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かみゅG

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奴隷制度のススメ

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 今日のお客様はサラリーマンの二人組です。
 同期、あるいは、先輩と後輩でしょうか。
 出社する前の一息といったところでしょうか。
 二人ともブラックコーヒーを飲んでいます。
 今日はこの二人の会話に耳を傾けてみましょう。

『ふあああぁぁぁ』

 二人揃って、大きな欠伸をしました。
 朝からたるんでいます。
 でも、コーヒーを飲んで、頭をプライベートから仕事に切り替えようとしているのかも知れません。
 やる気が無いと決めつけるのはよくありません。

「さすがに眠いですね」
「そうだな」

 片方の人だけ敬語を使っているので、二人は同期ではなく先輩と後輩のようです。
 上司と部下の可能性もありますが、歳が離れているようには見えませんから、先輩と後輩だと思います。
 二人とも眠そうです。

「連続で徹夜は辛いですね」
「今日は帰れるといいな」

 おっと、たるんでいると考えたのは、失礼な評価でした。
 二人はこれから出勤ではなく、徹夜をして休憩に来たところだったようです。

「うちの会社って、ブラック企業ですよね」
「おいおい、人聞きの悪いことを言うなよ。まあ、否定はしないけどな」

 後輩の愚痴を先輩がたしなめます。
 でも、本気で注意しているわけではなく、本心では同じ気持ちのようです。

「先輩って、会社を辞めようと思ったことはありませんか?」
「しょっちゅう思ってるよ」
「それなのに、辞めないのは何でですか?」
「なんとなくだな」
「なんとなくで、続けられるものですか?俺、これからも続けられる自信がありませんよ」

 後輩が立て続けに先輩に質問します。
 もしかしたら、後輩は会社を辞めるかどうか迷っているのかも知れません。
 雑談にしては、顔が真剣です。
 それに気付いたのでしょう。
 先輩も真剣な表情になります。

「正確に言うと、辞める余裕が無いというのが答えだな」
「辞める余裕、ですか?」
「辞めるためには転職先を探したり、色々することがあるだろ。でも、それをする余裕が無いんだよ」
「そんなの辞めてからすればいいんじゃないですか?」
「次の仕事が決まっていないのに、辞めるのは勇気がいるんだよ」
「それは・・・そうかも知れないですね」

 後輩が憂鬱な表情になります。
 辞める余裕が無いという先輩に、将来の自分を重ねているのでしょうか。
 後輩の反応に気付いて、先輩が慌ててフォローします。

「まあ、今のキツイ職場に耐えられているんだから、転職先なんていくらでもあるだろうけどな」
「でも、先輩は辞めていないですよね。それは、なぜですか?」

 フォローはあまり効果が無かったようです。
 後輩の質問が続きます。
 先輩は困ったように、けれど真剣に考えて答えます。

「それはやっぱり、なんとなくだな。辞めた方が楽になれるのは分かっているんだよ。
 転職先も何とかなると思う。でも、辞める決心がつかないんだ。
 いっそ身体を壊して入院でもすれば、決心がつくんだろうけどな」
「身体を壊す前に辞めた方が、転職には有利そうですけどね」
「そうなんだよなぁ。
 でも、入院とかの仕方がない理由が無いのに辞めると、皆から恨まれそうで怖いんだよ」
「あ、わかります。
 忙しい時期に辞められると、その人がやっていた仕事が自分に回ってきますもんね」
「忙しくない時期なんて無いんだけどな。ははっ」
「あははっ・・・・・シャレになっていませんね」

 二人は乾いた笑い声を上げた後、無言でブラックコーヒーを飲みます。
 答えている間に先輩の顔も憂鬱になり、フォローをする余裕が無くなってしまったようです。
 見ていて痛々しいです。

「俺達みたいなのを社畜っていうんだろうな」
「奴隷じゃないですか?
 家畜なら大切にされて他のところに売られますけど、俺達は倒れるまで辞められないんですから」

 二人は再びブラックコーヒーを飲みます。
 なんだかコーヒーに砂糖とミルクを入れてあげたくなりました。
 甘いものでも飲んで、ゆっくり休んで欲しいです。
 けれど、会話を聞いた限りでは、二人はこの後も仕事なのでしょう。

「求人広告に書いておいて欲しいよな。『うちの会社は奴隷制度を採用しています』って」
「それいいですね。それなら、自分から奴隷になりたい人しか就職しないでしょうしね」
「それでも就職する人間はいるんだろうな。
 知っているか?
 ○○自動車とか△△証券とか、ブラック企業に載っている企業って業績は悪くないんだぞ」
「社員を倒れるまで働かせて、業績を上げているわけですもんね」

 意見が合ったからか、二人が朗らかに嗤います。
 そして、ぬるくなったブラックコーヒーを、ぐいっと一息に飲み干します。

「さて、仕事に戻るか」
「このまま家に帰っちゃダメですかね?」
「俺は止めないぞ。課長には体調を崩したって言っておいてやろうか?」
「冗談ですよ。ここで仕事に戻れって言ってくれたら、家に帰りやすいんですけどね」

 二人が席を立ちます。
 どうやら会社に戻るようです。
 きっと彼らは、仕事では良いチームなのでしょう。
 でも、チームの絆が強いせいで会社を辞めることができないというのは、皮肉なものです。
 彼らが会社を辞めるときは、チーム全員が辞めるときなのかも知れません。

「お会計お願いします」
「ありがとうございました」

 今日はとても興味深い話を聞くことができました。
 明日はどんな話を聞くことができるでしょうか。
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