シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第四章 塔の上

071.調味料

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 師匠から目を逸らす。
 その先にメフィが居たのは、たまたまだ。
 我関せずといった感じで、優雅にお茶を飲んでいる。

「目的・・・か」

 メフィから言われた言葉を思い出す。
 私は今回、何を目的に行動しているんだろう。
 きっかけは師匠に頼まれたからだけど、師匠の仕返しに手を貸すことが目的じゃない。
 師匠に貸しを作るのも悪くはないけど、どちらかと言えば、森で色々と面倒をみてもらった借りを返す形になるだろうから、あまりメリットはない。
 貸しは返してもらうこともできるけど、返した借りは返してもらうことはできない。
 それに借りは、踏み倒そうと思えば、踏み倒せすこともできる。
 これは別に私が薄情というわけじゃなくて、もともと森で色々と面倒をみてもらったのは、互いの利益が一致したからだったはずだ。
 恩を感じているのは確かだから、それを返すこと自体はやぶさかではないのだけど。
 ともかく、そういうわけで、リスクを冒してまで師匠の仕返しに手を貸すのは、気が乗らない。

「母上は、相手の男が腎虚になる直前には解放するから、それを待てば騎士団長との関係も止めると思うけど・・・」

 私が解決策を考えているとでも思ったのだろうか。
 アーサー王子がそんなことを言ってきた。

「じゃが、そうしたら、また代わりの男と関係を持つのじゃろう?」
「それは・・・たぶん、そうなると思います」

 私が何か言う前に、師匠が指摘をして、アーサー王子がそれを認める。
 王妃がそうするであろうことは私でも簡単に予想できる。
 相手が変わるだけで同じことを繰り返すなら、師匠が言っていた、高い地位にある者が不義の関係を続けることが好ましくないという点は改善されないだろう。

「それでは、意味がないじゃろう。・・・・・それに、それはなんだか、負けた気がするのじゃ。女としての魅力で男を奪うならともかく、お下がりをもらうようなことは女として悔しいのじゃ」

 師匠は倫理的な面より、個人的な感情で引っかかっているみたいだけど。
 まあ、師匠が王妃に対して女としての魅力で優っているかどうかは、厳しいところだろう。
 外見の色気という意味では若作りした分だけ負けていないように見えるけど、王妃の方は娼婦なみに手練手管にたけているだろうから、男を落とす方面で勝つのは難しいだろう。


「王妃は生粋の淫乱だ。男と関係を持つのを止めさせるのは無理だろう。なにせ、塔に閉じ込められても、男を連れ込むくらいだからな」

 アダム王子は、すでに王妃をどうこうするのは諦めているようだ。
 前回会いに行ったのは義理を果すためで、普段会いにいくのは最低限にしているのだろう。
 王族とは言っても、微妙な家族関係だとは思うけど、その点については深くは踏み込まないでおこう。
 それはともかく、アダム王子の言葉を聞いて、閃くことがあった。

「王妃の方をどうにかするんじゃなくて、相手の男の方をどうにかするっていうのは、どうかしら?」

 それなら王妃と関わり合いになりたくないという私の希望も満たす。

「男の方を説得して関係を止めさせるってこと?それだと、さっきの話と変わらないんじゃない?」

 相手を変えるだけという点についてだろう。
 アーサー王子の言うことは、もっともだ。
 けど、私は説得して関係を止めさせるとは言っていない。

「王妃が関係を持ちたくない状態にすればいいんじゃないかしら」
「え?だから、それは、同じことの繰り返しになるってだけで・・・」

 現在の男達をどうにかするだけなら、そうだろう。
 けど、私の標的はそうじゃない。

「まさか・・・城中の男達に何かする気か?」

 私の言おうとしていることを察したのだろう。
 アダム王子が口を挟んできた。

「いくらシンデレラでも、そんな・・・・・まさか、そうなの?」

 アダム王子の言葉を否定しようとしたアーサー王子が、私を見て言葉の後半を変える。
 私は今、どんな顔をしているんだろう。
 なかなか良いアイデアが浮かんだから、楽しい気分になってきたのは確かだけど。

「怪我や病気をさせる気はないわよ。要は王妃の相手ができなくなればいいんだから」

 そうすれば、王妃は男達から手を引かざるを得ないだろう。
 男達が王妃の相手をするために必要な条件は、はっきりしている。
 それを条件を満たせなくすればいいだけだ。

「塔に登れなくするとかじゃないよね。怪我はさせないって言っていたし」

 アーサー王子が、初心な乙女みたいな推測をする。
 そうじゃないだろう。
 男が女の相手をするには、もっと他に条件があるはずだ。

「?・・・・・!!・・・ま、まさか・・・」

 さすがはアダム王子。
 気付いたようだ。
 普段から実践しているからだろう。

「な、なんて怖ろしいことを考えるんだ!」
「え、ど、どうしたの兄上?」

 アーサー王子は、まだアダム王子の驚愕の理由が分かっていないみたいだ。
 仕方ない。
 女性の口から言わせようとするなんて、紳士的じゃないとは思うけど、答えを教えてあげることにする。

「勃たなくするのよ」

 硬くならなければ、挿れることもできないだろう。
 王妃を満足させることも、できなくなるはずだ。
 あの王妃が前戯だけで満足するとは思えない。
 我ながら素晴らしいアイデアが浮かんだものだ。

「立たなく・・・勃たなく!?え?そういうこと?」

 ようやくアーサー王子も理解できたらしい。
 女は濡れていなくても男に抱かれることはできるけど、男は勃たなければ女を抱くことはできない。
 そこを突くのだ。
 道具を使えば代替行為はできるかも知れないけど、それで満足するなら男を連れ込んだりはしていないだろう。

「ほほう。なかなか面白そうな話じゃな。詳しく教えるのじゃ」

 師匠が乗ってきた。
 うん。
 このアイデアでいけそうだ。

「ちょ、ちょっと待って!?勃たなくさせる方法は・・・きっとあるんだろうけど、もしかして城の全員をそんな状態にするつもり!?」
「全員じゃないわよ。男だけ。あとは王様やあなたたちも対象外かな」

 アーサー王子の問いに私が答える。

「城の中枢が麻痺するぞ!?」
「しないじゃろ。せいぜい、騎士や兵士の活気がなくなる程度じゃ」

 アダム王子の問いには師匠が答えた。

「あんまり賛成できないかな」
「許可できるわけないだろう」

 王子二人は反対のようだ。
 けど忘れていないだろうか。
 私は二人に貸しがある。

「私、アダム王子の護衛をしたせいで、酷い目に遭ったんだけど」
「うっ!?わ、悪かったとは思っているが・・・」
「それに、ファーストキスまで奪われちゃったし」
「うっ!?い、いや、僕の方から奪ったわけじゃ・・・ごめん、なんでもない」

 まずは、王妃の弱点を押さえる。
 そして、こちらに有利な条件を引き出すのだ。
 それは、今後この城でやっていく上で役に立つはずだ。
 それを今回の目的にする。
 姑には負けない。

 *****

「黒くて、ちょっと気味が悪いわね」

 そう言いながらも、指に少しつけて、ペロッと舐める。
 味を反芻するような目の前の女性の反応を、しばし待つ。

「悪いない・・・かな。変わった味だけど、塩味、酸味、苦み・・・それに甘味と旨味もあるみたいだし・・・けっこう美味しいかも」

 気に入ってもらえたようだ。
 反応がよさそうなことに安心する。
 第一段階はクリアだ。

「シルヴァニア王国の特産品らしいわよ。師匠が欲しいっていうから、大量に買ってきたの。そのお裾分け」

 嘘は言っていない。
 少なくとも前半は。
 お裾分けではなく、買ってきた全てなのだが、まあそれは言わなくてもいいだろう。
 師匠の了解も得ている。

「ふーん。なら、使わせてもらおうかね」
「ええ、そうして。美味しいものは、みんなで共有した方が嬉しいし」

 これも本心だ。
 少しだけ『混ぜ物』はしてあるけど、味に変わりはないはずだ。
 あの薬は無味無臭だし。
 せいぜい、濃度が下がって、少し味が薄くなる程度だろう。
 それも、料理長なら上手く料理に使ってくれるだろう。
 煮込む時間を調整すれなどして、濃度は調整してくれるはずだ。

「ありがとうよ」

 料理長は黒い液体が入った数本の瓶を持っていく。
 それを見送ってから呟く。

「それにしても、この城の食堂の料理長って、女性だったんだ」

 料理をする職業において、女性は男性より不利だと聞いたことがある。
 家庭料理なら問題はないが、他人に提供する場合は味を一定に保つ必要があるからだ。
 女性は月に一度、血が減って貧血気味になることがある。
 そのときに味覚が少し変化するかららしい。
 その不利にも関わらず料理長をしているくらいだから腕はいいのだろう。
 きっと人気料理を作って、城の兵士達に振るまってくれるはずだ。

「あれは、わしが貰ったものなんじゃがのう」

 料理長が去ったのを見届けてから、師匠が声をかけてきた。

「いったん了承したんだから、文句を言わないでよ。でも、そんなに美味しいの?あの・・・ソイソースだっけ?」

 私も味はみたけど、そんなに残念がるほどでも無いような気がする。
 不味くは無いけど、似たような調味料ならいくらでもあるだろう。

「ショウユは万能調味料なのじゃ。どんな料理にも合うし、味を一段引き上げてくれる。それどころか、生の魚につけるだけで、極上の一品に仕上げてくれるほどじゃ」
「生の魚って、正気?寄生虫に腹を食い破られて、のたうち回るわよ」
「いったん冷凍して寄生虫を殺すか、しっかりと衛生管理した場所で養殖すれば大丈夫じゃ。もちろん新鮮なのが前提じゃから、海辺の街や村でないと食べるのは難しいがのう」
「そこまでして生の魚を食べたくはないわよ」
「肉を焼くときにかけても旨いぞ。味はもちろん、香ばしい香りもたまらんのじゃ」
「そっちなら食べてみたいわね」

 なんにせよ、師匠が執着するほど美味しいということは分かった。
 それなら、作戦の成功率も高いだろう。
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