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第二十一話 悪夢再び

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 パダールに着いてから五日目の朝が来た。降雨につき、本日はサタン、リリスと共にラドネス語の座学。なお、マルコはベル監視のもと、風呂場の壁を絶賛修繕中である。壊したのは俺だが、原因を作ったのはあいつだからな。

 ラドネス語を学んでみて分かったのは、日本語、すなわちこの世界の魔法語を習得している者にとって、かなり憶えやすい言語ということだ。この分なら、半年後ぐらいには結構使いこなせるようになっているかもしれない。

 しかし、こうして美女・美少女に囲まれつつ勉学に励むというのは実に有意義であるな。

「メダスというのは、他には例えば――」

 マンツーマンで教えてくれてるフォルに質問しようとしたその時、『獣』が咆哮を上げた。天使~空気読めよ~!

 一同揃って表に出てみれば、そこには全長十メートルはあろうかというクッソでかい六枚羽根の天使が城壁越しに立っていた。というか、このボロ布のようなローブに長くて白いヒゲ。ものすごーく見覚えがある。

「ひょっひょっひょっ! ワシじゃよ、死んだと思ったか? じゃがワシは一度だけ巨大化して蘇ることができるんじゃよ!」

 ラ ジ エ ル、 ま た お 前 か。

 あーまー、道理で手応えがまったくないと思ったよ。

「見よ! さらにパワーアップした触手を!」

 またもやあの半透明の触手が地面から伸びて、俺たちを絡め持ち上げる。前回より数が多い。当社比三倍という感じである。

「だからお爺ちゃん、こういうのは好きじゃないってあれほどー! はぁうん……っ」

「やーめーろー! 股に這わせるなー! 気持ち悪いゾー!」

「皇女たるわたくしが二度までもこんな……! くっ、殺しなさい!」

「いやああああ! シトちゃん助けてー!」

「お兄ちゃーん! 何これ、ぬるぬるして気持ち悪いよぉ……っ!」

 雨で肌に張り付いたエロコスに触手が絡みついてえらい絵面になってやがる。

 あーもう最悪だよ。雨だわ勉強の邪魔されるわ触手だわラジエルだわでめっちゃテンション下がるわー。潰す! 念入りに、二度と蘇らないように徹底的に潰す!!

「うねり猛り狂う奔流よ! 命育みまた奪う水霊よ! 我が敵を流却せよ!!」

 ラジエルの周囲に渦巻く激流が生じ、奴を飲み込み、地の底へと引きずり込んでいく。

「あ……あ……あいるびーばーっく!!」

 断末魔が響き渡り、地の底へと流されてその姿を消して行った。アイルビーバックじゃねーよ。二度と戻ってくんな。さ、帰ろ帰ろ……。
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