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薬草飴
しおりを挟む薬草小屋に、砂糖を煮詰めた甘い香りが広がった。
今、調合用のかまどの火にかけている鍋の中身は、モカル草を使った薬草飴の材料だ。
モカルの薬草飴は風邪の初期症状や貧血、心を癒す効能がある。
濃い目に入れたモカル茶と砂糖、水飴を鍋に入れ、掻き回さずに沸騰させる。
一定の温度まで上げてからレモン汁を加え、火からおろして鍋底を一瞬水につける。余熱を取るためだ。
オイルを薄く塗った容器の中に流して、触れるくらいまで冷ます。
冷えて固まってきた飴を伸ばしたり折りたたんだりを繰り返し、中に空気を入れつやを出しながら、女官長に言われたことを考えていた。
アロイスが貴族同士で政略結婚する可能性とか、薬師の仕事をこれからどうするべきか、とか。
女官長は私が身分をわきまえた上で、アロイスを中心とした生活を送るようにと言った。
そして薬師の仕事など、他の者に任せなさいとも。
貴族同士の政略結婚。それを聞かされた時、心の中にひりつくような灼熱の感情が湧きあがった。
アロイスに話せば、きっと「女官長の言葉は気にするな」と言ってくれるとは思う。
もしかすると私の話し方次第では、女官長が罰せられてしまうかもしれない。
昨夜のルイーズを見るアロイスの目が、とても恐ろしかったことを忘れてはいけない。
私が考えなくてはいけないのは、もっと彼の立場を知ることだ。
彼はサシャ王によってこのノワールの領主に任命されているけれど、巡察官によって監視されているし、好き勝手が出来るわけじゃない。
そして昼間はアロイスに代わって城代ジェラルドをはじめ他の人間達が、真紅の薔薇城を守っている。
私の言動によって、アロイスや周りの人たちに迷惑をかけないように気をつけないと……。
「いい匂いだなぁ」
考え事をしながら薬草飴を棒状に成形して、はさみで食べやすい大きさに切っていると、窓からベックがひょいと顔を出してノー天気に呟いた。
ベックは、小屋の中にずかずかと入って来て、出来たての飴をひとつ、指で摘まんで口の中に放り込んだ。
「甘いっ」
「もう、仕方のない人ね」
「これ、喉に良さそうだね! 俺にも一袋ちょうだい。明日から冒険者ギルドの依頼で、エタン村まで行くんだ」
エタン村は城から西の方角にある、まだできたばかりの開拓村だ。
「ぼくも、ベックと一緒に行きたいんです」
ヨハンが飴作りの作業の手を止めて、私の方を向いた。
「えっ、ヨハンも? 大丈夫なの?」
「商隊の護衛なんだけど、ヨハンは御者もできるしね。他に中堅どころの冒険者も何人かいるから心配ないよ」
私は思わずアンヌと顔を見合わせた。アンヌも知らなかったようで、驚いている。
ヨハンは当分、町の周辺の依頼を受けると思っていたのに。
「……分かったわ。気をつけて。ベック、ヨハンをお願いね」
「任せて。ヨハンのことはちゃんと面倒みるし。お土産を楽しみにしてて」
ベックは片目をつぶって、陽気に請け合った。
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