シンデレラストーリーは悪魔の契約に基づいて

かみゅG

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第十三章 シンデレラ

211.シンデレラ(その7)

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「ん・・・」

 陽の光を感じて目が覚める。
 身体を起こそうとするけど、身体が動かない。
 金縛りだろうかと思ったけど、そうじゃないことはすぐに分かった。

「男らしくなったのかと思ったけど、以前より甘えてくるわね」

 アーサー王子が私を抱き枕にしているせいで、身動きが取れない。
 人の体温はぬるま湯に浸かっているようで気持ちよいのだけど、手足が伸ばせないから温泉のようにはいかない。
 それに、目が覚めている状態で身動きが取れないというのは、なかなか辛いものがある。

「アーサー、朝よ」

 赤ん坊のようにしがみついてくるアーサー王子に優しく声をかける。
 考えてみたら、工房で徹夜したアーサー王子を寝かしつけたことはあるけど、起こしたことは初めてかも知れない。

「アーサー、起きて」

 快適な睡眠を邪魔されるというのは嫌なものだ。
 自分がされて嫌なことは他人にもしない。
 だから、優しく声をかける。

「アーサー、これじゃ動けないわよ」

 優しく声をかけるのだけど、アーサー王子は起きる気配がない。
 昨夜は寝不足ということは無いから、単に寝起きが悪いのだろう。

「・・・・・」

 優しく声はかけた。
 だから、起きないのはアーサー王子が悪い。

「・・・えい」
「うわっ!」

 私は朝の生理現象で硬くなっているものを、ぎゅっと握る。
 軽く、こりっとやっただけなのだけど、効果は抜群だ。
 アーサー王子が一発で目覚める。
 私は、束縛する手が緩んだ隙に、するりと抜け出す。

「今度、メアリーにアーサー王子を起こすコツでも教えてもらおうかしら」

 アヴァロン王国の城にいるときは、アーサー王子はメアリーが起こしていたはずだ。
 だけど、まさか今の方法と同じ方法で起こしているわけではないだろう。
 何か別の方法で起こしているのだと思う。
 私がそんなことを考えていると、目覚めたばかりで何があったか状況が把握できないアーサー王子が、きょろきょろと周囲を見回している。

「おはよう、アーサー」
「あ、おはよう、シンデレラ」

 私が挨拶をすると、アーサー王子が挨拶を返してくる。

「何か凄いことをされた気がするんだけど・・・」
「悪い夢でも見たんじゃないの?枕が変わると寝つきが悪くなる人がいるっていうし」
「うーん・・・?」

 アーサー王子が首を傾げている間に、私はとっとと服を着替え始める。
 すると、それを見たアーサー王子も慌てて身支度を整える。

「待ってよ、シンデレラ。僕も一緒に行くよ」
「別に一緒に部屋から出なくてもいいんだけど」

 むしろ、一緒に出ない方が面倒が無いような気がする。
 そう思ったのだけど、アーサー王子が急いだので、私の方が先に着替え始めたにも関わらず、着替え終わったタイミングは同じになった。
 仕方が無いので、一緒に部屋を出る。
 すると、待ち伏せしていたかのように声をかけられた。

「仲がよいですね」
「ラブラブでいいのう」

 ヒルダと師匠だ。
 私とアーサー王子が一緒にいるのを見て、なんだかニマニマしている。
 本当に待ち伏せしていたんじゃないだろうな。
 私はじとっとした目を向けるけど、二人は涼しい顔をしている。

「アーサーが離してくれなかったのよ」

 言い訳っぽく言ってから気付いたけど、この台詞だと逆に二人を喜ばせそうだな。
 案の定、二人のニマニマが増した。

「アーサー殿は情熱的じゃのう」
「一晩中離されずに愛されるなんて素敵ですね」

 この状況では、何を言っても似たような反応が返ってきそうだな。

「後学のために、どんな感じだったか教えてくれませんか?」
「あ、わしも聞きたい」
「そんな恥ずかしいこと、女の口から言えるわけが無いでしょう。どうしても聞きたいなら、アーサーから聞いて」
「ええ!?僕!?」

 二人の期待するような視線を受けて、アーサー王子がたじろぐ。
 二人の興味が私から離れた隙に、私は廊下の端をすり抜けて歩いていく。
 眠れなかったわけじゃないけど、一晩中抱き枕にされたせいか、なんだか身体が凝っている気がする。
 朝食前に温泉にでも入って、ほぐしてくることにしよう。

 *****

 朝食が終わったら、昨日と同じく各国の代表が集まっての会議だ。
 少なくとも、送り出した部隊の結果が分かるまでは、それが続くと思う。

「今日の最初の議題は、昨夜のことについてだな」
「アーサー殿、報告を頼む」
「ええ!?」

 そう思っていたら、フィドラーとファイファーがとぼけたことを言い出した。
 断じてそれが議題ではない。
 というか、この連中は自分の国の平和より、他人の秘め事の方に興味があるのだろうか。

「バカなことを言っていると、女神の呪いをかけるわよ」

 聖女の呪いと魔女の呪いに続く、女神の呪いだ。
 まあ、効果は同じで勃たなくなるんだけど。

「仕方ない。このくらいにしておくか」
「そうだな。会議後に改めて聞くことにしよう」

 やれやれとでも言いたげに、フィドラーとファイファーが引き下がる。
 なんで私が我儘を言っているような感じになっているんだ。
 真面目なことを言っているだけのはずなのに。

 *****

 そんな感じで数日が過ぎていった。
 その間、アーサー王子は毎晩、私の寝室に通い詰めていた。
 一度一緒に寝るのを許したら、次からは事前に確認もせずに来るようになったのだ。
 別にいいんだけど、抱き枕にするのだけは、止めてもらえないだろうか。
 身動きが取れないのは、思ったより寝苦しい。
 けど、そのおかげか特技が増えた。

「よいしょっと」

 私はするりとアーサー王子の腕から抜け出す。
 アーサー王子を見るけど、眠ったままだ。

「今なら縄抜けもできそうな気がするわ」

 これが新しい特技だ。
 毎回アレを握って起こすのも気の毒なので抜け出し方を工夫していたら、ついに起こさずに抜け出すことができるようになった。
 まあ、使う機会はアーサー王子と一緒に寝ているときくらいしかないのだけど。

「今日も一日退屈な会議かぁ」

 私は溜息をつく。
 会議が重要なのは分かっているけど、それと会議が退屈であることは矛盾しない。
 朝起きて、温泉に入って、朝食を食べて、会議に参加して。

「ふあぁ」

 昼食を挟んで会議を継続して、夕食を食べたらアーサー王子と一緒に寝て。
 ここ数日は、そんな一日のサイクルを繰り返している。
 今日もそんな一日になるかと思っていたのだけど、そうはならなかった。

 *****

 報告が届いたのは、会議が始まってすぐだった。

「失敗?」
「はい」

 ヒルダが尋ねるが、報告の内容が変わることが無かった。
 その内容に会議室が静まり返るが、取り乱すような人間はいなかった。

「・・・そうか」
「・・・仕方あるまい」

 フィドラーとファイファーが納得の姿勢を見せる。
 嬉しい知らせではないけれど、可能性としては考えていたからだろう。

「難しい任務じゃったからのう」

 そして、それは師匠も同様だ。
 エリザベートの暗殺に失敗したという報告を聞いても、動揺することはない。
 ただ、難しい顔をしている。

「隠し通路を通って、標的の居場所までは辿り着けたようです」
「隠し通路の情報は正しかったのね。それでも失敗したということは、警備が厳しかったの?」

 私が尋ねると、報告を持って来た人間が頷く。

「そのようです。それと、もう一つ悪い知らせが」
「なに?」
「バビロン王国から兵士の姿をした吸血鬼が現れました。アヴァロン王国の国境に近づいてきています」

 可能性はあった。
 今までに攻めてきていた吸血鬼は武装をしていなかったという話だから、おそらく吸血鬼に変えられた国民だったのだろう。
 だけど、バビロン王国は兵士がいないわけじゃない。
 なのに、兵士が攻めてきていなかった。
 つまり、バビロン王国は戦力を温存していたのだ。
 だから、今になって兵士の姿をした吸血鬼が現れても不思議じゃないし、予想もしていた。
 でも、その予想は最悪に近い方の予想だ。

「まずいのう。兵士として行動できる吸血鬼がおったか」

 それは、その吸血鬼に武器を使う知性があり、軍として行動できる判断力があるということだ。
 吸血鬼薬の副作用で、知性や判断力を失っていることを期待していたのだけど、そう都合よくはいかなかったようだ。
 兵士として鍛えられた精神力で薬に耐えたのか、鍛えられた精神力があるから恐怖を感じなくする薬を減らして知性と判断力を残したのかは分からないけど、これまでより厄介なのは間違いないだろう。
 そんな連中を出して来たということは、暗殺を仕掛けた報復なのだと思う。

「ケースとしては想定して対策を練っていたわよね。それをもとに迎え撃ちましょう」

 私が言うと、全員が頷く。
 しかし、その顔から不安の色が消えることは無かった。
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