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第六話 ふたりはセクンダディ

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 シトリーに導かれた先は、砦の少し高いところにあるテラスだった。そこにはすでに制服のベルとフォル、隠れるようにユコも居た。彼はシミーズ姿である。流石にメイド服では寝ないか。眼下には、千近い魔導師隊とそれを纏める風にたなびく帝国の旗が見える。

 ベルが拡声器で号令を下し、魔導師隊が陣形を整える。素人の俺が見ても分かるぐらい、よく整った美しい陣形だ。しかし何だな、みんな制服ということは、あのエロコスのまま寝てたわけか。大変けしからんな。ほどなくして、ウィネもテラスに合流してきた。

 そう言えば、つい今しがた、悪魔学デモノロジーで思い出したモンスターが居る。オカルトが現実のものとなっている世界なら、こいつも『獣』のように呼び出せるはずだ。

「白銀に輝く蟲よ! 全てを切り裂くあぎとよ! 無間の神秘より姿を現し、我が敵を八ツ裂け!」

 十字架のポーズと自分で名付けた、足を揃えて両手を大きく広げ、掌を上向きにするというかっこいいポーズ(ちょっと曲げた指がポイント)をしながら適当詠唱すると、巨大な機械ムカデが魔法陣を通じて虚空に出現した。ベルたちが感嘆の声を上げる。ソロモン王の伝説に出てくる、シャミールという蟲だ。その顎は、あらゆる物質を切断する。

 そして、駄目押しにおなじみの『獣』も召喚! 準備は万全だ。アナエルの手勢を屠った時のように、まずは超長距離から敵の数を減らす。距離が縮まると魔導師隊によって障壁が張られ、攻撃魔法の応酬が始まる。もちろん、乱戦に『獣』とシャミールも放り込んである。

 しかし、今回はいつにも増して天使の数が多い。当社比二倍! って感じだ。そして、その理由が程なくしてわかった。

「悪い子のみんなー! こーんばーんわー☆ セクンダディのオフィエルちゃんだよーっ♪」

「同じくサマエルだ。死ね、蛆虫ども」

 金髪ツインテール幼女天使と陰気そうな黒髪ボブの男天使が、障壁を魔法で破壊しながら名乗りを上げる。無論、共に六枚羽根。セクンダディが二人がかりか! 魔導師隊が破壊される端から幾重にも障壁を張り直すが、修復に追われて攻撃に転じることができない。

「それにしてもー、オフィエルちゃんさっき観察天使ウォッチャーちゃん通じて見ちゃったんだけどぉー。女同士でキスとかきっもーい☆ やだー、吐き気しちゃーう」

 キャハハと癇に障る笑い声を上げながら、オフィエルが大竜巻の魔法を乱射する。

「いかにも。子も産まれぬ非生産的な行いなど、主の神意《みこころ》に反する悪しき所業よ。他にも女の格好をしている男も居るようではないか。おぞましい」

 サマエルが紫や緑の毒々しい色の液体を放ってくる。

 背後のシトリーとウィネ、ユコを見やると、シトリーは尻尾を逆立てて激昂。ウィネは対象的に尻尾をだらんと垂らし、悲しそうに俯いてしまっている。ユコに至っては、目に涙が滲んでいる有様。許せんな、あのセクンダディども!

「否ァ! 断じて否ッ!! 愛とは形を問わず尊いものだ! 姿形も、自由であるべきだ! ならば問おう! 子を傭けられぬ男と女がいたとして、その愛は否定されるべきものか!? あるいは、異性の姿格好をしていたとして、それの何がいけないのか!!」

 両名の間に指を突きつけ、叫ぶ。

「えー? 子供を産めないならぁ、生きる価値なんてなくない? ていうかー、人間自体にもう生きる価値とかないんだケドねっ☆」

 小馬鹿にするように、くるりと縦方向に円を描き一回転するオフィエル。

「同性愛に異性装など、気色の悪い不自然な行いだ。虫酸が走る」

 髪を掻き上げ、鼻で嘲笑わらうサマエル。

「フン……! やはり平行線か。ならば、最早何も言うまい! 滅べ!」

「それは、オフィエルちゃんたちのセリフかなっ☆ サマエルちゃん、あれ・・やるよーっ!」
「うむ。あれ・・は実に愉悦!」

 二人がぴたりと寄り添い、同時に詠唱する。

「吹き荒れよ! うねり猛る死の恐風! それは叫び!」
「天の毒よ! 千の嘆きよ! 血の穢れとなれ!」

 突風が吹き寄せ、眼下の魔導師隊が倒れたり座り込む。背後では、シトリーたちが咳き込んでいる。毒の風か!

「皆! 吸ってはいけません!」

 ベルが叫び、口を抑える。詠唱ができない。これは実にピンチだ。しかし、俺だけは毒が効かずピンピンしていた。ここは俺の力で乗り切る必要があるようだ。まずはこの風を止める!

「魔晶を司る地の霊よ! その厳なる真理を以て、我が敵を棺に封じよ!」

「な……」

 幾多の透明な結晶が悲鳴を上げる間もなく、一瞬にしてオフィエルの周囲で結合し、ひと塊の巨大な結晶になる。結晶は、そのまま壊れることもなく、大きな音と土煙を立てて地に落ちた。同時に、風がぴたりと止む。

 お前は、透明結晶の中で無限の時を過ごすのだ。

「貴様、よくもオフィエルを! 上天の悲しみよ! 穢れを纏い地に堕ちよ!」

 毒の雨が降り注ぎ、魔導師隊は慌てて障壁を上方に展開する。

「サマエル! 次は貴様だ! 二億六千万の邪霊よ! その呪われた姿を顕現し、我が怨敵を貪り喰らえ!!」

「ばヌばァ――ッ!?」

 純白の歯を持つ漆黒の霊体が無数に出現し、サマエルを貪り食らう。悲鳴を上げるために口を開けばそこから体内を喰らっていく。やがてサマエルは骨も残さず消えた。

 毒の雨は止み、再び月光が地上を照らす。砦は歓声に包まれ、俺の高笑いが響き渡った。
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