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第4節 巻き起こる様々な試練と それをいともたやすく乗り越える女子高生(おっさん)の日常
94.女子高生(おっさん)の苦手なもの②-3
しおりを挟む〈スターボックスコーヒー〉
「アッ……アシュナっ……うち田舎もんやったけんスタボ初めてなんよっ……アシュナのオススメでええから選んでくれへんっ?」
キラカはさらりと、おっさんに無茶な注文を寄越した。難度エキスパートなスタボの注文に被せるようにエキスパートな注文をされ、おっさんの脳は混乱を極める。
「(ね……ねぇっ……あの人……小説家のアシュナちゃんじゃないっ!?)」
「(ほ、本当だ~うわ、めっちゃ可愛いっ! 顔ちっちゃっ! 髪めっちゃ綺麗だし全身キラキラ輝いてる! 生アシュナちゃんマジオーラやばい!!)」
「(なに頼むのかな!? ね、あとでサインと写真お願いしようよっ!)」
店内が一斉にざわつく、ひそひそ話が俺にも聞こえるくらい丸聞こえだから周囲にも必然と届いていた。
普段であれば可愛い子たちにこんな事言われればもちろん応じるところだが……今じゃない。今は勘弁してほしい。
更にみんなに注目され、メニュー表を見てもなにがなんだかわからなくなってしまったおっさんは──
「あのっ! ペペロンチーノくださいっ!」
──と、ネットで得た知識をそのまま披露した。
しかし、よく見てみると『フラペチーノ』とかいう異世界の男爵みたいな名前の商品と間違えてることに気づいた。
(うあああっ! 間違えてるーっ!)
と、心の中で悶えていると……辺りは騒然としていた。笑いが起きたり、静まり返っているわけではなく──騒がしかったのだ。
「え、スタボ軽食にペペロンチーノ始めたの?!」
「いや、アシュナちゃんが頼んでるんだから間違いないでしょ? もしかして都内限定とか? 裏メニュー!?」
「店長っ!! 上からなにか聞いてないんですか!? 御用意できないですよ!?」
「いやマネージャーからはなにも……だが、あのアシュナ先生が頼んでるんだから間違いない! 近くの料理店から急いで材料を取り寄せろ! 事情を話してシェフも借りてこい!!」
「いやあの……間違いで……」
「お客様っ! すぐに御作りしますので申し訳ありませんがお席でお待ち下さいませ!」
なんか大事(おおごと)になってしまった。店員達はまさにてんてこ舞いになってしまったので訂正の言葉も届かなかった。
「やっぱさすがやねアシュナっ、裏メニューも知ってはるなんて」
「はは……」
「馬鹿野郎! 先にお飲み物を御用意しろっ!」
「失礼致しました! お飲み物の方はどうなされますかっ!?」
「えー……じゃあ私はブラックコーヒーで……キラカはこのマシュマロフラペチーノでいい?」
「アシュナが選んでくれるんやからなんでもええで!」
「アシュナちゃんはブラックコーヒーだって、カッコいい! 見た目とのギャップまじやばい!」
「あの若さで小説家で可愛いくて綺麗でテレビまで出てるんだもん、やっぱ普通の女子高生とは違うよね」
周囲の慌てた様子を見て、落ち着きを取り戻した俺はブラックコーヒーを頼んだ。人は自分と同じ感情を露(あらわ)にした人間を見ると平静になるというのは本当のようだ。
「アシュナやっぱかっこええな~、この可愛い飲み物じゃなくてええの?」
「うん……」
キラカに手渡されたハンドソープのような飲み物を見て胸焼けを起こす。冷静に考えてこんな泡の塊を飲めるわけがない、糖尿病になるかもしれないとメニュー表に載っていた写真で判断して正解だった。
そして、おっさんに手渡されたアイスコーヒーの容器にはなんか連絡先みたいなアドレスが術式魔法陣のように描かれていた。なにこれ店員の悪ふざけ?
(陽キャ御用達こわっ、もうスタボは二度と来なくてもいいかな……)と苦手意識が更に強くなった女子高生(おっさん)だった。
しかし、スタボ事変はまだそこで終わりではなかった。
〈もう少し続く〉
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