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事情聴取
しおりを挟む私たちは礼拝堂から場所を移し、本館の巡察官に与えられた執務室に来ていた。
執務室の壁には豪華なタペストリーが飾られ、季節外れの暖炉には絵画や真紅の薔薇が飾られている。
「祝宴の前なのに、すみませんね」
灰色の髪、緋色の瞳の小柄な老人の姿をしたギルメットは、温厚そうな笑みを私たちに向けた。
どっしりとしたオーク材のテーブルの席についているのは、巡察官のユー・シュエンとギルメット、私とアロイス、フレミー司教で、副官パトリスと女騎士リゼットは私たちの後ろに立っていた。
この部屋の中で、不死者でない者は、私一人だけだ。
あの後――巡察官から私に、昨夜のクレモン城下町の教会で蘇生の儀式が失敗した経緯について、話を聞きたいという申し入れがあった。
アロイスは自分が立ち合うこと、同時にフレミー司教とリゼットも同席する条件で許可をした。
もしもアロイスと結婚していなかったら、私だけが審議の部屋に連れて行かれ、この巡察官二人から取り調べを受けることになっていたらしい。想像するだけで、ぞっとする。
「蘇生の儀式が失敗するなど、教会の権威が失墜する大変な事件です。
我々はこの件に関して、調査しなければなりません」
向かい合わせに座ったテーブルの向こうで、黒っぽい地味な僧服を着たギルメットは、書き付けた紙に目を落とした。
「ええ、もちろん。こちらとしてもそのつもりです。
巡察官どのがお手を貸して下さるというのは、心強い限りです」
アロイスはにこやかに答えた。
これは貴族的な婉曲表現で『領地のことは自分たちで解決する。お前たちも調査をしたいというなら、顔を立ててやるが邪魔はするな』くらいの意味だと思う。
フレミー司教が落ち着かない様子で、小さく身動ぎをした。その儀式を執行したのはフレミー司教なので、責任の追及を恐れているのかもしれない。
「フレミー司教とその女騎士リゼットからは、すでに調書を取らせてもらった。後はソフィ、殿だけ」
ギルメットの横に座っているユー・シュエンは腕を組んで、ずっと私を見ていた。
領主の妻に対して向ける視線にしては、不躾なのではないだろうか。
ユー・シュエンはこの状況が気に入らない様子で、何故か私を疑いの目で見ている。
「ソフィ。お二方の質問に、何でも答えるように」
アロイスはテーブル下で私の手を握り、微笑みかけた。
――僕に対して思考を送ってくれれば、君の考えていることが伝わる。これが血の絆だ。君と僕は血を交換したから。
私はわずかに目を見開くに留め、驚きを外に出さないように努めた。
この場に来る前に、アロイスと打ち合わせる時間を持つことは出来なかった。
アロイスが二人の巡察官の相手をしている間に、私は濡れた服を着替え、すぐここに連れて来られたから。
隣にいるアロイスの存在を強く感じた。これも血を交換したせいなの?
「昨夜の儀式を中断させた、影の魔物に心当たりは?」
「ありません、初めて遭遇しました」
ギルメットは、書き付けにさらさらと羽ペンを滑らしてていく。
次に、ユー・シュエンが質問した。
「蘇生の対象になった人間は、ソフィ殿の同郷のマルクだよねぇ。リゼットに頼んで俺たちの仲間にしちゃったのは、どういうこと?」
アロイスは握っていた私の手に、ぐっと力を入れた。
――儀式が失敗した時、リゼットから申し出てくれたの。
私はアロイスに向けて、心の中で語りかけた。
――リゼットからそう聞いている。そのまま話すんだ。
「マルクの命を助けるために、リゼットさまが申し出てくださいました」
「でもさぁ、貴族を増やすってことは陛下の許可がいるし、その許可は通常、簡単には下りないんだよ。
たまたまその眷属化の許可を持った騎士が、稀にしか失敗しない儀式の場に居合わせて、その権利を対象者に施行したっていうのが、なんか引っかかるんだよねぇ」
「そこは深く考えなくてもよいのではないですか。
ソフィは僕の妻になる者で、リゼットは彼女の護衛としてつけていました。
リゼットは僕に忠誠を誓っているから、ソフィの意向に沿う形になったのでしょう」
「そうだねぇ。マルクは伯爵の同郷でもあるし。リゼット君からも、話は聞いてるけどさ」
「その通り」
後ろから、リゼットが答えた。
「ところで……ソフィ殿は、ヴィーザル村の御出身なんですね。以前の魔獣被害はお気の毒でした」
急に、ギルメットから別の話を振られて戸惑う。
「はい、ありがとうございます」
「あなたが、冥界の女神信仰に改宗されたこと、私は大変うれしく思っていますよ」
背中にじっとりと、嫌な汗をかいている。隣にアロイスが居ることに、心から感謝した。
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