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最終節.女子高生(おっさん)の日常と、いともたやすく創造されしNEW WORLD
222.女子高生(おっさん)の最終イベント『文化祭』プログラム⑧~緊急事態5
しおりを挟む【この世界線は消えて無くなる】
神様の登場という波乱な展開にも慣れてしまったおっさんでもその言葉には閉口する他なかった。
「……え、どういうことですか……? この世界が……消える?」
「そうだぜな。けど、あなた達二人には旦那が迷惑をかけたから保護してあげるぜなぁ。だからここに連れてきたんだぜな?」
花魁、猫人族……そして今度はマイナーすぎる語尾のキャラ口調で何故か天海キヨさんは満足気な笑みを浮かべた。
この人、キャラもそうだけど精神も安定していないような……急に怒ったり笑顔で世界が消えるって言ったりまるでサイコパス神だ。のじゃロリキヨちゃんが怖がるのも理解できる気がする。
──って、そんな事を考えている場合ではない。
「説明して……もらえますか?」
「うん、えーっと……まぁ元を辿れば全部私達のせいなんだけど……ちょっとこの世界線は色々やりすぎたんだよ。異分子……異世界のエルフや阿修羅くんを呼んだり、人間に神の力を分け与えたり……そのせいで収拾がつかなくなってね」
急に口調が真面目になるあたり、これが神様の素なのだろう──半笑いの表情で、ただただ真実だけを淡々と述べ始める。
「ここいらで一回収束しないとねって事になってさ、だから……【運命】の名の下にリセットするんだ。つまり消滅」
「リセット……消滅って………無かったことにするってこと……?」
「そ。でも安心して。キミは違う世界線でこれまで通りの日常を送れるからさ。望むなら似てる今よりも良い世界へ入れてあげるよ。なんなら………」
「そんなのダメっ!!!」
話の核を突く前に、すぐに異を唱えたのは阿修凪ちゃんだった。
「もう、話は最後まで聞いてよ。キミの大事な人が死ぬわけじゃないんだから。限りなくコードの近い世界線ならこの世界と何ら変わらない。お父さんもお母さんも妹も友達も……これまでと殆ど変わらないままの世界へと送ってあげられ……」
「イヤっ!! 無かったことにするなんて絶対ダメですっ!!」
まるでこれ以上の論争を拒否するかのように阿修凪ちゃんは駄々をこねる。
「だって!! おじさんは確かにここにいました!!リセットするってことはそれすらも無くなっちゃうんでしょ!? そんなの絶対認めないですっ!!」
確かに──いくら似たような世界と言っても異分子とされている俺が阿修凪ちゃんの中にいる世界だったらまた同じ事が起きかねない……きっとそれらは全て排除される。
つまり、俺がアシュナの中にはいる世界はもう何処からも消えて無くなるのだろう。
俺がいた痕跡──記憶すらも。
「私は……おじさんがいたから変われた……変わろうと思えたんです……みんなだってそう……おじさんに救われた人だっていっぱいいる……それを全部無かったことにするなんて絶対にできません!!」
俺に救われた人間なんていたっけ──なんて野暮な突っ込みはできなかった。阿修凪ちゃんの顔はそれほどまでに真剣だった。
「いや、できるできないの話じゃなくて。そうなるからって私は告げに来たんだけど」
「どうにかできませんかっ!? 何か消さなくて済む方法があるなら私がっ………」
「あ。じゃあ貴女が消えてよ阿修凪ちゃん。初めから阿修羅くんがいた世界って置き換えて誤魔化すことくらいはできるからさ。そうすればリセットしなくても済むかもしれないよ」
「…………は?」
「…………………それだけでいいんでしたら、構いませ」
もにゅうっ──と、まるで粘土をこねたような音がした。いや、してないけど。
心情的にはそんな表現できないような効果音が発生したかのような柔らかさだった。
馬鹿な事を言おうとした阿修凪ちゃんの、豊満な果実をおっさんが揉んだ音である。
「んぅっ……!! い……いきなりなにするんですかっおじさっ………」
「あまりに愚かな発言をしようとした阿修凪ちゃんを咄嗟に止めるための愛の鞭(むち)だ、すまない」
「んっ……ふ、普通そういう時ってビンタするとかじゃないですかっ………!? それにすまないって言いながらずっと触り続けてっ………んぁっ!!」
「──神様、消えちゃうものはもうしょうがないから……せめて、文化祭でみんなと楽しめてる世界線をみつけて彼女を送ってあげて。まだ文化祭の途中だったんだ」
「いいけど。旦那に聞いたかもしれないけどキミが元いた世界はこの世界の影響を受けて無くなっちゃったんだ。だから……キミの行く場所は、もう何処にもない」
だろうな。
『キミらを保護した』とは言ったのに違う世界へ送るのは『キミ』と阿修凪ちゃんしか対象にしていなかったから。
「──はぁっ!!? 一体どういうっ……んんぅっ!お……おじさっ……一旦胸触るの止めてもらっていいですかっ……!?」
「知ってる、俺のことはどうでもいいから阿修凪ちゃんの行く世界をなるべく良い世界にしてあげて。せっかく前を向けたんだから」
「……いいの? このまま貴方がいた痕跡を消せば、同時に貴方も消滅する。送り込む世界線がもうないんだよ?」
「いいのって……そうなるのを告げに来たんでしょ? だったらおっさんが何を言おうと無意味じゃないか」
「……消えるんだよ? 何でそんなにあっさりして……」
何故か神様は戸惑っている様子だ。
もっと泣き喚いたり、発狂するサマを眺めたかったとでも言いたいのだろうか。
だが、残念。
人間は諦めが肝心──女性としての世界線を離れると決めた時から覚悟していたことだ。
むしろ痛みもなにも無く、消えれるんだったらこんなありがたい事はない。
存分に楽しんだ──未練はないことはないけど、神様が消えるって言ったんだからしょうがない。
それもこれも諦めの早さと人生を投げる速度には定評のある、この年齢だからできたこと。
俺は堂々と胸を張って、いいのけた。
「──俺が、おっさんだからさ」
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