灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

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二章 学院生活・前半

60.裂け目の予兆

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 その夜、私は部屋の明かりを落とし、マシュルが用意してくれた簡易測定装置を枕元に置いた。
魔力の流れと脳波を同時に測定できる簡易型の装置で、古いものだったが、それでも頼もしく思えた。

あの夢の続きを知りたい。
けれどどこかで、戻れなくなることを恐れてもいた。

「・・・大丈夫。私なら、大丈夫」

 自分に言い聞かせるように目を閉じた。
静寂が降り、意識がゆっくりと沈んでいく。

 

 ──夢の中。
そこは、またしても“あの場所”だった。

赤い空。時の止まったような、崩れかけた街。ねじれた塔がいくつも空へと突き立っている。すべてが音を失い、色を失い、ただ赤い残光だけが漂っていた。

私は立っていた。昨日と同じ、壊れた広場の中心で。

 ──そして、そこにいた。

「・・・サラ!」

 私は駆け寄る。彼女は昨日と同じ制服を着て、廃墟の石段に膝を抱えて座っていた。
だがその瞳は、昨日よりもさらに遠くを見つめていた。

「また来てくれたんですね、アリアさん・・・」

その声には、微かに震えがあった。笑っていたが、どこか壊れかけているように見えた。

「サラ・・・あなた、何を見てるの?」

「夢の中に・・・何かがいるんです。ここじゃなくて、もっと“奥”。私の声を呼ぶ何かが。ずっと、ずっと前から・・・ずっと・・・」

「呼ばれてるって・・・誰に? 何に?」

「わかりません。でも」

彼女の赤い瞳が、私を見つめた。その瞳の奥に、細く、黒い何かがきらめいた気がした。

「『扉』が、開きかけてるんです」

 その瞬間、空気が裂けた。

広場の奥、ひび割れた大地の中央に“穴”が生まれた。何の前触れもなく、ただ、空間が“抜け落ちた”。

 暗黒・・・否、“無”があった。

その穴は扉だった。閉ざされたはずの、はるか古の記憶へと繋がる精神の渦。

「サラ、近づかないで!」

私は彼女の手を取って引き寄せようとした。
だが、サラは動かなかった。まるでその“無”に心を奪われたように、じっと見つめていた。

「ここが、“外側”じゃない。私の中の、もっと深いところに・・・あるんです。あれは、私の・・・」

「違う! あれはあなたのものじゃない!」

 私は叫んだ。理解できなくても、確信だけはあった。あの扉はサラのものではない。
彼女を媒介にして、別の何かがこの世界へと手を伸ばそうとしている。

「お願い、サラ、戻って・・・!」

手を伸ばす。けれど次の瞬間、重力が歪んだ。

 地面が崩れ、私とサラは“穴”の中へと引き込まれていく──

 

 ──その瞬間、目が覚めた。

「はっ・・・!」

額に冷たい汗がにじんでいた。息が上がり、心臓の鼓動が耳に響く。
枕元の測定器が、赤いランプを点滅させていた。


「警告表示:“高濃度魔力干渉記録”」


 私の夢の中で、“何か”が確かに目覚めていた。
そしてサラは・・・その中心にいる。

扉は静かに、しかし確かに、開き始めている。





 翌日、私はマシュルとともに学院の資料室へ向かっていた。

「おまえの見た夢・・・それが単なる幻覚じゃないのは、これを見れば明らかだ」

マシュルは、測定装置から取り出した記録結晶を見せてきた。
表面には淡く揺れる赤い波紋。通常の夢では見られないほど高密度の精神波と魔力反応が重なっていた。

「精神干渉系の魔力が、おまえに直接アクセスしている。しかも、かなり深層に。正直、これは・・・尋常じゃない」

 私の背筋に冷たいものが走った。

「・・・やっぱり、“扉”は本当にあるんだ」

あの夢に現れた“穴”。ただの幻ではなかった。サラが感じている“呼び声”も、きっと何かの現実だ。

「それでな・・・知ってるか?“扉”って言葉、実は古代魔法の文献にいくつか登場してるんだ」

 マシュルは資料室の棚を手早く探り、一冊の厚い古書を開いた。見開きに描かれていたのは、真っ赤な空と、中央に開いた漆黒の裂け目。

──私の夢と同じ風景だった。

「“扉”──精神界の最深層、無意識と魔力の根源が交わる領域に存在する、境界なき穴。稀に、それに『呼ばれる者』が現れる・・・」

 そう記されていた。ページの余白には、震える手で書かれた注釈がある。

《干渉された者は、次第に自己と他者の境界を失う。最悪の場合、自我の崩壊に至る》

「・・・!」

私は本を閉じた手に、力が入るのを感じた。

サラが・・・壊れてしまう。

「マシュル、このこと、学院の誰かに・・・」

「言うべきかもしれない。でも、慎重に。これはかなり“危険”な領域に近い話だ。下手に騒げば、サラが研究対象にされかねない」

「・・・それは、絶対に駄目」

 私は首を振った。サラを守らなければ。
それが、あの夢の中で手を伸ばした私の、本当の気持ちだ。

 

 その日の放課後、私はサラに声をかけようと、図書室の廊下で待っていた。

けれど、彼女は誰とも目を合わせず、まっすぐ前を見つめて歩いていく。小さな背中が、どこか遠くへ行ってしまいそうで、私は思わず呼び止めた。

「・・・サラ!」

彼女は立ち止まる。ゆっくりと振り返ると、その瞳には、深い闇が揺れていた。

「・・・アリアさん。どうして、また来るんですか」

「あなたが・・・苦しんでるって、わかるから。放っておけないよ」

「でも、私に関わると、アリアさんまで巻き込まれます」

その声には、かすかな警告があった。

「巻き込まれてもいい。私は、あなたを助けたい」

 その言葉が、彼女の胸にどう響いたのかはわからない。ただサラは、ほんの少しだけ、表情を緩めた。

「・・・あなたは、優しすぎます。でも、優しさでは、扉は閉じません」

そう言って、彼女は去っていった。

残された私は、じっとその背中を見送った。
“扉”は、静かに現実にもひびを走らせはじめている。

そして、それが誰に見えるのか。
その意味が、これから問われていくだろう。

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