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第二十三話 課長とあくあ
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企画課課長は悩んでいた。
もはや、ワーカーホリックの域に突入してしまった、春木あくあの扱いについてである。
上司としては、これだけ優秀で仕事熱心な新人の伸びしろを、潰したくない。
しかし、その仕事ぶりは、見ていて非常に危ういのだ。
実際、一回倒れさせてしまうという、管理職として痛恨のミスを犯している。
これだけ有望な人材、使い潰してはいけない。じっくりと育てていきたい。
また、彼女が他の新人の仕事を、横取りする形になってしまっているのも良くない。
実際、やる気のある新人たちからは、不満の声が密かに届いている。
「ほどほどにしろよ」とは言ったが、諸々の意味を込めた真意が伝わっているかというと、非常に怪しい。
(残業から、完全に外そう)
今の作業ペースで残業もさせたら、またぶっ倒れること請け合いだ。
そして他の新人は、残業時間に育てることにする。
残業ペースだが、第二の昏倒者を出すわけにはいかないので、引き続き週三でいく。
折り合いをつけるなら、こんなところだろう。絶滅展が終われば、春木ももう少し、落ち着くはずだ。
あちらも立てる、こちらも立てる。
両方やらなくてはいけないのが、管理職の辛いところだ。
◆ ◆ ◆
「残業から、外されちゃいました。アタシ、期待されてないんですかねえ……」
お昼休み。里愛と差し向かいで、トンカツ定食を食む。
「それは違うと思うよ。……あのね、これ言おうか悩んでたんだけど、あなたちょっと、他の新人の間で評判悪いの」
ショックで、箸が止まるあくあ。
「三日目で、企画取ったからですか?」
「それもないとは言えないけど、今、片っ端からサポートの仕事取っていってるでしょう。仕事がなくなって、困ってる新人がいるのよ」
俯くあくあ。
今の仕事ぶりは、いいところを見せて、絶滅展の中心に返り咲きたいという、一心でやっている事だ。
周りのことなんて、まるで考えていなかった。
自分は、なんて身勝手だったのだろう。
「落ち込まないで……っていうのは、無理か。とにかく、もう少し周りの事も見よう?」
「はい……」
こないだ、ざるそばぐらいしか喉を通らなかったあくあが、トンカツを食べられるぐらいにまで回復している。
少しずつ、調子を取り戻している証拠だ。ここに来てまた、無理をさせたくないというのが、課長の考えだろう。
そして、他の新人との兼ね合いもある。
とりあえず、今は課長の舵取りを信用しよう。
食事を進める、二人であった。
◆ ◆ ◆
(ちょうどいい仕事ぶりって、どのぐらいだろう?)
午後の仕事が始まってから、サポートの請け負いを躊躇しているあくあ。
仲間内で、悪評が立っているというのが、とにかくショックだった。
様子がおかしいと感じた課長が、春木と親しい波部に、密かにチャットを送る。
(春木の様子がおかしい。なにかあったか?)
(悪評が立っていることを伝えたら、非常にショックを受けてしまったみたいで……。軽率でした。申し訳ありません)
理由はわかった。
これは一度、きちんと話し合う必要があると、ひしと感じた。
「春木。ちょっと来い」
席を立ち、ついてくることを促す。
「はい」
重い面持ちで、ついてくるあくあ。
会議室に入ると、斜向かいに座る。
「あー……。悪評の件が、伝わってしまったようだな」
ごまかしてもしょうがないので、ズバッと切り出す。
びくっとして、「はい……」と返すあくあ。
「その、俺としては、春木の仕事ぶりは、大変評価してるんだ。ただ、体調が心配なのと、悪評が問題でな」
「アタシ、すごく身勝手でした。周りの事を、これっぽっちも考えてなくて。昨日の仕事ぶりも、活躍すれば絶滅展の中心に返り咲けるかもっていう、功名心からだったんです」
一拍置き。
「課長。ちょうどいい仕事ぶりって、どのぐらいなんでしょうか?」
うーん、と唸ってしまう課長。それは、春木が自分で把握すべきことだが、まだ難しいらしい。
「サポートは、ガンガン取っていい。成長するからな。ただ、心持ち。二割程度、控えろ。それぐらいで、ちょうどいい塩梅のはずだ」
課長も一拍置き。
「ただ、絶滅展の中心に戻るのは諦めてくれ。もともと新人には、荷の勝ちすぎる仕事だったが、お前が発案者なのと、優秀なので、つい任せてしまった。これは、俺の采配ミスだ。すまん」
うつむいたまま、無言のあくあ。
一度任された大仕事が、もう自分の手に戻ってくることはないと、断言されてしまった。
「すぐには気持ちの整理がつかんだろうが、そういうのを抱えながら仕事をこなすのも、大事な経験だ。とにかく、好き好んで、お前から仕事を奪っているわけじゃない。むしろ、お前にはすごく期待している。それだけは、信じてほしい」
課長が立ち上がると、あくあも立ち上がり、職場に戻る。
戻ったあくあは、言われた通り八割のペースで仕事をこなし、定時で上がった。
もはや、ワーカーホリックの域に突入してしまった、春木あくあの扱いについてである。
上司としては、これだけ優秀で仕事熱心な新人の伸びしろを、潰したくない。
しかし、その仕事ぶりは、見ていて非常に危ういのだ。
実際、一回倒れさせてしまうという、管理職として痛恨のミスを犯している。
これだけ有望な人材、使い潰してはいけない。じっくりと育てていきたい。
また、彼女が他の新人の仕事を、横取りする形になってしまっているのも良くない。
実際、やる気のある新人たちからは、不満の声が密かに届いている。
「ほどほどにしろよ」とは言ったが、諸々の意味を込めた真意が伝わっているかというと、非常に怪しい。
(残業から、完全に外そう)
今の作業ペースで残業もさせたら、またぶっ倒れること請け合いだ。
そして他の新人は、残業時間に育てることにする。
残業ペースだが、第二の昏倒者を出すわけにはいかないので、引き続き週三でいく。
折り合いをつけるなら、こんなところだろう。絶滅展が終われば、春木ももう少し、落ち着くはずだ。
あちらも立てる、こちらも立てる。
両方やらなくてはいけないのが、管理職の辛いところだ。
◆ ◆ ◆
「残業から、外されちゃいました。アタシ、期待されてないんですかねえ……」
お昼休み。里愛と差し向かいで、トンカツ定食を食む。
「それは違うと思うよ。……あのね、これ言おうか悩んでたんだけど、あなたちょっと、他の新人の間で評判悪いの」
ショックで、箸が止まるあくあ。
「三日目で、企画取ったからですか?」
「それもないとは言えないけど、今、片っ端からサポートの仕事取っていってるでしょう。仕事がなくなって、困ってる新人がいるのよ」
俯くあくあ。
今の仕事ぶりは、いいところを見せて、絶滅展の中心に返り咲きたいという、一心でやっている事だ。
周りのことなんて、まるで考えていなかった。
自分は、なんて身勝手だったのだろう。
「落ち込まないで……っていうのは、無理か。とにかく、もう少し周りの事も見よう?」
「はい……」
こないだ、ざるそばぐらいしか喉を通らなかったあくあが、トンカツを食べられるぐらいにまで回復している。
少しずつ、調子を取り戻している証拠だ。ここに来てまた、無理をさせたくないというのが、課長の考えだろう。
そして、他の新人との兼ね合いもある。
とりあえず、今は課長の舵取りを信用しよう。
食事を進める、二人であった。
◆ ◆ ◆
(ちょうどいい仕事ぶりって、どのぐらいだろう?)
午後の仕事が始まってから、サポートの請け負いを躊躇しているあくあ。
仲間内で、悪評が立っているというのが、とにかくショックだった。
様子がおかしいと感じた課長が、春木と親しい波部に、密かにチャットを送る。
(春木の様子がおかしい。なにかあったか?)
(悪評が立っていることを伝えたら、非常にショックを受けてしまったみたいで……。軽率でした。申し訳ありません)
理由はわかった。
これは一度、きちんと話し合う必要があると、ひしと感じた。
「春木。ちょっと来い」
席を立ち、ついてくることを促す。
「はい」
重い面持ちで、ついてくるあくあ。
会議室に入ると、斜向かいに座る。
「あー……。悪評の件が、伝わってしまったようだな」
ごまかしてもしょうがないので、ズバッと切り出す。
びくっとして、「はい……」と返すあくあ。
「その、俺としては、春木の仕事ぶりは、大変評価してるんだ。ただ、体調が心配なのと、悪評が問題でな」
「アタシ、すごく身勝手でした。周りの事を、これっぽっちも考えてなくて。昨日の仕事ぶりも、活躍すれば絶滅展の中心に返り咲けるかもっていう、功名心からだったんです」
一拍置き。
「課長。ちょうどいい仕事ぶりって、どのぐらいなんでしょうか?」
うーん、と唸ってしまう課長。それは、春木が自分で把握すべきことだが、まだ難しいらしい。
「サポートは、ガンガン取っていい。成長するからな。ただ、心持ち。二割程度、控えろ。それぐらいで、ちょうどいい塩梅のはずだ」
課長も一拍置き。
「ただ、絶滅展の中心に戻るのは諦めてくれ。もともと新人には、荷の勝ちすぎる仕事だったが、お前が発案者なのと、優秀なので、つい任せてしまった。これは、俺の采配ミスだ。すまん」
うつむいたまま、無言のあくあ。
一度任された大仕事が、もう自分の手に戻ってくることはないと、断言されてしまった。
「すぐには気持ちの整理がつかんだろうが、そういうのを抱えながら仕事をこなすのも、大事な経験だ。とにかく、好き好んで、お前から仕事を奪っているわけじゃない。むしろ、お前にはすごく期待している。それだけは、信じてほしい」
課長が立ち上がると、あくあも立ち上がり、職場に戻る。
戻ったあくあは、言われた通り八割のペースで仕事をこなし、定時で上がった。
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