シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第九章 お菓子の家

152.もてなす魔女(その1)

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「なにを・・・して・・・いるんですか?」

 ひさしぶりに会ったヒルダは、第一声でそんなことを尋ねてきた。
 何をしているか。
 温泉に入っている。
 でも、それは彼女が聞きたい答えではないだろう。
 そのくらいは分かる。
 だから、もう少し捻った答えを返すことにする。

「狩りをしながら、湯治かな。最近、頭が痛いのよ。どこかのアホな国が戦争を始めちゃったから」
「・・・・・アホな国で悪かったですね」

 私の言葉に、ヒルダが恨みがましい表情を返してくる。

「ですが、聖女様も相当なアホではないですか?」
「私が?」

 意味が分からずに首を傾げる。
 すると、それを見たヒルダが、顔を真っ赤にしながら大声を上げる。

「なんで、敵国でのんびり温泉に入っているんですか!アホですか!!アホなんですね!!!」

 耳が、キーンッとした。

「私が聖女様に見捨てられたと思って悩んでいる間も、のんきに温泉に入っていたんですね!!!」

 耳鳴りがしてよく聞こえないけど、とりあえず怒っているのは分かった。
 でも、鼓膜が破れるといけないので、指を突っ込んで両耳を塞いでおく。

「っっっ!!!っっっっっ!!!っっっっっっっっっっ!!!!!」

 ヒルダは一通り叫んでから、肩で息をしだす。
 気がすんだのだろうか。
 そうっと、耳から指を引き抜く。
 すると、それを見たヒルダが再び口を開く。
 また大声を上げられたらたまらない。
 慌てて耳を塞ごうとするけど、出てきた言葉のあまりの弱々しさに、それは止めておく。

「ごめんなさい・・・・・仕方なかったんです・・・・・どうしようもなかったんです・・・・・」

 目が虚ろで、ぶつぶつと呟きだすヒルダ。
 なんだか、危ない人みたいだ。
 だいぶ、精神的にまいっているみたいだな。

「お湯に浸かったら?立ったままじゃ、寒いでしょ」
「・・・・・はい」

 ヒルダは私の言うことを聞いて、お湯に浸かる。
 これで、ちょっとは疲れが取れるといいんだけど。

 *****

 しばらく黙ってお湯に浸かっていたヒルダだったけど、やがて気分が落ち着いたのか口を開く。
 さっきみたいな大声は出さないようだから、耳を塞ぐ必要は無かった。

「それで、聖女様は、何故ここにいるのですか?」

 ヒルダが改めて聞いてくる。
 さっき答えたと思ったんだけどな。

「だから、温泉に入りに来たのよ」
「・・・・・」
「本当よ?」
「・・・・・はぁ」

 ヒルダが疲れたように溜息をつく。
 人の話を聞いて溜息をつくというのは、失礼なんじゃないだろうか。
 私は気にしないけど。

「わかりました。それでは、温泉に入る以外に、聖女様がおこなったことを教えていただけますか?」
「私がやったことねぇ」

 教えるのは別にいい。
 だけど、ヒルダはそれを聞きたいのかな。
 そんなことを聞いても、仕方がないと思うのだけど。

「湯治でお世話になるついでに、狩りで獲った獲物を、この村に提供したくらいかな」
「・・・この国の兵士に、狩場を教えませんでしたか?」
「兵士?森の中で狩りが下手な猟師がいたから、ちょっとアドバイスはしたけど」
「やはり、聖女様が旅の猟師でしたか・・・」

 あれは兵士だったのか。
 持っている弓矢が立派なのに狩りが下手だったから、そんな気はしていたけど。

「聖女様の狙いが何かはわかりませんが、お礼を言わせていただきます。おかげで、兵士達が飢えずにすんでいます」
「ふーん」
「ふーんって、興味なさそうですね」
「興味ないもの」

 というより、敵の兵士の役に立ったと言われて、どんなリアクションを期待しているのだろう。
 教えなきゃよかった、とでも言うのを期待しているのだろうか。

「他には何かしませんでしたか?」

 ヒルダが続けて尋ねてくる。
 どうも、私がおこなったことに対して、何かを期待しているようだな。
 でも、たぶん、ヒルダが期待するようなことは無い。
 それでもいいなら、教えてあげるか。

「他にねぇ。これも湯治でお世話になるからだけど、この村に種をプレゼントしたわね」
「・・・種?」

 私の言葉にヒルダが考える。
 そして、何かを期待するように尋ねてくる。

「それは、もしかして・・・寒い場所でも育つ作物ですか?」
「ううん。成長が早い葉物野菜の種だけど、寒い場所では育たないわね」
「そうですか・・・」

 あからさまに、がっかりするヒルダ。
 ひょっとして、私がこの国の食糧難を助けるために、寒い場所でも育つ作物の種を提供したとでも思ったのかな。
 残念だけど、そんな都合のいいものはない。
 もっとも、

「あれ?」

 『寒い場所で』育たないと言っただけで、『冬に』育たないとは言っていないけど。

「この村で食事に出された新鮮な野菜って・・・」

 ヒルダが何かに気づいたようだ。
 こちらに視線を向けてくる。
 答えを待っているようにも見えるけど、私は別に質問されていない。
 だから黙っていると、しびれを切らしたように、ヒルダが尋ねてくる。

「冬に育てる方法があるんですね?」
「あるわよ」

 隠すことでもない。

「その方法を教えてもらうことはできますか?」
「教えるっていうか・・・」

 気付かないのかな。

「冬でも温かい場所で育てるだけよ」
「冬でも温かい場所?」

 本当に気付かないのかな。
 疲れで頭が鈍っているんだろうか。

「ここの温泉だけどね、湯量がかなり多いみたいなのよ。だけど、村の人間で利用するだけだから、湯船が小さくて、あふれたお湯は川に流しているんだって。もったいないわよね」
「!」

 これだけヒントをあげて、ようやく理解したみたいだ。

「温泉のお湯を利用すれば、冬でも作物を育てることができるということですか!?」

 正解だ。
 むしろ、この村で食事をしたことがあって、温泉に入ったときに気づかなかったのかな。

「この村で冬に作物を育てれば、冬を越す食糧を確保することが・・・」
「国全体の?それは無理でしょ」

 喜びかけたヒルダの顔が、私の言葉で曇る。
 事実を言っただけなんだから、そんな顔をされても困る。

「国境付近で暇そうにしている連中に開拓させれば、そいつらが食べる分くらいは確保できるかもね」
「暇そうにしている連中とは、軍のことだと思いますが、戦争中に戦線を離れさせるわけには・・・」

 頭が固いな。

「ふーん、それならそれでいいけどね。でも、適当に理由をでっちあげることはできないの?たとえば、敵の増援がきたから、仕方なく後退したとか」
「でっちあげなくても、敵・・・アヴァロン王国に増援がきたのは事実です」
「へぇ、そうなんだ」

 早かったな。
 アーサー王子が張りきったのだろうか。

「ですが、軍に開拓させるとなると、敵が攻めてこないという確証がないと・・・」
「まあ、そうでしょうね」

 私は同意する。
 軍が国境にいるのは、戦闘に備えるためだ。
 その役目を放棄するなど、普通ならあり得ないだろう。

「・・・・・」
「・・・・・」

 私があっさり同意したのが意外だったのか、ヒルダがじっと私を見つめてくる。
 なんだか照れるけど、冗談を言う雰囲気でもないので、私も黙っている。

「もしかして・・・」
「なに?」

 考え終わったのか、ヒルダが口を開く。
 視線は私に向いたままだ。

「聖女様がここにいることは・・・確証になりますか?」
「さあ?」

 そんなこと聞かれても知らない。
 知っていても、敵側に教える訳がないだろう。
 普通なら、そうだ。
 けど、ヒルダにはお世話になっているし、少しくらいはサービスしてもいいだろう。

「一つだけ教えてあげましょうか」
「なにをでしょう?」
「アーサーは私がここにいることを知っていると思うわよ」

 伝えてはいないけど、合流したのなら、師匠から聞いていると思う。
 ただし、私がここにいることに、どれだけの効果があるかは分からない。
 私はただの王子の婚約者でしかない。
 私がそう教えてあげると、ヒルダは考え込む。

「・・・・・」
「・・・・・」

 どうでもいいけど、話し込んでいて、そろそろのぼせてきた。

「続きは温泉から上がってからにしましょうか」
「あ、はい」

 私がお湯から出ると、ヒルダもついてくる。
 身体が火照っているせいかも知れないけど、少しは顔色もよくなったみたいだ。
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