ボク、女の子に生まれ変わったけど、元気です!

みなはらつかさ

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第三十四話 九月二十三日(土) だって、シスコンだもの

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「それ、ハーちゃんも相当ねえ」

 両手で鉄アレイを持ち上げて、足ツボ刺激マットを踏み踏みしつつ、健康特集のテレビ番組を見ながら、両親と先ほどの話をするという器用なことをしていると、やれやれといった調子で、お母さんがため息を吐く。幸せが逃げますよー?

 二人とも、仕事上がりでへばっていて、夫婦揃ってボクの横で背をソファに預け、だらーんとしている。お母さんたちだって、こんなだらしないときがあるのだ。お疲れ様。

「でしょー? 何が、カンに触ったのかわからないけど、足踏むことないよねー?」

「シスコンなのに、そこわからないか~」

 お母さん、再びため息。あ~、幸せが逃げちゃう~。

「えー? どゆことー?」

「うーん、ちゃんと言ったものかしらね? ただ、お母さん、あなたたちの将来が心配だわ」

 三度目のため息。お母さん、幸せ逃しすぎ~!

「いや、俺もわからんな。どういうことだい?」

「アルクさんまで……。この子のこういうニブいところ、父親に似たのかしらねぇ?」

 幸せさんが、また一つさようなら。

 父娘で首を傾げていると、ハーちゃんが「上がったよー」と、スリッパをぺったんぺったん鳴らしながら、パジャマ姿でお風呂から戻ってきました。

「アユム、先入る?」

「お母さんたちが、先に入ってきてよ。今、料理の説明がいいとこなんだ」

 オクラのヨーグルト和えかー。健康に良さそー!

「じゃあ、アルクさん入ってきちゃって。この子たちに、ちょっと話しておきたいことがあるから」

「そうかい? じゃあお先に」

 着替えを取りに、二階に上がるお父さん。

「ハーちゃん、ちょっとこっちに座って」

「うん? なんで?」

 さっきまでお父さんがいた場所に、ちょこんと座るハーちゃん。お母さんも、居住まいを正す。

「あなたたちって、筋金入りのシスコンよね」

「うん!」

「ちがっ……! 私、シスコンじゃないよ!」

 マイシスターのガン拒否に、ガーンとなる。シャレじゃないよ。

「じゃあ、なんでお姉ちゃんの足踏んだの?」

「え……と、それは、なんかつい、カッとなって」

 そんな、殺人犯の供述みたいな。

「そこね。ハーちゃん、また……ううん、前以上に、お姉ちゃんラブになっちゃったのよ」

「「ええ~!?」」

 これには、ハーちゃんと一緒にびっくり!!

「きっかけは、間違いなくこないだの停電ね。お姉ちゃんがずっといてくれて、心強かったんでしょう?」

「うん、それは確かに……」

「それで、今までの反動が出ちゃったのね。反抗期って、無理して突っ張ることだもの」

 ボクたち、そろってポカーン。ヨーグルト和えのレシピが、頭から吹っ飛んじゃったよ。

「ちょっと待って! なんで、それで足踏むの!?」

 話がつながってなくって、大混乱!

「フーちゃんに、お姉ちゃん取られちゃうって焦ったのよ」

「ええ!? フーちゃんまで、ここで出てくるの!?」

 もうやめてー! ボクの理解力は、とっくにゼロだよー!

「モテるって、罪よねえ」

 あ、また幸せが逃げた。

「違うよ! 私とフーちゃん親友だもん!」

「うん。だから、一時的にカッとなっちゃっただけなのよね。でね、お願いなのだけど、姉妹愛から先・・・・・・へはいかないでね。多様性の時代といっても、お母さん、さすがにそれは困っちゃうわ」

 ボクらを交互に見る、お母さんの顔は真剣だ。

「私、おねーちゃんに、それ以上の感情なんて……」

「ボクもだよ! ただ純粋に、ハーちゃんかわいいなあって、思ってるだけだよ!」

「うん、だからあくまでも、お願い。お願いって、前もって言っておくものでしょう?」

 確かに。お母さん、話上手いね……。

「……わかった、誓う」

「……私も」

 それぞれ、挙手宣誓。

「ありがとう」

 お母さんに、笑顔が戻る。

「でも、そっかー。ハーちゃん、またボクのこと、好いてくれてるんだなー」

 えへへ~と、だらしなく笑う。

 あ、今度は幸せが、一度に二つ逃げた。
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