図書委員の活動

ゆう

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 一週間。
 中学に入学してからもう一週間がすぎていった。慣れない場所や人と共に生活していたからかこの一週間の疲れは大きかった。だから、と言うわけでもないが、週末はずっと家にいた。
 先生から部活や委員会をどうするか考えてきてと言われたが、それすら考えず家でくつろいでいた。
「先週言った、部活や委員会のことは考えてきたか」
 1時間目は学活だった。どうやらここで何部に入るか決めさせられるようだ。俺としては何もせずに即時帰宅で良かったのだが、この学校は部活か委員会のどちらかに入らなければならない決まりがある。それが俺を苦しめていた。
 「今から紙を配るからそれに希望する部活や委員会を書いてくれ。部活を二つやったり委員会を二つやったりするのは無理だが、部活と委員会を一つずつ両立してやるのは可能だからな。それじゃあ五分後に集めるから書いてくれ」
 先生は紙を列の先頭の人たちに渡してそれを先頭の人たちが後ろの人へと回していった。この作業をした時に誰一人として喋らなかったのでこれが中学生か、と感心した。
 紙に名前とクラスを記入し、じっと紙を見つめた。土日に考えておけばよかったと後悔する。
 結局何も書けないまま五分は過ぎていった。白紙のままの紙を俺は回収に来た列の一番後ろの人に渡した。おそらく呼び出されることになるだろう。それは覚悟しておくか。

 予想通りと言うか当然と言うべきか、俺は終礼で先生に呼び出しをくらった。終礼終わりに周りの奴らが、なんか悪いことしたの、聞いてきたのに対して、何も、だけ答えて俺はしぶしぶ職員室へ向かった。
「失礼します。一年二組の荒木です。瀬尾先生はおられますか」
 職員室の中でドアの前に書いてあったマニュアル通りの挨拶をして、職員室へ入った。
「荒木こっちだ」
 呼ばれた方を見ると先生はソファに座り手招きしていた。
「どうして呼ばれたかわかるか」
「部活とかのことでですよね」
「その通りだ。どうして白紙で提出したんだ。うちの学校は何かには入らなといけないと説明したよな」
「はい」
「で、何に入るんだ」
 まだ、そのことに対する答えが決まっていなかった俺は、言葉を発することをせず下向いた。
「まだ決まってないのか。じゃあ図書委員会には入らないか」
 特に嫌な理由もなかったので承諾した。
「それでいいです」
「わかった。それじゃあ気をつけて帰るだぞ」
「はい。さようなら」
 失礼しました、と言って職員室を後にした。
 よくよく考えると、図書委員なら落ち着いていそうだし、いすに座ってるだけで良さそうだ。案外俺にあった仕事かもしれない。そう思うと白紙にした行動は正解だったのかもしれない。
「ようやく終わったか、仁」
 昇降口に行くと、小学校からの友人である、間島祐馬が待っていてくれた。
「わざわざ待ってたのか、先に帰っててもよかったのに」
 祐馬は俺を見上げるようにニヤリと笑うと校門に向かって歩き出した。俺もそれについて行った。
「お前は何に入ることにしたんだ。やっぱりバスケか」
「まあな」
 無難な選択か。小学校の時もやっていたバスケを続けるのは。
「背が伸びるといいな」
「うるせぇ、仁はどうなんだ」
「図書委員」
 祐馬は大声で笑いだした。そんなに俺に図書委員は似合わないのだろうか。
「お前が図書委員ってやばいな。雀が水泳するようなもんだろ」
 その例えの意味は全然わからないが馬鹿にされているのはわかった。
「意外に天職かもしれんぞ」
「どうだか。まあ、顔立ちは図書委員ぽいかもな」
 図書委員ぽい顔って何だよ。それにそこまで笑うこともないと思う。
「何はともあれだ。お互いに頑張りますか」
「そうだな。ぼちぼち頑張りますか」

 翌日の五、六時間目は各部活動、委員会で集まりがあった。顔合わせ会のようなものらしい。
 俺も図書委員会の集まりがある、図書室へ行った。
 図書室に来たのは俺が最後だったようで、俺が入った後に担当の先生らしき人が扉を閉めた。
「一年生のみんな図書委員会に入ってくれてありがとう。僕は委員長の香田です。これからよろしくお願いします」
 俺が来てすぐに何の説明もなく委員長があいさつをした。三年生だからだろうか俺たちより大人びた雰囲気を出していた。雰囲気だけでなく顔もキリッとしていた。少し緊張する。
「次は私の番かな」
 後ろから声がしたので振り向くと先ほど扉を閉めた先生が立ち上がった。
「私は図書委員会担当の北村です。これからよろしくお願いします。一年生は困ったことがあれば私より委員長を頼った方がいいですよ」
 それを言い終わると再び座った。
「では、いよいよ一年生達に自己紹介してもらおうか。君から頼めるかな」
 俺と目があったのでそういうことだろう。
「一年二組の荒木仁です。よろしくお願いします」
 俺が一礼すると、拍手が起こった。
 こういう自己紹介というのは初めの人が言ったことを言えば、後の人は難なく終えることが出来るため後の方が楽と言えるかもしれない。
「一年一組、御影光です。よろしくお願いします」
 例に漏れず御影くんも俺とほぼ同じ挨拶をした。ただ俺と違った点があるとすればずっと下を向いていたことだ。きっと恥ずかしがり屋なのだろう。
「一年二組の神宮あかねです。よろしくお願いします」
 同じクラスの人がいたのは気がつかなかった。これといった特徴がないが、あえてあげるならメガネだな。
「一年四組、西原未央です。この委員会で本とたくさん触れ合っていきたいと思ってます。よろしくお願いします」
 これまでと違い、一言付け加えての自己紹介だった。授業の発表ならば評価が上がるかもしれないが、生憎今はそのような場面ではない。
「これで全員終わったかな。それじゃあ今年はこの四人が加わり計九人での活動になります。それでは皆さんよろしくお願いします」


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