灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

文字の大きさ
80 / 785
三章 学院生活・後半

80.風が告げるもの

しおりを挟む
 春の陽が差し込む教室の窓辺。
小鳥のさえずりが微かに聞こえる中、私たちは静かに椅子に座っていた。

これから受ける授業は、「結界の感知と識別」。
担当のガルト先生は、風属性の高位使いで、外見はちょっと怖いけど本当は優しい人だ。

結界の性質を読み取る力に長けていて、「自分の国の結界のゆらぎを肌で感じることができて一人前」と、いつも口癖のように言っていた。

「さあ、目を閉じて、自分の内側に魔力を集中してごらん。レフェの大地を覆う『炎の結界』・・・それが、どこまで感じられるかを試してみよう」

 先生の言葉に従って、私はそっとまぶたを閉じた。
呼吸を整え、魔力をゆっくりと巡らせてゆく。身体の奥に灯る、赤くて熱い光。それが私の“炎”。

 ・・・あった。

遠く、大地を包み込むように広がる巨大な“膜”のような存在。それが母の張った結界だ。今までも何度か感じ取ったことはあったけれど、今日は──。

 ──おかしい。

 私はふっと息を詰まらせた。
なぜか、国の中央あたりの結界が“薄い”。
まるで布が擦り切れたように、魔力の流れが乱れているのが分かる。

(・・・まさか)

ちょうど1日の最後の授業だったので、私は授業が終わるなり、足早に家へ帰った。
胸の奥にざわついたものを抱えたまま。




 帰ってくると、母はいつも通り居間で魔術書を読んでいた・・・ように見えた。
けれど、私が声をかけたとき、母は軽く咳き込んでいて、しかも机の上にあった杯の水は、周囲の空気で湯気を立てていた。

「・・・母さん、なんか魔力暴走しかけてない?」

母は微笑もうとしたけれど、その目元はどこか疲れていた。

「・・・さすが、私の娘ね。察しが早いわ」

「結界・・・弱まってる。今日の授業で感じたんだけど、あれ、まさか・・・」

 私が言いかけると、母はゆっくりとうなずいた。そして、窓の外──遠くの山脈を見つめるように、ぽつりと語りだした。

「・・・この国を覆う結界の中心は、家の地下にあるわ。私が、命を賭けて張り巡らせた結界」

「え、それじゃ、もしかして・・・!」

私の声が震える。
母は静かに目を伏せた。

「私の命が尽きれば、この国の結界は消える。そうなれば・・・ガラネルの封印も、解けてしまう」

「え・・・」

「レフェだけじゃないわ。大陸の八つの国、それぞれに存在する“大魔女”が張る結界は、単なる国の防御じゃない。すべては繋がっているの。ガラネルを、門の向こうに閉じ込めるための封印・・・その一部なの」

私は言葉を失った。

「そして・・・私の魔力は、最近中枢が揺らいでいる。自分でも分かるの。・・・また誰かを焼き尽くす前に、どうにかしなきゃ」

 母は、自分の手を見つめながら微笑んだ。どこか寂しげに。

私は、拳を握った。

「母さん・・・私、強くなる。もっと。母さんの代わりに結界を支えられるくらいに」

 母は目を見開き、それから、少しだけ微笑んだ。

「・・・ありがとう、アリア。でも、あなたにはまだ早いわ。あなたの未来は、私の代わりになることじゃない。あなたは──あなた自身の道を、歩んで」

母はそう言ってくれたが、私は心の奥で決めていた。

どんな未来が待っていようと、私は守る。母も、この国も。
たとえ、世界が壊れそうになっても──。



 その夜、私は眠れなかった。

部屋のベッドに横たわって、天井を見つめながら、母の言葉を何度も思い返していた。

 ──私の命が尽きれば、結界は消える。

それはつまり、この国に迫る危機が、すでに始まっているということか。炎の魔女としての力を、母が保てなくなってきているということか。

(どうして私、今まで気づかなかったんだろう)

 授業で“結界”に触れたのは、今日が初めてじゃない。 何度も、何度も訓練してきた。けれど──今日、初めて「異変」として捉えられた。

それは、私の魔力が強くなってきたからだろうか。それとも、母の魔力の揺らぎが、それだけはっきりと現れてきたから・・・?

どっちにしても、のんびりしてる場合じゃない。

 私は枕元のノートを手に取り、ぱらぱらとページをめくった。
火の精霊との対話方法、結界式の構築理論、魔力の循環制御・・・どれも、まだ完璧にはできていない。

でも、覚えなきゃ。もっと学ばなきゃ。
そして──母の背中を、少しでも支えられるように。

(・・・私、知らなかったんだ)

 どんな思いで、母がこの結界を支えていたのか。 毎日のように見ていた、あの凛とした背中が──実は、いつ壊れてもおかしくないほど、綱渡りだったなんて。

──どうして、もっと早く気づけなかったんだろう。

 悔しさで胸がいっぱいになり、私は思わず毛布をぎゅっと握りしめた。 
目元が熱くなる。でも泣いてる場合じゃない。私がしっかりしなきゃ。

明日から、もっと頑張ろう。いや──今からでも、できることを探そう。

 そのとき。

ふと窓の外で、風がやさしくカーテンを揺らした。

──サァァ・・・

 静かで、心地いい風の音。まるで、「大丈夫だよ」と誰かに囁かれたような気がした。

(・・・ガルト先生の風、みたい)

私は深く息を吸い込んだ。 そして心の中で、静かに誓いを立てた。

(絶対に・・・絶対に、母さんを守る。結界も、この国も。ぜんぶ──私が)





 翌朝、学院の鐘が鳴る少し前──私はまだ人影の少ない渡り廊下を歩いていた。
昨夜、母のあの言葉を聞いてから、どうしても気が逸ってしまい、早く来すぎたのだ。

 風が静かに吹き抜ける中庭。その片隅に、長身の人影が立っていた。

黒と深緑のローブ。その縁をなぞるように刺された風の符文が、朝の光を受けて柔らかく輝いている。

 ──ガルト=フェルディナント先生だ。

深いエメラルドグリーンの髪は無造作に背に流れ、微かな風に揺れている。その背はまっすぐに伸び、まるで戦場に立つ軍人のような静かな威圧感があった。

けれどその雰囲気に、なぜか私は息苦しさを覚えなかった。不思議と、呼吸が深くなる。空気が軽く感じられる。

「・・・アリア・ベルナードか」

 彼は、こちらを見ずに言った。けれどその声には、確かな意志と“見抜く者”の重みがあった。

「君の魔力が、昨日、大きく揺れたな。・・・いや、揺れさせたのか」

私は驚いて足を止める。彼の背中越しに見えるのは、学院の上空に広がる、淡く霞む雲。だが彼の眼は、もっと遠くを──空気の流れを視ているのだろう。

 ゆっくりと振り向いたガルト先生の視線が、私を射抜いた。鋭い黄緑の瞳。その中に、風の道筋が宿っているように思えた。

「風は変化をもたらすが、常に秩序を求めて吹いている。・・・それを読めるかが、魔法使いの分かれ目だ」

その言葉に、私は息をのんだ。

「セリエナ殿の魔力・・・いや、“核”が、沈み始めている。炎の本流に、わずかな沈黙がある。・・・君も感じたろう?」

「・・・はい」

 私は小さく頷いた。昨夜の水のゆらぎ、母の言葉、炎の消える気配。すべてが、先生の言葉とつながっていく。

「君の魔力は、既にその流れを受け始めている。自覚しているか?」

「母の代わりに、何か・・・しなきゃいけない気がして」

私が言うと、ガルト先生はわずかに目を細めた。

「セリエナ殿の“代わり”になることなど、誰にもできん。・・・だが、違う流れを創ることはできる。君自身の魔力でな」

 そのとき、微かな風が彼の周囲を舞った。ローブの袖口からふわりと浮かぶ細かい魔法具の粒が、緑の光の軌跡を描く。

「セリエナ殿の魔力が揺らげば、世界は反応する。特に、“門”の封印はな」

「ガラネルの・・・?」

「“風”は、すでにざわめき始めている。まだ声にはなっていないが、境界の結界に、歪みが生じている」

 私は思わず拳を握った。

「私・・・何をすれば・・・」

「まずは、己の炎を知るのだ。母君のそれではない、“アリア・ベルナード”という存在の魔力だ。それなくして、何も守れはしない」

そう言い残すと、彼はふたたび空を仰いだ。髪が風に流れ、背後に朝の陽が滲む。どこか、ひどく遠い場所を見ているようだった。

「・・・授業を楽しみにしているぞ。今日は、風の結界の基礎だ」

 それだけ言うと、彼は廊下の奥へと歩いて行った。背筋をまっすぐに伸ばし、風をまとう姿は、ひとつの秩序のように見えた。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生特典〈無限スキルポイント〉で無制限にスキルを取得して異世界無双!?

スピカ・メロディアス
ファンタジー
目が覚めたら展開にいた主人公・凸守優斗。 女神様に死後の案内をしてもらえるということで思春期男子高生夢のチートを貰って異世界転生!と思ったものの強すぎるチートはもらえない!? ならば程々のチートをうまく使って夢にまで見た異世界ライフを楽しもうではないか! これは、只人の少年が繰り広げる異世界物語である。

ダンジョンでオーブを拾って『』を手に入れた。代償は体で払います

とみっしぇる
ファンタジー
スキルなし、魔力なし、1000人に1人の劣等人。 食っていくのがギリギリの冒険者ユリナは同じ境遇の友達3人と、先輩冒険者ジュリアから率のいい仕事に誘われる。それが罠と気づいたときには、絶対絶命のピンチに陥っていた。 もうあとがない。そのとき起死回生のスキルオーブを手に入れたはずなのにオーブは無反応。『』の中には何が入るのだ。 ギリギリの状況でユリアは瀕死の仲間のために叫ぶ。 ユリナはスキルを手に入れ、ささやかな幸せを手に入れられるのだろうか。

転生したらただの女の子、かと思ったら最強の魔物使いだったらしいです〜しゃべるうさぎと始める異世界魔物使いファンタジー〜

上村 俊貴
ファンタジー
【あらすじ】  普通に事務職で働いていた成人男性の如月真也(きさらぎしんや)は、ある朝目覚めたら異世界だった上に女になっていた。一緒に牢屋に閉じ込められていた謎のしゃべるうさぎと協力して脱出した真也改めマヤは、冒険者となって異世界を暮らしていくこととなる。帰る方法もわからないし特別帰りたいわけでもないマヤは、しゃべるうさぎ改めマッシュのさらわれた家族を救出すること当面の目標に、冒険を始めるのだった。 (しばらく本人も周りも気が付きませんが、実は最強の魔物使い(本人の戦闘力自体はほぼゼロ)だったことに気がついて、魔物たちと一緒に色々無双していきます) 【キャラクター】 マヤ ・主人公(元は如月真也という名前の男) ・銀髪翠眼の少女 ・魔物使い マッシュ ・しゃべるうさぎ ・もふもふ ・高位の魔物らしい オリガ ・ダークエルフ ・黒髪金眼で褐色肌 ・魔力と魔法がすごい 【作者から】 毎日投稿を目指してがんばります。 わかりやすく面白くを心がけるのでぼーっと読みたい人にはおすすめかも? それでは気が向いた時にでもお付き合いください〜。

伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります

竹桜
ファンタジー
 武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。  転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。  

いきなり異世界って理不尽だ!

みーか
ファンタジー
 三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。   自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!

魔法属性が遺伝する異世界で、人間なのに、何故か魔族のみ保有する闇属性だったので魔王サイドに付きたいと思います

町島航太
ファンタジー
 異常なお人好しである高校生雨宮良太は、見ず知らずの少女を通り魔から守り、死んでしまう。  善行と幸運がまるで釣り合っていない事を哀れんだ転生の女神ダネスは、彼を丁度平和な魔法の世界へと転生させる。  しかし、転生したと同時に魔王軍が復活。更に、良太自身も転生した家系的にも、人間的にもあり得ない闇の魔法属性を持って生まれてしまうのだった。  存在を疎んだ父に地下牢に入れられ、虐げられる毎日。そんな日常を壊してくれたのは、まさかの新魔王の幹部だった。

3歳で捨てられた件

玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。 それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。 キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。

暗殺者から始まる異世界満喫生活

暇人太一
ファンタジー
異世界に転生したが、欲に目がくらんだ伯爵により嬰児取り違え計画に巻き込まれることに。 流されるままに極貧幽閉生活を過ごし、気づけば暗殺者として優秀な功績を上げていた。 しかし、暗殺者生活は急な終りを迎える。 同僚たちの裏切りによって自分が殺されるはめに。 ところが捨てる神あれば拾う神ありと言うかのように、森で助けてくれた男性の家に迎えられた。 新たな生活は異世界を満喫したい。

処理中です...