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第一章
08:脱衣開始
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私は息を呑んだ。喉が痛いほどに乾いていた。
ナターシャの首にかかるあの巨大な手。それを見ただけで、心臓が軋むほどに鼓動を打った。
あの暴力の重さを、私は間近で見てきた。現時点でガルムを斃せる者は王都には存在しないだろう。
──あれに逆らえば、ナターシャは死ぬ。
私はゆっくりと顔を上げた。視線の先には、嗜虐に満ちた笑みを浮かべたガルムが立っている。周りには、怯えながらも成り行きを見守る数十人もの生徒たち。
皆の前で、この身を晒せというの?
「……約束しなさい」
私は唇を噛みながら言った。
「私が脱いだら……彼女を解放すること。絶対に、傷一つつけないと誓いなさい」
「ああ、戦士の誇りにかけて誓ってやる。ただし、ちゃんと“見せ物”になったらな」
ガルムはまるで狩りの成果を自慢するように、満足げに笑った。自分の優位はもはや揺るがないと確信しているのだろう。
この男が私との約束を守る保証はない。
それでも、私はうなずき、上着のボタンに手をかける。
「やめてください、セレナ様! わたしなんかのために!」
ナターシャの叫びが耳に刺さった。私は彼女に視線を向け、微笑んだ。
「私は大丈夫。貴族として言葉には責任を持つ。それに……あなたを失いたくないの」
覚悟は決まっていた。
けれど、その場に立ち尽くしながら、私は自分の身を包む服に目を落とす。
高級オーダーメイドの貴族服──黒のロングベストには家紋の刺繍、艶やかな光沢を持つ濃紺のブラウス、銀糸のチェーン飾り、背中まで届く編み上げのコルセット。膝までを覆うタイトなキュロットに、黒いハイソックスと革靴。
この服は、私の誇りだった。令嬢としての矜持、品位、誰にも媚びない生き方の象徴。
それを今から、自らの手で脱ぐのだと思うと、膝が震えた。
視線の先で、ガルムが片眉を上げていた。唇の端を歪めるその顔には、誇らしげな色さえ滲んでいた。
この服を脱げば、私は守ってきたすべてを、失うのではないか。そんな恐怖が、胸の奥をきゅっと締めつけた。
それでも、ナターシャを助けるために。守るために脱ぐと決意した。
私は、服のボタンに手を伸ばす。
カチ、カチ、と一つずつ。外れていく前合わせの留め具。
ボタンを外すたびに、手が震えた。周囲の視線を意識してしまう。空気が、皮膚に貼り付いてくるようだった。
体にしっかりと馴染んだ上着。その重みが、まるで自分の決意を問いただすように重く感じた。
そして私は、バサリと上着を地面に落とした。
目を閉じ、息を整えた。身体を反らして、コルセットに手をかける。
「……くっ」
紐がきつく、思うように外れない。時間がかかってしまっている。焦りが手元を狂わせた。そもそも、コルセットは一人で着脱できるような構造では無かった。
「おいおい、手間取ってんな。そこの坊主ども、手伝ってやれ」
「なにを……?」
脈絡のないガルムの命令に、男子生徒たちがどよめいた。
「え、えっ!? そんな……」
「セレナ様の服を……? いや、でも……」
「恐れ多いというか……」
数人の男子生徒が、おずおずと前に出てくる。選ばれたのは三人だった。だが、足は止まりがちで、互いに顔を見合わせては、腰が引けている。
「グズグズしてんじゃねえ。殺すぞ」
ガルムが苛立ちをあらわにし、唸るように言い放つ。
その一言で、生徒たちはピクリと身体を震わせ、跳ねるように歩き出した。
私の下に男子生徒が近づいてきた──私の服を脱がすために。
ナターシャの首にかかるあの巨大な手。それを見ただけで、心臓が軋むほどに鼓動を打った。
あの暴力の重さを、私は間近で見てきた。現時点でガルムを斃せる者は王都には存在しないだろう。
──あれに逆らえば、ナターシャは死ぬ。
私はゆっくりと顔を上げた。視線の先には、嗜虐に満ちた笑みを浮かべたガルムが立っている。周りには、怯えながらも成り行きを見守る数十人もの生徒たち。
皆の前で、この身を晒せというの?
「……約束しなさい」
私は唇を噛みながら言った。
「私が脱いだら……彼女を解放すること。絶対に、傷一つつけないと誓いなさい」
「ああ、戦士の誇りにかけて誓ってやる。ただし、ちゃんと“見せ物”になったらな」
ガルムはまるで狩りの成果を自慢するように、満足げに笑った。自分の優位はもはや揺るがないと確信しているのだろう。
この男が私との約束を守る保証はない。
それでも、私はうなずき、上着のボタンに手をかける。
「やめてください、セレナ様! わたしなんかのために!」
ナターシャの叫びが耳に刺さった。私は彼女に視線を向け、微笑んだ。
「私は大丈夫。貴族として言葉には責任を持つ。それに……あなたを失いたくないの」
覚悟は決まっていた。
けれど、その場に立ち尽くしながら、私は自分の身を包む服に目を落とす。
高級オーダーメイドの貴族服──黒のロングベストには家紋の刺繍、艶やかな光沢を持つ濃紺のブラウス、銀糸のチェーン飾り、背中まで届く編み上げのコルセット。膝までを覆うタイトなキュロットに、黒いハイソックスと革靴。
この服は、私の誇りだった。令嬢としての矜持、品位、誰にも媚びない生き方の象徴。
それを今から、自らの手で脱ぐのだと思うと、膝が震えた。
視線の先で、ガルムが片眉を上げていた。唇の端を歪めるその顔には、誇らしげな色さえ滲んでいた。
この服を脱げば、私は守ってきたすべてを、失うのではないか。そんな恐怖が、胸の奥をきゅっと締めつけた。
それでも、ナターシャを助けるために。守るために脱ぐと決意した。
私は、服のボタンに手を伸ばす。
カチ、カチ、と一つずつ。外れていく前合わせの留め具。
ボタンを外すたびに、手が震えた。周囲の視線を意識してしまう。空気が、皮膚に貼り付いてくるようだった。
体にしっかりと馴染んだ上着。その重みが、まるで自分の決意を問いただすように重く感じた。
そして私は、バサリと上着を地面に落とした。
目を閉じ、息を整えた。身体を反らして、コルセットに手をかける。
「……くっ」
紐がきつく、思うように外れない。時間がかかってしまっている。焦りが手元を狂わせた。そもそも、コルセットは一人で着脱できるような構造では無かった。
「おいおい、手間取ってんな。そこの坊主ども、手伝ってやれ」
「なにを……?」
脈絡のないガルムの命令に、男子生徒たちがどよめいた。
「え、えっ!? そんな……」
「セレナ様の服を……? いや、でも……」
「恐れ多いというか……」
数人の男子生徒が、おずおずと前に出てくる。選ばれたのは三人だった。だが、足は止まりがちで、互いに顔を見合わせては、腰が引けている。
「グズグズしてんじゃねえ。殺すぞ」
ガルムが苛立ちをあらわにし、唸るように言い放つ。
その一言で、生徒たちはピクリと身体を震わせ、跳ねるように歩き出した。
私の下に男子生徒が近づいてきた──私の服を脱がすために。
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