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第5節 女子高生(おっさん)の日常と、いとも愛しい夏休み

184.女子高生(おっさん)のコミケFINAL

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「──ああああのっ! 一枚宜しいですすすかっ!?」
「あ……はい、どうぞ」

 永遠に鳴り止まないシャッター音。
 途切れる事の無い、カメラ小僧たちの要求。
 終わりのない──【リュウナ】ちゃんの時間。

 極楽鳥をモチーフにした杖を両手で持つ──右手を下に、左手を上に。
 原作準拠──微妙な差異すらもファンは赦さないだろう……少なくともおっさんならばそうである。

 エロさの中に上品さを孕んだリュウナちゃんの衣装からは胸の谷間がちらつく。巫女袴に振り袖。彼女は世界を救える唯一の召喚士なのだ。
 おっぱいはリュウナちゃんに比べて大きすぎたのでメイクアップアーティストの皆に小さく見せる技術を施して貰った故に、何か変な感じがするけどきつくはない。流石プロの技術だ。
 更にオッドアイ設定のために両眼にはカラコン。眼に合わせた色に世界が変化したようにも見える──それは果たして気のせいか、新たな境地に至って輝いて映るせいか。

 細かなところでも皆は妥協しなかった──それはきっと、幻想(ゆめ)に魅(み)た二次元の住人を三次元に召喚させたいという参加者達の願いを叶えたい想いから。
 コスプレのイロハをおっさんは存じないが、ならばおっさんもできる限りの事を尽くす──『少しくらいなら違ってもいい』などの甘えはここに存在してはならない。
 そんな心構えで、一人一人に恥ずかしそうに目を配る──彼女(リュウナ)は恥ずかしがり屋で真面目で内気なのだ。

「────っ▲○▲□※!!!」
「*※○▲:{□!!!」

 狂喜にも似た喧騒が、俺を中心として巻き起こる。カメラ小僧たちの陣形は早くも囲いに移った。何を叫んでいるのかは聞こえない──だが、聞こえなくてもそれがライブに熱狂するファンの歓声そのものだと表情でわかる。

 さながらここはサイクロンの中心部。
 アスファルトの照り返しが旋風と重なり、炎の嵐となって吹き荒れる。リュウナちゃんの召喚する魔術そのもの──幽玄の世界は今、ここに現れた。

 いや、みんなで創り上げたんだ。

──なんて気持ちいい──

 そんな感覚が全身を駆け巡ったおっさんの身体は自然と舞い踊り始める。

「あれはっ──『異界葬りの儀』でござるっ!!」

 ケンが盛り上げるためなのか素なのか大袈裟に騒いでいる。
 リュウナちゃんが死者の弔いとして作中で見せるその舞踊は数多くのゲーマーを虜にした。その美麗なグラフィックで描かれたシーンを、恥ずかしながらも邪(よこしま)な眼で食い入るように見ていた(揺れるおっぱいと脇を)から踊りは完コピしている。
 今はぎっくり腰に怯えてる場合じゃない──今だけは二次元住人(リュウナ)だから……踊るんだ。

「凄い……っ、物語の終盤のシーンも完全再現してるっ!!!」
「完全な………リュウナちゃんだ!」

 いつの間にか、他所でコスプレしてたレイヤーさん達も集まっていた。
 現実世界では到底見ない衣装を着た住人が集い、俺の舞踊に魅入っているその光景はまさしくファンタジー世界。

 異世界転移もしないままに──おっさんは遂に、二次元の境地にまで至ったのだ。

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「──是非っ!! 当社の専属レイヤーになって頂きたいっ! 契約金5千万、年俸7千万でどうですっ!?」
「ならウチは1億出すぞっ!!」
「はいはい、交渉はアタシを通してからよ~。うちのアシュナ先生に近寄らないでもらえるかしら?」

 大盛況のまま──永遠に続きそうな時間は……興奮のしすぎで熱中症者が続出し始めて終わりを告げた。
 重症者はいなかったらしいけど……やはり真夏の野外で長時間騒ぐものじゃなかった。俺はスキルのおかげか何ともなかったけど。

 更衣室で半裸のレイヤーさんにサインをねだられ囲まれて、至福の時間を過ごしたのちに帰ろうとすると今度は何かしらのお偉いさんであろうスーツ集団に囲まれた。

 コスプレ終わったのにどんだけ囲まれるの俺。

 どうやら何かしらの契約させたいみたいだけど、枕営業とかあると嫌だし興味無かったので編集長に守ってもらった。

「大騒動でしたな、しかし、初コミケとしては充分すぎるほどの戦利品を得たでござるよ」
「あれ? ケンって何か買ってたっけ? 手ぶらだけど……」
「かけがえなき最高の想い出が手に入った──ということでござるよ」

 なに良いこと言ってまとめようとしてんの、恥ずかしい──と、突っ込もうと思ったけど……あながち満更でもなかったので誤魔化すのはやめて皆で笑い合う。 

「……そうだね、楽しかった──」

──『また来よう』と、口にしようとして思い留(とど)まる。
 もし次に来る事になった時、陽の目に晒されるのは俺じゃなく……『彼女(アシュナ)』だ。女友達との遊びの約束ならともかく……きっと色々求められるだろうから勝手に取り決めはできないと思ったからだ。

 しかし、瞬間──


「──また、必ず来ましょう」


 普段のおっさんと程遠い雰囲気と口調に、一瞬、唖然となったみんなだったが……コスプレの余韻(よいん)だと勘違いしたのか直ぐにまた笑顔になった。

「アシュナ殿、コミケでなくともまたリュウナコスプレをお願いするでござるよ」
「いや、今度は違うコスしてもらおうぜ。冬コミまですぐだし……も、もっと露出の高いエロいやつを……」
「わかっていないなタケル君は。隠れながら時折垣間見える筋肉が一番美しいとよく言うじゃないか!」
「筋肉は違うんじゃないかな……」


 談笑が似合う夕暮れの、青とオレンジのコントラストで彩られた高い空が──何かが始まって、何かが終わりそうな予感を告げるそんな帰り路。

 この世界に来て、ちょうど一年が経とうとしている。
 一年前に見た時と変わらないはずの夕陽は、不思議なことに全然違う色に見えた。
 きっとそれが──おっさんがここにいた証となるんだろう。

「……終わる時の方が輝いて見えるなんて、皮肉なもんだね」

 楽しかった一年と、夏休みが──終わりを告げる。


~~第5節『女子高生(おっさん)の日常といともいとしい夏休み』~~                    終わり




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