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本編
王妃と寵姫 2
しおりを挟むエレオニーが、再び王宮に戻って来た。
王の唯一の息子をその腕に抱えて。
リリアーヌは、夫の子を産んだ愛人と、また顔を合わせなければならない。
それはたいそう気が重いことだった。
(宮廷を去ったあの 女に、もう会うことは無い、と思っていたのに。
洗礼式にエレオニーが出席を許されたのは百歩譲ったとして、王子の受け渡しは、女官長にやってもらえばいいわ)
そう考えていたのに、エレオニーの方から「フェリクス殿下を、直接王妃さまにお渡ししたい」と申し入れがあった。
母親でありながらわが子を育てられず、王妃の手に委ねるしかないエレオニー。
我が子を得られず、夫の愛人の子を育てるリリアーヌ。
どちらも辛いだろうけれど、リリアーヌにはかわいい子供の成長する姿を見られないエレオニーの方が、不幸に思えた。
「子供には何の罪もないのだから。フェリクス王子の幸せを一番に考えなければ……」
王子の受け渡しの場に、ジェレミーも一緒に居てくれるようにと頼む。
「ジェレミーには、私の隣にいて欲しいの。あの 女の横ではなく」
「……ああ、分かった」
侍従が内廷の小広間の扉を開ける。
国王夫妻が赤い絨毯の上を歩いて入って行くと、エレオニーたちは一斉に腰を低くして、頭を下げた。
エレオニーは子供を産んでなお、輝くように美しく、母親になった自信に満ちあふれているように見えた。
中年の側仕えの女が王子を抱き、その後ろに乳母や従者も控えていた。
小広間には王宮の女官長や侍女たち、国王夫妻を守る衛兵なども壁際に立っている。
「公爵夫人、これまでフェリクスの世話役、大儀であった」
ジェレミーが、エレオニーに労わりの声をかけると、潤んだ菫色の瞳で王を見上げる。
「もったいないお言葉でございます」
エレオニーはすぐさま視線を落として、次の言葉を待つ。
「フェリクスをこちらへ」
「はい、陛下」
側仕えの女からエレオニーは、王子を受け取る。
お包みにつつまれた赤子はスヤスヤと眠っていた。
エレオニーは前に進み出て、直接王子を王妃へ渡そうとした。
リリアーヌは、エレオニーとの接触を、どうしようもなく心が拒絶した。
女官長に合図して間に入ってもらい、女官長から王子を渡してもらう。
すると今まで大人しく寝ていた赤子が目を覚まし、リリアーヌの腕の中で、突然火がついたように泣き出した。
顔を真っ赤にして、のけぞるように小さな手足を突っ張らせ、大粒の涙をこぼす。
あわてて泣く子をあやしながらリリアーヌは、自ら選びこの場にも連れて来た乳母に助けを求める。
王妃に変わって乳母が王子を抱き、子供部屋へと連れて行く。
ジェレミーはそんな王妃を、値踏みするような目で見ていた。
「フェリクスは余の王子だ。王妃にとっては継子なれど、実子のように愛し、善き継母になって欲しい」
「――心して努めます、陛下」
(そんなこと、ジェレミーにここで釘を刺されなくても、覚悟してるわ。
わざわざエレオニーや他の人々の前で言わなくてもいいのに……)
リリアーヌの心の中に、もやもやしたものが広がっていく。
そして公現節、幼児洗礼式の当日。
フレイア神聖王国より教皇を迎え、また典礼の後の祝宴の準備などもあって、王宮中が慌ただしくしている中、ようやくニコラが帰って来た。
「只今、帰国いたしました。これより、リリアーヌさまの守護聖騎士の任務を再開させていただきます」
「お帰りなさい、ニコラ。積もる話は、後でゆっくりと聞かせてもらうわ」
数か月ぶりに会うニコラは、日に焼けて随分とたくましくなったようだ。
少し背丈も伸びたような気がする。
リリアーヌは無事にニコラが戻ってくれて、涙が出るほどうれしかった。
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