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第5節 女子高生(おっさん)の日常と、いとも愛しい夏休み
183.女子高生(おっさん)とコミケ⑤
しおりを挟む『ドラゴンファンタジー』
異世界を舞台にした作品は数多くあれど──間違いなく、世間一般にそれを浸透させた作品といえば皆がこの名作を挙げるだろう。
スライム、ファイア、ポーション……今や当たり前のようにみんなが認知しているこれらを知らしめたのが初期家庭用ゲーム機時代からある『スクックス社』発売の『ドラゴンファンタジー』である。通称『DF』と呼ばれている。
「えー……なんか今日【きなこ】様やらないんだってさー」
「熱中症じゃ仕方ないか……あーあ、それ目当てできたのにー」
「じゃあもう帰ろっか……」
正統ナンバリングだけでも、プラットホームを変えながら既に19作目を突破しており……その人気が如何様に不動のものかを物語っている。
そしてつい先日──新たな高性能家庭用ゲーム機と同時に記念すべき20作品目『DFⅩⅩ』が発売されるや否や……各所で話題となる。ストーリー、グラフィック、音楽、世界観、ゲーム性……どれを取っても非の打ち処がない、歴代最高傑作としてゲーム業界に名を馳せるのだ。
更に特筆すべきは個性的なキャラクターであり、その中でもヒロインである【リュウナ】ちゃんは令和の時代になっても人気を博しており……35作目を発表した未来においてもキャラ人気ランキングtop10内常連となっている。
「あ~あ、きなこ様のリュウナちゃん楽しみにしてたのに…………………」
あくまでこれから。
そう──それらがわかるのは、まだ先のお話。
今はまだ下火の段階であり、燃え拡がっていくのはこれからだ。
「───あ、あれ……? いまなんか本物のリュウナちゃんが後ろを通りすぎたような……」
「大丈夫? あんたまで熱中症で幻覚見ちゃったんじゃない?………え、ヤバい……私もなんか……身体が火照ってきたような……」
「ね……なんだろ………いい匂い………なにこれ……おかしくなりそう………」
きなこちゃんの騒動の情報が統制されていない、混乱している群衆の横を歩くと──すれ違いざまにどの人もそんな事を口にした。
中にはおっさんの姿を視認したにも関わらず──脳が『そんな筈はない』と否定したかの如く、数秒もの間、現実を捉えきれずに朦朧(もうろう)した様子の人もいた。
人間──あり得ない光景を瞳に取り込むと、脳がフリーズして身体が動かなくなるようだ。
「ぅ……ぅわぁぁぁぁぁぁんっ……!!!」
動き出すと、中には泣き出す女子もいた。
その反応は負(マイナス)のものではなく、まるで待ち望んでいた『神』が自分の前に舞い降りたかのような……狂信的なものだと表情で知る。
おっさんはそんな女の子に……キャラ設定そのままの、少し照れたはにかんだ微笑みで対応した。
そしてそれが合図となり、会場の時は一斉に動き出した。
「あ……アシュナ様……いや、リュウナちゃんだぁぁぁぁぁぁーーーーっ!!!」
今、コミケは、世界で一番暑く熱い──ライブ会場へと変化した。
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