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ぼけっとしているとマックが肩を叩いてきた。
「どうした。眠たいのか」
「いや、少しほうけていた」
マックが肩を叩かなければあのまま寝ていたかもしれない。そこまで疲れている自覚はなかったが、疲れは溜まっているようだ。
「かなりの間抜け顔だったぞ」
「鏡でも見てみろ。もっと凄いのが見れるぞ」
「なんだと」
マックは軽く私の右肩にパンチをした。このようなやりとりを今まで何度しただろうか。いつやっても楽しいものだ。
「楽しそうだな。ほら、酒だ」
トニーさんは俺とマックの前、そして自分の前にも酒を置いた。
「よし、今日も飲みまくるぜ」
「お前はさっきも飲んでただろ」
「3人揃ってからが本番ってもんだろ。それじゃいつものあれをしますか」
そうマックが告げると3人で各々酒器を持ち「かんぱーい」という掛け声とともにお互いの酒器を他の2人の酒器に勢いよくぶつけた。
私は乾杯をした後すぐに、酒を一気に飲み干した。もちろん2人も一気のみだ。
トニーさんは空になった酒器を持って再び奥に入っていった。
「なあ、マルコム。お前、王様のとこで何してたんだ」
「特に何かしたというわけではないな」
「じゃあ、行っただけなのか」
どうなのだろうか。話らしい話をしたわけでもないし、褒美を受け取ったわけでもない。そういえば祝賀会に誘われたな。
「あるお誘いを受けた」
「なんだよ、あるお誘いって」
「また今度教えてやるよ」
「もったいぶらずにいま言えよ。気になるだろ。くそ、このままじゃ気になりすぎて寝れないぜ」
きっと爆睡するだろう。それは間違いない。
「それにしたっていいよな。羨ましいぜ、お前じゃなくて俺の前に敵の王が現れてたら俺が倒してやれたのによ」
「お前の場合は、びびって腰を抜かしそうだけどな」
笑いながらそう言ってやった。
マックが怒ってつっかかってくると思ったが、そうはしてこなかった。それどころかマックは笑いながら「そんなことはないね。なにせ俺は剣を持ったら国一番、いや世界で一番強いんだからな」と本気か冗談かよくわからないが自慢げに言ってきた。
《ドンッ》といきなり音がした。見なくてもわかる。酒を持ってトニーさんが帰ってきたんだ。
「お前ら何話してんだ。俺も混ぜろよ」
「ああ、いいぜ。今からこの世界一の剣豪マック様の話をするとこだったんだ。トニーさんもそこに座って聞いているといい」
酒がかなり回っているんだな。普段からお調子者全開のマックだが今日はそれの比ではない。新しい玩具を買ってもらった子供のようにはしゃいでいる。
私は酔っ払いは嫌いだからあまり関わることはしないが今回は面白そうなのでこのまま話を聞いていることにした。
10分くらいずっとマックがしゃべり続けていた。流石に私もトニーさんも飽きてきたのでちょっかいを出してみた。
私は店長が酒と一緒に持ってきた。魚を口にして「流石はトニーさん。うまいよ。どこぞの剣豪とは違い、本当に世界一の才能があるんじゃないか」とトニーさんを褒めた。
「やめてくれよ。まあ、確かに俺の料理はどこぞの剣豪とは違って世界一かもしれないけどよ」
「おい、お前らそのどこぞの剣豪とは誰のことを指しているのか教えてもらおうじゃないか」
見事にひっかかった。私とトニーさんの思惑通り反応してくれた。やはりいじってこそのマックだ。
「さあ誰だろうな」
「お前だよ」
ぼそっとトニーさんがマックに向けて言った。それをマックは聞き逃さなかった。
「俺は本当に世界一だ」
マックのそれを聞き、私とトニーさんは大笑いした。マックだけは腑に落ちなさそうにしていた。
こうして楽しく時を過ごし閉店の時間が迫ってきた。あれほどいた客も今やすっかりいなくなっていた。
そろそろ帰ろうと思い、隣で寝かけているマックに声をかけた。「私たちも帰るか」
マックは立ち上がると出入り口に向かって歩き出した。私はトニーさんに「では、また」と挨拶をして酒場を後にした。
「どうした。眠たいのか」
「いや、少しほうけていた」
マックが肩を叩かなければあのまま寝ていたかもしれない。そこまで疲れている自覚はなかったが、疲れは溜まっているようだ。
「かなりの間抜け顔だったぞ」
「鏡でも見てみろ。もっと凄いのが見れるぞ」
「なんだと」
マックは軽く私の右肩にパンチをした。このようなやりとりを今まで何度しただろうか。いつやっても楽しいものだ。
「楽しそうだな。ほら、酒だ」
トニーさんは俺とマックの前、そして自分の前にも酒を置いた。
「よし、今日も飲みまくるぜ」
「お前はさっきも飲んでただろ」
「3人揃ってからが本番ってもんだろ。それじゃいつものあれをしますか」
そうマックが告げると3人で各々酒器を持ち「かんぱーい」という掛け声とともにお互いの酒器を他の2人の酒器に勢いよくぶつけた。
私は乾杯をした後すぐに、酒を一気に飲み干した。もちろん2人も一気のみだ。
トニーさんは空になった酒器を持って再び奥に入っていった。
「なあ、マルコム。お前、王様のとこで何してたんだ」
「特に何かしたというわけではないな」
「じゃあ、行っただけなのか」
どうなのだろうか。話らしい話をしたわけでもないし、褒美を受け取ったわけでもない。そういえば祝賀会に誘われたな。
「あるお誘いを受けた」
「なんだよ、あるお誘いって」
「また今度教えてやるよ」
「もったいぶらずにいま言えよ。気になるだろ。くそ、このままじゃ気になりすぎて寝れないぜ」
きっと爆睡するだろう。それは間違いない。
「それにしたっていいよな。羨ましいぜ、お前じゃなくて俺の前に敵の王が現れてたら俺が倒してやれたのによ」
「お前の場合は、びびって腰を抜かしそうだけどな」
笑いながらそう言ってやった。
マックが怒ってつっかかってくると思ったが、そうはしてこなかった。それどころかマックは笑いながら「そんなことはないね。なにせ俺は剣を持ったら国一番、いや世界で一番強いんだからな」と本気か冗談かよくわからないが自慢げに言ってきた。
《ドンッ》といきなり音がした。見なくてもわかる。酒を持ってトニーさんが帰ってきたんだ。
「お前ら何話してんだ。俺も混ぜろよ」
「ああ、いいぜ。今からこの世界一の剣豪マック様の話をするとこだったんだ。トニーさんもそこに座って聞いているといい」
酒がかなり回っているんだな。普段からお調子者全開のマックだが今日はそれの比ではない。新しい玩具を買ってもらった子供のようにはしゃいでいる。
私は酔っ払いは嫌いだからあまり関わることはしないが今回は面白そうなのでこのまま話を聞いていることにした。
10分くらいずっとマックがしゃべり続けていた。流石に私もトニーさんも飽きてきたのでちょっかいを出してみた。
私は店長が酒と一緒に持ってきた。魚を口にして「流石はトニーさん。うまいよ。どこぞの剣豪とは違い、本当に世界一の才能があるんじゃないか」とトニーさんを褒めた。
「やめてくれよ。まあ、確かに俺の料理はどこぞの剣豪とは違って世界一かもしれないけどよ」
「おい、お前らそのどこぞの剣豪とは誰のことを指しているのか教えてもらおうじゃないか」
見事にひっかかった。私とトニーさんの思惑通り反応してくれた。やはりいじってこそのマックだ。
「さあ誰だろうな」
「お前だよ」
ぼそっとトニーさんがマックに向けて言った。それをマックは聞き逃さなかった。
「俺は本当に世界一だ」
マックのそれを聞き、私とトニーさんは大笑いした。マックだけは腑に落ちなさそうにしていた。
こうして楽しく時を過ごし閉店の時間が迫ってきた。あれほどいた客も今やすっかりいなくなっていた。
そろそろ帰ろうと思い、隣で寝かけているマックに声をかけた。「私たちも帰るか」
マックは立ち上がると出入り口に向かって歩き出した。私はトニーさんに「では、また」と挨拶をして酒場を後にした。
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