カンブリアン・アクアリウム

みなはらつかさ

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第六話 一人二役

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「すごーい! おめでとう!」

「なるほど。生体を見せることばかり考えていたが、逆に絶滅とは……」

 夕食時の食堂で、奏とらいあは、しきりにあくあに感心していた。今日のメニューは、酢豚。

「もう、あくあちゃん、すっごいドヤ顔で帰ってくるんですもん。で、武勇伝語る語る」

「いや~、つい、ねえ。企画課でやっていける、自信がつきましたよ~」

 弛緩しきった顔つきの、あくあ。

「あ、そういえば。先輩方のご同期の方に、とても良くしていただきました」

「おお、彼女か。元気そうで何よりだな」

「あのー、こちら、いいかしら?」

 あくあの先輩の話をしていると、当の本人が、食膳を手に、佇んでいた。

「おお、里愛りあ。噂をすれば。今日は、企画課の皆と食べないのか?」

「春木さんに二人の話を聞いたら、久々に一緒したくなっちゃって」

「まあ、座って座って」

 奏が、着席を促す。

「企画課の、波部はべ里愛です。はじめまして」

 初対面のまりんに、挨拶する。

「はじめまして。案内課の雁州まりんです。あくあちゃんが、お世話になっています」

 ご挨拶返し。

「ちゃん、かあ。仲いいのねえ」

「はは。アタシからは、まりんって呼び捨てなんですけどね」

 照れくさそうに、後頭部を撫でるあくあ。

「春木さん、すごいのよ。三日目で、企画採用されちゃって」

「うむ。さっき、その話で盛り上がっていた所だ。エディアカラについても触れるのが、実に良い企画だな」

「ありがとうございます!」

 上機嫌で、酢豚を食むあくあ。

「司会、志願したいなあ」

「じゃあ、詳しい仕様が発表されたら、上申してみましょうか。わたしも、やってみたいわ」

「はい!」

 すでにノリ気な、奈良雁師弟。

「エディアカラなら、任せろ!」

 らいあも、大変ノリ気だ。

「みんな、気が早いってば」

「ですね」

 くすくす笑う、里愛とあくあ。

 今日の食事は、大変和やかに進んだ。


 ◆ ◆ ◆


「お姉さん、どうしてハルキゲニアにはトゲがあるの?」

「それはね。ハルキゲニアを食べる動物から、身を護るためなの」

「へー! そうなんだー!」

 今日は、奏とまりんがコンビを組んで、ハルキゲニアの解説役を務めている。

 奏が「先生」、まりんが「生徒」という体で、質疑応答を進めていく。

 司会は順調に進行していたが……。

「あの……トイレはどこでしょう」

 年配の女性客から、不意に声をかけられる。今にも漏らしそうな様子だ。

 二人は周囲を見渡すが、手の空いている案内係が近くにいない。

「ご案内いたします」

 奏が客を連れて、トイレへと案内する。

(どうしよう……)

 トイレから戻ってくるのに、何十分もかかるはずがないが、進行に結構な穴が空いてしまう。

(やむを得ない!)

「実はね、まだ化石で姿を想像していた時代、ハルキゲニアは、三回も想像図が大きく変わっているのよ」

「えー! 三回も!?」

 一人二役。先生のときと生徒のときで、立ち位置と声色を変え、話を進めていく。

(先輩のセリフは、稽古で覚えてる! やれるはず!)

「最初は、上下が逆さまで、トゲで歩いてると考えられてたの」

「へー!」

 まりんは、上手いこと一人二役をこなし、話も佳境を過ぎた。

 そこに奏が戻ってきて、話の進み具合とまりんの行動から、一人二役で進めていたことを察する。

「そういうわけで、ハルキゲニアは、『惑わす者』という学名がつけられたのよ」

 進行状態を把握し、自然に先生役に復帰する奏。

 こうして、ピンチをまりんの機転で切り抜け、無事解説終了。

「最後までお聞きくださり、ありがとうございました。途中、場を離れましたこと、お詫び申し上げます」

 深々とお辞儀する奏。まりんも、それにならう。

「一人二役、見事だったよー!」

 少なくない客から、称賛されるまりん。

 ハルキゲニアQ&Aショーが終わり、一時的に客がはける。

「ありがとう、雁州さん。上手くやってくれたみたいね」

「いやー、もう必死でした」

「じゃあ、次の持ち場に行きましょう」

 引き継ぎの案内役にバトンタッチして、別々の水槽に移動するのであった。
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