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第八話 つよつよお姉さん
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淡い光に包まれた雲の上の純白の円卓を、男四人、女三人という構成の六枚羽根を持つ天使たちが、取り囲んで座っていた。
「セクンダディも随分入れ替わりましたね、ミカエル」
緩くウェーブのかかった青い長髪の女天使が左右を見回し、透き通る声で言う。
「そうだな、ガブリエル……。天使の全体数も、この数日で九割に落ち込んでしまった。それはさておき、ベツレヘム、ヴィクター、ケルビエル、ベアトリーチェ。南方の平定大儀であった。主も喜ばれることだろう」
燃えるような逆立つ赤髪の天使の言葉に、シスターのような格好をした、ずっと目を瞑っている女性天使。ヒゲを蓄えた、笑顔の天使。純白のローブを纏う、尖った金髪の天使。幼い印象を与える、前髪を切り揃えたブロンド長髪の女天使が頭を下げた。
「それと、皆に伝えておくことがある。主が、あれの封印を解くことをお決めになられた」
ミカエルの言葉に、ざわめく一同。
「あれって、まさかあれ!? 封印するのにどれぐらい苦労したと思っているのさ! 僕は反対だよ!?」
嫌そうな顔で吐き捨てる、金髪の優男風天使。
「主がお決めになられたことだ、ラファエル」
苦虫を噛み潰したような顔で重々しく告げるミカエル。そう念を押されると、ラファエルも何も言い返せない。
「主が、お決めに、なられたことだ……!」
俯き、拳に力を込め、血涙を滲ませながら繰り返す。嗚呼。悲しき哉、中間管理職。
◆ ◆ ◆
マルコ・インパクトから三日経った昼。
ベルが言うには東に馬で三日行った所に、ひと月ほど前天使に滅ぼされた商業都市・パダールがあるとのこと。四方に大きな街道が伸び、河も近い交通の要所だそうだ。次はここの開放を目指すことになる。今は、俺たち攻略チームの旅支度の最中である。
「オレも、オマエといっしょ行く!」
マルコがきらきらした瞳で縋り付こうとしてくる。彼女に付けた首輪のリードを引っ張るベル。人の尊厳とは何だろうと考えさせられる光景である。
「マルコ、あなたはお留守番です! 我儘を言うと晩ご飯抜きですよ!」
「それでもいい! オレ、ぜったいコイツといっしょ!!」
尻尾を振りながら、抱きつこうとするマルコ。やれやれ、すごい熱意だ。
「ベルよ。後方が心配なのは分かるが、我々の戦力の充実も重要であろう。マルコを加えてやってもよいのではないか?」
「ルシフェル様が仰るのでしたら……」
ため息を吐いて、リードから手を離すベル。その時、敵襲を知らせるラッパの音が鳴り響いた――。
◆ ◆ ◆
試作型の望遠鏡がすでに使われているので、今回は陣形の展開に余裕があった。例によって例のごとく、お供獣二体の召喚と、魔法の撃ち合いが展開される。
今回はセクンダディと思われる天使が三人もいる。シスターのような格好をした、六枚羽根の目を瞑っている女天使。ヒゲを蓄えた、巨大なハンマーを持った笑顔の六枚羽根の天使。そして、金髪ショートヘアの、長身無乳の六枚羽根の女天使。
この中で、特に三人目から強力なオーラのようなものを感じる。こいつは間違いなく強いと勘が囁く。しかしこの天使、さっきから何もせず、キョロキョロと戦場を見渡している。何なんだ、こいつは?
「ねー! ルシくんどこー!?」
無乳天使が大声を上げる。は? 何を突然言い出すんだ? ルシくんってひょっとして俺のことか?
「ルシフェル・アシュタロスのことか!? それならば我よ!」
堂々と名乗りを上げる。何のつもりか知らんが、受けて立とうじゃないか。
「ルシくーん! 会いたかったよ~っ!!」
すると、無乳天使が何を血迷ったのか、俺目がけて文字通り飛びついてきた。何だ!? 詠唱妨害とは姑息な!
「お姉ちゃん、ルシくんにすっごくすっごく会いたかった! これからはずっと一緒だよ!」
あまつさえ頬ずりしてくる。いや、誰だお前。ほんと何なんだ、この馴れ馴れしい天使は!?
「サタン! 何をやっているのですか! 真面目に戦いなさい!!」
シスター天使が一喝する。ええ~! サタンかよこいつ……。
「嫌! ルシくんは将来を誓い合った仲だもの。私、神と改めて戦う!」
ぷくっと膨れてシスター天使にぶーたれるサタン。訳が分からん。誰か説明をプリーズ。
「やはり、裏切りの蛇は蛇ですか。やむを得ませんな。ベツレヘム、まとめて始末しましょう。ふん!」
ヒゲ天使が笑顔を崩さずハンマーをぶん投げてくる! ハンマーは激しい雷光を纏い、俺とサタンが展開する障壁魔法陣に激突して、ヒゲ天使の手元に戻って行った。
「いやはや、さすがに硬い。このミョルニルは、神を騙る異教の者を滅ぼして奪い取った逸品なのですけどねえ」
「ヴィクター、私も本気を出します。偽りの生命よ! 地の命脈姿象りて、我が命に従え!」
ベツレヘムと呼ばれたシスター天使が、開眼して呪文を詠唱すると、地面から無数の土塊の巨人が出現し、襲い掛かってきた。魔導師隊が破壊しても、次から次に湧いてくる。いかんな、サタンにかまけている場合じゃないぞ。
「おいサタン、邪魔だ。離れよ」
「あ、ごめんねルシくん。お姉ちゃん、つい興奮しちゃって」
サタンがハグから開放してくれた。案外素直だぞ、こいつ。
「お前も、共に戦ってくれるのだな? ならば、それを示してみせよ」
「もちろん! お姉ちゃん頑張っちゃうんだから! 光輝と深淵の混沌よ! 事象の全ての混在よ! 力となりて敵を滅せよ!!」
ガッツポーズを向けた後、サタンが飛翔し、手を突き出しながら詠唱すると、掌から一条の光が迸り地上を薙ぎ払った。爆炎が上がり、膨大な数の土巨人が消し飛ぶ。
「ふ、強いな……。我も負けていられぬか。遊離する雷の子らよ、一つの束と集いて疾く奔れ!!」
俺の目の前に展開された魔法陣から、極太の雷光がヴィクターと呼ばれたヒゲ天使目がけて迸る。ヴィクターはそれをミョルニルで受けたが、ミョルニルは粉々に砕け散った。
「くっ……! さすがルシフェルとサタン! ベツレヘム、こうなれば我らの命燃やしつくしましょうぞ!!」
「ええ、よくってよ!」
ヴィクターとベツレヘムが手を高く掲げ、重ね合わせる。そこから、眩い光が生まれ始める。
「あの二人、自爆する!!」
サタンが叫ぶ。そして、寂しそうな、何ともいえない顔で俺を見ながら言った。
「ルシくんは……ううん、ルシくんたちはお姉ちゃんが護ってあげるからね……!!」
サタンが魔導師隊の前に進み出て、巨大な障壁を展開する。
「待て、サタン! サターン!!」
轟音とともに、壮絶な爆発が起こった。眩しくて目が開けていられない。振動が、地を通して伝わってくる。閃光が収まり目を開けると、土煙がまだもうもうと立ち込めていた。見た所、多少混乱が起きているが、魔導師隊には被害はないみたいだ。サタンはどうなった!?
魔導師隊を掻き分け前に進むと、最前列から十数メートルほど先に、倒れている人影を見つけた。サタンだ! 駆け寄って、抱き起こす。
「サタン! 大丈夫か、サタン!」
彼女が薄っすらと目を開けてこちらを見る。六枚あった翼のうち、四枚がもげており実に痛々しい。
「ルシくん……大丈夫? 他の人も無事……?」
「ああ! ああ! 無事だとも! だからしっかりしろ!!」
しかし、彼女は優しげに微笑むと、力なく目を閉じてしまう。
「サターン――ッ!!」
頬を涙が伝い、俺の絶叫が辺りに響き渡った。
「セクンダディも随分入れ替わりましたね、ミカエル」
緩くウェーブのかかった青い長髪の女天使が左右を見回し、透き通る声で言う。
「そうだな、ガブリエル……。天使の全体数も、この数日で九割に落ち込んでしまった。それはさておき、ベツレヘム、ヴィクター、ケルビエル、ベアトリーチェ。南方の平定大儀であった。主も喜ばれることだろう」
燃えるような逆立つ赤髪の天使の言葉に、シスターのような格好をした、ずっと目を瞑っている女性天使。ヒゲを蓄えた、笑顔の天使。純白のローブを纏う、尖った金髪の天使。幼い印象を与える、前髪を切り揃えたブロンド長髪の女天使が頭を下げた。
「それと、皆に伝えておくことがある。主が、あれの封印を解くことをお決めになられた」
ミカエルの言葉に、ざわめく一同。
「あれって、まさかあれ!? 封印するのにどれぐらい苦労したと思っているのさ! 僕は反対だよ!?」
嫌そうな顔で吐き捨てる、金髪の優男風天使。
「主がお決めになられたことだ、ラファエル」
苦虫を噛み潰したような顔で重々しく告げるミカエル。そう念を押されると、ラファエルも何も言い返せない。
「主が、お決めに、なられたことだ……!」
俯き、拳に力を込め、血涙を滲ませながら繰り返す。嗚呼。悲しき哉、中間管理職。
◆ ◆ ◆
マルコ・インパクトから三日経った昼。
ベルが言うには東に馬で三日行った所に、ひと月ほど前天使に滅ぼされた商業都市・パダールがあるとのこと。四方に大きな街道が伸び、河も近い交通の要所だそうだ。次はここの開放を目指すことになる。今は、俺たち攻略チームの旅支度の最中である。
「オレも、オマエといっしょ行く!」
マルコがきらきらした瞳で縋り付こうとしてくる。彼女に付けた首輪のリードを引っ張るベル。人の尊厳とは何だろうと考えさせられる光景である。
「マルコ、あなたはお留守番です! 我儘を言うと晩ご飯抜きですよ!」
「それでもいい! オレ、ぜったいコイツといっしょ!!」
尻尾を振りながら、抱きつこうとするマルコ。やれやれ、すごい熱意だ。
「ベルよ。後方が心配なのは分かるが、我々の戦力の充実も重要であろう。マルコを加えてやってもよいのではないか?」
「ルシフェル様が仰るのでしたら……」
ため息を吐いて、リードから手を離すベル。その時、敵襲を知らせるラッパの音が鳴り響いた――。
◆ ◆ ◆
試作型の望遠鏡がすでに使われているので、今回は陣形の展開に余裕があった。例によって例のごとく、お供獣二体の召喚と、魔法の撃ち合いが展開される。
今回はセクンダディと思われる天使が三人もいる。シスターのような格好をした、六枚羽根の目を瞑っている女天使。ヒゲを蓄えた、巨大なハンマーを持った笑顔の六枚羽根の天使。そして、金髪ショートヘアの、長身無乳の六枚羽根の女天使。
この中で、特に三人目から強力なオーラのようなものを感じる。こいつは間違いなく強いと勘が囁く。しかしこの天使、さっきから何もせず、キョロキョロと戦場を見渡している。何なんだ、こいつは?
「ねー! ルシくんどこー!?」
無乳天使が大声を上げる。は? 何を突然言い出すんだ? ルシくんってひょっとして俺のことか?
「ルシフェル・アシュタロスのことか!? それならば我よ!」
堂々と名乗りを上げる。何のつもりか知らんが、受けて立とうじゃないか。
「ルシくーん! 会いたかったよ~っ!!」
すると、無乳天使が何を血迷ったのか、俺目がけて文字通り飛びついてきた。何だ!? 詠唱妨害とは姑息な!
「お姉ちゃん、ルシくんにすっごくすっごく会いたかった! これからはずっと一緒だよ!」
あまつさえ頬ずりしてくる。いや、誰だお前。ほんと何なんだ、この馴れ馴れしい天使は!?
「サタン! 何をやっているのですか! 真面目に戦いなさい!!」
シスター天使が一喝する。ええ~! サタンかよこいつ……。
「嫌! ルシくんは将来を誓い合った仲だもの。私、神と改めて戦う!」
ぷくっと膨れてシスター天使にぶーたれるサタン。訳が分からん。誰か説明をプリーズ。
「やはり、裏切りの蛇は蛇ですか。やむを得ませんな。ベツレヘム、まとめて始末しましょう。ふん!」
ヒゲ天使が笑顔を崩さずハンマーをぶん投げてくる! ハンマーは激しい雷光を纏い、俺とサタンが展開する障壁魔法陣に激突して、ヒゲ天使の手元に戻って行った。
「いやはや、さすがに硬い。このミョルニルは、神を騙る異教の者を滅ぼして奪い取った逸品なのですけどねえ」
「ヴィクター、私も本気を出します。偽りの生命よ! 地の命脈姿象りて、我が命に従え!」
ベツレヘムと呼ばれたシスター天使が、開眼して呪文を詠唱すると、地面から無数の土塊の巨人が出現し、襲い掛かってきた。魔導師隊が破壊しても、次から次に湧いてくる。いかんな、サタンにかまけている場合じゃないぞ。
「おいサタン、邪魔だ。離れよ」
「あ、ごめんねルシくん。お姉ちゃん、つい興奮しちゃって」
サタンがハグから開放してくれた。案外素直だぞ、こいつ。
「お前も、共に戦ってくれるのだな? ならば、それを示してみせよ」
「もちろん! お姉ちゃん頑張っちゃうんだから! 光輝と深淵の混沌よ! 事象の全ての混在よ! 力となりて敵を滅せよ!!」
ガッツポーズを向けた後、サタンが飛翔し、手を突き出しながら詠唱すると、掌から一条の光が迸り地上を薙ぎ払った。爆炎が上がり、膨大な数の土巨人が消し飛ぶ。
「ふ、強いな……。我も負けていられぬか。遊離する雷の子らよ、一つの束と集いて疾く奔れ!!」
俺の目の前に展開された魔法陣から、極太の雷光がヴィクターと呼ばれたヒゲ天使目がけて迸る。ヴィクターはそれをミョルニルで受けたが、ミョルニルは粉々に砕け散った。
「くっ……! さすがルシフェルとサタン! ベツレヘム、こうなれば我らの命燃やしつくしましょうぞ!!」
「ええ、よくってよ!」
ヴィクターとベツレヘムが手を高く掲げ、重ね合わせる。そこから、眩い光が生まれ始める。
「あの二人、自爆する!!」
サタンが叫ぶ。そして、寂しそうな、何ともいえない顔で俺を見ながら言った。
「ルシくんは……ううん、ルシくんたちはお姉ちゃんが護ってあげるからね……!!」
サタンが魔導師隊の前に進み出て、巨大な障壁を展開する。
「待て、サタン! サターン!!」
轟音とともに、壮絶な爆発が起こった。眩しくて目が開けていられない。振動が、地を通して伝わってくる。閃光が収まり目を開けると、土煙がまだもうもうと立ち込めていた。見た所、多少混乱が起きているが、魔導師隊には被害はないみたいだ。サタンはどうなった!?
魔導師隊を掻き分け前に進むと、最前列から十数メートルほど先に、倒れている人影を見つけた。サタンだ! 駆け寄って、抱き起こす。
「サタン! 大丈夫か、サタン!」
彼女が薄っすらと目を開けてこちらを見る。六枚あった翼のうち、四枚がもげており実に痛々しい。
「ルシくん……大丈夫? 他の人も無事……?」
「ああ! ああ! 無事だとも! だからしっかりしろ!!」
しかし、彼女は優しげに微笑むと、力なく目を閉じてしまう。
「サターン――ッ!!」
頬を涙が伝い、俺の絶叫が辺りに響き渡った。
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