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二章第二節 一流警備兵イシハラナツイ、〈続〉借金返済の旅
百二十七.シュヴァルトハイムの警備兵たち②
しおりを挟む「──待てよ、気にいらねぇ……テメーどこ行く気だ?」
声をかけてきたのはヤンキーだった。
猫娘が俺の協力をするのに反対していたからさっさと出て行く事になって精々しているかと思いきや意外にもヤンキーはなんか納得いかないような表情をして俺を引き留めた。
「目的を果たしに行くに決まってるだろバカかお前。話を聞いてなかったのか? もうここに用はない。それじゃ」
これ以上こいつらに構ってる暇はないからな、内輪揉めに巻き込まれるのは面倒だしさっさと行こう。
「待てコラ!! それだよ気にいらねぇのは!! テメー利用されるだけされて何の文句も言わねぇで平然と帰ろうとしてんじゃねえよ! そこはキレるとこだろうが!! オレ達の手なんかハナっからいらなかったのか!?」
ヤンキーはなんかわけのわからん言いがかりをつけてきた。
俺が怒るならともかくお前らがキレるのはおかしいだろ、お前らの事情を鑑みてやってるのに。
俺は面倒だから無視して出ていこうとした。
「ーーっ!! 待てっつってんだろコラっ!! テメーは気に食わねぇ!! だからテメーに貸しだけ作るなんざ真っ平御免なんだよ!!オレぁテメーの目的を果たすまでテメーについていってやっからな!! テメーの鼻を明かすのはこのオレ……ビリーだ!! ぜってぇテメーを越えてやっから覚悟しやがれこらぁ!!」
ヤンキーは主人公のライバルキャラみたいな事を言った。
なに勝手に俺のライバルみたいになってんだこいつ、お前とはまだ魚の骨を突き刺した思い出ぐらいしかないだろ。
「マスター!! すまねぇ!! オレぁこいつについてってこいつの仲間とやらを救う!! 平然としてなに考えてっかちっともわかんねぇ野郎だが……オレらに手ぇ貸してくれた事は事実だ! オレぁそれに報いなきゃ気がすまねぇんだ!! 行かせてくれ!」
そう言ってヤンキーはヤクザの挨拶のように膝に手を置きに頭を下げた。
猫娘もそれに倣い頭を下げて話し始める。
「……局長、ウチもこのバカと同じ気持ちだニャ。ナツイにゃんはいい奴だニャ、初めは利用するだけして逃げようとか実は思ってたニャけど……ニャんかナツイにゃんを見てると放っておけニャいニャ。ウチもナツイにゃんとの約束を果たすニャ、たとえそれがギルドのためにも警備兵としての自分達のためにもならニャくても……」
「…………」
ギルド内は静寂に包まれる。
猫娘もヤンキーも覚悟を決めたような表情でインテリヤクザを見据える、どうやら本気のようだ。
インテリヤクザは爺さんの方を見て呟いた。
「………ジレ、君も同じ気持ちかい?」
「ほっほっ、若者二人が約束を果たすために頭を下げとるんじゃ。わしが見守らにゃいかんじゃろうて……それにのぅカールや……お主も最初はこういった繋がりを大切と思っとったじゃろう……たとえ身にならんともたとえ破滅しようとも……仕事の本質は『誰かの想いを成すために動くこと』……そう信じてのう」
「……………」
爺さんは初めてまともに喋った、インテリヤクザはどうやらカールという名前のようだ。凄くどうでもいいけど。
それよりも話が長い、こんな内輪揉めを聞いている場合じゃないんだけど。
「ジレ、だけどそれで何が残った? 来る日も来る日も奴隷のような依頼(しごと)を受けて何が残ったって言うんだ? 皆に底辺職と蔑まれる毎日と安い給金、そしてそれが続く……終わらない日常だけじゃないか」
「ほっほっ、ならば何故まだ仕事を続けておるのじゃ? さっきも別の依頼を用意するとか言っておっただろうに」
「…………」
「お主も『アラン・ピンカー』に救われたからじゃろう、そして警備兵となった。それは警備兵という職業を……蔑まれておる現状から立ち直らせるためじゃないのかの?」
「…………」
インテリヤクザは爺さんに諭されてうつむき複雑そうな表情をしている、この二人には何かしらの因縁があるのだろうか。
そして、何度も言うが話が長い。
いつまでもこいつらの過去話に付き合わされそうだったので俺は全てを呑み込み理解した表情をしながら出て行く事にした。
「待てや!! なに優しい眼をしてオレ達の事情をわかった風に装って帰ろうとしてやがる!? まだ話終わってねえだろ!!」
ヤンキーにバレた。
「……僕は詳しい事情を知らない、だが、余所の国の面倒事を持ち込まれるのは御免だ。もしも彼に協力するというのなら……キミ達はギルドをクビにする。それでも行くかい?」
「「!!」」
猫娘とヤンキーはインテリヤクザのその言葉を受けて少し驚きの表情を見せた。
なんか大事(おおごと)になってきたな、こいつらに事情に首を突っ込む気も意見する気もないけど。
ガチャ
するとまたもやギルドの扉が開く。
「待てっつってんだろ! すぐ帰ろうとすんじゃねえ!」
「何言ってんだ、俺じゃないぞ。やーい早とちりヤンキー、略して早漏れ男ー」
「んだとてめぇ!! 略されてねえしなんか下品な感じがするからやめろや!」
ヤンキーはまた俺が帰ろうとして扉を開いたのかと勘違いして怒号をあげた、だが勘違いだったので冗談を言ってからかってやった。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……イシハラナツイくんっ……」
扉を開きギルドに入ってきたのは新キャラの仮面女だった、そいつは何故か息切れしながら俺の名前を呼んだ。
いい加減新キャラ増やすのやめろと思った俺はご退場願いそいつを外へ押し退ける。
「まっ……待って待ってよっ!! あたしだって! ほらっ、王都戦争の時に馬に乗ってたっ……雨天と同じ諜報員のコードネーム【片時雨(かたしぐれ)】だよ!」
知らん。
そんなちょい役みたいなやつ覚えてるわけないだろう、新キャラも同然だ。
俺は新キャラ仮面女をグイグイと外に追いやる。
「待ってって! 重要で急ぎの話なんだよっ! 急いで港町に向かって!」
仮面女の表情は見えないが声の感じから本気を感じた俺は真面目に話を聞くことにした。
「なんだ? なにかあったのか?」
「……あなた達の目的は失敗したの。セーフ・T・シューズを乗せたイルムンストレアの船はもう出港してしまった。護衛の任を負ったツリー・ネイチャーセイバーとコードネーム雨天は共に重傷だって……」
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