シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第七章 狼と三匹の豚

107.回想

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 王女の誕生パーティーから一ヶ月。

「聖女様、こちらもお願いします」

 私はまだシルヴァニア王国にいた。

「また?今度は何よ?」

 文句を言いながらも、渡された紙にざっと目を通す。
 けど、すぐに目を通したことを後悔する。

「これ、来年度の予算案じゃない!なんで私に承認依頼を持ってくるのよ!」

 渡された紙を机に叩きつけながら、渡してきた人物を睨みつける。

「それは、現時点で聖女様がこの国の代表だからです」
「春になったらアヴァロン王国に帰るって言ったでしょ!来年のことなんか知らないわよ!」

 というか、そもそも来年のことじゃなかっとしても、この国の予算のことなんか知らない。
 それを持ってきた人物に文句を言うが、どこ吹く風だ。
 なら、もういい。
 適当に承認してしまおう。
 その結果、困ったことになったとしても、責任は持たない。
 そう思って、数字がおかしいところだけチェックする。

「・・・・・なんでこんなに軍事費が多いの?」

 詳しいわけじゃないけど、師匠から教わったことがある。
 戦略というのは、実際に戦闘をおこなうときの方法だけを指すわけじゃない。
 兵士の運用、物資の運用、当然のことながら費用の運用も含まれる。
 国の規模と軍隊の規模のバランス。
 軍隊の規模と必要な費用のバランス。
 それらが取れていないと、どんなに強力な軍隊だったとしても維持することができない。
 この国の軍事費は、明らかに多すぎる。

「隣国との戦争に備えてです。過去に起こった戦争の経験をもとに、軍隊が配備されています」

 それ自体は別に問題ない。
 どの国でもおこなっていることだ。
 でも、突っ込みたいところは、そこじゃない。

「過去に戦争が起きたのは、いつ?」
「百年ほど前ですね。私も文献でしか知りません」
「隣国って、どこ?」
「この国と接しているのはアヴァロン王国ですね」
「攻める予定があるの?」
「ありませんね。我が国は数十年に渡って不作が続いていましたから、戦争をしかけても勝てないでしょう。勝てたとしても、戦争で疲弊したところを西の国、東の国、南の国から攻められるだけでしょうしね」

 この大陸には五つの国がある。
 アヴァロン王国を中心に、北の国、南の国、東の国、西の国が、四方を囲んでいる。
 今いるシルヴァニア王国は、北の国だ。

 つまり先ほどの話は、北から中央を攻めて領土を奪えたとしても、その後、南、東、西の三方からよってたかって攻められて、せっかく奪った領土を奪われると言っているのだ。
 そして、これが、アヴァロン王国が周囲を他国に囲まれながらも、滅びていない理由でもある。
 一歩間違えれば、アヴァロン王国は四方から攻められ、この大陸は四つの国になっていただろう。
 しかし、流通の要である中央を押さえ、周りの国と同盟を結び、各国のパワーバランスを絶妙に保つことにより、各国が牽制し合って攻め込まれないようにしているのだ。
 そして、それは表と裏の交渉に長けたアヴァロン王国だからできていることであり、他国がアヴァロン王国の領土を奪ったとしても、簡単にできることではない。
 だから、もし戦争をしかけるなら、大陸を統一するくらいの圧倒的な軍事力と覚悟が必要になるのだ。

「・・・・・」
「・・・・・」

 それだけのことが分かっていながら、なんで餓死者を出しているような状況で、こんなに軍事費を使っているのだろう。
 必要経費だとはいっても、かけ過ぎだ。
 軍隊を維持するだけで、かなりの費用を使っているのだと思う。

「バカじゃないの?」
「耳が痛いですね。けど、過去にそれだけの軍事費をかけていたという前例があるせいで、簡単には減らせないのですよ」

 まあ、誰でも貰っているものを、あえて減らしたいとは思わないだろう。
 でも、貰うのなら、それだけの価値を示す必要があると思う。

「この一年で軍隊がおこなった活動は?もちろん、訓練じゃなくて、実際の活動よ」
「狂暴な獣が出たという連絡を受け、討伐をおこないました」
「ドラゴンでも出たの?」
「いえ、冬眠前の熊が、餌を求めて人里に降りてきたとのことです」
「猟師に任せなさいよ」

 要するに役に立っていないということだ。

「軍事費は前年の二割減。承認して欲しかったら、それだけ下げてきなさい」
「反乱が起きませんか?」
「そんなものを起こさなくても、すぐにでも国の代表を変わってあげるって言っておいて」
「やれやれ。なんとか交渉してきますよ。聖女様に見捨てられたら、冗談ではなく、この国が滅びかねませんから」
「大袈裟ね」

 とはいえ、国の疲弊、国民の餓死、治安の悪化などが発生するのは間違いない。

 王女がやらかしたことに関する他国への賠償。
 間違った農業制度を見直すための改革の停滞。
 王族の不在による政治の混乱や国民の不安。

 問題は山積みだ。
 そんな状況のときに、なぜか私はシルヴァニア王国の代表に就いていた。
 もちろん、仮ではあるのだけれど、面倒なことこの上ない。

「なんで、こんなことになっているんだろ」

 予算案を持ってきた人物が部屋を出ていくのを見送りながら、私はそのきっかけとなった出来事を思い返していた。

 *****

 王女の誕生パーティーがあった翌日。
 各国の代表、そしてオマケで私が集まり、城で会議がおこなわれていた。

 北の国の代表は、細身の女性、ヒルダ。
 財務部の補佐官らしい。
 できるだけ地位が上の人間を出してきたんだろうけど、外交官ですらない。
 おそらく、王女の起こした事件のせいで、この人物しか残っていなかったんだろう。
 この国、本当に大丈夫かな。

 東の国の代表は、プライドの高そうな男性、ファイファー。
 王女に言い寄っていたアホ王子、その一だ。

 西の国の代表は、気性の荒そうな男性、フィドラー。
 王女に言い寄っていたアホ王子、その二だ。

 南の国の代表は、性格の穏やかそうな男性、プラクティカル。
 王女に言い寄っていたアホ王子、その三だ。

 ちなみに、王子達はいずれも王位継承権は低いらしい。
 だからこそ、王女と婚姻を結ぶべく、言い寄っていたのだろう。

 そして、中央の国の代表は、アーサー王子。
 以上が会議の参加者だ。
 全員が円卓に座っている。

「まずは、我が国の王女の誕生パーティーに参加された皆様を危険な目に遭わせてしまったことを謝罪します」
 ヒルダが全員に向かって頭を下げる。

「そして、賊の鎮圧に協力してくださったお二方に感謝いたします」

 続けて、アーサー王子と私に向かって頭を下げる。
 素直に非を認めるのは美徳だと思うけど、他国に弱みを見せていいのかな。

「賊の背後関係は調査中です。必ず捕まえて裁きを下します」

 と思ったら、黒幕は不明ということにしておくのか。
 まあ、そうだろうな。
 警備の不備はシルヴァニア王国に非があるけど、被害が出たのは賊をけしかけてきた黒幕のせいだ。
 そういうことにしておくのだろう。
 けど、本当に黒幕が分かっていないのか、分かっていて惚けているのか、どちらだろう。
 なんとなく、後者な気がする。
 調査中ということにしておいて、犯人をでっち上げるつもりなんじゃないだろうか。
 黒幕までシルヴァニア王国の人間なんてことになったら、他国から責められるだろうし、下手をすれば攻められる可能性もある。
 なにせ、他国の要人が命を脅かされたのだ。
 報復するには、充分な理由だ。

「とっとと黒幕を見つけて連れて来い!オレ自ら、くびり殺してやる!」

 怒号を上げたのはフィドラーだ。
 見た目通り、短気らしい。

「オレが連れてきた騎士達が全員、昏睡状態なんだぞ!」

 言っていることは正しいけど、それはフィドラーが連れてきた騎士達だけじゃない。
 ファイファーとプラクティカルが連れてきた騎士達も同様だ。
 自分の騎士達のことだけを言っているようなフィドラーだけど、他の二人はどう思っているのだろう。
 そちらを見てみる。

「・・・・・」
「・・・・・」

 完全に賛同するわけではないけど、否定はしないということか。
 連れてきた騎士達が昏睡状態なのは問題視しているけど、黒幕をくびり殺したいわけじゃないってところかな。

「我が国の騎士達も目覚めない。これでは我を護る者がいないではないか。由々しき事態だ」

 そう言ったのは、ファイファーだ。
 こちらは、騎士達が倒れたことじゃなく、それが原因で自分が護られないことを問題としているようだ。
 なんだろう。
 それはそれで問題なんだけど、この場で最初に言うことかな。
 自分本位というか、なんと言うか。
 喧嘩腰に声を上げたフィドラーの方が、部下思いの優しい人間に思えてくる。

「我が国の騎士を護衛につけさせていただきます」
「城に賊の侵入を許した、この国の騎士をか?王子である我を護る者としては力不足と言わざるを得ないな」

 護衛の提供を申し出たヒルダに対して、辛辣な言葉を返すファイファー。
 言っていることは正しいんだけど、素直に納得したくないな。
 何様のつもりだと言いたくなる。
 まあ、王子様なんだけど。

「それでは、どうしろと?」
「それを考えるのは、そちらの役目だろう。我が国の騎士を護れなかったのだから、そのくらいはして欲しいものだな」
「・・・・・」

 聞いていて思った。
 それは違うだろう。
 護衛の騎士が護衛されてどうする。
 状況によっては他国の刺客からファイファーを護らなくちゃいけないのに、その騎士が他国から護られなきゃならないようじゃ、はっきり言って役立たずだ。
 それを堂々と言うなんて、こいつアホだろう。

「私の護衛も被害に遭っています。故郷で待っている彼らの家族のことを考えると、胸が痛みます」

 呆れていると、今度はプラクティカルが口を開いた。
 被害に遭った護衛の家族が気の毒だと言う。
 私も個人的には、そう思う。
 けど、騎士や兵士は危険な目に遭うのも仕事の内だ。
 だから、彼の意見は甘い。
 ときには冷酷な判断を下さないといけない王には向かないだろう。
 とはいえ、他の二人よりは人格者なのかな。
 そう思ったけど、次の一言で前言を撤回する。

「彼らの家族のための賠償金は、払ってくださるのですよね?」
「むろん、我の国にも払ってもらうぞ」
「オレのところもだ」

 プラクティカルが賠償を請求すると、ファイファーとフィドラーが次々に同じことを言い出す。
 主張に差異はあっても、やっぱり、どの国も目的はお金か。
 身内に黒幕がいるとは言え、一番被害を被っているシルヴァニア王国から、お金をむしり取ろうとする。
 要するに、そういうことだ。
 そして、それはアヴァロン王国も変わらない。
 アヴァロン王国の騎士も被害に遭っている。
 さらに、アヴァロン王国は被害を抑えることに協力した謝礼を求めることもできる。
 立場的には一番有利なはずだ。
 さて、アーサー王子はどうするのかな。
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