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本編
降臨する神
しおりを挟む聖都の中心にあるシンボル的な巨大な大聖堂は、石造りのドーム型建築で、教皇の住まう宮殿兼教皇庁が隣接している。
さらにその他、国賓など貴人を迎える迎賓館、修道士及び修道女、僧兵の宿舎、用途に応じた複数の礼拝堂などいくつもの建物や広場、回廊、中庭などが併設されている。
プロヴァリー王国からの弔問団は、迎賓館に案内された。
「こちらで葬儀の時刻が来るまで待機していただき、後ほど案内の者と共に大聖堂へ移動していただきます。
なお、聖女リリアーヌさまは、先ほど大通り広場にて穢れを受けられましたので、お清めをしてから大聖堂へお越しくださいますよう、お願いいたします」
玄関ホールの前で、ひとりの修道女が前に進み出た。
「わたしが聖女さまを、お清めのための洗清舎までご案内いたします」
リリアーヌが修道女と共に行こうとすると、ニコラも当然のように護衛するため帯同する。
中庭には白や薄桃色のカルーナや薄紫のサフランの花が揺れている。
その庭を囲む屋根付き列柱歩廊を通り、洗清舎へ向かう途中で、ニコラはリリアーヌに小声でささやいた。
「昨日の話だけど、もしかすると、今がチャンスかもよ?」
リリアーヌは頷き、修道女に話しかけた。
「修道女さま。私は教皇聖下の葬儀に参列するために聖地に参りました。
ですがぜひ、この機会に枢機卿猊下に赦しの秘蹟をお願いしたいのです」
「聖女さまが、猊下に赦しの秘蹟を望まれるのですか?」
修道女はフレイア神によって選ばれた聖女が、犯した罪を高位聖職者によって聖霊を介して許されるという、秘蹟の業が必要なのかと、驚いたように目を瞠った。
「はい。俗世に生きていますと、どうしても心ならずも罪を犯してしまうことが……。
それで、プロヴァリーから来た人たちには、内密にお願いしたいのです」
「猊下は、教皇座空位の今、お忙しいですから」
同情的な表情をしつつも、修道女は断った。
リリアーヌは指から指輪を一つ外し、修道女の手に握らせた。
「どうか、さほどお時間は頂きませんから」
「……分かりました。一応、お話は通してみますが、ご希望に添えるかどうかは」
「ありがとう」
洗清舎の前まで来ると、修道女はニコラに留まるように言った。
「ここから先は、聖職者以外の立ち入りを禁じられています。騎士さまはここでお待ちください」
「えっ、俺は聖騎士で、聖女さまの守護を教会から命じられているんだけど?」
「規則ですので。聖女さまが身を清める間は、わたしが付き添わせて頂きます」
「……ニコラ、ここで待っていて」
リリアーヌにたしなめられると、ニコラは仕方なしに頷いた。
洗清舎の中に入ったリリアーヌは、控室で渡された前合わせの白衣に着替える。
着ていた喪服の礼装ドレスは、洗清舎にいた別の修道女が「お清めして参ります」と箱に入れて持って行った。
穢れを清める場所は、洗清舎の中にある小規模な礼拝堂だ。
高窓が並んでいて、中は明るく開放的な雰囲気が漂う。
左右に等間隔で天使の像が置かれており、正面の壇上には等身大の慈悲深く微笑む主神フレイアの像が安置されている。
中央の床に大理石の浅い水槽が供えられ、真ん中に手洗い用の水盤が置かれていた。
「裸足でお清めの水に入って頂き、洗盤で手を洗われたら、お戻りください」
リリアーヌは修道女に促されて、中央の水槽に入った。
浅いスロープになっていて、水の深さは足首より少し上くらいだ。
真ん中に設置された洗水盤で手を洗うと、リリアーヌは一歩下がり、壇上のフレイア神像に深々と礼を取った。
すると、その時――。
ゴォォォォと耳鳴りがして、深い水底からゴボゴボと泡が水面に向かって浮上するような音がする。
夢の中で聞こえた、咳き込むような不思議な未知の言語で、何者かに呼ばれたような気がした。
驚いたリリアーヌが辺りを見回すと、礼拝堂に居たはずの修道女の姿はなく――。
静まり返った礼拝堂の正面の壇上にある神像が、まばゆいばかりに白く輝き始めた。
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