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第一話 アキとハル

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 頭痛ぁ~……。また呑みすぎちゃった。

 酒癖が悪いのが、私の欠点。てか、ハダカじゃん!

 ほんと、飲むと記憶トぶ・・からなぁ~……。

 はて、何か違和感。隣で寝息が……?

 視線を向けると、これまたネイキッドな女の子が、気持ちよさそうに爆睡中!?

 ど、どうしよう! どうしたらいいの!?


 ◆ ◆ ◆


「えーと、事情を教えてくれるかな?」

「いや、事情も何も、おねーさんから声かけてきたんですけど」

 眼の前で、正座してるショートカットの女の子は、今年二十歳になったかどうかぐらい。

 さすがに、互いに着替え済み。

 彼女は、ちょっと地味めのスカートルック。かといって、オシャレ心がないかといえば、ちゃんとあって。

「あー、オトナとして恥ずかしいんだけど、昨日飲み屋行った後のこと覚えてないんだわ……。よければ、教えてくれないかな?」

 今日は土曜で、職場は休み。というわけで、この子の素性を問いただすことに専念する。

「はあ。……それじゃ、わたし視点で、今に至るまでを説明しますね」


 ◆ ◆ ◆


 わたしは、行くあてもなく、駅高架下の、路傍の縁石に座っていた。

 あてもない、お金もない、無い無い尽くし。

 そんなとき、上機嫌で歩いてくる、おねーさんを見かけたのです。

 酔っぱらいかー。関わらないほうがいいかなーと、思っていたけれど。

「よーう! そこな少女! 表情暗いなー!」

 絡まれてしまった。どうしよう。

「どうした! 家出か何かか! よっしゃ! おねーさんが面倒見ちゃる! うちに来ーい!」

 ドンと胸を叩くおねーさん。

 どう見ても酔っ払いだけど、今のわたしには渡りに船。

 「お願いします!」というと、おねーさんはタクシーを捕まえました。

 そして、このマンションに連れてこられ、なし崩しに初めて・・・を……。


 ◆ ◆ ◆


「ちょ、ちょーっと待ったあ!! ナニソレ! 私が行きずりの女の子を招いて、さらに、その……!?」

 声が震える。

「はい。初めてでしたけど、優しくしてもらって……」

 ぽっと照れる彼女。慌てて布団をめくると、果たしてその証・・・が……。頭痛がぶり返してきた。

 スマホを手繰り寄せる私。

「あの、おねーさん、何を!?」

「ケーサツ! これじゃ私、ユーカイ犯じゃない! 身の潔白を説明しないと……」

「それだけはやめてください!」

 彼女が、スマホをひったくろうとする。

「家に……家に戻るぐらいなら、死んだほうがマシです!」

「よくわかんないけど、そうもいかないでしょ!!」

 しばし、大格闘。

 私のスマホは、彼女にひったくられてしまった。

「あー、もう! どーすりゃいいのよ!?」

 交番に駆け込む? でも、変な噂が立ったら困るなと、はたと気づく。

「あの、一生のお願いです! わたしをここに置いてください! 家事でもなんでも、しますんで!!」

 土下座する彼女。う~ん……。

「せめて、素性を教えてよ。このままじゃ話しにくいし。私は、市役所勤務のくれないアキ。あなたは?」

あおいハルと言います! ふつつかものですが、よろしくお願いします」

 深々と頭を下げる彼女。ふつつかものって、私、受け入れるとか一言も言ってないよ!?

 しかし……うーん、私の名前に合わせた偽名とも受け取れる、デキすぎた名前だけど。

 確認・通報しようにも、両方のスマホはハルちゃんの手の中。かといって、大事おおごとにはしたくないし……。つくづく、我が酒乱が恨めしい。

 すると、ぐうとお腹が鳴った。時計を見ると、お昼を回ってる。

「お腹空いたでしょ。テキトーに、スパゲッティーでもつくってあげるから、それ食べたら帰ってね」

「あの! わたしに作らせてください! ウデに自信アリなんで!」

 ほんとかな? とはいえ、「家事でも何でもする」という言葉は、偽りではないようだ。

「ふーん。じゃあ、お手並み拝見。えっと、調味料はここで……。冷蔵庫のものは、何でも使っていいから」

「お任せください!」

 テキパキと調理体制に入る彼女。

 すごいな。傍から見てても、鮮やかなお手並み。

 途中、ポッケのスマホをこっそり奪還しようと試みるけど、素早くガードされてしまう。むむむ。反射神経いいなあ。

「できました!」

 そんなことをやっているうちに、カルボナーラの出来上がり! 美味しそ~。

「いただきます」

 二人で合唱。

 ん! 美味しい! 自分で作っても、こんな美味しくならないのに!

「すごい! 美味しいよ、コレ!」

「お褒めに預かり恐縮です。仲の良かったメイドさんから、教えてもらったんです。茹で汁に塩を多めに入れるのがコツなんですよ」

 上機嫌で応える彼女。……って、メイド!? ナニモノなの、この子……?

「ごちそうさま」

 美味しかった~!

「さ、そろそろスマホを返し……」

 バッとポケットをガードされる。困ったね。

 ……しゃーない。テレビでも見るか。

「葵ハルさん、失踪事件の続報です。アオイグループ会長、葵吾文《あおい・ごもん》さんの一人娘、ハルさんの失踪から一日が経ちました。警察では事件の可能性も考慮し……」

 思わず、横でにこにこ笑顔の彼女を見る。テレビの手配人物そのものだ。アオイグループといえば、超大企業……!

「かーえーしーなーさーいー!」

「やーだー!」

 二人で、スマホの奪い合い。

 まずいな。こうして大騒ぎしてるだけでも、ご近所様の耳目が……。

 そして、先に息切れするのは、年上の私のほう。

「お願い……私の立場も考えて……私、一介の市役所職員なのよ……」

 肩で息しながら、彼女に乞う。惨めだけど、変な嫌疑とか、かけられるわけにいかない。

「わたしだって、一介の会長令嬢です……! 何の力もないけれど、親の敷いたレールに乗って生きるのは、もうイヤなんです……!」

 向こうも、息も絶え絶えに反論。親の敷いたレールに反発するご令嬢か……。こんな、マンガから抜け出してきたみたいな子が、現実に存在するとは。

 そのとき、不意にチャイムが鳴った。

「一旦休戦。隠れてて」

 小声で言うと、ハルちゃんはトイレに隠れました。

「はい、どちら様でしょう?」

「F警察署の者です。少し、お話を伺いたいのですが」

 ギャーッ!! 速攻特定された!?

 どうしよう? どうしたらいいの!?

 断るのも怪しいし。

 ええい!

「はい、どういったお話でしょうか」

 意を決して、平静を装いつつ、ドアを開けると、二人組の男性が立っていた。

「どうも。私、こういう者です」

 名刺代わりに、警察手帳を見せてくる。私服だから、刑事さん? うわ~……。モノホンですよぉ……。

「葵ハルさん失踪のニュースは、ご覧になりましたか?」

 うーん、ここはしらばっくれてもなあ……。

「はい。先ほど」

「それは話が早い。実はですね、昨夜あなたそっくりの女性が、ハルさんと思しき女性と、タクシーでどこかへ行ったという証言を得ましてね。で、ご自宅を突き止めまして。少し、お話を聞かせていただければと」

 ドキーン! やばい! 絶対にやばい!!

「えーとですね……その……」

 まずい。私、嘘がつけない性格なのよーッ!!

 刑事さんたちが頷きあう。

「お寛ぎのところ恐縮ですが、署までご同行願えませんか?」

 ひいっ!

「ちょっと待ったぁーッ!」

 そこに、トイレのドアをバーンと開けて、のしのしとやってくる張本人!

「たしかに、わたしが葵ハルです。このおねーさんは、誘拐犯とかじゃありません! わたしが、自分の意志で、こちらにお邪魔しているんです!」

 この急展開に、私も刑事さんも困惑!

 アイコンタクトを送り合う彼ら。

「そういうことでしたら、未成年でなし、我々はどうにもできませんね。ただ、お父様にご報告はさせていただきますが、よろしいですか?」

「どうぞ、ご勝手に!」

 腕組みして啖呵を切るハルちゃんに、「やれやれ」といった様子で肩をすくめて、刑事さんたちは帰っていきました。

「というわけで、よろしくね、おねーさん!」

 至極明るい調子で、肩をポンと叩いてくる彼女。

 なんか、私の意思に反して、どんどん引き返せなくなっていくぅ~!

 この先、どうなっちゃうんだろー? とほほ。
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