何事もなかれ

ゆう

文字の大きさ
2 / 3

授業一

しおりを挟む
5分くらいぼぉーとしていた。特に話しかけて来るやつもおらず、ただ時が過ぎるのを待っていた。
一限目なんだったかな。理科か家庭科だったはずだ。どうしても思い出せない。
自力で思い出したかったが、他人の力を借りるしかない、隣の人の机の上を見る。何も乗っていない、ハズレだ。なら後ろはどうだ。理科の教科書が載っていた。よし、あたりだ。理科ならカバンの中にある動かなくていい、これはかなり嬉しい。
理科の教科書とノートと筆箱を机の上に出し、チャイムが鳴るのを待った。
「おはようございます」
「おはよう」
理科担当の前田先生が来たようだ。かなり年配の先生で厳しそうな顔をしているが、明るく優しいいい先生だ。俺の中で先生ランキングトップスリーに入っている。
前田先生が来たということは授業3分前だろう。毎回律儀に3分前には来るので間違いない。暇だったので確認も込め後何秒で授業が始まるか数えていることにした。
《キーンコーンカーンコーンキーンコーンカーンコーン》
164秒。
人間が数えたから誤差があるとして、約3分だ。さすがは前田先生。今日もいい調子です。
「それでは授業を始めますか。学級委員さんお願いします」
「起立、礼、お願いします」
「お願いします」
「はい、お願いします。えー、前回は酸とアルカリの違いについてやりました。今日はその続きをしていきたいと思います」
前田先生は好きだが、授業は嫌いだ。まず退屈である。そして、暇である。待てよ、暇と退屈は同義じゃないか。そんなことはどうでもいいか。先生は授業を進めている。俺はある程度進んだら板書を取るという動作を50分繰り返す。いつものことだ。基本的には落書きをしたり、考え事をしたりしている。おかげさまでテストは良いとは言えない点数を取っているが、気にはしていない。
今日は久々に俺の望む平凡な生活についてでも考えるか。平凡という言葉は普通という意味だと思っている人が多いと思う。辞書で引いてもありふれたこと、と出て来るので間違いではないと思う。しかし俺はこの平凡という言葉を、そういった意味とはちょっと違った捉え方をしている。
平凡とは何事もないこと、であると。
恐らく、何事もないという意味を持つ言葉は他にあるだろう。しかし、あえて俺は平凡という言葉をそう捉えた。何事もない、そう平凡なことこそこの世の至極の幸せであると俺は信じている。
俺の目標は平凡な生活をするでここ数年は固まっている。余程のことがあってもこれは変わらない自信がある。
「この問題を東くん解いてみて」
急なことで驚いた。答えどころか問題すらわからない問題を解けとは、俺が授業を聞いてなかったのが悪いが、俺を当てた先生も悪い。こんな理不尽なことを考えずにこたえを言わないと。
「二だよ」
後ろから天使からのささやきが。
「二です」
「正解。これはここがこうだから」
なんとかやり過ごせた。後ろの天使、もとい吾郷くんに感謝しなくては。
「ありがとう」
吾郷くんは天使さながらの微笑みを返してきた。俺は前に向き直し、天に向かって吾郷くんへの感謝を再び伝えといた。
一度当った人は二回目が来ないという謎のルールがあるのであとは安心して自分の時間に使える。
授業は残り20分だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【bl】砕かれた誇り

perari
BL
アルファの幼馴染と淫らに絡んだあと、彼は医者を呼んで、私の印を消させた。 「来月結婚するんだ。君に誤解はさせたくない。」 「あいつは嫉妬深い。泣かせるわけにはいかない。」 「君ももう年頃の残り物のオメガだろ? 俺の印をつけたまま、他のアルファとお見合いするなんてありえない。」 彼は冷たく、けれどどこか薄情な笑みを浮かべながら、一枚の小切手を私に投げ渡す。 「長い間、俺に従ってきたんだから、君を傷つけたりはしない。」 「結婚の日には招待状を送る。必ず来て、席につけよ。」 --- いくつかのコメントを拝見し、大変申し訳なく思っております。 私は現在日本語を勉強しており、この文章はAI作品ではありませんが、 一部に翻訳ソフトを使用しています。 もし読んでくださる中で日本語のおかしな点をご指摘いただけましたら、 本当にありがたく思います。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

どうぞ、おかまいなく

こだま。
恋愛
婚約者が他の女性と付き合っていたのを目撃してしまった。 婚約者が好きだった主人公の話。

彼女がいなくなった6年後の話

こん
恋愛
今日は、彼女が死んでから6年目である。 彼女は、しがない男爵令嬢だった。薄い桃色でサラサラの髪、端正な顔にある2つのアーモンド色のキラキラと光る瞳には誰もが惹かれ、それは私も例外では無かった。 彼女の墓の前で、一通り遺書を読んで立ち上がる。 「今日で貴方が死んでから6年が経ったの。遺書に何を書いたか忘れたのかもしれないから、読み上げるわ。悪く思わないで」 何回も読んで覚えてしまった遺書の最後を一息で言う。 「「必ず、貴方に会いに帰るから。1人にしないって約束、私は破らない。」」 突然、私の声と共に知らない誰かの声がした。驚いて声の方を振り向く。そこには、見たことのない男性が立っていた。 ※ガールズラブの要素は殆どありませんが、念の為入れています。最終的には男女です! ※なろう様にも掲載

最初から間違っていたんですよ

わらびもち
恋愛
二人の門出を祝う晴れの日に、彼は別の女性の手を取った。 花嫁を置き去りにして駆け落ちする花婿。 でも不思議、どうしてそれで幸せになれると思ったの……?

優しく微笑んでくれる婚約者を手放した後悔

しゃーりん
恋愛
エルネストは12歳の時、2歳年下のオリビアと婚約した。 彼女は大人しく、エルネストの話をニコニコと聞いて相槌をうってくれる優しい子だった。 そんな彼女との穏やかな時間が好きだった。 なのに、学園に入ってからの俺は周りに影響されてしまったり、令嬢と親しくなってしまった。 その令嬢と結婚するためにオリビアとの婚約を解消してしまったことを後悔する男のお話です。

処理中です...