リリスな誘惑

ひお

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13:フィナーレ

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オリバーが日本にやってきてから、そろそろ1年が経とうというころ。ついに彼の邸宅が出来上がったと報告をを受けた。
「弓月、お父上と話はしてあるけど、最後にもう一度確認するよ。……俺と一緒に、暮らしてくれる?」
最近ではすっかりオリバーのマンションに入り浸りで、使用人達に「本当にお嫁に行かれたのかと思って心配した」とまで言われる始末。
弓月はその事を思い出して、思わず笑ってしまった。
「もちろん、俺の気持ちは変わってない。新築の家に居候させてもらうのはなんだか心苦しい気もするけど……お世話になります」
あらたまって、ぺこりと頭を下げる。
オリバーはそれを見て、少し困ったような顔をしていた。
今日の夕飯は香味野菜の効いた、白身魚のムニエル。ナイフで切るまでもなく柔らかなそれを口に運び、やっぱりデパ地下のデリは美味しいなと思う。
「また堅苦しいなあ!弓月。そういうときはダーリン愛してるって言えばいいんだよ、それで俺は何だって聞いちゃうんだから」
「やだよ!俺そういうとこはちゃんとしておきたいんだ」
「つれないなあ。……でもそういう切り分けが出来るところが弓月の魅力でもあるから、参っちゃうよ。甘えて色々おねだりして欲しいのに、分別のある姿も見たい……俺は欲張りだな」
「もうだいぶ色々甘えてると思うけど……」
こんな会話にももうすっかり慣れた。

そういえば、部活の方も色々と変化があった。
国体が終わって三年が引退し、今、弓月は主将を引き継いでいる。俳優業と学業と部活の両立はなかなかしんどい部分もあるけれど、そこはまあ、なんとかかんとかやっている。
オリバーはというと、組織運営に長けているということで部長という立場を得ることが出来、一応弓月の隣に並ぶという目標は達成したことになる。
剣の腕の方も、今ではレギュラーにちょくちょく勝てるようになってきているから、今年はもっと伸びるんだろう。彼の家に泊まりに行った時もビシビシ個人指導したりもしているから、弓月的に期待はかなり高かった。
そして、新しく中等部から入ってくる新入生達が、もう練習に加わっているということ。
「1人、即戦力になりそうな子がいたでしょ」
「ああ、あの子だろ、髪の長い……確か……日比谷若竹。あんまり喋らない子だったけど、俺の目から見ても上手かったな。というか日比谷って……」
「お察しの通り、日比谷グループのとこの子だよ。日本では四ツ葉商事の次に規模大きいかも」
「あそこか……」
「でもあの子はあんまり家のことには関わってないみたい。これはあくまで噂だけど、父親が外で作った子供って話だし……前に他の兄弟とも会ったことあるけど、あの子と全然違う自信満々なタイプだったから、もしかしたらその噂も本当なのかもね」
オリバーは思う。
まだ、自分の企業規模ではあの会社には力が及ばない。新規の事業開拓は進めているけれどあの規模になるには一体何年かかることやら。
(まあ、楽しくやるさ)
オリバーにとって経営は趣味だ。楽しかったからどんどん新しいことを吸収できたし、そうしたら面白いように伸びて、ここまで来た。
これからも、それは変わらない。
「入居日、決めようか。引越しの用意もあるだろうし、新学期前がいいかな」
「ん。といっても、俺学校用品くらいしかないけど……」
「ええ~!また弓月の着物姿見たいよ!!」
「着物は管理が大変なんだもん、実家に置いといて必要な時に取りに行く方が……」
「……桐箪笥必要なら揃えるけど」
「まってやめてそこまではしないで!そうやってなんでも財力で解決しようとするの悪いとこだからね!」
「そうかなぁ」
こんなやりとりも、楽しくて。
そう、居候とは言っているけれど、これは実質同棲だ。オリバーは弓月を自分の生涯のパートナーにと考えているし、その事は弓月も受け入れている。
周りがどう思うかは知らないが、今のところ、2人はそういう関係に落ち着いていた。
それよりも。
弓月は入居日が近づくにしたがってそわそわと落ち着かなくなった。
なぜなら、新居に越した日=オリバーとの初夜、だからだ。
なんとあの男、記念日にしたいなとかなんとか言い放って、初夜は入居日にしようと決めてしまった。
それまでこの半年、びっくりするくらい丁寧に丁寧に身体を変えられて、もういっそ抱いてくれとなったことも何度もあった。
その度にオリバーは楽しそうに笑うものだから、もしかしてからかわれてる?なんて思ったりもしたけれど、まあ、きっとこの男はそれすら本気なのだろう。
そんな期間がようやく終わるとほっとするのと同時に、やっぱり結構緊張するというか、気恥ずかしいというか。
なによりこの男、目的を果たすための忍耐力ヤバすぎないか。先の利益のために今ひたすら投資するタイプだ。
弓月もたいがい肝の座り方が尋常ではないと思うが、オリバーはそれ以上だと思う。
なんて毎日ぐるぐる考えているうちに、入居当日になってしまった。
荷物は本当に少なくて、学用品の他は衣類の箱がいくつか。弓月の大事なものは物的なものではなくて、自分の技術や表現力や……そういったものだったから。
けれど、オリバーから色々なものをプレゼントされたりすることも増えたし、きっとこれから先、どんどん大事なものが増えるんだろう。
弓月は隣に愛しい人の温もりを感じながら、新しい生活に思いを馳せた。
それからどれだけ走ったのだろうか。
オリバーの車で新居に向かった弓月は、車窓から見えた光景に固まった。
「こ……ここ……?」
「そうだよ。いい土地が見つかったから、折角だしと思ってね」
大きな洋風の門に、広い庭。
ロータリーがあって車で家の前まで乗りつけられるし、その家はまさに邸宅。
おそらく土地だけならば、広さは弓月の家以上かもしれない。
白い壁が上品で、シンプルながらに洒落た佇まい。外から見ても部屋数が多いことはすぐに分かった。
「さ、入って。弓月の部屋は見晴らしのいい二階にあるよ」
「え、あ、うん……」
ドアを開ければ、そこは吹き抜けになったエントランス。その向こうには広く明るいリビング。
二階へは、つた柄のアイアンが美しい螺旋階段。
「どう?舞台みたいだろ、この階段」
「うん……すごい……」
そしてリビングの窓の向こうには、薔薇の植えられた花壇とアーチ。夏になると、クレマチスと薔薇の花が絡んで見事に咲くらしい。

「ほら、こっちが弓月の部屋」
二階の一番奥、明るい南向きの部屋。
クリーム色のフローリングに、ゆうに20畳はある部屋。
さらには、服をたくさん収納出来るウォークインクローゼットに、バルコニーまで。ベッドはゲストベッドだが、これだけ揃えられているならなんの不便もないだろう。
「……稽古、したいだろう?少し広い方がいいかと思って。うちはこの通り敷地も広いし、声を出しても音楽を流しても問題ないよ」
「オリバー……」
「隣が俺の部屋だから、いつでもおいで」
「……オリバーの部屋も見せて」
そうおねだりして、彼の部屋も見せてもらう。
ほとんど仕事しかしないからと弓月の部屋よりは少し狭いが、上品なデスクと座り心地のよさそうな椅子がすえてあった。
こちらにもゲストベッドが置かれており、片側の壁には大きな書棚が取り付けられていた。
それから、広くて綺麗なバスルーム。2人でゆっくり入ろうねと言われて、嬉しくなってしまった。
「あとはここ。ベッドルーム。部屋にもベッドはあるけど、あれは予備だからね?普段はこっちで寝ようね」
キングサイズのダブルベッドに、庭がみわたせる大きな窓。簡易バスルームと洗面台もついていて……
(これ、もしかして俺、休みの日とか部屋から出して貰えないんじゃ……?)
なんて思ってしまった。
と、いうか。こんな豪邸一体どうしたというのか。
オリバーは学生ではあるけれど社会人でもあるから、自力でローンを組むこともできたのだろうか。
不思議に思って聞いてみれば、父親の力も多少借りたけれど外国人だし学生だし、信用されないだろうからキャッシュで一括したと言われて頭がクラクラした。
「ニコニコゲンキンバライっていうんだろ?」なんて言われて、それは一体どこで聞いた言葉だとつっこみたくなる。
こんなところに住まわせてもらって、何もしないのは流石に気が引けると思っていたら、学生の間は弓月の生活費は父親から貰うことになっているということで、弓月は自分の考えの甘さをほとほと反省した。
「……社会人になったら自力でちゃんと家賃出すから……」
「家賃じゃなくて、生活費。ここは弓月の家でもあるんだから。それは弓月が俳優として大成したら改めて話し合おうね」
とかなんとか言ったものの、オリバーは弓月を側においておけるならその辺のことは何だっていいのだけれど。
「ほら、弓月おいで」
ベッドに腰掛けたオリバーが、腕を広げる。まだ引越し作業してないのに、と咎めたものの、目の前の甘い誘惑にはかなわなかった。
ちょっとだけ。
弓月はオリバーの隣に座り、その胸に甘えてみる。
ベッドはいい感じにクッションがきいていて、あきらかに良い物だということがわかる。
優しく抱きすくめられたあとでころんとベッドに転がされて、心臓が強く脈打った。
「今夜、楽しみだな」
「……加減、してよね」
「頑張るけどさ。弓月と繋がれるのを、ずっと心待ちにしていたんだ」
「それは……俺だって……」
オリバーの美しい顔が近づいてくる。あ、キスされると思って思わず目を閉じると、キスは弓月の形の良い額に落とされた。
「唇にしたら止まらなくなっちゃいそう」
ちょっと、期待した。弓月は頬を真っ赤に染めて、視線を伏せる。
「はやく荷物を移動してしまおう。……もう新しい使用人も到着してる頃だから」
「使用人!?」
「そうだよ。この家を二人で管理は難しいからね」
言われてエントランスに戻ると、執事の山添が3人の人物と挨拶を交わしていた。
「やあ、来てくれてありがとう。君たちの雇用主のオリバーだ。こっちは俺のパートナーの弓月。君達にはこの屋敷の管理及び俺と弓月の身の回りの世話を頼みたい。二人とも何せ忙しい身でね」
キッチン中心に動く、コックの坂本。
メイドの赤木と川西。
三人は自分の雇用主が若い外国人の男だということに驚いているようだった。
「注意事項は先日お渡しした書類に記載がありますので、ご覧下さい。あとは基本的に細かい制約はありませんから、めいめいやりやすいように仕事していただいて結構です。……早速ですが、今日は引越し作業があります。荷物の運び込みは運送会社に頼んでいますので、開封と整理をお願いしていいですか。終わったら……お互い初めましてのパーティをしよう!」
茶目っ気あふれるウインクを3人に向けたオリバーは、あははと軽やかに笑った。



引越し作業はつつがなく終了して、そのあとはデリバリーで頼んだピザやオードブルをみんなで囲んで、パーティをした。
大人にはアルコールを用意しようかと言ったけれど、雇用主が飲まないのならやめておきますということで、ソフトドリンクのみでの乾杯になったけれど。
みんな気さくで明るくて、年下の雇用主であっても丁寧な対応ができて。そしてなにより、オリバーと弓月の関係を自然に受け入れてくれてたことが嬉しかった。

「はぁ……楽しかった」
「みんないい人で良かったね。面接と採用をしたのは山添だけど、彼は見る目があるから」
新しいバスルーム。大きめのバスタブの中で、弓月はうっとりとオリバーを見つめた。
リラックス効果を求めて、ライトは暗め。
甘いフレグランスの香りが鼻腔をくすぐって、なんだか頭が蕩けてしまいそう。
オリバーに優しく抱き寄せられて、ああ、幸せだなと思う。
今夜、これから、弓月はオリバーに全てを捧げる。
この愛しい人に、身も心も委ねて、そして愛される。
正直、まだ不安はあった。
ちゃんと上手くできるかなとか、したあとにやっぱり違うって思われないかなとか。
なにせ、そういう用途じゃない場所で繋がるのだ。自分が変わってしまう、そんな怖さもあった。
でもそれ以上に、ただこの人と繋がりたくて。
「オリバー」
「うん?」
「俺……覚悟は、できてるから」
だから大丈夫。そんな気持ちを視線に込めて、愛しい彼を真っ直ぐ見つめる。
湯の中でそっと手を握られ、心臓が跳ねた。
「……俺もね、結構緊張してる。ちゃんと弓月を、気持ちよくしてあげられるかなって」
やさしく頬を撫でられて、心の中にしこりのようにある不安が少しずつ溶けていく。
「……オリバーはいつも丁寧にやさしくしてくれるから……大丈夫って、信じてる……」
「うん……大事にする」
もう、キスは何度もした。
触れ合うだけのバードキスも、唇を食みあうフレンチキスも。
もっと深く、やわらかな粘膜を吸い合う、ディープキスも。
オリバーの大きな手が、弓月の背中を、腰を、探るように撫でる。
ぞくぞくと湧き上がってくるのは、紛れもない欲望。弓月はたまらずオリバーの膝の上に乗り上げ、正面から彼に抱きついた。
「オリバー……オリバー俺……」
「弓月、愛してるよ、弓月……」
「俺も……」
切なくて、恋しくて、愛しくて涙が出る。
早く繋がりたい、愛されたい。
湯の中でその場所を探られることも、この後の行為のためだと思うとただ、尊い。
「嬉しいな、弓月の身体、すぐ開いてくれる」
「オリバーの指の形……覚えちゃったもん」
「可愛いことを言ってくれるね。でも……」
慣らすために2本、差し込んでいた指を左右に押し開くと、中に湯が入り込む。
ぬるめな湯温のはずが、やけに熱く感じる。
「ん、あっ……、なか、お湯……入っちゃうよ……」
「弓月が覚えるのは、こっちだからね」
開いたその場所に、オリバーの雄が押し付けられる。先端が入口に僅かに入り、弓月はぐっと身構えた。
「……ここから先はベッドでね。記念日は大事にしなくちゃ」
鼻の先に軽くキスを落とされ、弓月は涙の粒のついたまつ毛を瞬かせる。
「……俺、おねだりしてもいい?」
「うん?何かな」
「……今日だけは……記念日だけは、ゴム無しでして。はじめては、ちゃんとオリバーを感じたい」
言ったあとで、ものすごく恥ずかしくなった。オリバーの反応が気になって、ちらりと上目遣いに彼を見る。
オリバーは、驚くほど真っ赤になっていた。
肌が白いだけに、紅潮した頬がよく目立つ。
おや、珍しい。こんな顔するんだ。
かっこいいかっこいいとは思っていたけれど、こんな顔は可愛い。
弓月がオリバーにキスをしようとしたが、それは未遂に終わった。
「わっ?!」
がしりと強く抱きしめられ、急にバスタブから持ち上げられる。
「ちょ、オリバー」
「弓月が悪い」
脱衣所にそっと下ろされ、やわらかなタオルで身体を包まれる。ごつりと額を重ね合わせ、オリバーは弓月の目をまっすぐに覗き込んできた。
「ずっと我慢してきた。今日もずっと、弓月を抱きたくて抱きたくて……外面整えるの大変だったよ」
「だって、」
「わかってる、俺が今日って決めた。弓月を大事にするって。……でも、やっぱり限界。弓月のおねだり、やばいよ。我慢できない。早く弓月をちょうだい……」
髪を乾かす余裕もなく、抱き上げられてベッドへ。
我慢できないというわりに、扱いは丁寧だった。
「あ、んむ……っ」
獣みたいな、キス。
息を継ぎたくて口を開くと、それすら飲み込むように深く深く口付けられて。
酸素が足りなくて、頭がぼんやりする。ライオンに捕まった草食動物ってこんな感じなのかな、なんて、弓月はぼんやり思った。
ちくりと、首元に痛みが走る。
それは鎖骨に、胸元にと散っていく。
「ちょ……なに、」
「もう我慢しない。弓月は俺だけのものになったんだ。その印をつけてもいいだろ?」
見下ろすと、アザのような赤い点。いわゆるキスマークというものだと気がついて、弓月はまたしても真っ赤になった。
「ゴム無しがいいって?嬉しいよ、弓月。愛しい人にこんなにも求めてもらえるなんて、光栄以外の何物でもない」
長い長いキス。彼にキスを教えられるまで、口の中にも性感帯があるなんて知らなかった。上顎を舌先で擽られて、舌を吸い出されて……細い筆で肌を撫でられているようなもどかしい快感が走る。
オリバーは弓月の足の間に体を割り込ませ、尻のあわいを探った。
触れたところがぬるりと滑る。弓月がキスに集中している間に、オリバーはローションを用意していたらしい。
ああ、いよいよだ。弓月は何度も吸われて腫れぼったくなった唇を噛む。
大丈夫、指でなら、何度も慣らされてきた。中の気持ちいいところも徹底的に教え込まれて、多分……ちゃんと恋人を感じられる身体になっている、はず。
「力を抜いて」
膝を左右に推し開かれて、恥ずかしい場所が丸見え。オリバーに言われるがままに力を抜けば、慣れ親しんだ指がぬるりと中に入り込んできた。
「う、く……っ」
意図して、しているんだろう。
オリバーの指先は、弓月の泣き所を確実に捉えてくる。
指の腹で、じっくりと、こねるように。
それをされるとじわじわとしたしびれが腹の中から湧き上がって、もどかしさに腰が揺れる。
いつもなら、ここで指を増やされて、気持ちいい場所を複数の指で徹底的にねぶられるのだけれど。
でも、今日は違う。
オリバーは性急に、弓月の入口を広げる動作を繰り返す。
身体は温まっているし、指の挿入にも慣れている。
もどかしい快楽で、肉体は更なる快楽を求めて疼いて、潤んで……
「も、いい…オリバー……っ」
弓月はオリバーの腰に足を絡め、彼を引き寄せた。
彼の股間で頭をもたげる、大きな逸物。
多分、他の男のものだったら、気持ち悪くて仕方なかっただろうけれど。
「……はやく……俺の中に、きて」
オリバーは、この時の事を未来永劫忘れることは無いだろうと思う。
一目で恋に落ちて、忘れられなくて。海を越えて国を捨ててでも、どうしても欲しくて仕方なかった美しい人。
唇が、肌が、唾液の一筋、汗の一雫すら水蜜桃のように甘く思えて、何もかも食い尽くしたい欲求にかられるほど。
「……愛してるよ弓月」
理性がもったのは、ここまでだった。
弓月の左手に、オリバーの右手が絡む。どちらともなく強く握りあった瞬間、弓月の菊座に押し当てられた灼熱の塊が、その蕾を押し開いた。
「ぁああ……っ!」
なんだこれ。熱い。
熱いし、苦しい。
指なんかとは比べ物にならなかった。
力を抜こうとしても、一瞬で緊張してしまった身体は言うことを聞かない。呼吸がつまって、うまく酸素が入らない。
「……息して、弓月」
「っ、はァ、あ、あ……っ」
導くようなキスにあわせて呼吸をすると、幾分か身体が緩んだ気がした。
その隙を見計らって、オリバーが深く入り込んでくる。ローションの滑りがなければ、きっと入ることすら出来なかっただろう。
「ふ、かい……っ」
「っは……まだ、あとちょっと……」
まだ入り切ってないの?!弓月はあらためてオリバーの顔を見た。
驚きが表情に出たらしく、オリバーが苦笑いする。
「ごめんね、大きくて」
「も……っ!ばか……ぁあっ!」
油断した。一瞬で一番奥まで入り込まれ、目の前がチカチカする。
少しトんでいるうちに、オリバーはゆるやかに腰を揺らし、弓月の中を馴染ませていた。
「ちょっとイっちゃった?」
「……ふぇ……?」
腹の上を、オリバーの指がなぞる。
ぬるぬるした感触。見ると、白濁した液体が自分の性器からとろとろと零れていた。
「あ……うそ……」
「すごく可愛いね。でも……もっとよくなる」
「ん!あっ、あ……!」
腰を捕まれ、さらに奥まで。
ゆっくりと引いて、押し込んで。
そのたびに、言いようのない違和感と、その奥に僅かなくすぐったさが芽吹いてくる。
でも、それを上回る喜び、そして愛しさ。
やっと繋がれた。その思いだけで、この夜に価値があるように感じてしまう。
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(ああ、どうしよう。こんなにも、この人が好き)
今の弓月では、彼が与えてくれるものの100分の1も返せていない。でもだからこそ、これから先、彼に沢山のものを返して、そして一緒に大事なものを育てていけたら、そう思うのだ。
「オリバー……オリバー……」
胸が詰まって、言葉が出ない。
僅かに感じていた快楽を、愛しさが増幅していく。
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手を伸ばして彼を引き寄せて、そして、どうしよう。柔らかな金糸をそっと撫でて、高い鼻にキスを。そうして彼への愛を表現していたのに、それは突如訪れた。
「あ、そこ……っ」
じわじわと感じていたものが、突如大きく膨れ上がる。
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「や……っ、それ、そこへん……っ」
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「可愛い声……はぁっ、あー……弓月の中、気持ちいい……」
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(あ、俺、喰われてる)
そう思ったら、もうだめだった。
「やだ、くる、あ、イッちゃ……!」
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「あぁあ~………っ!!」
下半身でビクビクと跳ねる小ぶりな性器。先割れから白濁した体液が勢いよく吹き出し、胸元まで飛んできた。
「ちゃんとイけたね。よかった」
長く尾を引く余韻。うっとりと目を閉じてそれを味わう弓月はたまらなく美しくて、オリバーはゆるゆると腰を揺らしながら弓月の表情を眺めた。
「……オリバー、は…?」
「うん?」
「まだ、イッてない……?」
「うん。……俺もイッていい?」
甘えるように弓月に抱きつくオリバー。綺麗な翠の瞳がとろりとした光を宿して、まるで蜂蜜を甘く煮詰めたよう。
「……中に、出してね」
「お言葉に甘えて」
優しかった律動が、自分の快楽を追うための自己中心的な動きに変わる。
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強く突き上げられて漏れる声は、今まで自分でも聞いた事がないほど甘く濡れていて。
オリバーから余裕が無くなっていくのが手に取るようにわかる。
呼吸が荒くなって、中のものが脈打つ。
肌に滲む玉のような汗。
「もう限界……出すよ」
ラストスパート。
オリバーに突き上げられているうちに、弓月の中にもまた先程の疼きが蘇ってきた。
「ぁ……だめ、俺また……」
「一緒にイけそうかな」
「わかんな……ぁっ、あ、や、またくる……っ」
「いいよ、俺も……っぁあ、出る……っ!」
「う、ん……っ、んぁあ~……っ!!」
弓月が二度目の絶頂に達したのに少し遅れて、オリバーは弓月の中に自分の精液をぶちまけた。
愛しいつがいの、腹の一番奥。そこに自分の残滓を擦り付けて、自分色に染めて。
「弓月、愛してる……」
射精の快楽は一瞬というけれど、この陶酔感は他では味わえないと思う。
だってそうだろう。
ただ1人、欲しくて欲しくてたまらなかった人が、今腕の中にいる。
彼に触れて、一番深い場所を明け渡してくれて。
そして、愛していると全身で表してくれる。
こんなに幸せなことはない。
「弓月、幸せにするよ。俺の人生をかけて」
思わずそう零せば、弓月はその綺麗な黒曜の瞳を細めて微笑んだ。
「……俺だって、オリバーを幸せにするから」
「ふふ、男らしいね」
「そうだよ、男だもん」
女性顔負けの美しさを持った彼は、反面誰より男らしい。そんな所も好きなんだよな、と、オリバーは改めて思ったのだった。


※  ※  ※

「は、王位継承権持ってるってナニソレ」
「いや、ほぼ最下位なんだよ!俺に回ってくることなんて地球が隕石で滅亡する確率より低いんだって!俺の親戚100人くらいが一気にお亡くなりになっちゃったらってレベルの話で、継承権って言えるほどのものでもないんだ!」
後日。学校では、とある噂がまことしやかに囁かれていた。どうもオリバーの動きが気になった生徒の一人が調べ回ったらしく、その結果、彼が王家の血筋の人間であり、王位継承権を持っているということに気が付かれてしまった。
それを聞いた弓月はびっくり。
般若かなにかかと言わんばかりの気迫で、オリバーに迫っていた。
「俺聞いてないんだけど!」
「言う必要ないかなって思ったんだよ!気付かれると騒がしくなるし!弓月だって華族の若様じゃないか!」
「”元”華族だし今は平民ですぅ~!」
「あんな立派なお屋敷に住んでる平民がどこにいるっていうんだい?」
「ここにいますぅ~」
ぷうー、と膨れてみせる弓月は、1年前のような冷たい表情はない。以前より表情豊かになって、とても微笑ましくさえ思うほど。
それに、と弓月は続ける。
「オリバー、なんか魔王とかあだ名ついてたけど!?俺の知らないところで何かしてるんじゃないでしょーね!?」
「俺が魔王?ええ……別に何もしてないんだけどな……提携先企業の何社かで成績不振なとこつついたりはしたけど……」
「……絶対それじゃん」
はあー、と、弓月は深いため息をついて机に突っ伏した。
「……ま、オリバーのことだから?どうせうまいことやってるんだろうけど」
「信用していただけて光栄です、プリンス」
「やめてよもー、プリンスはオリバーでしょ」
「残念ながらその呼び名は持ってないんだ。爵位ならあるけど世襲制だし、それこそ形だけで特権もない」
外人特有の軽く肩をすくめる姿が、実に様になっている。
(もう。ほんと、かっこいい)
すっかり恋を楽しんでいる弓月は、オリバーをじっと見つめる。それに気付いたオリバーもまた、弓月の目を真っ直ぐ見つめて微笑み返してくるのだからたまらない。
最近ではすっかり、二人が恋仲同士で親公認の仲、しかも同棲までしていてまさに西洋の王子様と東洋の姫君のロイヤルカップル、性別なんてなんのその、この世で最も尊いものは愛そのものである~、みたいに言われているのだ。
今だってまさに、二人のまわりでは取り巻き達が目を輝かせて会話を聞いている。

「まあ、さっきの話だけどさ。俺が魔王だっていうならそれはそれでいいや」
「へえ、いいんだ?」
「うん、だって弓月はリリスだし丁度いいんじゃない?悪魔同士、仲良くしようよ」
「それは舞台の役柄!」
「いやいや、一説によれば魔王サタンの妻になったって話もあるし、俺が魔王ならそのパートナーの弓月はやっぱりリリスなんだよ」
「……」
これだからこの人は!
弓月は二の句が告げずに唇を尖らせる。
だって嬉しい。オリバーが自分を隣に立つ人間として選んでくれたことが。
愛しいと抱き寄せてくれることが。
信じてくれることが。
だったら自分は、自分を見る全ての人間を魅了する役者になろう。それこそまさに、男を誘惑するリリスのように。いや、それじゃ生ぬるい。老若男女全てを夢中にさせるほどの役者に。
「ご期待に答えられるように、頑張るから」
「弓月の活躍が楽しみだな」
目の前で、光を宿す髪がゆれる。
周りの女子からきゃあと黄色い声が聞こえたけれど、そんなものは意識の外。
ふわりと唇にふれる温もり。鼻腔をくすぐる甘いムスク。弓月はこの世の全ての幸せを集めて煮詰めたような、甘くとろける微笑みを浮かべた。


緑の瞳の魔王様と、黒の瞳のリリスは今日も今日とて愛し合う。
二人のおとぎ話は、幕を開けたばかりだ。
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