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6.ここはどこ、わたしは誰?
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目が覚めて、色々と衝撃を受けて意識を失い、また目覚めてから3日が経った。紗奈はまだ自力ではベッドから起き上がれずにいた。意識を取り戻した時に最初に声をかけてくれた女性、スニシャがずっと傍で面倒をみてくれている。
この3日の間に紗奈が理解したこと。それはまず、ここは日本ではないということ。自分の名前が西脇紗奈ではなく、エドウィナと呼ばれていること。そして一番重要なこと、それは翔太はどこにもいないということだった。
翔太、わたしの翔太。翔太には、可愛いがたくさん詰まっている。会いたい。会いたい。会いたい。また涙が出てきた。
「殿下、どうされましたか?どこか痛いのですか?」
スニシャは紗奈が涙を流しているのに気づき、そっと労わるように声をかけてきた。部屋の隅でリネン類を片付けていたミルヤと呼ばれる女性もベッド脇に近づいてきた。
「スニシャ様、医師さまをお呼びしましょうか。」
「そうね。涙を流されてらっしゃるから、どこかお痛みかも知れないわ。」
2人の会話を聞いて、紗奈は慌てて医者はいらないと言おうと口を開いた。
「い、た、ない。い、しゃ。い、ら、な・・・」うまく発声できないが、なんとか意味は通じたようだ。
「殿下。喉は乾いていませんか。シドウェンから殿下のお好きなルシャの実の果実水が届いていますよ。」スニシャは緑色の液体が入った透明な容器を紗奈に見せた。メロンジュースを連想させる色だ。紗奈は飲みたいと頷いてみせた。
スニシャが吸い口のついた小さめの容器に果実水を移し入れ、吸い口から透明なお猪口のようなグラスに少し注ぐ。それをミルヤが紗奈の目の前で飲み干して、少し時間をおく間にスニシャが「失礼します。」と声をかけて紗奈の背中に右手を入れて上体を起こす。すぐにミルヤが大きなクッションを紗奈の背後に置いて寄りかかれるようにしてくれる。
流れるような一連の動作から、この二人が紗奈の体の前の持ち主、エドウィナ皇女の世話をずっと担当してきたことがうかがえた。また、紗奈が口に入れるものは必ず先にミルヤが口に入れ、少し時間を置いてからスニシャが紗奈の口元に運ぶことにも気付いた。
ミルヤはただの侍女ではなく、毒見係も兼ねているのだと気づいた時はとても驚いた。紗奈は周囲から「皇女さま」「殿下」「エドウィナ様」と3通りの呼び方をされている。「皇女さま」と呼ばれても戸惑うばかりだったが、毒見係の存在を知って、物語みたいだけれど本当に自分は皇女なのだと実感させられた。
吸い口から少しだけ飲んだ緑色の果実水は、見た目と違って甘酸っぱいパイナップルジュースのような味がした。「る、しゃ」果実水の名前を口にすると、スニシャが嬉しそうに綺麗な笑顔を見せた。「はい、殿下。ルシャの実の果実水でございますよ。」
スニシャは20代後半か30代前半、日本にいた頃の紗奈と同年代くらいだ。ミルヤの方は20歳前後の若さに見える。後で知ったのだが、毒見係はみなその主と同じ年齢だという。毒が体内を回る速度が年代によって違うため、毒味役は同じ年の者が選ばれるそうだ。
スニシャは銀色の髪に水色の瞳の、誰が見ても美人さんだ。ミルヤは赤毛に茶色の瞳、日に焼けた肌にはソバカスが散り、美人ではないが愛嬌のある顔だ。紗奈は自分の顔をみたくなった。目覚めてから翔太のことばかりを考え、自分のことまで考える余裕がなかった。おかげでまだ一度も鏡を見ていない。この体の前の持ち主、エドウィナという女性はどんな顔をしているのだろうか。
紗奈はミルヤに「か、が、み」と言った。ミルヤはハッとした顔でスニシャを見る。スニシャは軽くミルヤに頷くと、紗奈に「殿下、もう少し体調が整ってから、ご覧になりましょうね。」と微笑んだ。
ということは、やはり今は鏡を見せたくないほどにひどい状態なのだろう。紗奈は二人から身の回りの世話をされる際、たまに目に入る自分のやせ細った腕や骨ばった手から、瘦せ衰えた骸骨のような姿をしているのだろうと見当がついていた。それでも一度気になったものは、どうしても気になる。
もう一度「か、が、み」と言ってみた。自分としては初めてのワガママだ。スニシャとミルヤは顔を見合わせて、それから意を決したようにスニシャが立ち上がり、手鏡を持ってきた。
「殿下、殿下は1年以上も目が覚めずに眠っておいででした。そのため、春の女神のようなお美しさに今は冬が訪れておられます。冬のあとは必ずまた春が訪れます。それまでお待ちいただけませんか。」
現代語に言い換えると「1年以上寝たきりだったから、今は痩せ衰えてしぼんだ花みたいだ。回復してから鏡を見た方がショックを受けなくていいと思います」かな。
やっぱり思った通りだ。それでも見たいものは見たい。自己責任で見せてもらおう。
「わかっ・・・る。でも、み、たい。」言い募ると、スニシャは仕方なく鏡を紗奈の顔の前にかざした。鏡に映ったのは、落ちくぼんだ目に骨張った頬の、肉が全てそげ落ちたかのような顔で、紗奈は言葉を失った。
この3日の間に紗奈が理解したこと。それはまず、ここは日本ではないということ。自分の名前が西脇紗奈ではなく、エドウィナと呼ばれていること。そして一番重要なこと、それは翔太はどこにもいないということだった。
翔太、わたしの翔太。翔太には、可愛いがたくさん詰まっている。会いたい。会いたい。会いたい。また涙が出てきた。
「殿下、どうされましたか?どこか痛いのですか?」
スニシャは紗奈が涙を流しているのに気づき、そっと労わるように声をかけてきた。部屋の隅でリネン類を片付けていたミルヤと呼ばれる女性もベッド脇に近づいてきた。
「スニシャ様、医師さまをお呼びしましょうか。」
「そうね。涙を流されてらっしゃるから、どこかお痛みかも知れないわ。」
2人の会話を聞いて、紗奈は慌てて医者はいらないと言おうと口を開いた。
「い、た、ない。い、しゃ。い、ら、な・・・」うまく発声できないが、なんとか意味は通じたようだ。
「殿下。喉は乾いていませんか。シドウェンから殿下のお好きなルシャの実の果実水が届いていますよ。」スニシャは緑色の液体が入った透明な容器を紗奈に見せた。メロンジュースを連想させる色だ。紗奈は飲みたいと頷いてみせた。
スニシャが吸い口のついた小さめの容器に果実水を移し入れ、吸い口から透明なお猪口のようなグラスに少し注ぐ。それをミルヤが紗奈の目の前で飲み干して、少し時間をおく間にスニシャが「失礼します。」と声をかけて紗奈の背中に右手を入れて上体を起こす。すぐにミルヤが大きなクッションを紗奈の背後に置いて寄りかかれるようにしてくれる。
流れるような一連の動作から、この二人が紗奈の体の前の持ち主、エドウィナ皇女の世話をずっと担当してきたことがうかがえた。また、紗奈が口に入れるものは必ず先にミルヤが口に入れ、少し時間を置いてからスニシャが紗奈の口元に運ぶことにも気付いた。
ミルヤはただの侍女ではなく、毒見係も兼ねているのだと気づいた時はとても驚いた。紗奈は周囲から「皇女さま」「殿下」「エドウィナ様」と3通りの呼び方をされている。「皇女さま」と呼ばれても戸惑うばかりだったが、毒見係の存在を知って、物語みたいだけれど本当に自分は皇女なのだと実感させられた。
吸い口から少しだけ飲んだ緑色の果実水は、見た目と違って甘酸っぱいパイナップルジュースのような味がした。「る、しゃ」果実水の名前を口にすると、スニシャが嬉しそうに綺麗な笑顔を見せた。「はい、殿下。ルシャの実の果実水でございますよ。」
スニシャは20代後半か30代前半、日本にいた頃の紗奈と同年代くらいだ。ミルヤの方は20歳前後の若さに見える。後で知ったのだが、毒見係はみなその主と同じ年齢だという。毒が体内を回る速度が年代によって違うため、毒味役は同じ年の者が選ばれるそうだ。
スニシャは銀色の髪に水色の瞳の、誰が見ても美人さんだ。ミルヤは赤毛に茶色の瞳、日に焼けた肌にはソバカスが散り、美人ではないが愛嬌のある顔だ。紗奈は自分の顔をみたくなった。目覚めてから翔太のことばかりを考え、自分のことまで考える余裕がなかった。おかげでまだ一度も鏡を見ていない。この体の前の持ち主、エドウィナという女性はどんな顔をしているのだろうか。
紗奈はミルヤに「か、が、み」と言った。ミルヤはハッとした顔でスニシャを見る。スニシャは軽くミルヤに頷くと、紗奈に「殿下、もう少し体調が整ってから、ご覧になりましょうね。」と微笑んだ。
ということは、やはり今は鏡を見せたくないほどにひどい状態なのだろう。紗奈は二人から身の回りの世話をされる際、たまに目に入る自分のやせ細った腕や骨ばった手から、瘦せ衰えた骸骨のような姿をしているのだろうと見当がついていた。それでも一度気になったものは、どうしても気になる。
もう一度「か、が、み」と言ってみた。自分としては初めてのワガママだ。スニシャとミルヤは顔を見合わせて、それから意を決したようにスニシャが立ち上がり、手鏡を持ってきた。
「殿下、殿下は1年以上も目が覚めずに眠っておいででした。そのため、春の女神のようなお美しさに今は冬が訪れておられます。冬のあとは必ずまた春が訪れます。それまでお待ちいただけませんか。」
現代語に言い換えると「1年以上寝たきりだったから、今は痩せ衰えてしぼんだ花みたいだ。回復してから鏡を見た方がショックを受けなくていいと思います」かな。
やっぱり思った通りだ。それでも見たいものは見たい。自己責任で見せてもらおう。
「わかっ・・・る。でも、み、たい。」言い募ると、スニシャは仕方なく鏡を紗奈の顔の前にかざした。鏡に映ったのは、落ちくぼんだ目に骨張った頬の、肉が全てそげ落ちたかのような顔で、紗奈は言葉を失った。
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