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第一章 一流警備兵イシハラナツイ、勤務開始
六十四.警備兵、洞窟(ダンジョン)警備する
しおりを挟む<ウルベリオン王国.『キューピー山』洞窟入口>
「ここが……危険度C級の盗賊団達の隠れ家……『冥邸洞(ハーベスト)』と呼ばれる洞窟か……」
「確認できている地下階層は現在地下57階まで……その下は魑魅魍魎(ちみもうりょう)達の蔓延(はびこ)る階層で『無大陸』に繋がっていると噂されています……魔物でさえ近づく事はできないとか……」
「何でもー古来から別世界の王、【冥王】が冥界との通用口に使ってたとか伝承では言われてるよー」
「そんな場所を隠れ家にするとはその盗賊団達も度胸があるというか何というか……一筋縄じゃいかなそうだな……」
「そうですね……しかし放っておけば近隣の町に被害が及ぶのは確実でしょう。ウルベリオン国にそんな蛮族を放置させておくわけにはいきません!」
「そーだねー、依頼されたし……アタシ達が盗賊団を倒しちゃおー」
「……そうだな! これが初仕事だ! 盗賊団を蹴散らして俺達の名をあげるぞ!」
ズル……ズル……ズル……
「……? 中から何か音がします! みんな! 構えて!」
ズル……ズル……ピタッ
「ん? 誰だお前ら? 冒険者か?」
俺はあるものを引きずりながら洞窟の入口に出た。
何か騒がしいと思ったらそこには冒険者らしき格好をした男女が今まさに洞窟に入らんとしていた。
話しも微かに聞こえてきたが、女二人はムセンとシューズの話し方にそっくりだったな。
「な……人間!? あんたこそ誰だ!」
「こんな危険な場所で……一体何をされてるんですか!?」
「一般の人ー? 盗賊団の一味には見えないしー……危ないから早く帰った方がいいよー?」
新米っぽいフレッシュな冒険者っぽい奴等は俺に話しかけてきた。
俺は適当に忠告する。
「俺は警備兵だ、依頼されて洞窟巡回警備をしてきたところだ。とりあえず冒険するなら地下57階以降には降りるなよ、化物だらけだ。面倒だから途中で帰ってきちゃった」
「け……警備兵……!? 何言ってんだあんた……?」
「地下57階以降って……あなたは一体どこまで降りたというんですか?!」
「とりあえず興味本位で地下135階くらいまで巡回した。好奇心は猫をも殺すっていうのは本当だな。疲れた。俺、仕事だからって二度と頑張らない」
「……ち……地下135階!?……ほ……本当なら歴史的な所業ですよ!?う……嘘をつかないでください!」
「どうでもいい、途中の階層要所に回復薬とか宝箱とかしこたま置いといたから疲れたら使え。魔物は全滅させたから必要ないけど。そういえば途中偉そうな奴らが襲いかかってきたから倒して引きずってきたんだった。こいつ兵士に渡しといてくれ」
俺は引きずっていた偉そうな族を冒険者達に放り投げた。
「が……が……あがが……」
----------------------------
・冒険者ギルド新人一行はC級盗賊団の団長を捕らえた! 盗賊は既に満身創痍だ!
----------------------------
「……」
「……」
「……」
「じゃ、お疲れ」
まったく、この世界の警備はどうなってるんだ。
いきなり新人警備兵に地下135階以上ある洞窟巡回警備なんてやらせるんじゃない、一人で。
しかも冒険者達のために宝箱とか置いてきてほしいって何の冗談だ。こーゆーのって巡回警備してるやつが置いてたのかよ。
魔物とか全滅させちゃったからもうやる事はないし。
この洞窟の定期巡回警備は七日間の契約だ。
と、いう事はあと6日間はもう何もしなくていいって事だ。
入り口で盗賊とかが来ないようにただ突っ立ってよう。
俺は洞窟から出た。
----------------------------
「ふぅ」
俺は休憩に入り、入り口の横にある岩に座って一息つく。
時刻は夕暮れ、朝から1日で135階まで休憩無しで行ったから少し疲れたな。
そう、俺は色々あって異世界『オルス』で警備兵になった。
就職の儀式で神託みたいな感じで俺のステータスになったのは、【一流警備兵】。
そんな感じで警備兵になった俺達はその後、警備協会とかいうところに行って警備兵の仕事についての説明を受けた後、晴れて仕事が与えられたというわけだ。
面倒だからこれ以上の説明はしない、というか俺は誰に説明してるんだ。
一緒に警備兵になったムセンとシューズはまだ見習い扱いなのでいきなり現場に出る事はなく、王都の警備協会で訓練をしている。
俺は何故かいきなり現場で、しかも一人でこの洞窟の施設警備的な事を任された。
まぁ訓練なんて面倒なだけだからそれはいいんだけど。
「いきなり一人で新人を現場に出すなよ、まぁ気楽でいいか」
そんなわけでここが異世界での俺の初現場なわけだ。
定期巡回警備というのはは昼夜問わず、この洞窟(施設)で異常が無いか見回る事。
安全を保つ、『保安警備』ともいう。
普通施設の警備なら仮眠所があったり交代要因がいたりするもんだが、そこは警備兵が人手不足な異世界。
そんな気の利いたものはなかった。
「まぁなんとかなるか」
とりあえず食料などは現地調達のサバイバルだな。コンビニとかスーパーとかないし。
寝床は適当に洞窟内にでも作ればいいか。
何か異変があったらすぐ向かえるように入口付近にしとこう。
「マップも記録したし、とりあえずやる事はこんなもんか」
----------------------------
【一流警備兵技術『ダンジョン(施設)把握』】
+
【異界アイテム・スマホ技術『異界マップ+脳内メモ』】
----------------------------
俺の視界、右上には洞窟内部地下135階までのマップが詳細に表示されている。
これで人や魔物が洞窟に入ればすぐにわかる。
さて、今日はもうこのへんにして寝床の準備を……
ダダダダダダダダダッ………
「い……いやぁぁぁぁぁぁ~諦めていただけたらありがたいんです~!」
何か女の声が聞こえたが寝床の準備を進めよう。
敷き詰める草かなんかあれば充分だな、寒くないし。
ちなみに警備協会からは警備兵装備品一式を渡された。
----------------------------
◇イシハラナツイ 現装備
・頭 身躱(みかわ)しのバンダナ E
・体 鎖かたびら E
・体 常闇マント E
・足 足甲 E
・武器 ライトセイバー
----------------------------
マントを掛け布団にしよう。
火は道具を作ればおこせるし、あとは食料だ。
とりあえず洞窟内には魔物の死体が散乱してるから食うものには困らない。
しかし、血抜きとか防腐処理とか料理に関する事はまったくわからん。
しまったな、ムセンに聞いてくるんだった。
ダダダダダダダダダッ……
「そっ……そこの方っ!! 危ないんです逃げていただけたらとわたしは思うんです!」
何か女が男達に追いかけ回されているが俺には関係ないな。
鳥は精霊界とやらに呼ばれて今いない。
ウテンは顔を迂闊にみんなにさらしすぎたとか何とかで行動を自重してるとかなんとかかんとか。
ふむ、困った。
料理できないぞこのままじゃ。
それに洞窟内に魔物の死体おきっぱなしも衛生的に良くないかもしれない。
「げっへへ……観念しろや、顔を隠してもわかるぜ……ここは俺達盗賊団の縄張りだ、逃げ場はねえ!」
「ぅぅ……怖いと思わなくもないです……何故わかったのかわたしは不思議でならないんです……しかし、わたしは捕らわれるわけにはいかないと思うんです!」
「その回りくどい喋り方でバレバレなんだよ! 諦めて大人しくするんだな! 悪いようにはしねぇからよ……」
ザザザザザザザザザッ!
「ぅぅ……下劣な輩達に囲まれたみたいです……! 捕まるくらいなら舌を噛んで死にますと思うんです!」
「くく、やってみな! おめぇら! 捕まえろ!」
ライトセイバーを発動した。
「いや、お前らうるさい」
そして、世紀末ヒャッハーな奴等に適当に斬りかかった。
「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!?」」」」
世紀末ヒャッハーな奴等は断末魔を上げて吹き飛んでいった。
ちなみに殺したわけじゃないぞ。
まったく、とんだ予定外労働だ。
わざわざ俺のところへ来てイベントを巻き起こすんじゃない。
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「あ、あのっ! 助けていただいてありがとうございましたとわたしは思ったのです!」
うるさい奴らに絡まれてた女は俺に頭を下げて話しかけてきた。なんか面倒くさい喋り方だったからとりあえず無視した。
「お強いのですね……わたしは驚いたと感じたのです! 何かお礼させていただきたいと……わたしは今思うのです」
女は被っていたフードを取り、俺に顔を見せた。
エメラルドグリーンの透き通る長い髪を肩のところで二つに結び、埃で汚れた顔を少しはたいて女は言った。
「わたしは隣国……『シュヴァルトハイム』の第二王女【エメラルド】だと思うのです、何かわたしにできる事を仰っていただけたらわたしは嬉しいと思います」
「飯作ってくれ」
俺は『ソーセージハム』とかいう国の王女【エスプレッソ】に飯を作るよう頼んだ。
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