛び出した後、吾輩は何もしなかったわけではない。
ぼたんの行動を制限する気はないが、観察できないのは研究をする上で不都合がある。
だから、観察する方法を考えたのだ。
「これに追いかけさせよう」
「これって、ド○ーンですか?」
「うむ。カメラ付きのドロ○ンだ。顔認証をおこなうサーバーと連携させることで、特定の対象を追跡することができる。もちろん、ぼたんとエルはサーバーに登録してあるぞ」
「説明はいいですから、早く追いかけさせてください」
「よかろう」
もう少し説明したいところだったが、もともと吾輩は機械工学や認証技術が専門ではない。
本来の研究に関する方を優先する。
電源を入れると、ドロー○が宙に浮かび上がる。
エルの走り去った方向はわかっている。
その方向を指定すると、○ローンが窓から外に出ていく。
あとは自動で飛んでいくので、追いつくのを待つだけだ。
「さて、あとは待つだけだ。コーヒーでも淹れるか」
「よく落ち着いていられますね」
「果報は寝て待てと言うぞ」
「待っていたら、ぼたんが女王様になっていたんですけど」
「大出世して、喜ばしいことではないか」
「日本で女王様なんて、いかがわしい店にしかいませんよ」
文句を言いつつも、やることがないのだろう。
我が助手もコーヒーを飲みながらくつろぐ。
そうして時間を潰していると、数時間後、追いついたド○ーンがエルの姿を映し出した。
*****
『……行方不明者が出たのは、この近くのはず……』
エルの姿がパソコンのディスプレイに映し出される。
エルは森の中を歩いているようだ。
「エルちゃん、どうやって、こんなところまで来たんでしょう?」
「電車とバスを乗り継いだのではないか?」
ファンタジーに出てくる種族らしくはないが、日本で長距離を移動するには一般的な手段だ。
走って目的地に行くよりは、よほど現実的と言える。
テレビでは正確な場所までは言っていなかったが、行方不明者が出た山の名前などは言っていた。
その情報から場所を予想して、ぼたんを捜しているのだろう。
広い山の中で無計画に捜しても見つけることができる可能性は低いと思うのだが、エルは植物に詳しいから、テレビに映っていた植物から場所を絞り込んでいるのかも知れない。
その推測が正しかったのかはわからないが、映像の中のエルがなにかを見つける。
『……猪、ううん、豚の足跡……こっちだ……』
手がかりを見つけたようだ。
エルは着実に、ぼたんに近付いている。
「教授! エルちゃんに帰ってくるように言ってください! 今のぼたんは何をするかわかりません!」
我が助手が、吾輩に要求してくる。
しかし、吾輩はその要求に応えることはできない。
なぜなら――
「言い忘れていたが、我が助手よ」
「なんですか? 早くしてください!」
「あのド○ーンには、音声入力の機能は付いているが、音声出力の機能は付いていない」
「早く…………はあ!?」
――要求に応える手段が無いからだ。
別に我が助手に嫌がらせをしているわけではない。
単純に手段がないのだ。
「対象と一定の距離を置いて、映像と音声をこちらに送ってくる機能しか付いていないのだ」
「なんで! それじゃ、役に立たないじゃないですか!」
「むっ。そんなことはないぞ。もともと研究対象を観察するために作ったものだからな。目的を果たすには充分な機能だろう」
「エルちゃんを連れ戻す役に立たないって言っているんです!」
「吾輩はエルを追いかける手段があると言っただけだぞ」
「ああもう、この役立たず!」
ド○ーンだけではなく、吾輩まで役立たず呼ばわりされた。
不本意だ。
しかし、今は言い争いしている場合ではない。
吾輩としても、ぼたんの成長には興味がある。
エルが追いつけば、ぼたんの現在の様子も映るはずなのだ。
「落ち着け、我が助手よ。今は見守ろうではないか」
「そう言われて見守っていたら、ぼたんが女王様になっていた経験があるんですけど」
我が助手が、しつこく文句を言ってくる。
我が助手は、もう少し優先度というものを意識する習慣を身に付けた方がよいのではないだろうか。
「ド○ーンにはGPSが付いている。それほど気になるなら、状況が落ち着いたら会いに行ってみたらよいのではないか?」
「場所がわかるんですか! それなら、今すぐ……」
我が助手が席を立ち上がりかける。
しかし、その動作は途中で止まる。
『……見つけた……』
エルのそんな声が聞こえてきたからだ。
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