灼炎の転生魔女〜いじめられて自殺した私、異世界で炎の魔女の娘に転生しましたが、今度こそ強く生き抜きます!〜

銀鏡。

文字の大きさ
182 / 891
三章 学院生活・後半

182.忘却を拒む魂の灯

しおりを挟む
 影が、音もなく迫る。
その数は、増えていく一方だった。

彼らには意志がない。名前もない。
ただ、“存在を否定する”という命令だけが刻まれているようだった。

(こんなものに・・・シルフィンを渡せるものですか!)

私の掌の炎は、音を立てるように膨れ上がる。
だがそれに比例するように、心の奥で鋭い痛みが走った。

 まるで魂が削られていくような苦しみ。
“深紅の火”は、使えば使うほど、持ち主の記憶と感情を燃やしていく。

──それは、かつて彼女が、誰かを守るために払った代償。
そして今、私が受け継いだ痛み。

でも──。

「構わない・・・私はもう、怖くない!」

 叫びと共に、私は炎を放つ。

火線が奔り、番人たちを貫いた。
無音の空間に、はじめて“拒絶”のような波動が走る。

影の輪郭が、炎に触れて揺らぎ──だが、すぐに再生する。
まるで時間そのものを巻き戻すように、元の姿を取り戻していく。

(効いている・・・でも、足りない)

 私は奥歯を噛みしめた。
棺の中のシルフィンは、まだ目を覚まさない。

(もっと・・・もっと、届かせなくちゃ・・・!)

力だけじゃ、届かない。
必要なのは、“想い”。

 私は炎に、私自身の記憶を重ねていく。

入学当日出会った時のこと。抱きしめられた温もり。
一緒に笑った午後の光。
「アリアなら、大丈夫だよ」と囁いてくれた、あの声。

私は、その全てを──“深紅の火”に込めた。

「私は・・・忘れない。絶対に!」

 叫びが響く。
その声が空間を震わせ、番人たちの影に裂け目を生じさせた。

一体が崩れ──音もなく、消える。

私は思わず、息を呑んだ。
今の一撃。力ではなく、“記憶”で撃ち抜いた。

「そうか・・・これが、“魂の火”・・・!」

ただ、燃やすだけではない。
ただ、破壊するだけでもない。
「想いを灯す」ための炎。

それこそが、フィアが本当に伝えたかった“炎の在り方”。

 私は、もう一度炎を掲げた。
涙が滲む。でも、不思議と、笑みがこぼれていた。

「あなたたちが何者でも、私には関係ない。私は──友達を助けに来ただけ!」

その瞬間、炎が変わる。

紅でもない。
金でもない。
澄んだ橙色の、新しい光。

──それは、私だけの“魂の色”。

その炎が灯ったとき、“沈黙の檻”が鳴いた。

番人たちが一斉に震え、後退する。
世界の“修正”が揺らいだ証。

 それでも、私は前に出た。
誰もいない。誰も助けてくれない。
でも──私は、ひとりで抗う。

“忘れられた友”を救うために。
“失われる運命”に抗うために。

孤独な戦いの炎は、沈黙の闇を確かに照らしていた。



 私は進む。
番人たちは、波のように立ちはだかる。

けれど、もう私は恐れなかった。
この橙の炎は、“私のための力”だと知っている。

私は──“想いを灯す魔女”。
忘れられた存在を、私の記憶で照らすために、ここにいる。

「どいて・・・!」

 掌を突き出す。
炎が広がり、静寂を焼き尽くしてゆく。

番人たちは抗うように前へ出る。
けれど、私の炎に触れるたび、その輪郭は曇り、滲み、ひび割れていく。

胸の奥に、響くものがあった。
もっと深く──もっと昔から、私を見ていた何か。

(これは、私だけの力じゃない)

 私の“記憶”に共鳴するように、誰かの“祈り”が重なっていく。

(フィア・・・)

──いいえ、違う。彼女だけじゃない。

この世界で、“消された誰か”たちの痛みと願いが、名もなく、声もなく──
私の炎に、集まってきていた。

「・・・そうだよね。私も、あなたたちも・・・誰にも忘れられたくなかったよね」

 その言葉に、番人たちの足が止まった。

ひとつ、またひとつ。
静かに、炎に包まれて消えていく。

彼らは、戦っていたのではなかった。
ただ、“役割”を遂行していただけ。

だが、その根源に触れたとき──炎は、破壊ではなく、赦しをもたらした。

(もう・・・いいんだよ)

 私の中の炎が、そう語るようだった。

この場所も、番人たちも、“存在を消された者”さえも──
否定するためにあるのではない。

「私は、灯したい。全部、忘れたくない・・・!」

最後の番人が、静かに炎の中に溶けていく。
黒い外套が、空気にほどけて、灰となって消えた。

 ──そして、“沈黙の檻”が崩れ始めた。

「・・・!」

空間が軋み、回廊が崩れ、記憶の残滓が空の狭間へと吸い込まれていく。



 私は、走った。
棺──彼女のもとへ。

光が、眠る彼女を照らしていた。
その顔は穏やかで、色を取り戻しつつあった。

「シルフィン・・・!」

 名前を呼ぶ。
震える手で、硝子の面に触れる。

──トクン、と。
私の胸の炎と、彼女の胸の奥にある何かが、重なった。

確かに、鼓動が返ってくる。

(・・・生きてる)

涙があふれそうだった。

「・・・ごめん。遅くなって、ごめんね」

 そのとき。
シルフィンのまぶたが、わずかに揺れた。

薄く開いた瞳が、ぼんやりと私を映す。
その瞳に、涙が浮かんでいた気がした。

「・・・アリア・・・?」

「うん・・・私だよ」

私の炎が、彼女の中にも灯る。

もう、世界がどう言おうと関係ない。
私が、彼女を“知っている”。
それだけで、彼女は、ここに“在る”。

 ──“沈黙の檻”は崩れ去る。

だがその中心には、確かに。
“ふたりの炎”が、静かに、寄り添っていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

1つだけ何でも望んで良いと言われたので、即答で答えました

竹桜
ファンタジー
 誰にでもある憧れを抱いていた男は最後にただ見捨てられないというだけで人助けをした。  その結果、男は神らしき存在に何でも1つだけ望んでから異世界に転生することになったのだ。  男は即答で答え、異世界で竜騎兵となる。   自らの憧れを叶える為に。

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

転生したらスキル転生って・・・!?

ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。 〜あれ?ここは何処?〜 転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。

黒ハット
ファンタジー
 前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。  

処理中です...