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第四章 コセディアの王女
円卓会議
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「カイン!!」
ガーゴイル像が等間隔に並ぶ石の回廊で、諸侯との会議に向かう彼に追いつくことが出来た。
オルグさんも一緒だ。
「……どうした?」
走って来たので、ゼイゼイと息切れするのを、なんとか落ち着かせる。
「セレーネのことだけど、彼女がどうなるのか気になって……。この一ヵ月、家庭教師のお世話になったから」
「そうか。今日は12人の魔族の諸侯らが集う。セレーネを欲しい者に、名乗りを上げてもらうつもりだ。複数ならその中から、彼女に選ばせてもいい」
「彼女がどうしても嫌だという男のところには、やらないであげて……」
「ふむ、その時はこの洞窟城にセレーネ殿が残る、ということになりますな?」
意味深に頷く、オルグさんが憎たらしい。
「そんなに心配なら、ナギサも一緒に来い」
彼が私の手を取り、会議を行う広間に一緒に入った。
洞窟城(ヘーレンブルク)の円卓会議は、王以外の出席者に序列を定めないため、上座下座のない円卓が用いられている。この広間の円卓は、13席用意されていた。そこに12人の魔族の諸侯や長らがすでに着席していた。
一同は起立し、カインが座ると一礼して、彼らも席に着いた。
私はというと、カインの膝の上に座っている。会議の席で、いいのかな……。
「それでは、今月の定例円卓会議を始めます」
司会のオルグさんの宣言で、会議が始まった。
円卓会議のメンバーは、ケトッシー村の村長、蜘蛛一族の代表でアラクネー、先ほど図書室であったオークの長と吸血鬼辺境伯、西の森の魔女、樹人族の長、沼地のリザードマンの代表、狼人族の長、ドワーフ工房の長、ホブゴブリン、司会のオルグさん、そしてフラウも居た。
会議は、12の諸侯が順番に、月例報告をしていく。
迷宮の草原エリアの猫人族村の村長から、立ち上がり発言した。
「ケトッシー村では今年も麦が豊作で、水田による稲作も順調です。刈入れの日には、今年は昨年よりも応援の増員を要請致します」
すぐに挙手したのは、オークの長。
「それなら、うちの若い者を去年の倍、40人を借り入れが終わるまで行かせよう。麦は半年の熟成期間が必要だ。麦の倉庫の増設もするなら、大工のスキル持ちもつけるぞ」
「おお、それはありがたい、ぜひとも」
さらにケトッシー村の村長は、ドワーフ親方の方を向いて尋ねた。
「注文した農工具は、刈入れ前に納品を頼んでいるが、倉庫増設に必要な工具も追加でお願いできるだろうか」
「もちろんだ、会議の後で打ち合わせと見積もりをしよう」
ドワーフ親方は、まかせろと、自分の胸を叩いて見せた。
内政の報告が一通り終わると、次は吸血鬼辺境伯の諜報活動の報告が始まった。
勇者の国に、川を隔てて隣接する辺境の地の領主として君臨するランバルド辺境伯は、コセディアの王都にも諜報員を放っている。
「先のロドの町を襲った魔獣の群れの事件は、人族共には『ロドの災厄』と呼ばれています。
各地で魔獣の活動が活発化しており、この件についてはコセディアの第二王子ユリウスが調査に当たっているという情報がありました。
尚、勇者である王はイオニアの離宮で静養中という名目でここ数年間一切、公式行事にも出ていないのは変わらずです。
王の代理を務めるアレクシス王太子は、自分の側近を宰相に取り立てるなど、さらなる政治的地盤を着々と築いており……」
諸侯の報告が終わると、司会のオルグさんがセレーネの件について、議題を出した。
「それでは、これより魔王さまより、コセディア王国王女セレーネ殿を、諸侯らの何れかに下賜されるご意向について、最終決定を行う」
カインが一同を見回し、口を開いた。
「皆も知っての通り、セレーネは諸刃の剣だ。魔法契約を施してはあるが、彼女の存在そのものが人族との争乱の火種になることは言うまでもない。それでも我らに取り込む利点が十分にあると判断し、じゃじゃ馬慣らしが出来る自信のある者は、挙手するがいい」
手を上げたのは、オークの長だった。
「なんだ、我だけか?」
「「「「異議なし!!」」」」」
「では、オークの長にセレーネを与える」
オルグさんが、円卓会議の終了を告げ、ゴブリンの長がこの後、晩餐会が食堂で催されると伝える。
私を片手で抱いたままカインが、立ち上がると一同は再び起立して、頭を下げた。
石の回廊をカインは私を抱っこしたままで、歩いて行く。
彼と目の高さが同じだから、このまま話しかけることにした。
「セレーネがもし、オークの長を嫌だと言ったら……」
「ナギサ……お前の願いは、なんでも叶えてやりたい。だがセレーネは、我らの敵側の人間だ。
命を助けただけでも、寛大な処遇をしている。これもセレーネが、ナギサと同じエルフの血筋を引くと思えばのことだ。
心配するな、オークの長は頼りになる男だし、情も深い。懐に入れた女を大切にするだろう」
セレーネの父、勇者はカインのご両親を殺した。でもカインは、セレーネの命を奪わない。
幽閉するわけでもなく、彼女にオークの長という保護者を与えた。
色んなことを考えてカインが決めたのなら、もう何も言えなかった。
……セレーネが、好きな人と結婚出来たらいいのに。
色んな背景や、運命がそうさせてくれないようだ。
私にはカインが居るけどって、彼女に申し訳ないような気持ちになるのも、きっと間違っているよね?
だって、私は……カインを誰にも渡したくないし、独占したいと思っているんだから……。
ガーゴイル像が等間隔に並ぶ石の回廊で、諸侯との会議に向かう彼に追いつくことが出来た。
オルグさんも一緒だ。
「……どうした?」
走って来たので、ゼイゼイと息切れするのを、なんとか落ち着かせる。
「セレーネのことだけど、彼女がどうなるのか気になって……。この一ヵ月、家庭教師のお世話になったから」
「そうか。今日は12人の魔族の諸侯らが集う。セレーネを欲しい者に、名乗りを上げてもらうつもりだ。複数ならその中から、彼女に選ばせてもいい」
「彼女がどうしても嫌だという男のところには、やらないであげて……」
「ふむ、その時はこの洞窟城にセレーネ殿が残る、ということになりますな?」
意味深に頷く、オルグさんが憎たらしい。
「そんなに心配なら、ナギサも一緒に来い」
彼が私の手を取り、会議を行う広間に一緒に入った。
洞窟城(ヘーレンブルク)の円卓会議は、王以外の出席者に序列を定めないため、上座下座のない円卓が用いられている。この広間の円卓は、13席用意されていた。そこに12人の魔族の諸侯や長らがすでに着席していた。
一同は起立し、カインが座ると一礼して、彼らも席に着いた。
私はというと、カインの膝の上に座っている。会議の席で、いいのかな……。
「それでは、今月の定例円卓会議を始めます」
司会のオルグさんの宣言で、会議が始まった。
円卓会議のメンバーは、ケトッシー村の村長、蜘蛛一族の代表でアラクネー、先ほど図書室であったオークの長と吸血鬼辺境伯、西の森の魔女、樹人族の長、沼地のリザードマンの代表、狼人族の長、ドワーフ工房の長、ホブゴブリン、司会のオルグさん、そしてフラウも居た。
会議は、12の諸侯が順番に、月例報告をしていく。
迷宮の草原エリアの猫人族村の村長から、立ち上がり発言した。
「ケトッシー村では今年も麦が豊作で、水田による稲作も順調です。刈入れの日には、今年は昨年よりも応援の増員を要請致します」
すぐに挙手したのは、オークの長。
「それなら、うちの若い者を去年の倍、40人を借り入れが終わるまで行かせよう。麦は半年の熟成期間が必要だ。麦の倉庫の増設もするなら、大工のスキル持ちもつけるぞ」
「おお、それはありがたい、ぜひとも」
さらにケトッシー村の村長は、ドワーフ親方の方を向いて尋ねた。
「注文した農工具は、刈入れ前に納品を頼んでいるが、倉庫増設に必要な工具も追加でお願いできるだろうか」
「もちろんだ、会議の後で打ち合わせと見積もりをしよう」
ドワーフ親方は、まかせろと、自分の胸を叩いて見せた。
内政の報告が一通り終わると、次は吸血鬼辺境伯の諜報活動の報告が始まった。
勇者の国に、川を隔てて隣接する辺境の地の領主として君臨するランバルド辺境伯は、コセディアの王都にも諜報員を放っている。
「先のロドの町を襲った魔獣の群れの事件は、人族共には『ロドの災厄』と呼ばれています。
各地で魔獣の活動が活発化しており、この件についてはコセディアの第二王子ユリウスが調査に当たっているという情報がありました。
尚、勇者である王はイオニアの離宮で静養中という名目でここ数年間一切、公式行事にも出ていないのは変わらずです。
王の代理を務めるアレクシス王太子は、自分の側近を宰相に取り立てるなど、さらなる政治的地盤を着々と築いており……」
諸侯の報告が終わると、司会のオルグさんがセレーネの件について、議題を出した。
「それでは、これより魔王さまより、コセディア王国王女セレーネ殿を、諸侯らの何れかに下賜されるご意向について、最終決定を行う」
カインが一同を見回し、口を開いた。
「皆も知っての通り、セレーネは諸刃の剣だ。魔法契約を施してはあるが、彼女の存在そのものが人族との争乱の火種になることは言うまでもない。それでも我らに取り込む利点が十分にあると判断し、じゃじゃ馬慣らしが出来る自信のある者は、挙手するがいい」
手を上げたのは、オークの長だった。
「なんだ、我だけか?」
「「「「異議なし!!」」」」」
「では、オークの長にセレーネを与える」
オルグさんが、円卓会議の終了を告げ、ゴブリンの長がこの後、晩餐会が食堂で催されると伝える。
私を片手で抱いたままカインが、立ち上がると一同は再び起立して、頭を下げた。
石の回廊をカインは私を抱っこしたままで、歩いて行く。
彼と目の高さが同じだから、このまま話しかけることにした。
「セレーネがもし、オークの長を嫌だと言ったら……」
「ナギサ……お前の願いは、なんでも叶えてやりたい。だがセレーネは、我らの敵側の人間だ。
命を助けただけでも、寛大な処遇をしている。これもセレーネが、ナギサと同じエルフの血筋を引くと思えばのことだ。
心配するな、オークの長は頼りになる男だし、情も深い。懐に入れた女を大切にするだろう」
セレーネの父、勇者はカインのご両親を殺した。でもカインは、セレーネの命を奪わない。
幽閉するわけでもなく、彼女にオークの長という保護者を与えた。
色んなことを考えてカインが決めたのなら、もう何も言えなかった。
……セレーネが、好きな人と結婚出来たらいいのに。
色んな背景や、運命がそうさせてくれないようだ。
私にはカインが居るけどって、彼女に申し訳ないような気持ちになるのも、きっと間違っているよね?
だって、私は……カインを誰にも渡したくないし、独占したいと思っているんだから……。
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