36 / 207
序章第二節 石原鳴月維、身辺警備開始
三十三.お気に入り登録
しおりを挟む「……できましたっ。ミルクで煮た野菜と燻製(くんせい)肉のスープです」
「おお」
ムセンは見事に地球で言うシチューに似た料理を完成させた。美味そうな匂いが辺りに立ち込める。凄いな、食材を見ただけでレシピすら知らない料理を一人で完成させてしまうとは。
「ちょうどパンもありましたので……付け合わせになるようなものが作れればいいなと……栄養価の事も考えて作ってみたんですけど……皆さんのお口に合えば良いのですが……」
「間違いなく口に合う、匂いでわかる。ムセン、良くやった」
「え……えへへへ……イシハラさんが木や貝殻で簡易調理器具を作ってくれたおかげです……何でもできるんですねイシハラさんは」
警備員時代はほぼ完全に定時上がりだったし、午前で仕事が終わる時もあった。そのおかげで時間をもて余していた俺は暇つぶしに色々な趣味をもった。飽きやすいからどれも長続きはしなかったが、一通りの事はやった。
休みにふらっと旅に出たり、着の身着のままでいつの間にか無人島にたどり着いた事や山奥でサバイバルした事もあった。その時に適当に身についた技術だろう、まぁそんな事はどうでもいい。
「いただきます」
俺は自作した木のスプーンでシチューをいただく。
「! これはっ」
「……ど……どうでしょうか……? 技術を使って自分なりに考えて作ってみたのですが……」
「ムセン」
美味しいもくそもない。何だこの味は、初めてシチューではないシチューなるものを食べたが……俺から言える事は一つだけだ。
「……な、何でしょうか……?」
「結婚してくれ」
「え? は、はい。……………………………………………………………………………!!??」
素晴らしい、何だろうかこの美味さは。異界に来て初めて腹を膨らますため以外の目的の美味しさに出会った。
いや、もしかしたら地球でもこんな美味い料理を食べた事はないかもしれん。筆舌に尽くしがたい、これが……ソウルフード(魂を掴む料理)……!
「なななななな何を言っているんですすか!? イシハラさんっ! いきなりそんなっ……!!」
「俺のいた世界にはこんな言葉がある、『結婚には給料袋、お袋、堪忍袋、金玉袋(子宝)が大事だ』と。そしてもう一つが『胃袋』。まさしくその通り。こんな料理が毎日出てくる、それは俺のこれからの人生には欠かせないものになった。だから結婚してくれ」
「いえっあのっそんなっだめっそっそういうのは順序よくっ清い交際をっ経てからするものであってっ」
------------------------------------------
・ムセンは激しく動揺している!
------------------------------------------
「ムセン! 落ち着くなのよ! よそいながら動揺するのをやめるなのよ! スープが飛び散ってきて熱いなのよ!」
「ひぇぇ! 頭にかかってますぅ! 熱いっ!」
「えーずるいよーあたしが先に結婚の約束したのにー。あたしもこれから料理頑張るよー」
ふむ、確かにこいつが勝手に決めた事ではあるがシューズとも四年後くらいといって結婚の約束をしたな。この世界で違法になるかはわからないが重婚はまずいだろう。
「で出会ったばかりですしまだお付き合いもしていないのでそれはいきなりすぎてあれなんですけどお応えしかねるんですがもう少しお互いを知る事ができればそのお受けすることもいとわないというかもっとお互いを知ることが清いお付き合いになるというか決していやじゃないんですよけど私まだ男性とお付き合いもしたことがありませんのであの」
「じゃあいいや、今のナシで」
「えぇっ!? さ……最後まで聞いてくださいっ!」
ふむ、パンもシチュー似のスープによく合うし大変満足だ。俺はパンとスープと果物を貪(むさぼ)った。
「ねぇねぇイシハラ君、フレンド登録しようよ」
「構わん、申請しておけば後でやる」
「やったー、ふんふーん♪ 申請しておくね」
「ダ、ダメですシューズさん!」
「えー? 何でー? ムセンちゃん」
「女性の方は男性に気軽にフレンド登録して頂くものではありません! ス……スリーサイズまで知られてしまうのですよ!?」
「……? 別にイシハラ君になら知られてもいーけどフレンド登録でそんな事までわからないはずだよ? プライバシー侵害になるから」
「……え? で……でもイシハラさんには……私の身体の至るところまで知られてしまったのですよ!?」
「ホクロの数までな」
「誤解を招くような言い回ししないでください!……え? ただの冗談ですよね? 本当にそんな事まで書いてないですよね?」
「それはたぶん……ムセン君とイシハラ君が互いに【お気に入り登録】をしたからですね、見てみてください。フレンド登録の相手の詳細画面にハートマークがあるでしょう?フレンド登録は登録した人の中で一人だけ【お気に入り登録】ができるんです。お互いに【お気に入り登録】をすればより詳細な個人データや……その人が現在いる位置や状態など詳しく把握する事ができるのですよ」
俺はいつも通りに異世界転生ものに必須のステータスオープンをして確認してみる。
「本当だ」
こんなマークがあったのか、何か適当にいじっていたら押していたらしい。
「そ、そうなんですか。そんな事知らずに押していました……そもそもこのステータス画面やフレンド登録とは何なのでしょう……」
「元は対魔物の情報を解析する技術を人間用に新たに造り変えたものらしいですよ、この世界では学院を卒業して成人になるとこのステータス画面を無料で個人に実装しています。成人にならずとも希望者にはつけて頂けますが……少しお高いんですぅ……」
「そうなのよ……だからアタシはステータス画面は開けないのよ」
なるほどね、身分証明書みたいなものだな。
これならフレンド登録とやらをするだけで個人の持つ資格や技術、更には人となりが一発でわかる。いちいち資格証明書やら何やらを持ち歩くことはしなくていい。
つまりはファンタジー世界風のマイナンバーカード。しかし俺達はそんなもんつけてもらった覚えはないが。
「異界より召喚された方々には神官様が自動で技術付与を行っているらしいですよ」
「……ぅぅ、ありがたいようなそうでないような……大神官様も説明してくださらないからイシハラさんには私の情報が筒抜けになってしまいました……」
「じゃあイシハラ君、あたしをお気に入り登録してー? あたしはイシハラ君に全部教えてもいいからさー」
「だ、だめですっ! そんな簡単に女性の個人情報をお教えするものではありませんよシューズさん! し……仕方ないですね! 私はもう知られてしまいましたから私の情報は見てもいいですよっ! だけどイシハラさんは他の女性をお気に入り登録してはダメですから!ね?」
くそうるさい。何度も言っているように食事中にギャーギャー騒ぐんじゃない。
「霧が出てきましたね……冷え込んできたからでしょうか……?」
「確かに夜を明かすには冷たい気温ですね、何か毛布の代わり……に…なる……………よ………ぅ………な………」
…
………
……………
ふぅ、食った。星3つ。いつ食べログに掲載されてもおかしくない。
「うーん………イシハラくぅん………zzz」
いつの間にかシューズが膝の上で寝ていた。なんだこいつ、食べてすぐ寝るなんて体に悪いぞ。
じゃあ俺も寝るとするか。
「?……ムセン? スズキさん? エミリ?」
呼んでは見たが辺りは木々が風でそよぐ音しか聞こえなかった。
三人がいつの間にかどこにもいない。何事だ? 食事に夢中で全く気付かなかった。夜逃げでもしたのか?
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる