名無しの最強異世界性活

司真 緋水銀

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第一章 名無しさんの最強異世界冒険録

第二十九話 閃光騎士vs暗殺ギルド頭領

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キィンッッ!

キィンキィン!

ガクッ!

「…くっ!」
「勝負あり、であります」

ここは廃墟となった山中の炭鉱跡。
正確には現在はある研究機関の隠れた研究室として再利用されている。

そこでは壮絶な死闘が繰り広げられていた。

調査に来たエルフ族の閃光騎士と呼ばれるリーフレイン。
そして、研究所に依頼を受け侵入者を排除せんとする暗殺ギルド頭領…忌み名と自身で名乗った『殺』という少女。

二人は戦いながら最初の地点より大分炭鉱跡と森を繋ぐ入口に近づいていた。

初手を交わしてから約10分。
移動しながら剣と短刀を交える、二人は互角だった

…が

突如リーフは足に違和感を感じ崩れた。
直接攻撃を受けたわけでもないのに
足が全く動かなくなっていた。

忌み名による能力か…
経験による直感でリーフはすぐにその原因を判断する。

「機動力を殺がれてはさすがの閃光も動けないであります。しかし、さすが噂の閃光…ここまでこの名の前で生きていたのは貴女だけであります」

暗殺ギルド頭領、忌み名の『殺(キララ)』
最早その界隈ではなくても知らぬ者はいない。
その名の通り、相対した者は例外なく殺されている。

「暗殺ギルドが何故ここにいる?」
「勿論…これはたわ言ですが研究所に依頼を受けたであります、侵入者と…そして貴女を探し出し殺せと。手間が省けたであります」

しゃがみながら脚を触る、特に変わったところはない。

「それは光栄だな、まさか忌み名まで私に会いに来てくれるとは」

殺の得物を見る、小さな短刀を両手に包帯で巻いている。
先の方が少し黒ずんでいるような…

「しかし残念だな、どうやらお別れだ」

ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザァァ…
「?」

洞窟内、リーフの後ろから何か音が近づいてくる。
それは意思を持った緑の葉だった、広い洞窟内を埋め尽くすほどの葉がリーフだけを避け、殺に向かう。

「…っ!?」
ザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザザッッ!

殺は葉に埋め尽くされた。

「ありがとう、森の命達…」

これもリーフ自身の能力ではあるが、森への感謝は忘れない。
これで忌み名の少女が死ぬ事はないだろうが、少し時間が稼げた。
幸い動かないのは片足だけ。
リーフは足甲を脱ぎ捨て、膝裏を確認する。

「…?何だこれは…?文字?」

膝の裏には何かの文字が書かれていた。

ザザザザ…

「気づいたでありますか」

葉を掻き分け殺が出てくる。

「しかし、もう遅いであります」ピッ
「!?」ガクッ

もう片方の足も自由が効かなくなった。

「くっ、なるほど…文字か…気づくのが遅かったか…」
「その通りであります、私は自分の名を対象に刻む事によりその箇所の機能を殺す事ができるであります。文字で書いても有効であります、貴女の素早さならばこちらの方が確実であったであります」

リーフの両足の膝裏には『殺』とインクで書かれていた。

「気づかれないように殺るには少し時間がかかりましたがこれでチェックメイトであります」

(私と攻撃を交わしながら密かにそんな事を…能力を使わなくても暗殺ギルド頭領の肩書きは伊達ではないな…)

「後は胸に文字を刻めば貴女は死ぬであります、何か遺す言葉はあるでありますか?」

「………後ろに気をつけろ、かな」

グサッ!!

「くっ!?」

葉によって産まれた葉人間が剣を持ち、殺を斬りつけた。
直前に気づいた殺は寸でのところで避けたが右肩から背中を一文字の傷が覆う。

ザザザザザザザザザザザザザザザザッッ!!

大量の葉が今度はリーフを襲う、しかしそれは術者を攻撃したのではなかった。

サアアアッッ……

葉に包まれたリーフはそこから姿を消した、大量の葉の舟に乗って運ばれたのだ。

キンッ キンッ

『殺』
殺は洞窟の天井…土壁に『殺』と刻む。

ズドドドドドドドドドドドドドドドドドドッッッッ!!

殺された天井はその機能を終え崩落した。
葉人間はそれにより押し潰され、機能を停止させた。

「逃がさないであります」

--------------
----------
------


「はぁ…はぁ…」

森の命により森の外まで運ばれたリーフは平原に腰をついていた。

「ふっ…何がエルフ最強…無様だな…」

(思えば連敗しているな…どうやら世界にはまだまだ化け物がいるようだ。妹に精進しろなんてどの口が言っているのだ。情けない)

「だが…私はまだ死ねない…もっと…強くならなければっ…!」

(もう足が機能しなくても、何度敗れようと、私が最強でいる事に意味がある。この名の誇りに誓ったのだ!まだできる事があるはずだ…っ!)

剣と鞘を使い、リーフは腕の力だけで移動する。

「いいえ、死ぬであります」
「っ!!」ヒュッ

寸でのところで飛ばされたインクをリーフは避けた。
しかし胸には既に『×』印がつけられていた。

「あと少しであります」

ザアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!

その時雲一つない晴天からスコールのような雨が降りそそいだ。

「…?」

そして水蒸気のような煙が発生しリーフの姿を隠す。
同時に森の木の枝が伸び、殺を襲う。

「天候まで操るでありますか」サッ サッ

襲いくる木の枝を次々と避ける殺。

「足掻くでありますね」

シュンッ!!

「悪いか?」

煙の中から閃光速度で一直線に飛び出し、殺へ向かうリーフ。

キィン!
反応した殺とリーフは刀を交わす。

「騎士というものは潔く、死する時は足掻く事無く。それが真のツワモノでありますっ!」
「見解の相違だな!」

キィン キィン キィン!!
二名は刃を組み交わし、会話も交わす。

「私が知る真に強い者とは必死に生きようと足掻く者だっ!」

(先日の名のある名の無い男からの敗北から学んだ。潔く諦めるには私にはまだ強さが足りない。だからまだ足掻いてやる!)

ガクン!

「くっ!」

ピッ!

「くそっ!」

ズザアッッッッ!!!

瞬時に後方に身を投げ出すリーフ、それでもインクは避けられなかった。

「はぁっ…はぁっ…」

既に胸には『×』『木』『几』までが書かれていた。
リーフは地面に背をつけ、肘をついている。
足が動かないので肘の力だけで後方へ移動する。

「はぁっ…はぁっ」

既に髪は土まみれでポニーテールは解かれ乱れていた。

(何かないか…他に手は…)

ズリ…ズリ…

「惨めでありますね」

ゆっくりとリーフに近づく殺。

スタ…スタ…
「最期くらいはエルフ最強の名に恥じぬ散り様を見せたらどうでありますか?」

ズリ…ズリ…

「生憎…まだ最期にするつもりはないのでな…」
「そうでありますか…そう信じたまま死ぬのも一興であります」

短刀を構える殺。

「………!」
その時、リーフは何かに気付き移動を止め殺に話しかける。

「……貴様は自分の名を誇っているか?」

それは戦いの場…少なくともこの状況においては意味不明な質問。
しかし、その質問を受けそれまで表情の変わらなかった殺の顔が激しく変化した。
それは憎悪に満ちた顔であった。

「……この、忌み名の事を、知っての、質問で、ありますか…?」

しかしリーフは淡々と答える。

「どんな名であろうと関係ない、人を形づくるのは名ではない」
「……っ、綺麗、ごとをっ…」
「自身が名を体現するのだ、そして、聞こう。貴様は自分の名を誇っているのか、と」

瞬間血の気が全て引いたような冷静な顔で
恐ろしく歪んだ笑顔で最期に殺はリーフに笑いかけた。

「誇るわけないじゃないですか、こんな名前。両親はすぐに殺してやりましたよ」

言葉遣いすら変わる圧倒的な殺意で少女は刃を振り下ろす。

「なら、それが私と貴様の違いだ」

ザシュッ

リーフは手に持っている剣で…自身の力で自分の両足を切断した。

「!?」

そして血を手で掬い、殺の目に浴びせかけた。

「っくっ…!」
目を瞑る間もなく、少女は視界を奪われる。

ザシュッ!!

「かっ!?…っはっ……」
「私は自分の名を誇りに思う、そして、可愛い妹の名も、な」

一閃、腕の力だけで跳んだリーフは
殺の胸に剣を突き刺した。

「貴様も、その名を誇っていい、きっと…意味は…あるのだから…」

殺は後方に倒れ、脚を置き去りにしたリーフも跳んだ勢いにより殺の上にのしかかり倒れた。

バタッ…

「いみ、なんて、あるもんか…この名のせいで…どれだけ…苦しんだ…か」ゴポッ
「私の……妹も……そうやって苦しんでいるよ……今でも…な…だが……それを…乗り越えた…先に…命名の…意味が…わかる時が…くる…貴様は……その意味を……本当に…理解したのか…?」
「…………」

両者は既に息も絶え絶えで、折り重なり会話するその姿は端から見れば最期の時間を共有せんとせん戦友のようにも見える。

「意味のない…命名など…一つもない…どんな名にだって…想いが……」

「…………………そうで、あります、かね……………こん…な…名……にも……おもい……が………」

二人はそこで絶命する。
しかしそこに駆け寄ってくる姿があった。

「…………」

ピキッ

お姉ちゃん!!!

『氷の造花』

ピキピキピキッ

倒れるリーフに駆け寄るアイ。

「お姉ちゃん!!」ガバッ
「……早い再開だな、アイス」
「もぅ!無茶ばっかりしないでよっ!」グスッ
「無茶ではない、駆け寄ってくるお前の姿が見えたからな。賭けてみただけだ…」

そう、戦いの最中に気付いたのはこちらに向かう妹達の姿。
だから会話をして時間を稼ぎ注意を引き、あんな無茶もできたのだった。

--------------



「リーフ!」

倒れるリーフに俺も駆け寄る。

「旦那様、無様な姿を見せ申し訳ありません…」
「だ、旦那様!?」

無事で良かった…
しかしいきなり旦那様って…

「エレが呼んでくれたのか…済まない。強くなれと言っておきながら私がお前の邪魔をしているな…」
「邪魔なんかじゃないよ、アタシはいつかお姉ちゃんと一緒に戦うために強くなるんだもん。お姉ちゃんがいてくれなきゃ意味ないよ」グスッ
「ふっ…そうか。改めて礼をいうよ、ありがとうアイスメリア」

氷に包まれ再生した足でリーフは立ち上がる。

「アイ、この娘も治してくれ」
「えっ?…いいの?」
「ああ」

リーフは今しがた死闘を演じ、命を奪い合った少女も治すようにアイに頼む。

ピキッ…ピキピキ

「こんなにも早くこちらの能力を発現させるとはな」
「……ナナシのおかげでね、思い出したの」
「旦那様の?」
「…まぁその話は後!てゆーかお姉ちゃん旦那様って何!?」

姉妹で騒いでいると遅れてエレが駆けつける。

「リーちゃん!無事!?」
「ああ、おかげさまでな。助かったよ」
「よかったにゃ…でもゆっくりしてる場合じゃないんだよっ!このままじゃ、みんな死んじゃうにゃ!!」

ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!!

その時、世界を揺らすような地響きが鳴り響いた。
そして同時に激しい地震が起きる。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴッッッ…………
「「「!!!」」」


「…うそ…」
「……何だと」

倒れていた少女も起き上がる。

「………もう、無駄であります」
「そんな……」

「……遅かったにゃ……研究所の『人為噴火実験計画』……そのための…名をつけた巨人…『フロラーバ』…」

「flow of lava……『溶岩の流れ』それによりある町を消す…町が…火山に包まれるにゃ!」

俺達の視界に広がるのは噴火する火山
それを起こしたと思われる溶岩に呑み込まれる巨人

ドォン! ドォン! 

そして、流れくる溶岩と土石流。
それを操作していると思われる六目の巨人の再来だった。
























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