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第七話 駄狼マルコ

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「フォル、凸レンズと大きめの紙を持ってないか? レンズは大きいのがいい」

 オフィエル&サマエル戦の翌昼。昨日負傷した者は、療養中である。治癒魔法と解毒魔法は施されたが、この世界の回復魔法は効果が弱く、魔法一つで元気爆発! とはいかないようだ。同時に砦を修復する作業が進められる中、あることを閃いたので手近に居たフォルに尋ねてみた。

「凸レンズと紙ですか? あると思いますけど……」

 暫し待つと、彼女がレンズと紙を持って帰ってきた。

「何かお書きになられるのですか?」

「いや、書き物ではない。もう一つ、その眼鏡も貸してくれ」

 怪訝な表情で眼鏡を手渡すフォル。片方がやや広くなるように紙で筒を作り、凸レンズをはめ、反対側に眼鏡のレンズをくっつけ、何度か筒の大きさを変えて凸レンズの位置を調整する。

「ん、できたぞ。筒を通して見てみよ。太陽は絶対に見るなよ」

 筒の形状が崩れないように、そっと手渡す。

「え!? 遠くが凄く良く見えます!」

 そう。俺が作ったのは簡単な望遠鏡だ。天使の確認がいつも裸眼なので、ひょっとして望遠鏡が発明されていないのではないかと思ったら、案の定だ。小学生の頃、夏休みの自由研究として百均の材料と牛乳パックで簡単な望遠鏡を作ったことがある。それにしても、現代風の眼鏡はあるのに、つくづく歪な技術発展をしてる世界だ。

「見ての通り、筒と凸レンズと凹レンズの組み合わせで作れるぞ。もっとしっかりした物を仕上げさせるといい」

「素晴らしいお知恵です、ルシフェル様! 皆にも教えてきます!!」

 一礼して、ベルたちの居る方へ、フォルがぱたぱたと駆けて行った。

 すると、入れ違いに男が引く台車が通りかかった。荷台には、じゃがいもそっくりな物体が多数積まれている。

「これは芋か?」

 手近に居た魔導師に尋ねる。

「はい。やっと収穫できたので、食料として持ってこさせました」

「ほう……。そうだ、少し面白い料理を教えてやろう。厨房に運んでくれ。お前も通訳として付いてこい」

 男と魔導師とともに厨房に赴く。ちょうど、炊事の真っ最中だった。

「少し借りるぞ。お前、油を多めに熱せよ」

 料理係の男が通訳の魔導師に言われるままに油を注いだ鍋を火にかける。油が十分熱くなるまでの間、包丁で芋の皮を剥き、続いて薄くスライスした。林間学校のカレー作りを思い出すな……。すでに遠き思い出よ。それにしても、やはりピーラーのほうが楽だな。ピーラーも作らせるか。

 いくつか仕上げていくと、十分油が熱くなったようなので、薄くスライスして、油で揚げる。そう、ポテトチップスだ。揚げ上がったものを取り出し皿に並べ、塩を振る。

「できたぞ。食べてみよ」

 魔導師に試食をさせる。パリ、という音が心地よい。

「美味しい! 美味しすぎます、ルシフェル様!!」

 彼女が夢中で食べ始めるので、他の連中がたかってきて、我も我もと取り合いになってしまった。

「おいおい、皆の分がなくなるぞ。もっと作って昼食で全員に振る舞うといい」

 苦笑しながら厨房を後にした。

 ◆ ◆ ◆

 そして昼食の時間。今日はパンと謎肉にポテチがプラスだ。

「ウーマーイ!! コレ誰が作ったー!?」

 食堂の一角から、素っ頓狂な大声が上がる。

「我だ!」

 ふふふ、もっと褒めるがいい! などとふんぞり返っていると、声の主がすっ飛んできて、フライングボディアタックのごとく抱きついてきた。それは、黒いボサボサ長髪の爆乳犬耳娘だった。

「オレ、オマエ気に入った!! オマエ大好き!!」

 わぶ! 舐めるな! いや、文字通りの意味でペロペロ舐めてくる。尻尾までパタパタ振ってるし。何なんだこいつは!

「マルコ、不敬でしょう! ルシフェル様とお呼びしなさい! あと、離れなさい!」

 ベルが立ち上がって、犬耳娘を力ずくで引き剥がそうとするが、こやつ力が強いようでベル一人では引き剥がせない。

「何なんだお前は!」

「申し訳ありません、ルシフェル様。魔導師隊の問題児でして……」

 犬耳娘をベルがヘッドロックする。タロットカードのストレングスみたいな絵面だな……とか考えてる場合じゃないよ!

「オレ、マルコ! マルコ・キアス!! 人狼族ル・ガルーの最後の生き残り! オマエと子供作る!!」

 やだ、この娘発情してる。犬耳娘改め、狼耳娘に犯される! たーすーけーてー!!

「マルコ! 晩御飯抜きにしますよ!!」

 ベルが一喝すると、マルコがビクリと動きを止める。

「それ、困る。腹ペコきつい……」

「席に戻りなさい!」

 ビシリと皇女が座席を指差すと、駄狼はすごすごと戻って行った。はっはっはっ、まるで駄犬を躾ける調教師のようだ。

 その後しばらく、俺をマルコがストーキングして、それをまたベルがストーキングして躾けるという光景が展開されるのだった。
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