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六章 トーア、冷たき国
472.森の息遣い
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森に足を踏み入れた瞬間、ひやりとした空気が頬を撫でた。
けれど、その冷たさの中には──確かに春の気配があった。
枝先から水滴が落ちて、ぱしゃりと地面を濡らしていく。
白く残った雪の隙間から、まだ弱々しいけれど緑が顔を出していた。
木の根元には、苔がじっとりと息を吹き返している。
「・・・ここも、雪が溶けはじめてる」
ノエルが小さくつぶやいた。
その声は、少し安心したようでもあり、不安を隠すようでもある。
「ようやく春が来るのね」
母が微笑んで言う。
その声を聞くと、不思議と寒さが和らぐ気がした。
私はふと横を見た。
サラが枝から落ちた雫を頬に受けても気にせず、じっと森の奥を見つめている。
彼女の赤い瞳は、遠い何かを映しているように思えて──胸の奥がざわついた。
森は静かだ。
でも、その静けさの底で、土の奥から微かに響く振動を私は感じ取っていた。
森の息遣いってやつかも、なんて思ったが・・・果たして、そうだろうか。
耳を澄ますと、かすかなざわめきが混じっていた。
風ではない。木々のきしむ音でもない。
もっと奥深く・・・地面の底から伝わってくる、重たい脈動のような気配。
私は無意識に歩みを止めていた。
「・・・今の、聞こえた?」
声を落として尋ねると、ノエルも足を止めて周囲を見回す。
「うん・・・何か、動いてる?」
彼女は眉をひそめ、杖を握り直した。
母はゆっくりと私たちの前に出る。
「音に気を取られすぎないで。森全体が目を光らせていると思いなさい」
その言葉に、背筋がひやりと冷たくなる。
サラが、私の袖をぎゅっと握った。
「アリアさん、あの影・・・」
彼女の指差す先、まだ雪が深く残る林床に、妙な跡が刻まれていた。
大きな獣の足跡・・・に見えるけど、違う。
爪のような痕が深く土を抉って、規則的な間隔で続いている。
まるで獣と人間の歩みを混ぜ合わせたような、不自然な足跡。
「・・・もしかして、これが魔物の?」
私はしゃがみ込み、雪を手で払った。
ひんやりとした土の感触の奥から、かすかに焦げたような匂いが鼻をつく。
ノエルが息を呑んだ。
「ただの獣じゃない、って村長が言ってたの・・・こういうことか」
私は立ち上がり、息を整える。
不安が胸を押しつぶしそうになるけれど、それ以上に・・・確かめなければならない。
この森で何が起きているのかを。
「・・・進もう。何が潜んでいるのか、森が教えてくれるはず」
けれど、その冷たさの中には──確かに春の気配があった。
枝先から水滴が落ちて、ぱしゃりと地面を濡らしていく。
白く残った雪の隙間から、まだ弱々しいけれど緑が顔を出していた。
木の根元には、苔がじっとりと息を吹き返している。
「・・・ここも、雪が溶けはじめてる」
ノエルが小さくつぶやいた。
その声は、少し安心したようでもあり、不安を隠すようでもある。
「ようやく春が来るのね」
母が微笑んで言う。
その声を聞くと、不思議と寒さが和らぐ気がした。
私はふと横を見た。
サラが枝から落ちた雫を頬に受けても気にせず、じっと森の奥を見つめている。
彼女の赤い瞳は、遠い何かを映しているように思えて──胸の奥がざわついた。
森は静かだ。
でも、その静けさの底で、土の奥から微かに響く振動を私は感じ取っていた。
森の息遣いってやつかも、なんて思ったが・・・果たして、そうだろうか。
耳を澄ますと、かすかなざわめきが混じっていた。
風ではない。木々のきしむ音でもない。
もっと奥深く・・・地面の底から伝わってくる、重たい脈動のような気配。
私は無意識に歩みを止めていた。
「・・・今の、聞こえた?」
声を落として尋ねると、ノエルも足を止めて周囲を見回す。
「うん・・・何か、動いてる?」
彼女は眉をひそめ、杖を握り直した。
母はゆっくりと私たちの前に出る。
「音に気を取られすぎないで。森全体が目を光らせていると思いなさい」
その言葉に、背筋がひやりと冷たくなる。
サラが、私の袖をぎゅっと握った。
「アリアさん、あの影・・・」
彼女の指差す先、まだ雪が深く残る林床に、妙な跡が刻まれていた。
大きな獣の足跡・・・に見えるけど、違う。
爪のような痕が深く土を抉って、規則的な間隔で続いている。
まるで獣と人間の歩みを混ぜ合わせたような、不自然な足跡。
「・・・もしかして、これが魔物の?」
私はしゃがみ込み、雪を手で払った。
ひんやりとした土の感触の奥から、かすかに焦げたような匂いが鼻をつく。
ノエルが息を呑んだ。
「ただの獣じゃない、って村長が言ってたの・・・こういうことか」
私は立ち上がり、息を整える。
不安が胸を押しつぶしそうになるけれど、それ以上に・・・確かめなければならない。
この森で何が起きているのかを。
「・・・進もう。何が潜んでいるのか、森が教えてくれるはず」
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