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第二部 妖精姫の政略結婚
王妃と宰相
しおりを挟む「妖精の森の国の麗しい大輪の花、王妃陛下。
フランシス・ヴィーセルグレーン、拝謁賜りましたことを感謝申し上げます」
王妃の居間に入ったフランシスが、深々とお辞儀をする。
そこは足の踏み場もない程、様々な反物や装飾品、白磁器の食器や置物が所狭しと並べられていた。
長椅子に腰かけている王妃は、商人達の説明を聞きながら、熱心に絹や上質の白麻の布を手に取って吟味しているところだった。
「あら……あなたは?」
キョトンと小首を傾げてフランシスを見る仕草が、ユーリア姫と似ている。
側に控えていた猫妖精の侍女が見かねて、王妃の耳元でささやく。
「末姫さまの従者です。今日は面会のご予約があり、先ほどからずっと待合室にいましたので……王妃さまにご確認したら、通しなさいとおっしゃっいましたが」
「ああ、そうだったわね。つい、陛下の衣替えの衣装選びに熱中してしまって」
ふふ、と柔らかく微笑むと王妃は、改めてフランシスを見た。
「今日はユーレシア姫の通婚について、ご相談したくまかり越しました」
「末姫の通婚の準備のことなら、全部お前に任せるわ。わたくしは、陛下の衣替えで手一杯なの」
フランシスはギリ、と歯を食いしばった。
(母親なのに、娘の婚姻に関心がないのか!)
「いえ、そうではなく、辺境伯との婚姻そのものが、ユーリア姫を幸福にするのか危うい状況で――」
「その金のバックルのついたベルトを見せて。この野蚕の絹織物とよく合いそうだわ」
王妃は目に入った品物を商人から受け取って、しげしげと見る。
商人はフランシスを気にしながらも、自らの最大の顧客に商売を続けるつもりらしい。
「さすが王妃さま、お目が高い。この金具は都一の錬金術師が錬成したものでして――」
思わず息を吐いたフランシスに、王妃はチラリと視線をやった。
「姫たちの婚姻は、賢者会によって決定されたこと。相談があるなら賢者会の顧問菅たちのところへお行きなさい」
あまりにも素っ気ない王妃の態度に、フランシスは強い苛立ちを感じた。
「いいえ、ユーリア姫のご母堂である王妃殿下に、ぜひともお力を貸して頂きたいのです!」
フランシスの強い口調に王妃は一瞬、目を見開いた。
しかし丁度その時、がやがやと供を引き連れた妖精王がにこやかに入室して来た。
「陛下!」
その場に居た使用人たちは一斉に跪き、王妃は長椅子から立ち上がって王を迎えた。
「余の美しい妃、唯一無二の花よ。職務の合間、気分転換に中庭を散策するのはいかがか?」
「もちろん、お供いたしますわ、崇高なる陛下」
妖精王は王妃の手を取り腰に手を回して、互いにしか目に入らぬ様子で中庭に向かう。
そして王妃は王の姿を見た瞬間に、娘の従者のことなどすっかり頭から消えてしまった。
「ハッハッ。確かに両陛下は、昔からお互いに夢中で、他は何も目に入らないようであるな」
フランシスの大叔父で、この国の宰相でもあるアッサールは憤慨する又甥(またおい)を見て笑った。
「それで賢者会へ行けと王妃さまに言われて、わしのところへ来たか」
王の諮問機関である賢者会は実質的にこの国の政治を担っており、アッサールはその議長だ。
「先に、王妃さまに味方になっていただきたかったのですが」
王宮の宰相執務室の窓辺から、妖精王たちが中庭を散策するさまを、フランシスは苦々しい思いで眺める。
アッサールは、フランシスの話に黙って耳を傾けた。
「――お前の言いたいことは分かった。確かにそのような不心得者の使者を使わす辺境伯との婚姻には、不安もあろう。将来、姫の御子が辺境の地を継ぐ際には、問題が起こるかもしれぬ」
「では……!」
嬉しそうに顔を輝かせるフランシス。なんとか姫と辺境伯との婚姻を止めさせたいと、ここしばらく悩み考え続けていたのだ。
「だが、それがどうした? 大局から見れば、些細なことに過ぎぬ」
宰相の言葉に、フランシスのもふもふの尻尾がパタンと落ちた。
「大事なのは王家と辺境との結びつきと、妖精の王族の血を絶やさぬことだ」
「ですが、姫さまの幸せは――」
「それはお前が守れ、フランシス! 妖精の王族たちが神々に祈りを捧げること、彼らが絶えないように子を成すこと、それ以外は望むな。その他の雑多なことは、すべて犬妖精一族が引き受けて来た。今までも、そしてこれからもだ」
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