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1章 赤鬼領編
伴侶の契り
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意思が、朦朧としていた。
遙を目覚めさせたのは、割れるような頭痛。まるでインフルエンザにかかったときのように全身が熱く、横になっているのにぐるぐると天井が回転している。
不意に、唇に何かが触れた。
柔らかくて、すこしかさついていて。ああ、これは知っている。身体に蓄積する妖気を吸い出すという名目で度々施されていた、口吸いだ。
何度も繰り返してきたからわかる。体内に渦を巻いていた気持ちの悪い靄がすっと抜け、少し熱っぽさが引いていく。同時に、割れるような頭痛もマシになったように感じた。
「…目が覚めたか」
「……ぐ、れん…?俺…」
ああ、そうだ。みんなを助けようと必死で戦場で駆けずり回って、なんとか敵を制圧して。よく分からないけれど不思議な力が使えるようになっていて、ならばと出来ることに全力をつくした。
そして、うまく発動出来た結界の力を追い風に紅蓮が悪鬼達を一掃し、これでもう大丈夫とほっとしたのだ。
(そうだ…あのあと、酷い頭痛が襲ってきて……)
今も続くその痛みは、薄暗い行灯の光すら目に染みるほどきつい。
「すまない、もう少しお前に気を使うべきだった」
静かな声色で詫びる紅蓮は、戦場で見せた荒々しい鬼神のような姿とは打って変わっている。
「…気にしないで。俺がしたくてした事だから…」
頭に響くため、あまりはっきりとは喋れない。それでも。落ち込んでいる様子の紅蓮をなだめたくて、すぐ手の届く位置にあった彼の膝をそっと撫でた。
「…紅蓮は、怪我は大丈夫?」
「ああ。お前が一度回復させてくれたおかげで、あの場を乗り切れた」
「そっか、よかった…」
床に伏してなお、周りのことを気にする遙に、紅蓮は歯噛みする。
遙はいつもそうだ。周りと争うことを好まず、かといって見ぬふりもしない。
巧みな言葉と誘導で色々なことを丸く収めて、いつの間にか皆の中心にいる。
紅蓮はそんな遙の姿を見るのが好きであったし、あの頭の回転の早さには、心底感心していた。
話し始めると立て板に水を流すかのごとくスルスルと言葉が出てくる遙を、その話の組み立て方を真似してみたら、最終的に多くの幹部が味方についてくれた。
遙がいることで、自分も随分と変化したと思う。
なにより、自分が説得したとはいえ、古くからの慣習を反故にしてもいいと皆が思うほどこの社会に溶け込んで居たのは、遙の努力に他ならなかった。
この慣れない場所で、苦労しなかったはずは無いのに。
「…お前に、話さなければならないことがある」
ここからの話は、この先の遙と自分の人生に関わってくる。体調が悪いときにするべき話ではないのは紅蓮自身もよく理解しているけれど、今しなければ取り返しがつかなくなる話でもあるのだ。
「…なに?」
紅蓮の表情から、それがとても重い話であろうことは察して取れた。
遙は真っ直ぐに紅蓮を見、次の言葉を待つ。
「…こちらの世界の力を急激に使用した影響で、お前の肉体の鬼化がはじまった」
「…そう…」
なんとなく、そんな気はしていた。
あの時。酷い頭痛を感じた時、触れた額に僅かにこぶのようなものが出来ていた。
改めて今触れてみても、それはたしかに存在する。気のせいなどではなかったのだ。
「お前の肉体から妖気を抜き出せば人間のまま留め置けるかと考えたんだが、お前の身体はすでに妖気を作り出しはじめている。もう、境界線を超えてこちら側の存在になってしまった」
「……」
「それだけならまだいい。あの場……あの戦場は、鬼を悪鬼に変えてしまう瘴気が多く混じっている。…医師によれば、お前は俺と名前で繋がっているからあの場でもさほど影響なく過ごせたが、能力を使う事で許容量を超えた瘴気を取り込んでしまった。お前の鬼化はその瘴気の影響が強いから、このままだとお前は悪鬼として変化してしまうと、そういうことだった」
「…そんな…」
遙は絶望した。村の鬼達を助けたい、その一心で動いたはずが、まさか自分が傷つける側の属性に変化してしまうだなんて。
あの、正気を失った化け物のような姿。思い出すだけでも身の毛がよだつというのに。
「でも」
ひどく混乱する思考を遮ったのは、紅蓮だった。
「こっちはまだ、打つ手がある」
「ほんと…?俺、鬼に変わっちゃうのは仕方ないとしても、悪鬼にはなりたくない…。みんなを傷つける存在には、絶対、なりたくないよ…」
遙の答えに、紅蓮は胸が軋むような思いだった。
なぜ、こんなにも優しく強い者が、こんな理不尽な立場に追いやられているのか。
「…お前の身体は妖気を作り出せるようになったといっても、まだ角も出ていない不安定な状態だそうだ。これから数日かけて角が生え、肉体と妖気が安定する」
遙は、ここで改めて鬼の身体の作りについて知ることになる。
鬼の身体には、妖力を作り出す「気核」という部分がいくつか存在する。個体によって多少差はありその配置によって能力の差がでるが、頭、心臓、水月、丹田など、共通しているのはこのあたりだ。とくに丹田は全ての気核の中心といってもよく、ここの働きが悪くなると、全身の気の流れが狂うということだそうだ。今の遙の肉体は、その気核が瘴気に侵され、自ら瘴気を生み出し初めている状態。そこに紅蓮の妖気を注ぎ込むことで、気核が正常に働くよう矯正するということらしい。
ただそれも、今の弱った遙の肉体が耐えられるかというと難しい。下手をすれば、気核の一部が破壊され、障害が残ってしまう可能性すらあるというのだ。
「そこでだ。俺はお前に、俺の真名を教える」
「え…?」
「元々、俺だけがお前の真名を知っている不平等な状況だ。俺の名を教えることで、お前との魂の繋がりは相互の正式なものになる。そうすれば、お前を確実に鬼化させてやれる」
遙は愕然とした。自分のためにそんなことまでさせてしまうだなんて。
こんな迷惑をかけるつもりなんて、これっぽっちも無かったというのに。
「でも…でもそれは、限られた人以外には教えられないものだって…」
思わず身体を起こそうとした遙を、紅蓮は押しとどめる。
「昨日の戦で思った。お前ならば信用できる。…俺だけならばいざしらず、弟のことも、戦士たちのことも、救おうと奔走してくれたことを聞いた。お前が居なければ、被害はもっと多かっただろう。…この恩に報いなければ、俺は恩人を見殺しにした恥知らずとして生きていくことになる」
そう言われてしまうと、何も答えられないではないか。申し訳ない気持ちと感謝とで、胸がきりりと締め付けられた。
「ただ…そうなるとお前にも、もう一つ謝らなければならないことができる…」
「…?」
紅蓮はバツが悪そうに頭をかき、遙から視線を逸らす。
言わなければならないのは、重要なのはここからだというのに、まだ二の足を踏む自分に少し呆れてしまう。
ややして心を決めた紅蓮は、ついにその事実を口にした。
「…真名を知らせ合う関係というのは、だな……その……。親兄弟以外は、婚姻関係を結ぶと、そういう事でだな……」
「…は…?」
今なんといった。遙は今告げられた言葉を、働きの鈍い頭の中で反芻した。
婚姻関係。たしか現代の言葉でも婚姻関係と言ったな。一般的に、わかりやすい言葉で言うならば、結婚といったか。
「俺…男だけど…結婚…?」
なにか違った意味の言葉だろうかと恐る恐る聞いてみると、紅蓮は大きく頷き、後を続ける。
「人間の世界では男型と女型が結ぶ関係のことだったか。鬼の世界ではあまりそういう所を気にしなくてな…」
遙はまだ、こちらの世界の婚姻関係について詳しく知らないのだった。紅蓮はそう思い、しばし思案する。違う世界から来た者にこちらの価値観を教えるというのは、なんだか少し緊張する。遙はこれを受け入れてくれるだろうか。
「なんというか…あくまで、こちらでの婚姻は形式的な意図の方が強いんだ。むしろそっちの方が重要というのか。そもそも子の成し方が様々だから、身体の形や相手に拘らずともよくて…」
「そうなの…?」
紅蓮は、己に来ていた見合いの釣書のことを思い出す。
中は家紋と、高名な絵師が描いた相手の姿絵。その中には男型のものもあった。
総じて見目麗しく描かれていたが…おそらく多少なりとも盛っていることだろう。
「…まあもっとも、男型と女型がごく普通にまぐわうことが一般的だが…同型の場合はどちらかが肉体を変化させることもあるし、秘術をもって大気に漂う鬼子の魂から子を成すこともある。それから、自らを分裂させて子とすることもあるな」
「……そんなベタとかプラナリアみたいな……」
「それが何なのかは知らんが、まあ、そんな感じだ。もっとも、それなりに妖力が必要にはなるんだが…」
遙は脱力した。鬼ってそんな適当な生き物なのか。いや、妖の世界を人間の常識で測ろうとする方が間違いなのだろうけれど。
「だから、俺とお前が婚姻関係になったとしても、そのこと自体に特に支障はない」
言葉が好きな遙は、紅蓮の言葉に含みがあることはすぐに察して取れた。
婚姻は形の方が大事。つまり、次期領主とある紅蓮であれば、特にその形式が重要になるはずなのに。
「…紅蓮は、だれか、お相手がいたんじゃないの」
「いや、居ない。…居ないというか、断りつづけていたというか。正直まだそんな気になれなくてな。いつかはするんだろうと思っていたが、今では無いと後回しにしていた」
「…なんか、それはそれで申し訳ないな…」
「気にしなくていい。むしろ、断り続けるのもしんどくなっていたし、丁度良かったのかもしれない」
立場のある者同士で婚姻を結ぶことは、この神羅領の未来にとって非常に重要だったろうに。
でも、そんな立場を許してでも、助けようとしてくれる事が何だか嬉しいと思ってしまった。
「俺としては、書面でしか知らない相手よりも、この村の者たちのために必死になってくれたお前の方が、婚姻相手として相応しいと思う。……だから、あとはお前の気持ち次第、なんだが……」
遙の額に汗で張り付いた黒髪を指でそっと払い、傍に用意してあった手桶から濡れ手ぬぐいを取る。
かたく絞って痛む額に載せてやるとひやりとした感触が心地よく、遙は細く息をついた。
気持ち次第。そう言ってくれたけれど、今の話だと選択肢が潤沢にあるわけでもなさそうだ。
遙は少しの沈黙の後、静かに口を開いた。
「…色々と気を使ってくれてありがとう…。俺は、婚姻については構わないよ。そもそも、人界に居ても結婚出来る気がしなかったし」
「…人界の婚姻とはそんなにも敷居が高いものなのか……?」
「……どうかな……人によるとしか……」
答えて、遙は小さく笑った。
「まあ少なくとも、俺は研究の方が好きだったし…こういう顔立ちと性格のせいか、女友達みたいって言われちゃうんだよね…。だから自分が結婚出来るとは思ってもなかったし、一生独りかなって、思ってた」
人間なら、一度は憧れるであろう明るい未来。好きな人と恋人になって、それなりに関係を結んで、仕事をしてある程度の稼ぎを得られるようになったら、プロポーズして結婚して。子供も2人くらい出来たりなんかして、欲しいとねだられて、「仕方ないなあ」なんて言いながら犬か猫を飼う。
典型的な幸せ家族。満たされた人生。
…遙は、そんなビジョンを想像出来なかった。現実は、理想の社会通念とあまりに遠くて。その乖離の幅の広さに、虚しさよりも諦めが勝った。
自分だって、こんな風に生まれたくて生まれたわけではない。気がついたらなっていたのだからどうしようも無いではないか。
考え始めると思考がマイナスの方に引きずられ、少し泣きたくなった。
こんなにも無防備になってしまうのは、きっと今ひどく弱っているからだ。
「…俺は、お前が必要だと思ってる」
紅蓮の言葉は、遙の心に真っ直ぐ届いた。
治りようもなかった傷に、そっと触れられたような心地。
「…そうだったら、嬉しい…」
求めてくれるのなら、その手を握り返してもいいだろうか。この人はけして、嘘をつかない人だから。
紅蓮の大きな掌が遙の頬を包み、そっと撫でる。その優しい掌に甘えたくなり、遙は少しだけ、自ら頬を擦り寄せた。
「俺はお前を悪鬼にしたくない。これからも俺と共に生きて…どんな局面でも、俺の隣に立っていて欲しい。……だから俺の、伴侶になってくれ」
遙は、自分の持つ能力がどんなものであるか詳しくは知らない。でも、周りの反応を見る限り、この世界では非常に重要なものであろうことはなんとなく察してとれた。
紅蓮ならば、きっとこの能力を悪用しようとはしない。そのくらい真っ直ぐな男だということは、よくわかっていた。
「…俺で、いいの…?」
「お前が、いいんだ」
こんな状況だというのに、心から嬉しかった。湧き出るような幸せというのは、こういう気持ちをいうのだろうか。
紅蓮なら。紅蓮であれば、これから何をされてもいい。そう思うほど。
「……よろしく、お願いします…」
もし、鬼への転化がうまくいかなくて悪鬼になってしまったとしても、紅蓮ならばきちんと対処してくれる。そんな確信と覚悟を持って、そう答えた。
紅蓮の口元に、ようやく笑みが浮かぶ。これで全てが上手くいく。そんな未来を確信したような、穏やかな笑みだった。
「…俺の真名は、『コウエン』。古くから伝わる、日輪に関する名からとっている。この真名にかけて、必ず、お前の転化を成功させる」
「コウエン…お日様に関係しているなら、きっと紅の炎って書くんだね…」
大事な局面であるというのに、ついいつもの癖で、その名に充てられる文字を考えてしまう。だって約束したのだ。紅蓮の真名を知ったときには、その名に文字を与えると。
「お前はこんな時にでも、言葉のことが忘れられないのだな」
「ふふ……そうだね…うぐ……っ」
またしても酷くなってきた頭痛が、目眩が、意識を再び朦朧とさせる。
遙は喘ぐような浅い呼吸を繰り返し、手のひらで額を抑えた。
「…あまりゆっくりもしていられないな。遙、これを飲め」
「なに……」
紅蓮は、横に置いてあった徳利から何かの液体を盃についだ。
「これは、鬼梨という果物と数種類の薬草から作られる薬酒だ。強い酩酊感があるが、痛みを軽減し、気を楽にする効果もある」
つまり、痛み止めということだろう。
差し出され、口に含んだそれは、蜂蜜をさらに煮詰めたように甘かった。薬臭さもあったが、甘いものが好きな遙にとっては
そんなに悪くは無い。…なんというか、そう、あれだ。人界で有名な某「命を養う酒」にもっと濃厚なフルーティさを足して、薬草みを強くしたような感じとでもいうのだろうか。
酒精の強さもあるのだろうが、なるほど、これは確かに強い薬効がありそうだ。
飲み下すと、食道がカッと熱くなる。先程の目眩とは違い、陶酔に似たような感覚だった。
「それから……その酒は、ここから先の行為を助けてくれる」
「…行為…?」
意識が蕩けはじめると徐々に痛みの感覚が鈍り、少し肩の力が抜ける。
そろそろ頃合か。
紅蓮はついに、これからしなければならない行為について打ち明けた。
「許せ、遙。俺は今日から7日の間、お前を抱く」
‐‐
あの言葉を拒絶することなんて、状況的に不可能だった。
そもそも、放っておいたら良くない方向に鬼化は進み、きっと遙は遙でなくなっていただろう。
(ああ、こういうことをしなきゃいけないから、先に婚姻の話を出してくれたのか…)
あれは、紅蓮なりの思いやりだったのだと思う。
婚姻を結ぶというのは、性的な交わりも許容される。婚姻関係だから、普通の関係であればされないような頼り方も甘え方も許される。
紅蓮はそれも見越して、遙を伴侶にしてくれたのだ。
「はぁ……ぁっ、あぁ……」
遙の股座で、紅蓮の頭が揺れる。
大きな口に飲み込まれた若筍は、その熱くてねっとり絡みついてくる舌に抗えなかった。
まるで飴でも口に入れたかのように舐めしゃぶられ、容赦なく追い上げられる。
一人でする時にもそんなに急激な快楽を得ることは無かった遙は、ひどく戸惑った。
自分のペースではない、他人に身体を支配される感覚。自分の思い通りにならないもどかしさ。
けれど、それがひどく気持ちいい。
「んぅ……あ、あ…」
元々朦朧とした意識が、与えられる快感でますますぼんやりと滲んでいく。尻のあわいを探られる感触も、我に返ったときにはすでに指を一本、なかに差し込まれた後だった。
「やぁ……なに……」
持ち上げられた片足が、中を探られる度に跳ねる。違和感につい力が入るが、硬い蕾を和らげるべく、ゆっくりと広げるような動きは止まることがない。
「ここに俺のものをいれるからな。開くぞ」
「うぅ…」
油でも足されているのだろうか。差し込まれた指がゆっくりと出し入れされる。
剣を握る紅蓮の指はゴツゴツしていて、抽挿の度に形がよくわかった。
陰門は時間をかけて指の形に慣らされ、普段は慎ましやかに閉じているはずのそこは、ふっくらと赤い蕾を綻ばせている。深く差し込んだ無骨な指で内部を探られると、ぞくぞくとした甘い痺れのようなものが湧き上がった。
挿入の違和感で少し萎えてしまった前も、再び口で吸われることで、しっかりと形を取り戻す。
(そういえば、こういう小説もあったな……男性同士の……ボーイズラブってやつ……)
小説の中ではあっさり慣らされてすぐに交接に及んでいたように記憶している。特に痛がるそぶりもなく最初からアンアン鳴いている表記があり、その行為はそんなに気持ちいいのかと疑問に思ったが、これからの自分がその証明になるのかもしれない。
「遙……どうだ」
「ぁ……わかんな…ぁ……」
さきほどから、もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。中に気持ちよくなれる場所があることは知っているが、肉体的な理由よりも、今は精神的な不安定が大きかった。
自分すら知らない場所を暴かれている。それだけでも恥ずかしいのに、素直な身体は従順にも紅蓮の与える刺激を受け入れようと開いてしまう。
こんな自分は知らない。…いや、もしかしたらこの姿こそが自分の本来の姿かもしれない。
周りにはまるで興味が無いようでいて、その実、夢中になれるものには何を差し置いても夢中になる。
与えられた甘い果実を、喉を焼くほどに甘いその蜜を、もっともっとと欲しがってしまう。とんでもない強欲。
「不思議だな……お前の身体、どこもかしこも甘く感じる」
「なに……いって……ぁあ……」
肌の上をかすめるような甘噛み。神経の末端からちりちりと燻ってくる焦燥感。
中で何かを探るような動きをしているのはわかった。爪を立てないよう、ゆっくりと優しく、腹側の肉壁を押し込むような動き。
最初は、ほんとうに何も感じなかった。そこはただの内臓の一部で、つるりとした感触で、できればあまりきついことはしないで欲しいとそう思っていたくらいだ。
だが、それが一体どうしたことか。何度となくその場所を押し込まれると、小さな疼きが、埋火のように灯ったのを感じた。
「ん……っ、まって、それ…そこ……」
「ここがいいか?」
「わかんな、けど……もどかしい……」
「…その感覚を追ってみろ」
言葉に導かれるように、紅蓮の指の動きに意識を集中させた。ぼんやりした意識の向こうで滲むような快感が少しずつ溢れてく。
きもちいい。
もはや、ごまかしが効くような感覚ではなかった。甘い味を知ってしまえば、もっと欲しくなるのが人の性。
気がつくと遙は、自ら腰を揺らし、与えられる快楽を素直に追いかける様になっていた。
中に差し込まれた指で腹側を探るように掻かれると、涙が出るほど気持ちいい。
「……い……いい、そこ……きもちいい……!」
たまらない気持ちになってうわ言のように漏れ出る喘ぎに、肉襞を押し広げるように増やされた指の数。いつの間にか三本まで飲み込まされていて、不規則に動かされる度、遙の菊座からはひどくいやらしい音が発されていた。
「お前は覚えが早い。もうこんなに開いた」
「あぁ……やぁ……いわないで……」
見せつけるように中でバラバラと指を動かされ、思わず声が漏れる。
今日初めて男を知る、何の手垢も付いていないウブな肉体。
雄の象徴も中の快楽のツボを探り出される度に熱く熱を持ち、ぽたぽたととめどなく法悦の涙を零す。遙の肉体は、さらなる決定的な刺激を求めていた。
「いいか遙。お前の気核を俺の妖力で上書きするには、体内に俺の妖気を留まらせる必要がある。だからお前の腹のなかに、俺の精気を注ぐことを繰り返す」
複雑な言葉を使ってはいるが、有り体にいえば中出しするぞとそういうことだ。
わかってはいる。理解はしている。
しかし、取り出された紅蓮の逸物の大きさに、思わずしり込みしてしまった。
「それ…」
「始めは苦しいだろうが、耐えてくれ」
身長差約30センチ。身体の使い方が違えば、筋肉の付き方も違う。アレの大きさだって当然段違いだ。
2、3回軽く扱いただけで強く奮い立ち、見事に反り返って天を仰ぐ肉棒。
あんなものが腹の中に押し込まれると改めて自覚すると、快楽よりも恐怖が勝った。
「そんな、おっきぃの……入らな……」
「…大丈夫、入る」
上から覆いかぶさられ、足を開かれる。
やれる、やれないではない。やるしかない。そんなことは遙だってわかっているのだが、未知への不安はどうしようもない。
転化による不安定さと、薬酒による酩酊とでだいぶ意識がぼんやりしているが、根底の部分は誤魔化しがきかない。
自分の肉棒に油を垂らし、馴染ませる紅蓮。手馴れた手つきに、一体どのくらいの経験があるんだろうと思う。
けれどそれらの感情も、追加で与えられた薬酒によって、すぐに鈍って蕩けてしまった。
「…遙、入るぞ」
衣擦れの音と、あらぬ所に押し付けられた硬い熱と。はっと我に返ったときには、もうその時を迎えていた。
「あ、ぐぅ……っ」
「力をぬけ。…ああいや、少し腹に力を入れたほうが開くのか」
油の力を借りて、ぬるりと熱いものが押し込まれる。痛みこそなかったが、内臓が圧迫される違和感に拒否感が募った。
「やだ、あ、こわ…、こわい…っ」
「大丈夫……大丈夫だ……」
逃げようとずり上がる身体を抑え込まれ、さらに奥へと入ろうとされる。
自分の意志でなどどうにも出来ない、支配される感覚。
情けなくも、涙が出た。お願い待って、止まってとうわ言のように繰り返し、咽び泣いたが、呂律が回らず伝わっているのかわからない。
宥めるように頭を撫でられ、思わずその腕に携る。その間もゆっくりと侵入してくる灼熱の肉棒に、紅蓮よりもずっと華奢で小柄な遙には為す術もなかった。
「…入っ、た…」
どのくらい時間が過ぎたのだろうか。やがて耳元に落とされるように告げられた言葉に、意識が浮上する。情けなく泣きわめいたように思うが、紅蓮は根気強く遙をあやし、なだめ、なんとか最初の難関を突破してくれた。
繋がった最初の感想は、何もかもぼんやりして、自分が自分でない感覚と言ったらいいだろうか。
身体が溶けて、ふわふわした何かになって、繋がっているそこだけがはっきり形を持って理解できる。
「……辛いか」
辛いのかどうかも、もう分からなかった。
身体が馴染むのを待ってくれているのだろう、紅蓮はその広い胸で遙を抱き、頭を、背中を優しく摩る。
「…ほんとに、はいった……?」
あんなにきつく、恐ろしかったのに。あの太くて長いものを収め切れるものだろうか。
それがあまりに不思議で思わずそう聞くと、紅蓮は小さく笑い、ちゃんと収まったと答える。
ほら、と指を導かれた先は、限界まで広げられた秘孔と、そこにずっぷりとはまりこんだ肉の棒。
入っているだろう?と軽くゆすられると、慣れてぼんやりしかけていた紅蓮の輪郭が、また明瞭になった。
「ほんとに、はいってる……」
あれほど怖かったのに、いざ入れてみると感慨深さの方が勝る。
だってあんなに大きかったのに。
接合部を指先でなぞれば、自分の菊座がいかに限界まで開いているかがわかる。
時々ひくつく紅蓮の肉棒。やっぱり太いなと考えて、いやまてよと思い直した。
さっき、「入った」と言っていた。なのになぜ、まだ幹に当たる部分を探れるのか。
つまりは、そういうことだ。
紅蓮のそれは、遙の直腸の長さを超えた大きさを持つと。
今でさえも苦しいのに、これ以上入ってこられたらどうなってしまうのか。
ただでさえ体格差で抑え込まれたら抵抗のひとつも出来ないのに。
そんな不安に戸惑う遙の唇を、紅蓮はそっと食む。差し込まれた舌を伝って甘い薬酒が注ぎ込まれ、遙はそれを喉に流し込んだ。
薬酒の力は強力だった。
不安感や恐怖感が薄れ、意識が蕩ける。
慣らすように優しく揺らされるその振動すら、心地よく感じるほど。
先程見つけ出された快楽のツボをじっくりと押し込まれ、遙は熱の籠った吐息を漏らした。内臓が押し上げられるたび、なんとも艶っぽい声が上がる。
苦痛は、ない。
初体験ながら、きちんと快楽を感じている様子に、紅蓮は安堵した。
これから、未来永劫の伴侶となる相手だ。身を交え、共に高まり、魂を擦り合わせ、そしてより深く結びつく。
鬼は、愛情深い生き物だ。
争いに身を置き、いつ死ぬか分からないそんな環境のなかで、種族の繁栄は必須事項。産まれる子孫達を確実に育てあげるため、種族間の結びつきをより強固にする必要があった。
そのため、伴侶に対して他の妖よりももっと深い愛情を持つよう進化した。
当然、それは紅蓮とて同じ。一度自分の伴侶と定めた存在を、深く愛するように出来ている。
自分よりもふた回りも小さな身体を組み敷き、初めての快楽を教え込む。なんと罪深く、しかし甘い充足感を得られる行為だろうか。
「ぁあ…は、う……っぐ……」
時間はかかるが、遙の肉体はたしかに、絶頂を目指して高められていた。
様子を見ながら薬酒を流し込んでやることで、遙の快楽はより深いものへと変容していく。
「遙」
「…ぐ、れん……っ、おれ……っ」
「ん…」
「もぅ……イキたい……けど、おれ…どうなっちゃうの…こわい……」
快楽が全身に飽和し、涙となって溢れてしまう。
焦らしに焦らされ、もどかしさも限界に達していた。受け身として未熟な身体は、後ろだけで達するにはまだ足りていない。
頭痛と、目眩と、薬酒による酩酊と、どうしようもない快楽と、そして、この先が分からない不安と。
色々な事が重なっていっぱいいっぱいで、それが全て溢れ出してしまった。
「遙…大丈夫だ、感じるままに受け入れろ。どんなことも、俺の前では、全部見せてくれ」
紅蓮は二人の間で揺れている遙の雄を握ると、優しく擦った。
「んっ、あっ……、あぁ…!」
「気持ちいいか?」
紅蓮の問いかけにこくこくと頷くと、手の動きに合わせ強く腰を押し上げられる。
紅蓮の男根の力強さといったら、他の男を知らない遙であっても舌を巻くほどで、一突きされる度にあられもない喘ぎがあがる。それが快楽ゆえか、はたまた内腑を押し上げたことによるやむを得ないものか分からないが、紅蓮の理性を焼き切るには充分すぎるものであった。
「うっ、あ、まって、ああ、激しい……っ」
「すまん、腰が止まらん……!」
優しくしているつもりだった。最後まで優しくするつもりだった。今でも必死に理性を留めようとしているが、どうにも体が言うことを聞かない。
涙に濡れた双眸と、上気した頬と、気持ちいい、でも怖いと告げる素直さと、紅蓮の雄に懐いてくる温かく滑る肉筒と。
縋るようにしがみつかれ、庇護欲と支配欲が全身を満たす。
頂点を目指して一心不乱に腰が動き、この小さな身体の奥に己の思いの丈を吐き出し、擦り付け、溢れるほどに注ぎたい。
「あ、あっ、だめ、いく、もう……イっ……」
遙の全身が緊張し、手の中の雄からぬるりとした体液が吐き出される。
ひくひくと断続的に痙攣するそれが愛しくて、最後の一滴まで吐き出させようと扱いてやると、遙は過ぎた刺激にいやいやと身を捩った。
だがここでやめてやれない。紅蓮が達するまであと少しなのだ。
「少し耐えてくれ」
「え…?」
遙のものを握った手をそのままに、再びの律動。
肉筒全体を扱くように何度も突いてやれば、入口の菊花がきゅうきゅうと締めてきてたまらない。
「まって、まってぇ……!つよいっ、つよいからぁ……っ、あっ、あっ、あっ……!」
果てたばかりの身体にその刺激は強かったようで遙は涙し酷く身悶えたが、それすら紅蓮にとってはたまらない光景だった。
「出すぞ……っ、しっかり受け止めろ…!」
いよいよの絶頂。全身が総毛立ち、己の番に思いの丈を全て注がんと、気持ちが猛る。
膝を持ち上げ、腰を深く折り、もう何処にも逃がさないとばかりに囲い込む。
きっと遙が雌であったのなら、この一回だけで確実に孕まされていたであろう執念。
白い首筋が眩しくて、思わず噛み付いていた。これが俺の番、俺の伴侶。誰にもやらない、俺だけのもの。頭の中がそんな声で一杯で、紅蓮は今、最も強い雄として産まれ、それゆえに得られる幸福を目いっぱい味わっていた。
そうして至った絶頂は、これまでに経験した何よりも良いものであった。
自ら選んだ伴侶の中に、何もかもを吐き出した。一度目からさほど時間が経っていないにも関わらず、遙もほぼ同時に二度目を迎えていたらしい。
細い足が紅蓮の腰に絡みつき、たしかに自分の方に引き寄せようとしている。
互いに痙攣する肉体が、共に至った法悦をより深く味わおうとしている。
高みからゆっくりと降りてくるその多幸感。噛み付いてしまった首筋に滲んだ血に少し申し訳なさを覚えたが、うっとりと余韻を味わう遙の表情に、ああ、うまくいって良かったと胸を撫で下ろすのだった。
‐‐‐‐
「う……、痛ったぁ……」
3日目の朝。ついに遙の額が割れ、角が顔を出した。
1日目、2日目と何度も果て、何も考えられなくなって気絶するように眠りに落ちたのだが、朝はこれまでとはまた別の種類の痛みで目が覚めた。今までが割れるような締め付けられるような痛みだとしたら、今日のものはまさに割れた痛みというべきか。
咄嗟に額に触れると、ぬるりとした感覚と走った激痛に悲鳴があがる。驚いて目を覚ました紅蓮はあたりの惨状に一瞬ぎょっとしたが、それが角が出たことによるものだと気がつくと、手のひらを返したように喜んだ。
「良かった、無事角が出たようだ」
「あ……それでおでこ割れたの…?」
「見てみろ」
鏡を見せられると、確かに額の中央がパックリと割れ、中から黒い硬質なものが頭を出している。長さは大体、3センチほどだろうか。
…これが、角。
角というと鹿の角のような感覚があったが、まったくの別物のようだ。1度生えたら一生このままということだから、鹿というよりサイとか牛とか、そっち系だろうか。そういえば、日本における鬼のモチーフは牛と虎ということだから、あながち間違いでもないのかもしれない。
「よかった、どうやら正常な角のようだ」
「…悪鬼の角じゃ、ない?」
「ああ。おそらくまだ伸びるだろうが、角の成長とともに体調もおちついてくるだろう」
「そか……よかった」
それにしても、額から流れた血に濡れた布団を見たときは、なかなかに衝撃的だった。
持ってきてくれた手ぬぐいと手桶がすぐに赤く染まるほどで、正直ちょっと引く。まあ、元々額には血管が多く走っているから、それもいたし方ないのだろうけれども。
傷を拭って暫くすると血は止まったが、痛いものは痛い。
口伝の一つによれば、本来人から鬼への転化はそこそこ時間をかけて起こるため、ここまで急激な角の成長はないらしい。
まあ、人間だって成長期の急激な変化では身体中痛むしな、と、遙は一人で納得することにした。
「布団を変えよう。だいぶ汚れてしまった」
「ん…」
だいぶマシになったとはいえ、まだかなりぼんやりしている。紅蓮によれば、遙の身体が生み出す瘴気も、だいぶ薄くなったということであった。
立ち上がろうとしてつんのめり、むしろ立つなと言われてしまう。布団から降りようとしたのを察した紅蓮は、遙を抱き上げて壁にもたれかからせた。
「…ごめん…」
「気にするな。元々俺達鬼族は愛情深い種族だからな。とくに自分の番は大事にする」
「……そうなの……」
汗と血でべたついた前髪をそっと指でよけられ、遙はちらりと紅蓮を見上げる。
布団は割れた額から流れた血が染みているのと、ここ数日の閨事で多分、色々ひどい。
待っていろと頬を撫でられ、また眠気が襲ってくる。
番だからなのか、魂が繋がっているからなの、はたまた体を交えたからなのかはわからない。でも、紅蓮の傍はとても安心出来る。
鬼への転化中は様々な身体機能が低下するらしく、あまり腹も空かずただ眠い。頭痛と目眩さえなければ、心地よく眠りを貪っていただろうに。
また、鬼梨の薬酒を定期的に摂取することで苦痛は軽減されているものの、その副作用というか、この場合むしろ主作用というか、催淫作用もなかなか強力で、ずっとそれに振り回されっぱなしである。
「体を拭こう」
先程血を拭うために持ってきた桶の中身が、湯に変えられている。手ぬぐいをゆるく絞り全身を丁寧に拭いてくれる手つきは優しくて、つい甘えたくなってしまった。
腕や胴体、足だけでなく、2日間散々晒した恥ずかしい場所すら丁寧に清められた。
尻のあわいから内腿にかけて、紅蓮と自分が吐き出した精液でひどく汚れているのが恥ずかしい。今は萎えている男性器すら丁寧に拭われ、思わず漏れた艶かしい声に、思わず自分の口を塞いでしまったことはいたし方ないと思う。
「黒さん、兄上、ここに食事、置いときますね」
「ああ、すまんな」
時折ヒバナが部屋の前にやってきては、粥を置いていってくれているのは知っていた。全部紅蓮が対応してくれていたから直接礼を言えていないが、無事回復したらきちんとお礼しなくてはと思う。
朦朧としすぎていたせいで自力ではほとんど食べられなくて、紅蓮に流し込まれていたのだけれど。
「おいで」
布団を新しいものに変えられ、そこに戻される。抱き寄せられた時にふわりと香る、紅蓮の香り。多分屋敷で焚いている香の香りがついているのだろうが、この香りを感じると身体が甘く疼くのは、あの酒の影響だろうか。
「…またする…?」
「ん?どうしようか」
「…」
少し、いじわるされてるような気がして唇を尖らせて拗ねると、紅蓮はおかしそうに笑う。
「うそだよ、する」
耳に吹きかけるように甘い声色で囁かれると、燻っていた熱が再び炎をあげはじめる。
雄の体を知って、2日。たった2日だ。なのに徹底的に快楽を教え込まれた肉体は、ここから先を容易に想像出来てしまう。
「…俺、へんかも…」
「何が?」
「だって、こんな…俺、女の子も知らなかったのに…」
「身体に変な癖がついてなくてよかったじゃないか」
「…なにそれ」
「俺は意外と独占欲が強いんだ」
せっかく着せられていた寝間着の襟を開かれると、すうと冷たい空気が肌を撫でる。
首筋にも、胸元にも、僅かに歯列の跡が残っていた。
噛まれた瞬間は声が上がるほど痛むのに、すぐにそれすらもじくじくとした疼きに変わる。
「こっちはまだ柔らかいだろう?」
さも当然のように触れられる後ろの穴も、今となっては期待にひくつき、あまつさえ紅蓮の指を飲み込もうと開いてしまう始末。
恥ずかしくてたまらないのに、この先の愉悦を求めてしまう。
遙は気恥ずかしさを覚えながらも、おずおずと右足を持ち上げた。
口にこそ出さないけれど、入ってきていいよ、そういう意図だ。
紅蓮は嬉しそうに笑うと、相変わらず大きなそれを押し当ててくる。
興味本位で手を伸ばしその逸物に触れてみると、それはずっしりと重く、太い。
「……こんなのが、入ってるの…」
「ああ、ちゃんとお前の中に収まってる」
着物の間から出されたそれは、見せつけるように遙の腹の上にどすりと乗せられた。
「…すごい、俺のと全然違うね…こんなに……」
まだ勃ちはゆるいが、それでも、浮き上がった血管からはしっかりと脈動を感じ取れる。
使い込まれた濃い色に、しっかり皮が剥けて張り出したカリ首。男ならば誰しもが憧れそうな雄の象徴は、育てるように扱いてみれば、ぐっと質量を増して反り上がる。
2日間のまぐわいで思ったが、紅蓮は随分と慣れている。きっと、何人もの相手を抱いたことがあるのだろう。正直ちょっとばかり羨ましいというか、妙な気分だったが、今更過去を悔いても仕方がない。
「入っていいか」
「…ん…」
凶暴そうな見た目と違い、その手つきも行動も優しい。不慣れな自分は、全て紅蓮に任せっきりだ。
伴侶になるということは、今後も継続してこういうことをするということ。慣れておいた方が良さそうだと思うけれど、申し訳ないがまだ今は許して欲しい。
(まだ、日も高いのに…)
ずぐりと押し入ってくる雄の象徴に、声が漏れる。今日も一日、こうしてまぐわいながら過ごすのだ。
(我ながら爛れてるなぁ…)
ようやくまともに回るようになってきた頭だが、今ここで気核の上書きを怠ると元の木阿弥なのだそうだ。
今頭がしっかりしているのも、明け方頃に仕込まれた紅蓮の気のおかげであって、けして遙自身が正常になったからではない。
(身体、くせになりそう……)
触れられ、暴かれ、追い込まれて、ぐちゃぐちゃになって、でもそれが気持ちいい。遙はまた混濁し始める意識の端を、そっと手放した。
遙を目覚めさせたのは、割れるような頭痛。まるでインフルエンザにかかったときのように全身が熱く、横になっているのにぐるぐると天井が回転している。
不意に、唇に何かが触れた。
柔らかくて、すこしかさついていて。ああ、これは知っている。身体に蓄積する妖気を吸い出すという名目で度々施されていた、口吸いだ。
何度も繰り返してきたからわかる。体内に渦を巻いていた気持ちの悪い靄がすっと抜け、少し熱っぽさが引いていく。同時に、割れるような頭痛もマシになったように感じた。
「…目が覚めたか」
「……ぐ、れん…?俺…」
ああ、そうだ。みんなを助けようと必死で戦場で駆けずり回って、なんとか敵を制圧して。よく分からないけれど不思議な力が使えるようになっていて、ならばと出来ることに全力をつくした。
そして、うまく発動出来た結界の力を追い風に紅蓮が悪鬼達を一掃し、これでもう大丈夫とほっとしたのだ。
(そうだ…あのあと、酷い頭痛が襲ってきて……)
今も続くその痛みは、薄暗い行灯の光すら目に染みるほどきつい。
「すまない、もう少しお前に気を使うべきだった」
静かな声色で詫びる紅蓮は、戦場で見せた荒々しい鬼神のような姿とは打って変わっている。
「…気にしないで。俺がしたくてした事だから…」
頭に響くため、あまりはっきりとは喋れない。それでも。落ち込んでいる様子の紅蓮をなだめたくて、すぐ手の届く位置にあった彼の膝をそっと撫でた。
「…紅蓮は、怪我は大丈夫?」
「ああ。お前が一度回復させてくれたおかげで、あの場を乗り切れた」
「そっか、よかった…」
床に伏してなお、周りのことを気にする遙に、紅蓮は歯噛みする。
遙はいつもそうだ。周りと争うことを好まず、かといって見ぬふりもしない。
巧みな言葉と誘導で色々なことを丸く収めて、いつの間にか皆の中心にいる。
紅蓮はそんな遙の姿を見るのが好きであったし、あの頭の回転の早さには、心底感心していた。
話し始めると立て板に水を流すかのごとくスルスルと言葉が出てくる遙を、その話の組み立て方を真似してみたら、最終的に多くの幹部が味方についてくれた。
遙がいることで、自分も随分と変化したと思う。
なにより、自分が説得したとはいえ、古くからの慣習を反故にしてもいいと皆が思うほどこの社会に溶け込んで居たのは、遙の努力に他ならなかった。
この慣れない場所で、苦労しなかったはずは無いのに。
「…お前に、話さなければならないことがある」
ここからの話は、この先の遙と自分の人生に関わってくる。体調が悪いときにするべき話ではないのは紅蓮自身もよく理解しているけれど、今しなければ取り返しがつかなくなる話でもあるのだ。
「…なに?」
紅蓮の表情から、それがとても重い話であろうことは察して取れた。
遙は真っ直ぐに紅蓮を見、次の言葉を待つ。
「…こちらの世界の力を急激に使用した影響で、お前の肉体の鬼化がはじまった」
「…そう…」
なんとなく、そんな気はしていた。
あの時。酷い頭痛を感じた時、触れた額に僅かにこぶのようなものが出来ていた。
改めて今触れてみても、それはたしかに存在する。気のせいなどではなかったのだ。
「お前の肉体から妖気を抜き出せば人間のまま留め置けるかと考えたんだが、お前の身体はすでに妖気を作り出しはじめている。もう、境界線を超えてこちら側の存在になってしまった」
「……」
「それだけならまだいい。あの場……あの戦場は、鬼を悪鬼に変えてしまう瘴気が多く混じっている。…医師によれば、お前は俺と名前で繋がっているからあの場でもさほど影響なく過ごせたが、能力を使う事で許容量を超えた瘴気を取り込んでしまった。お前の鬼化はその瘴気の影響が強いから、このままだとお前は悪鬼として変化してしまうと、そういうことだった」
「…そんな…」
遙は絶望した。村の鬼達を助けたい、その一心で動いたはずが、まさか自分が傷つける側の属性に変化してしまうだなんて。
あの、正気を失った化け物のような姿。思い出すだけでも身の毛がよだつというのに。
「でも」
ひどく混乱する思考を遮ったのは、紅蓮だった。
「こっちはまだ、打つ手がある」
「ほんと…?俺、鬼に変わっちゃうのは仕方ないとしても、悪鬼にはなりたくない…。みんなを傷つける存在には、絶対、なりたくないよ…」
遙の答えに、紅蓮は胸が軋むような思いだった。
なぜ、こんなにも優しく強い者が、こんな理不尽な立場に追いやられているのか。
「…お前の身体は妖気を作り出せるようになったといっても、まだ角も出ていない不安定な状態だそうだ。これから数日かけて角が生え、肉体と妖気が安定する」
遙は、ここで改めて鬼の身体の作りについて知ることになる。
鬼の身体には、妖力を作り出す「気核」という部分がいくつか存在する。個体によって多少差はありその配置によって能力の差がでるが、頭、心臓、水月、丹田など、共通しているのはこのあたりだ。とくに丹田は全ての気核の中心といってもよく、ここの働きが悪くなると、全身の気の流れが狂うということだそうだ。今の遙の肉体は、その気核が瘴気に侵され、自ら瘴気を生み出し初めている状態。そこに紅蓮の妖気を注ぎ込むことで、気核が正常に働くよう矯正するということらしい。
ただそれも、今の弱った遙の肉体が耐えられるかというと難しい。下手をすれば、気核の一部が破壊され、障害が残ってしまう可能性すらあるというのだ。
「そこでだ。俺はお前に、俺の真名を教える」
「え…?」
「元々、俺だけがお前の真名を知っている不平等な状況だ。俺の名を教えることで、お前との魂の繋がりは相互の正式なものになる。そうすれば、お前を確実に鬼化させてやれる」
遙は愕然とした。自分のためにそんなことまでさせてしまうだなんて。
こんな迷惑をかけるつもりなんて、これっぽっちも無かったというのに。
「でも…でもそれは、限られた人以外には教えられないものだって…」
思わず身体を起こそうとした遙を、紅蓮は押しとどめる。
「昨日の戦で思った。お前ならば信用できる。…俺だけならばいざしらず、弟のことも、戦士たちのことも、救おうと奔走してくれたことを聞いた。お前が居なければ、被害はもっと多かっただろう。…この恩に報いなければ、俺は恩人を見殺しにした恥知らずとして生きていくことになる」
そう言われてしまうと、何も答えられないではないか。申し訳ない気持ちと感謝とで、胸がきりりと締め付けられた。
「ただ…そうなるとお前にも、もう一つ謝らなければならないことができる…」
「…?」
紅蓮はバツが悪そうに頭をかき、遙から視線を逸らす。
言わなければならないのは、重要なのはここからだというのに、まだ二の足を踏む自分に少し呆れてしまう。
ややして心を決めた紅蓮は、ついにその事実を口にした。
「…真名を知らせ合う関係というのは、だな……その……。親兄弟以外は、婚姻関係を結ぶと、そういう事でだな……」
「…は…?」
今なんといった。遙は今告げられた言葉を、働きの鈍い頭の中で反芻した。
婚姻関係。たしか現代の言葉でも婚姻関係と言ったな。一般的に、わかりやすい言葉で言うならば、結婚といったか。
「俺…男だけど…結婚…?」
なにか違った意味の言葉だろうかと恐る恐る聞いてみると、紅蓮は大きく頷き、後を続ける。
「人間の世界では男型と女型が結ぶ関係のことだったか。鬼の世界ではあまりそういう所を気にしなくてな…」
遙はまだ、こちらの世界の婚姻関係について詳しく知らないのだった。紅蓮はそう思い、しばし思案する。違う世界から来た者にこちらの価値観を教えるというのは、なんだか少し緊張する。遙はこれを受け入れてくれるだろうか。
「なんというか…あくまで、こちらでの婚姻は形式的な意図の方が強いんだ。むしろそっちの方が重要というのか。そもそも子の成し方が様々だから、身体の形や相手に拘らずともよくて…」
「そうなの…?」
紅蓮は、己に来ていた見合いの釣書のことを思い出す。
中は家紋と、高名な絵師が描いた相手の姿絵。その中には男型のものもあった。
総じて見目麗しく描かれていたが…おそらく多少なりとも盛っていることだろう。
「…まあもっとも、男型と女型がごく普通にまぐわうことが一般的だが…同型の場合はどちらかが肉体を変化させることもあるし、秘術をもって大気に漂う鬼子の魂から子を成すこともある。それから、自らを分裂させて子とすることもあるな」
「……そんなベタとかプラナリアみたいな……」
「それが何なのかは知らんが、まあ、そんな感じだ。もっとも、それなりに妖力が必要にはなるんだが…」
遙は脱力した。鬼ってそんな適当な生き物なのか。いや、妖の世界を人間の常識で測ろうとする方が間違いなのだろうけれど。
「だから、俺とお前が婚姻関係になったとしても、そのこと自体に特に支障はない」
言葉が好きな遙は、紅蓮の言葉に含みがあることはすぐに察して取れた。
婚姻は形の方が大事。つまり、次期領主とある紅蓮であれば、特にその形式が重要になるはずなのに。
「…紅蓮は、だれか、お相手がいたんじゃないの」
「いや、居ない。…居ないというか、断りつづけていたというか。正直まだそんな気になれなくてな。いつかはするんだろうと思っていたが、今では無いと後回しにしていた」
「…なんか、それはそれで申し訳ないな…」
「気にしなくていい。むしろ、断り続けるのもしんどくなっていたし、丁度良かったのかもしれない」
立場のある者同士で婚姻を結ぶことは、この神羅領の未来にとって非常に重要だったろうに。
でも、そんな立場を許してでも、助けようとしてくれる事が何だか嬉しいと思ってしまった。
「俺としては、書面でしか知らない相手よりも、この村の者たちのために必死になってくれたお前の方が、婚姻相手として相応しいと思う。……だから、あとはお前の気持ち次第、なんだが……」
遙の額に汗で張り付いた黒髪を指でそっと払い、傍に用意してあった手桶から濡れ手ぬぐいを取る。
かたく絞って痛む額に載せてやるとひやりとした感触が心地よく、遙は細く息をついた。
気持ち次第。そう言ってくれたけれど、今の話だと選択肢が潤沢にあるわけでもなさそうだ。
遙は少しの沈黙の後、静かに口を開いた。
「…色々と気を使ってくれてありがとう…。俺は、婚姻については構わないよ。そもそも、人界に居ても結婚出来る気がしなかったし」
「…人界の婚姻とはそんなにも敷居が高いものなのか……?」
「……どうかな……人によるとしか……」
答えて、遙は小さく笑った。
「まあ少なくとも、俺は研究の方が好きだったし…こういう顔立ちと性格のせいか、女友達みたいって言われちゃうんだよね…。だから自分が結婚出来るとは思ってもなかったし、一生独りかなって、思ってた」
人間なら、一度は憧れるであろう明るい未来。好きな人と恋人になって、それなりに関係を結んで、仕事をしてある程度の稼ぎを得られるようになったら、プロポーズして結婚して。子供も2人くらい出来たりなんかして、欲しいとねだられて、「仕方ないなあ」なんて言いながら犬か猫を飼う。
典型的な幸せ家族。満たされた人生。
…遙は、そんなビジョンを想像出来なかった。現実は、理想の社会通念とあまりに遠くて。その乖離の幅の広さに、虚しさよりも諦めが勝った。
自分だって、こんな風に生まれたくて生まれたわけではない。気がついたらなっていたのだからどうしようも無いではないか。
考え始めると思考がマイナスの方に引きずられ、少し泣きたくなった。
こんなにも無防備になってしまうのは、きっと今ひどく弱っているからだ。
「…俺は、お前が必要だと思ってる」
紅蓮の言葉は、遙の心に真っ直ぐ届いた。
治りようもなかった傷に、そっと触れられたような心地。
「…そうだったら、嬉しい…」
求めてくれるのなら、その手を握り返してもいいだろうか。この人はけして、嘘をつかない人だから。
紅蓮の大きな掌が遙の頬を包み、そっと撫でる。その優しい掌に甘えたくなり、遙は少しだけ、自ら頬を擦り寄せた。
「俺はお前を悪鬼にしたくない。これからも俺と共に生きて…どんな局面でも、俺の隣に立っていて欲しい。……だから俺の、伴侶になってくれ」
遙は、自分の持つ能力がどんなものであるか詳しくは知らない。でも、周りの反応を見る限り、この世界では非常に重要なものであろうことはなんとなく察してとれた。
紅蓮ならば、きっとこの能力を悪用しようとはしない。そのくらい真っ直ぐな男だということは、よくわかっていた。
「…俺で、いいの…?」
「お前が、いいんだ」
こんな状況だというのに、心から嬉しかった。湧き出るような幸せというのは、こういう気持ちをいうのだろうか。
紅蓮なら。紅蓮であれば、これから何をされてもいい。そう思うほど。
「……よろしく、お願いします…」
もし、鬼への転化がうまくいかなくて悪鬼になってしまったとしても、紅蓮ならばきちんと対処してくれる。そんな確信と覚悟を持って、そう答えた。
紅蓮の口元に、ようやく笑みが浮かぶ。これで全てが上手くいく。そんな未来を確信したような、穏やかな笑みだった。
「…俺の真名は、『コウエン』。古くから伝わる、日輪に関する名からとっている。この真名にかけて、必ず、お前の転化を成功させる」
「コウエン…お日様に関係しているなら、きっと紅の炎って書くんだね…」
大事な局面であるというのに、ついいつもの癖で、その名に充てられる文字を考えてしまう。だって約束したのだ。紅蓮の真名を知ったときには、その名に文字を与えると。
「お前はこんな時にでも、言葉のことが忘れられないのだな」
「ふふ……そうだね…うぐ……っ」
またしても酷くなってきた頭痛が、目眩が、意識を再び朦朧とさせる。
遙は喘ぐような浅い呼吸を繰り返し、手のひらで額を抑えた。
「…あまりゆっくりもしていられないな。遙、これを飲め」
「なに……」
紅蓮は、横に置いてあった徳利から何かの液体を盃についだ。
「これは、鬼梨という果物と数種類の薬草から作られる薬酒だ。強い酩酊感があるが、痛みを軽減し、気を楽にする効果もある」
つまり、痛み止めということだろう。
差し出され、口に含んだそれは、蜂蜜をさらに煮詰めたように甘かった。薬臭さもあったが、甘いものが好きな遙にとっては
そんなに悪くは無い。…なんというか、そう、あれだ。人界で有名な某「命を養う酒」にもっと濃厚なフルーティさを足して、薬草みを強くしたような感じとでもいうのだろうか。
酒精の強さもあるのだろうが、なるほど、これは確かに強い薬効がありそうだ。
飲み下すと、食道がカッと熱くなる。先程の目眩とは違い、陶酔に似たような感覚だった。
「それから……その酒は、ここから先の行為を助けてくれる」
「…行為…?」
意識が蕩けはじめると徐々に痛みの感覚が鈍り、少し肩の力が抜ける。
そろそろ頃合か。
紅蓮はついに、これからしなければならない行為について打ち明けた。
「許せ、遙。俺は今日から7日の間、お前を抱く」
‐‐
あの言葉を拒絶することなんて、状況的に不可能だった。
そもそも、放っておいたら良くない方向に鬼化は進み、きっと遙は遙でなくなっていただろう。
(ああ、こういうことをしなきゃいけないから、先に婚姻の話を出してくれたのか…)
あれは、紅蓮なりの思いやりだったのだと思う。
婚姻を結ぶというのは、性的な交わりも許容される。婚姻関係だから、普通の関係であればされないような頼り方も甘え方も許される。
紅蓮はそれも見越して、遙を伴侶にしてくれたのだ。
「はぁ……ぁっ、あぁ……」
遙の股座で、紅蓮の頭が揺れる。
大きな口に飲み込まれた若筍は、その熱くてねっとり絡みついてくる舌に抗えなかった。
まるで飴でも口に入れたかのように舐めしゃぶられ、容赦なく追い上げられる。
一人でする時にもそんなに急激な快楽を得ることは無かった遙は、ひどく戸惑った。
自分のペースではない、他人に身体を支配される感覚。自分の思い通りにならないもどかしさ。
けれど、それがひどく気持ちいい。
「んぅ……あ、あ…」
元々朦朧とした意識が、与えられる快感でますますぼんやりと滲んでいく。尻のあわいを探られる感触も、我に返ったときにはすでに指を一本、なかに差し込まれた後だった。
「やぁ……なに……」
持ち上げられた片足が、中を探られる度に跳ねる。違和感につい力が入るが、硬い蕾を和らげるべく、ゆっくりと広げるような動きは止まることがない。
「ここに俺のものをいれるからな。開くぞ」
「うぅ…」
油でも足されているのだろうか。差し込まれた指がゆっくりと出し入れされる。
剣を握る紅蓮の指はゴツゴツしていて、抽挿の度に形がよくわかった。
陰門は時間をかけて指の形に慣らされ、普段は慎ましやかに閉じているはずのそこは、ふっくらと赤い蕾を綻ばせている。深く差し込んだ無骨な指で内部を探られると、ぞくぞくとした甘い痺れのようなものが湧き上がった。
挿入の違和感で少し萎えてしまった前も、再び口で吸われることで、しっかりと形を取り戻す。
(そういえば、こういう小説もあったな……男性同士の……ボーイズラブってやつ……)
小説の中ではあっさり慣らされてすぐに交接に及んでいたように記憶している。特に痛がるそぶりもなく最初からアンアン鳴いている表記があり、その行為はそんなに気持ちいいのかと疑問に思ったが、これからの自分がその証明になるのかもしれない。
「遙……どうだ」
「ぁ……わかんな…ぁ……」
さきほどから、もう頭の中はぐちゃぐちゃだ。中に気持ちよくなれる場所があることは知っているが、肉体的な理由よりも、今は精神的な不安定が大きかった。
自分すら知らない場所を暴かれている。それだけでも恥ずかしいのに、素直な身体は従順にも紅蓮の与える刺激を受け入れようと開いてしまう。
こんな自分は知らない。…いや、もしかしたらこの姿こそが自分の本来の姿かもしれない。
周りにはまるで興味が無いようでいて、その実、夢中になれるものには何を差し置いても夢中になる。
与えられた甘い果実を、喉を焼くほどに甘いその蜜を、もっともっとと欲しがってしまう。とんでもない強欲。
「不思議だな……お前の身体、どこもかしこも甘く感じる」
「なに……いって……ぁあ……」
肌の上をかすめるような甘噛み。神経の末端からちりちりと燻ってくる焦燥感。
中で何かを探るような動きをしているのはわかった。爪を立てないよう、ゆっくりと優しく、腹側の肉壁を押し込むような動き。
最初は、ほんとうに何も感じなかった。そこはただの内臓の一部で、つるりとした感触で、できればあまりきついことはしないで欲しいとそう思っていたくらいだ。
だが、それが一体どうしたことか。何度となくその場所を押し込まれると、小さな疼きが、埋火のように灯ったのを感じた。
「ん……っ、まって、それ…そこ……」
「ここがいいか?」
「わかんな、けど……もどかしい……」
「…その感覚を追ってみろ」
言葉に導かれるように、紅蓮の指の動きに意識を集中させた。ぼんやりした意識の向こうで滲むような快感が少しずつ溢れてく。
きもちいい。
もはや、ごまかしが効くような感覚ではなかった。甘い味を知ってしまえば、もっと欲しくなるのが人の性。
気がつくと遙は、自ら腰を揺らし、与えられる快楽を素直に追いかける様になっていた。
中に差し込まれた指で腹側を探るように掻かれると、涙が出るほど気持ちいい。
「……い……いい、そこ……きもちいい……!」
たまらない気持ちになってうわ言のように漏れ出る喘ぎに、肉襞を押し広げるように増やされた指の数。いつの間にか三本まで飲み込まされていて、不規則に動かされる度、遙の菊座からはひどくいやらしい音が発されていた。
「お前は覚えが早い。もうこんなに開いた」
「あぁ……やぁ……いわないで……」
見せつけるように中でバラバラと指を動かされ、思わず声が漏れる。
今日初めて男を知る、何の手垢も付いていないウブな肉体。
雄の象徴も中の快楽のツボを探り出される度に熱く熱を持ち、ぽたぽたととめどなく法悦の涙を零す。遙の肉体は、さらなる決定的な刺激を求めていた。
「いいか遙。お前の気核を俺の妖力で上書きするには、体内に俺の妖気を留まらせる必要がある。だからお前の腹のなかに、俺の精気を注ぐことを繰り返す」
複雑な言葉を使ってはいるが、有り体にいえば中出しするぞとそういうことだ。
わかってはいる。理解はしている。
しかし、取り出された紅蓮の逸物の大きさに、思わずしり込みしてしまった。
「それ…」
「始めは苦しいだろうが、耐えてくれ」
身長差約30センチ。身体の使い方が違えば、筋肉の付き方も違う。アレの大きさだって当然段違いだ。
2、3回軽く扱いただけで強く奮い立ち、見事に反り返って天を仰ぐ肉棒。
あんなものが腹の中に押し込まれると改めて自覚すると、快楽よりも恐怖が勝った。
「そんな、おっきぃの……入らな……」
「…大丈夫、入る」
上から覆いかぶさられ、足を開かれる。
やれる、やれないではない。やるしかない。そんなことは遙だってわかっているのだが、未知への不安はどうしようもない。
転化による不安定さと、薬酒による酩酊とでだいぶ意識がぼんやりしているが、根底の部分は誤魔化しがきかない。
自分の肉棒に油を垂らし、馴染ませる紅蓮。手馴れた手つきに、一体どのくらいの経験があるんだろうと思う。
けれどそれらの感情も、追加で与えられた薬酒によって、すぐに鈍って蕩けてしまった。
「…遙、入るぞ」
衣擦れの音と、あらぬ所に押し付けられた硬い熱と。はっと我に返ったときには、もうその時を迎えていた。
「あ、ぐぅ……っ」
「力をぬけ。…ああいや、少し腹に力を入れたほうが開くのか」
油の力を借りて、ぬるりと熱いものが押し込まれる。痛みこそなかったが、内臓が圧迫される違和感に拒否感が募った。
「やだ、あ、こわ…、こわい…っ」
「大丈夫……大丈夫だ……」
逃げようとずり上がる身体を抑え込まれ、さらに奥へと入ろうとされる。
自分の意志でなどどうにも出来ない、支配される感覚。
情けなくも、涙が出た。お願い待って、止まってとうわ言のように繰り返し、咽び泣いたが、呂律が回らず伝わっているのかわからない。
宥めるように頭を撫でられ、思わずその腕に携る。その間もゆっくりと侵入してくる灼熱の肉棒に、紅蓮よりもずっと華奢で小柄な遙には為す術もなかった。
「…入っ、た…」
どのくらい時間が過ぎたのだろうか。やがて耳元に落とされるように告げられた言葉に、意識が浮上する。情けなく泣きわめいたように思うが、紅蓮は根気強く遙をあやし、なだめ、なんとか最初の難関を突破してくれた。
繋がった最初の感想は、何もかもぼんやりして、自分が自分でない感覚と言ったらいいだろうか。
身体が溶けて、ふわふわした何かになって、繋がっているそこだけがはっきり形を持って理解できる。
「……辛いか」
辛いのかどうかも、もう分からなかった。
身体が馴染むのを待ってくれているのだろう、紅蓮はその広い胸で遙を抱き、頭を、背中を優しく摩る。
「…ほんとに、はいった……?」
あんなにきつく、恐ろしかったのに。あの太くて長いものを収め切れるものだろうか。
それがあまりに不思議で思わずそう聞くと、紅蓮は小さく笑い、ちゃんと収まったと答える。
ほら、と指を導かれた先は、限界まで広げられた秘孔と、そこにずっぷりとはまりこんだ肉の棒。
入っているだろう?と軽くゆすられると、慣れてぼんやりしかけていた紅蓮の輪郭が、また明瞭になった。
「ほんとに、はいってる……」
あれほど怖かったのに、いざ入れてみると感慨深さの方が勝る。
だってあんなに大きかったのに。
接合部を指先でなぞれば、自分の菊座がいかに限界まで開いているかがわかる。
時々ひくつく紅蓮の肉棒。やっぱり太いなと考えて、いやまてよと思い直した。
さっき、「入った」と言っていた。なのになぜ、まだ幹に当たる部分を探れるのか。
つまりは、そういうことだ。
紅蓮のそれは、遙の直腸の長さを超えた大きさを持つと。
今でさえも苦しいのに、これ以上入ってこられたらどうなってしまうのか。
ただでさえ体格差で抑え込まれたら抵抗のひとつも出来ないのに。
そんな不安に戸惑う遙の唇を、紅蓮はそっと食む。差し込まれた舌を伝って甘い薬酒が注ぎ込まれ、遙はそれを喉に流し込んだ。
薬酒の力は強力だった。
不安感や恐怖感が薄れ、意識が蕩ける。
慣らすように優しく揺らされるその振動すら、心地よく感じるほど。
先程見つけ出された快楽のツボをじっくりと押し込まれ、遙は熱の籠った吐息を漏らした。内臓が押し上げられるたび、なんとも艶っぽい声が上がる。
苦痛は、ない。
初体験ながら、きちんと快楽を感じている様子に、紅蓮は安堵した。
これから、未来永劫の伴侶となる相手だ。身を交え、共に高まり、魂を擦り合わせ、そしてより深く結びつく。
鬼は、愛情深い生き物だ。
争いに身を置き、いつ死ぬか分からないそんな環境のなかで、種族の繁栄は必須事項。産まれる子孫達を確実に育てあげるため、種族間の結びつきをより強固にする必要があった。
そのため、伴侶に対して他の妖よりももっと深い愛情を持つよう進化した。
当然、それは紅蓮とて同じ。一度自分の伴侶と定めた存在を、深く愛するように出来ている。
自分よりもふた回りも小さな身体を組み敷き、初めての快楽を教え込む。なんと罪深く、しかし甘い充足感を得られる行為だろうか。
「ぁあ…は、う……っぐ……」
時間はかかるが、遙の肉体はたしかに、絶頂を目指して高められていた。
様子を見ながら薬酒を流し込んでやることで、遙の快楽はより深いものへと変容していく。
「遙」
「…ぐ、れん……っ、おれ……っ」
「ん…」
「もぅ……イキたい……けど、おれ…どうなっちゃうの…こわい……」
快楽が全身に飽和し、涙となって溢れてしまう。
焦らしに焦らされ、もどかしさも限界に達していた。受け身として未熟な身体は、後ろだけで達するにはまだ足りていない。
頭痛と、目眩と、薬酒による酩酊と、どうしようもない快楽と、そして、この先が分からない不安と。
色々な事が重なっていっぱいいっぱいで、それが全て溢れ出してしまった。
「遙…大丈夫だ、感じるままに受け入れろ。どんなことも、俺の前では、全部見せてくれ」
紅蓮は二人の間で揺れている遙の雄を握ると、優しく擦った。
「んっ、あっ……、あぁ…!」
「気持ちいいか?」
紅蓮の問いかけにこくこくと頷くと、手の動きに合わせ強く腰を押し上げられる。
紅蓮の男根の力強さといったら、他の男を知らない遙であっても舌を巻くほどで、一突きされる度にあられもない喘ぎがあがる。それが快楽ゆえか、はたまた内腑を押し上げたことによるやむを得ないものか分からないが、紅蓮の理性を焼き切るには充分すぎるものであった。
「うっ、あ、まって、ああ、激しい……っ」
「すまん、腰が止まらん……!」
優しくしているつもりだった。最後まで優しくするつもりだった。今でも必死に理性を留めようとしているが、どうにも体が言うことを聞かない。
涙に濡れた双眸と、上気した頬と、気持ちいい、でも怖いと告げる素直さと、紅蓮の雄に懐いてくる温かく滑る肉筒と。
縋るようにしがみつかれ、庇護欲と支配欲が全身を満たす。
頂点を目指して一心不乱に腰が動き、この小さな身体の奥に己の思いの丈を吐き出し、擦り付け、溢れるほどに注ぎたい。
「あ、あっ、だめ、いく、もう……イっ……」
遙の全身が緊張し、手の中の雄からぬるりとした体液が吐き出される。
ひくひくと断続的に痙攣するそれが愛しくて、最後の一滴まで吐き出させようと扱いてやると、遙は過ぎた刺激にいやいやと身を捩った。
だがここでやめてやれない。紅蓮が達するまであと少しなのだ。
「少し耐えてくれ」
「え…?」
遙のものを握った手をそのままに、再びの律動。
肉筒全体を扱くように何度も突いてやれば、入口の菊花がきゅうきゅうと締めてきてたまらない。
「まって、まってぇ……!つよいっ、つよいからぁ……っ、あっ、あっ、あっ……!」
果てたばかりの身体にその刺激は強かったようで遙は涙し酷く身悶えたが、それすら紅蓮にとってはたまらない光景だった。
「出すぞ……っ、しっかり受け止めろ…!」
いよいよの絶頂。全身が総毛立ち、己の番に思いの丈を全て注がんと、気持ちが猛る。
膝を持ち上げ、腰を深く折り、もう何処にも逃がさないとばかりに囲い込む。
きっと遙が雌であったのなら、この一回だけで確実に孕まされていたであろう執念。
白い首筋が眩しくて、思わず噛み付いていた。これが俺の番、俺の伴侶。誰にもやらない、俺だけのもの。頭の中がそんな声で一杯で、紅蓮は今、最も強い雄として産まれ、それゆえに得られる幸福を目いっぱい味わっていた。
そうして至った絶頂は、これまでに経験した何よりも良いものであった。
自ら選んだ伴侶の中に、何もかもを吐き出した。一度目からさほど時間が経っていないにも関わらず、遙もほぼ同時に二度目を迎えていたらしい。
細い足が紅蓮の腰に絡みつき、たしかに自分の方に引き寄せようとしている。
互いに痙攣する肉体が、共に至った法悦をより深く味わおうとしている。
高みからゆっくりと降りてくるその多幸感。噛み付いてしまった首筋に滲んだ血に少し申し訳なさを覚えたが、うっとりと余韻を味わう遙の表情に、ああ、うまくいって良かったと胸を撫で下ろすのだった。
‐‐‐‐
「う……、痛ったぁ……」
3日目の朝。ついに遙の額が割れ、角が顔を出した。
1日目、2日目と何度も果て、何も考えられなくなって気絶するように眠りに落ちたのだが、朝はこれまでとはまた別の種類の痛みで目が覚めた。今までが割れるような締め付けられるような痛みだとしたら、今日のものはまさに割れた痛みというべきか。
咄嗟に額に触れると、ぬるりとした感覚と走った激痛に悲鳴があがる。驚いて目を覚ました紅蓮はあたりの惨状に一瞬ぎょっとしたが、それが角が出たことによるものだと気がつくと、手のひらを返したように喜んだ。
「良かった、無事角が出たようだ」
「あ……それでおでこ割れたの…?」
「見てみろ」
鏡を見せられると、確かに額の中央がパックリと割れ、中から黒い硬質なものが頭を出している。長さは大体、3センチほどだろうか。
…これが、角。
角というと鹿の角のような感覚があったが、まったくの別物のようだ。1度生えたら一生このままということだから、鹿というよりサイとか牛とか、そっち系だろうか。そういえば、日本における鬼のモチーフは牛と虎ということだから、あながち間違いでもないのかもしれない。
「よかった、どうやら正常な角のようだ」
「…悪鬼の角じゃ、ない?」
「ああ。おそらくまだ伸びるだろうが、角の成長とともに体調もおちついてくるだろう」
「そか……よかった」
それにしても、額から流れた血に濡れた布団を見たときは、なかなかに衝撃的だった。
持ってきてくれた手ぬぐいと手桶がすぐに赤く染まるほどで、正直ちょっと引く。まあ、元々額には血管が多く走っているから、それもいたし方ないのだろうけれども。
傷を拭って暫くすると血は止まったが、痛いものは痛い。
口伝の一つによれば、本来人から鬼への転化はそこそこ時間をかけて起こるため、ここまで急激な角の成長はないらしい。
まあ、人間だって成長期の急激な変化では身体中痛むしな、と、遙は一人で納得することにした。
「布団を変えよう。だいぶ汚れてしまった」
「ん…」
だいぶマシになったとはいえ、まだかなりぼんやりしている。紅蓮によれば、遙の身体が生み出す瘴気も、だいぶ薄くなったということであった。
立ち上がろうとしてつんのめり、むしろ立つなと言われてしまう。布団から降りようとしたのを察した紅蓮は、遙を抱き上げて壁にもたれかからせた。
「…ごめん…」
「気にするな。元々俺達鬼族は愛情深い種族だからな。とくに自分の番は大事にする」
「……そうなの……」
汗と血でべたついた前髪をそっと指でよけられ、遙はちらりと紅蓮を見上げる。
布団は割れた額から流れた血が染みているのと、ここ数日の閨事で多分、色々ひどい。
待っていろと頬を撫でられ、また眠気が襲ってくる。
番だからなのか、魂が繋がっているからなの、はたまた体を交えたからなのかはわからない。でも、紅蓮の傍はとても安心出来る。
鬼への転化中は様々な身体機能が低下するらしく、あまり腹も空かずただ眠い。頭痛と目眩さえなければ、心地よく眠りを貪っていただろうに。
また、鬼梨の薬酒を定期的に摂取することで苦痛は軽減されているものの、その副作用というか、この場合むしろ主作用というか、催淫作用もなかなか強力で、ずっとそれに振り回されっぱなしである。
「体を拭こう」
先程血を拭うために持ってきた桶の中身が、湯に変えられている。手ぬぐいをゆるく絞り全身を丁寧に拭いてくれる手つきは優しくて、つい甘えたくなってしまった。
腕や胴体、足だけでなく、2日間散々晒した恥ずかしい場所すら丁寧に清められた。
尻のあわいから内腿にかけて、紅蓮と自分が吐き出した精液でひどく汚れているのが恥ずかしい。今は萎えている男性器すら丁寧に拭われ、思わず漏れた艶かしい声に、思わず自分の口を塞いでしまったことはいたし方ないと思う。
「黒さん、兄上、ここに食事、置いときますね」
「ああ、すまんな」
時折ヒバナが部屋の前にやってきては、粥を置いていってくれているのは知っていた。全部紅蓮が対応してくれていたから直接礼を言えていないが、無事回復したらきちんとお礼しなくてはと思う。
朦朧としすぎていたせいで自力ではほとんど食べられなくて、紅蓮に流し込まれていたのだけれど。
「おいで」
布団を新しいものに変えられ、そこに戻される。抱き寄せられた時にふわりと香る、紅蓮の香り。多分屋敷で焚いている香の香りがついているのだろうが、この香りを感じると身体が甘く疼くのは、あの酒の影響だろうか。
「…またする…?」
「ん?どうしようか」
「…」
少し、いじわるされてるような気がして唇を尖らせて拗ねると、紅蓮はおかしそうに笑う。
「うそだよ、する」
耳に吹きかけるように甘い声色で囁かれると、燻っていた熱が再び炎をあげはじめる。
雄の体を知って、2日。たった2日だ。なのに徹底的に快楽を教え込まれた肉体は、ここから先を容易に想像出来てしまう。
「…俺、へんかも…」
「何が?」
「だって、こんな…俺、女の子も知らなかったのに…」
「身体に変な癖がついてなくてよかったじゃないか」
「…なにそれ」
「俺は意外と独占欲が強いんだ」
せっかく着せられていた寝間着の襟を開かれると、すうと冷たい空気が肌を撫でる。
首筋にも、胸元にも、僅かに歯列の跡が残っていた。
噛まれた瞬間は声が上がるほど痛むのに、すぐにそれすらもじくじくとした疼きに変わる。
「こっちはまだ柔らかいだろう?」
さも当然のように触れられる後ろの穴も、今となっては期待にひくつき、あまつさえ紅蓮の指を飲み込もうと開いてしまう始末。
恥ずかしくてたまらないのに、この先の愉悦を求めてしまう。
遙は気恥ずかしさを覚えながらも、おずおずと右足を持ち上げた。
口にこそ出さないけれど、入ってきていいよ、そういう意図だ。
紅蓮は嬉しそうに笑うと、相変わらず大きなそれを押し当ててくる。
興味本位で手を伸ばしその逸物に触れてみると、それはずっしりと重く、太い。
「……こんなのが、入ってるの…」
「ああ、ちゃんとお前の中に収まってる」
着物の間から出されたそれは、見せつけるように遙の腹の上にどすりと乗せられた。
「…すごい、俺のと全然違うね…こんなに……」
まだ勃ちはゆるいが、それでも、浮き上がった血管からはしっかりと脈動を感じ取れる。
使い込まれた濃い色に、しっかり皮が剥けて張り出したカリ首。男ならば誰しもが憧れそうな雄の象徴は、育てるように扱いてみれば、ぐっと質量を増して反り上がる。
2日間のまぐわいで思ったが、紅蓮は随分と慣れている。きっと、何人もの相手を抱いたことがあるのだろう。正直ちょっとばかり羨ましいというか、妙な気分だったが、今更過去を悔いても仕方がない。
「入っていいか」
「…ん…」
凶暴そうな見た目と違い、その手つきも行動も優しい。不慣れな自分は、全て紅蓮に任せっきりだ。
伴侶になるということは、今後も継続してこういうことをするということ。慣れておいた方が良さそうだと思うけれど、申し訳ないがまだ今は許して欲しい。
(まだ、日も高いのに…)
ずぐりと押し入ってくる雄の象徴に、声が漏れる。今日も一日、こうしてまぐわいながら過ごすのだ。
(我ながら爛れてるなぁ…)
ようやくまともに回るようになってきた頭だが、今ここで気核の上書きを怠ると元の木阿弥なのだそうだ。
今頭がしっかりしているのも、明け方頃に仕込まれた紅蓮の気のおかげであって、けして遙自身が正常になったからではない。
(身体、くせになりそう……)
触れられ、暴かれ、追い込まれて、ぐちゃぐちゃになって、でもそれが気持ちいい。遙はまた混濁し始める意識の端を、そっと手放した。
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