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第4節 巻き起こる様々な試練と それをいともたやすく乗り越える女子高生(おっさん)の日常
95.女子高生(おっさん)の苦手なもの②-4
しおりを挟む〈スターボックスコーヒー〉
飲み物を受け取ると、店員さんから『よろしければコンディショナーもお使い下さい』みたいな意味不明なことを言われた。
コンディショナーって髪洗うあれのこと……? なんでコーヒー飲むのに髪洗わなきゃならんの? 美容院みたいにマイシャンプーとか持ってこなきゃいけなかったの?! などと戦慄しているとキラカが問い掛けてきた。(注※美容院にマイシャンプーは必要ありません)
「アシュナ、コンディメントバーって何処にあるんやろか?」
どうやら、またもおっさんの聞き違いだったようでキラカがちゃんと聞いていてくれて安堵する。しかし、横文字対応すらできてない俺に場所などわかる筈もなかった。
「えーっと……」
ペペロンチーノ事件は『美少女(アシュナ)効果』でなんとか乗り切ったものの、未だに周囲の関心を一心に集めているので気は抜けない。キラカに対しても同じこと──せっかく頼ってくれてるのだから格好悪いところは見せられない。
しかし、コンディメントバーなど全く聞いたこともないので見当もつかない。
すると──後ろから突然、誰かが真横を通りすぎた。
「こっちや」
「……えっ?」
そいつは、まるで迷いの森にて彷徨(さまよ)う勇者を導くかのように……俺にだけ聴こえる声量で囁(ささや)いた。方言だったので一瞬キラカの声かと思ったが、声が間違いなく男のものだった。
長身、フードを被り丸眼鏡型ブルーレンズのサングラスをしている。少し覗かせたサラサラの赤い髪……体格からして男だと思うけどなんかいい匂い。
明らかに不審者っぽいそいつは、女性が群がっていたカウンター向かいの台へと向かっていく。どうやらあそこがコンディメントバーらしい。
「あ……あそこだよ、行ってみよう」
キラカはその男の言葉がやはり聞こえていなかったようで、喜びながら俺の後をついてくる。コンディメントバーにはそいつと俺達だけになった。俺の隣でその男は、手にしていた飲み物になんか色々トッピング的なことをしている。
「なんや色々置いとるなぁ……アシュナ、これどう使(つこ)うたらええの?」
コンディメントバーとやらには、用途不明な容器が沢山置かれていた。ストローやスプーン等があったので、きっとこれはバイキング等で色々トッピングできる場所と同じだと推察する。
俺は答えにたどり着いた気がして、謎の容器を手に得意気に言った。
「ここで飲み物に色々できるんだよ、えーっと……これは……胡椒(こしょう)かな?」
「ぶふっ!! あはははっ、あ、かんにんな。キミ面白いなぁ~さすがにスタボに胡椒は置いてへんて……ラーメン屋じゃないんやから……あははっ」
なんか不審者が急に笑いだして俺にそう言った。
「はー、ここで張ってて正解や。映像よりめっちゃ可愛い──あ、怪しいもんちゃうで? オレのこと知っとってくれたらええねやけど」
そう言って、不審者はサングラスを上にずらしてフードをめくった。整った赤髪、適度に焼けた小麦肌、大きな瞳、ちらりと見える八重歯──テンマを青系クールイケメンと定義するなら、こいつは真逆に位置する正統派陽気イケメン。プリンス様でいうならセンターに位置する主人公タイプだ。
「は……ぇ? ぇぇええっ!? 【八神(やがみ)三日夜(みかや)】!?」
そう言って驚愕したのはキラカだった。キラカの知り合いなのかと思い尋ねてみると、またしても驚愕といった様子で教えてくれた。
「ちゃうてアシュナっ! 若手俳優で今人気No.1のアイドルやって!」
「……へぇ~……」
「ははっ、やっぱ知らんか~。ま、その方がやりがいあるけどな。はじめまして【波澄アシュナ】ちゃん、オレは君に会うために来たんや。ちょっと付き合(お)うてくれへんかな?」
「いえ、結構です。飲んだらもう帰るんで」
少女漫画の主人公や女子高生ならば、アイドルが会いに来るような衝撃の展開にときめいたりするのだろうが……俺(おっさん)は早くスタボを出たくて必死だったので丁重にお断りして用件はまた後日にしてもらった。
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