【R18】姫さま、閨の練習をいたしましょう

雪月華

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第二部 妖精姫の政略結婚

辺境伯との結婚9

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 寝室の前でフランシスの兄たちは、なかなか出て来ない二人を気をもみながら待っていた。

「なぁどうする? ユーリア姫はああ言っていたけど」

「そうだな。日が傾く前に、姫さまを王宮にお返ししなければ……」
 
 するとその時、寝室の扉が開いてユーリアが獣化したフランシスの背に乗って現れた。
 知性を持った金色の瞳の獣が兄たちを見渡すと、獣化した弟を初めて目の当たりにした兄たちに緊張が走った。

「――わたくしとフランシスは、駆け落ちすることに致しました」

「ユーリア姫? いったい何をおっしゃっているのですか」

 呆気に取られている兄弟たちから、一歩前に出て話しかけたのはシーグルドだった。

「フランシスと、この国を出奔します。王宮に帰って、妖精王陛下に伝えなさい」

「姫さま、どうかお立場を考えて下さい」

「軽率な行動をされると大変なことになります」

「妖精の丘から出たことのない姫さまが、外の世界でどうやって暮らしていくと言うのですか」

 兄弟たちの訴えに、ユーリアは余計心を頑なにしていく。

「フランシスをわたくしの元からさらって公爵邸に閉じこめ、嫌がる彼を結婚させようとしたあなた方には、何も言われたくありません」

 これ以上シーグルドたちと話すつもりのないふたりは、外の廊下に繋がる扉に向かった。

「待て、フランシス!」

「誰か! ふたりを止めろ!」

 兄たちがふたりの行く手を阻もうとすると、見えない バリアに弾き飛ばされた。
 廊下には、騒ぎを聞きつけた使用人たちがわらわらと現れる。
 フランシスは姫を乗せて疾走し、玄関ホールに続く吹抜けの階段を駆け下りた。
 そのまま玄関から庭に出ると、スミレ宮から姫の供をして来た者たちと公爵邸の人々の追っ手を振り切って、門を抜け郊外へ向かって走り去った。

 
 
 
 
 フランシスは追っ手を撒くと、他貴族の地所の植え込みの陰で獣化を解き姫に託してあった服を着た。

「顔色が悪いの。大丈夫?」

「ええ、少し休めば。獣化は一日に何度もできないようです……」

 二人は日が暮れるのを待って、フランシスの母親の屋敷に行くことにした。
 フランシスの母親はヴィーセルグレーン公爵の妻の一人で、王都の貴族区の郊外に屋敷を与えられて住んでいる。
 外から変わった様子がないのを確認してから、フランシスは屋敷の裏口の戸を叩いた。

「まあ、ぼっちゃん。ユーリア姫さま! なんてこった」

「はやく奥様にお知らせしろ」

「さあさあ、中へ」

 驚いた使用人たちに迎入れられると、すぐにフランシスの母がやって来た。
 優しげな雰囲気の、どこか少女のようなあどけなさの残る犬妖精クー・シーの母は、二人を見て驚いたが、あれこれ質問したりもせず居間に通して椅子に座らせると、夕食を配膳するよう召使に言いつけた。

「たくさん食べてね。食べないと元気が出ませんもの」

 テーブルに並べられたのは、仔鹿のロースト、香草と茸ソースがかけられた湖魚のグリル、胡桃入りのシナモンロール、白カブと人参のスープだった。
 ふたりは身体に優しい食材と味付けの料理を、ひとしきり味わって食べた。
 何度目かのお代わりを勧められたのを「もうお腹いっぱいです」と断ると、フランシスはカラトリーを置き、改まった様子で母に向き直った。

「母上。僕は今日、お別れを言いに来ました」

 フランシスがユーリア姫と駆け落ちして妖精の森の国を出ると話すと、母親は彼の話を中断したりもせずに、頷きながら最後まで聞いた。そして――。

「この国を出るのは得策ではないわね。私たちは森なしには生きていかれないのですもの」

「ですが――」

「最近新しく、スカディ山の麓に開拓村が出来たそうよ。明朝、王都の若い人たちが志願して商隊と共に開拓村に向かうと聞いているの。私の懇意にしている商人も一緒だから、あなた方もそこに入れてもらったらどうかしら」

 姫とフランシスは顔を見合わせた。

「でも、どうして? 母上は僕たちに味方してくれるというのですか」

「危険な人族や魔族の国に行かれるより、いいもの。貧しい開拓村の暮らしがあなた方に出来るかどうかわからないけど」

「フランシスと一緒なら、どんな暮らしだって」

 夢見るように話す姫の緑柱石エメラルドの瞳は、希望に輝いていた。

「僕もです、姫さま」

「覚悟は決まっているようね。では明日の朝は早いから、あなた方はもうおやすみなさい。旅支度はこちらでして置きますから」

「母上、ありがとうございます」

 フランシスの母は、客間に案内する召使の後ろをついて行く二人の若者たちを見送る。
 彼らが手を繋いで居間を出て行くと、ため息をついて椅子に座った。

「……これでよかったのかしら?」

 小さな声でひとり言のように呟くと、続き部屋からシーグルドが静かに姿を現した。

「もちろんです、母上」

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