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第二部 妖精姫の政略結婚
辺境伯との結婚10
しおりを挟むブレーデフェルト辺境伯との結婚式の当日、オレンジの花冠を結い上げた金色の髪にのせ、純白の長い裳裾を引いた花嫁衣裳を身に着けた美しい姫はユーリアではなく、従妹の姫だった。
従妹姫は年の離れた第一夫を亡くしたばかりの未亡人で、亡き夫の家の後継男児は健やかに成長していた。
今日従妹姫の第一夫となる花婿の辺境伯は、花嫁と揃いの白絹に襟と袖、裾に飾りの銀豹の毛皮をあしらわれたジェストコートを着て同色のズボンを穿き、花嫁をスマートにエスコートしている。
一幅の絵のように麗しい二人の妖精の王族の結婚式に出席するため、世界樹の祭壇のある妖精の丘の上へ向かう人々の群れ。
式を執り行う祭司はユーリア姫の父王で、花嫁が成り代わったことなどなかったことのように、滞りなく式は進行し無事に終了した。
その夜、スズラン宮ではいつもの就寝時間を過ぎても、アンナリーナ姫の寝台の魔道ランプの明かりが灯っていた。
「姫、まだ起きていらしたのですか?」
シーグルドが天蓋ベッドの絹のカーテンを開けると、アンナリーナは読んでいた本から顔をあげた。
「妹の本を読んでいたの。姫と騎士が駆け落ちする物語よ」
「もうお休みにならないと、お身体に障ります。続きはまた明日に」
アンナリーナから本を受け取ると、シーグルドは上掛けを身重の主にかけた。
「お休みなさいませ。良い夢を」
「明日、その本を書いた街の作家に、結末をハッピーエンドに書き直したものをわたくしに献本するように伝えなさい」
「かしこまりました」
魔道ランプを消そうと屈んだ従者に、姉姫は尋ねた。
「ユーリアたちも、辺境で幸せに暮らすのよね?」
「もちろんです、姫。王都から選りすぐりの者たちがユーリア姫についています。ご安心ください」
ユーリアとフランシスが向かったのは、ブレーデフェルト辺境伯の領地の開拓村だ。
ふたりの処遇について王宮では、再教育を行う決定をした。
開拓村で民と共に暮らすことで、現実の厳しさを教え再び妖精の王族の王女として、また主に仕える犬妖精の王子としての自覚を持たせた上で王宮に呼び戻す計画だ。
ブレーデフェルト辺境伯には従妹姫を妻に与え、さらに開拓村にユーリアを送ることでその地の豊穣を約束する。
妖精の王族は神々の血を引くゆえに、精霊が彼らのために働き、土地を豊かにするからだ。
先祖返りした犬妖精のフランシスが暴走したり、自暴自棄になったユーリア姫が心身を損なわないようにと、最大に配慮された結果だった。
かつてブレーデフェルト辺境伯の曽祖父は、王家の傍系の王子だった。
彼は王宮の猫妖精の侍女と駆け落ちして、辺境の地へ行きブレーデフェルト家を設立したという経緯があった。
その為もあってか、今回の騒動について辺境伯はすんなりと王家の提案を受け入れ、曽祖父の貸しを返すことになった。
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次話、最終回。
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