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二章 学院生活・前半
58.三年目の始まり
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夢の中で、私は赤い光の中にいた。
立ちこめる霧、燃えさかる炎。けれど、その中心にいる少女の姿ははっきりと見えない。ただ、聞こえるのはか細い声。
『ごめんなさい・・・でも、わたし、もう・・・』
夢から目覚めた私は、冷や汗をかいていた。胸が苦しい。重たい何かに、心を締めつけられるような──そんな感覚。
ベッドから起き上がると、窓の外はすでに朝焼けに染まっていた。
冬の終わりを告げる、柔らかな色。季節は確かに進んでいるのに、心はどこか置き去りにされたままだ。
(またあの夢か。最近、頻繁に見るようになった)
しかも、内容がだんだんとはっきりしてきている。最初は断片的だった映像が、今では明確な言葉を伴い、私の心に警鐘を鳴らすようだった。
異変を感じたのは、夢だけではない。
最近、サラの様子がおかしい。
授業中にふと立ち止まって虚空を見つめたり、笑っていると思ったら次の瞬間には顔色を失って震えていたり。
また、以前より魔力の揺らぎが大きくなっており、魔法の威力に偏りが出てきている。
授業で実習をやる際、それがよくわかる。
「サラ、大丈夫?」
そう声をかけると、彼女は決まって笑ってこう言う。
「大丈夫です。ちょっと、夢見が悪かっただけで・・・」
そうは言うけど、その笑顔はどこかひどく作り物のようだった。
私はシルフィン、ライド、マシュルと相談し、サラのことを調べることにした。
「彼女は、精神干渉系の魔法を得意としているんだよね。適性が炎の中では珍しいタイプだ」
ライドが、図書館で見つけた資料を広げながら言った。
「普通は、光とか水に適性がある魔法使いに多いよね、そういうタイプの人。まあ、だからなんだとは言わないけどさ」
「血統の問題かもしれないね」
シルフィンは、重ねるように言った。
「・・・以前サラ自身から聞いたんだけど、彼女の一族には特別な記録があるんだって。詳しいことは、教えてもらえなかったけど」
それから調査を進めていくうちに、サラが使う創造魔法・・・つまりオリジナルの魔法の中に、「扉」と呼ばれる古代の魔法に近い性質を持っているものがある可能性が出てきた。
それは空間と意識を侵し、見る者の心に未来の幻を刻む、禁忌とされる魔法の一つだという。
「まるで、夢そのものだな」
マシュルが静かに呟いた。
私は思い出す。あの夢の中の声。あの炎。あの少女の影。
あれは、サラだったのかもしれない。
だが、問いただしても、サラは笑って「何もない」と言うばかり。
「巻き込まないで・・・アリアさんは、アリアさんのままでいてください」
その一言が、やけに痛かった。
それでも、私たちは諦めなかった。
彼女が孤独のまま壊れていくのを、見ているわけにはいかなかった。
そんな中、三年生の授業が本格的に始まった。
驚いたのが、今年の後半にはもう卒業に向けた取り組みが色々と始まる、ということだ。
レシウス先生曰く、ゼスメリアは大陸屈指の名門校である故、三年目は既に卒業への準備期間に入る頃合いらしい。
そのことは、家で母にも言われた。
これからは、一年一年が魔法使いとしての進路を定める、大事な年になるという。
まだ10歳にも満たない子供に、進路云々の話をふっかけるのは早すぎるのではないかと思ったが、そこはまあ、価値観や教育の考え方の違い故だろう。
いずれにしても、私の中には進級の喜びよりも、不安のほうが勝っていた。
サラのこと。夢のこと。そして──。
(あの扉の気配が、濃くなってきている)
夜ごと見る夢の中で、私は炎の向こうに「何か」の影を感じ始めていた。
それは、私の記憶にあるどんな存在よりも恐ろしく、けれど、どこかで見たことのあるような・・・まるで過去の私が見た絶望そのもののような、そんな気配だった。
そしてその中心に、サラの姿が見える。
(何が起きているの?)
春。魔法学院の三年生への進級を迎え、アリア・ベルナードとして生きる私の物語が、また一つ新たな扉へと近づいている予感がした。
立ちこめる霧、燃えさかる炎。けれど、その中心にいる少女の姿ははっきりと見えない。ただ、聞こえるのはか細い声。
『ごめんなさい・・・でも、わたし、もう・・・』
夢から目覚めた私は、冷や汗をかいていた。胸が苦しい。重たい何かに、心を締めつけられるような──そんな感覚。
ベッドから起き上がると、窓の外はすでに朝焼けに染まっていた。
冬の終わりを告げる、柔らかな色。季節は確かに進んでいるのに、心はどこか置き去りにされたままだ。
(またあの夢か。最近、頻繁に見るようになった)
しかも、内容がだんだんとはっきりしてきている。最初は断片的だった映像が、今では明確な言葉を伴い、私の心に警鐘を鳴らすようだった。
異変を感じたのは、夢だけではない。
最近、サラの様子がおかしい。
授業中にふと立ち止まって虚空を見つめたり、笑っていると思ったら次の瞬間には顔色を失って震えていたり。
また、以前より魔力の揺らぎが大きくなっており、魔法の威力に偏りが出てきている。
授業で実習をやる際、それがよくわかる。
「サラ、大丈夫?」
そう声をかけると、彼女は決まって笑ってこう言う。
「大丈夫です。ちょっと、夢見が悪かっただけで・・・」
そうは言うけど、その笑顔はどこかひどく作り物のようだった。
私はシルフィン、ライド、マシュルと相談し、サラのことを調べることにした。
「彼女は、精神干渉系の魔法を得意としているんだよね。適性が炎の中では珍しいタイプだ」
ライドが、図書館で見つけた資料を広げながら言った。
「普通は、光とか水に適性がある魔法使いに多いよね、そういうタイプの人。まあ、だからなんだとは言わないけどさ」
「血統の問題かもしれないね」
シルフィンは、重ねるように言った。
「・・・以前サラ自身から聞いたんだけど、彼女の一族には特別な記録があるんだって。詳しいことは、教えてもらえなかったけど」
それから調査を進めていくうちに、サラが使う創造魔法・・・つまりオリジナルの魔法の中に、「扉」と呼ばれる古代の魔法に近い性質を持っているものがある可能性が出てきた。
それは空間と意識を侵し、見る者の心に未来の幻を刻む、禁忌とされる魔法の一つだという。
「まるで、夢そのものだな」
マシュルが静かに呟いた。
私は思い出す。あの夢の中の声。あの炎。あの少女の影。
あれは、サラだったのかもしれない。
だが、問いただしても、サラは笑って「何もない」と言うばかり。
「巻き込まないで・・・アリアさんは、アリアさんのままでいてください」
その一言が、やけに痛かった。
それでも、私たちは諦めなかった。
彼女が孤独のまま壊れていくのを、見ているわけにはいかなかった。
そんな中、三年生の授業が本格的に始まった。
驚いたのが、今年の後半にはもう卒業に向けた取り組みが色々と始まる、ということだ。
レシウス先生曰く、ゼスメリアは大陸屈指の名門校である故、三年目は既に卒業への準備期間に入る頃合いらしい。
そのことは、家で母にも言われた。
これからは、一年一年が魔法使いとしての進路を定める、大事な年になるという。
まだ10歳にも満たない子供に、進路云々の話をふっかけるのは早すぎるのではないかと思ったが、そこはまあ、価値観や教育の考え方の違い故だろう。
いずれにしても、私の中には進級の喜びよりも、不安のほうが勝っていた。
サラのこと。夢のこと。そして──。
(あの扉の気配が、濃くなってきている)
夜ごと見る夢の中で、私は炎の向こうに「何か」の影を感じ始めていた。
それは、私の記憶にあるどんな存在よりも恐ろしく、けれど、どこかで見たことのあるような・・・まるで過去の私が見た絶望そのもののような、そんな気配だった。
そしてその中心に、サラの姿が見える。
(何が起きているの?)
春。魔法学院の三年生への進級を迎え、アリア・ベルナードとして生きる私の物語が、また一つ新たな扉へと近づいている予感がした。
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