197 / 207
二章第三節.イシハラナツイ、〈続〉〈続〉借金返済の旅
百四十二.血望する未来
しおりを挟む〈レジスタンスアジト 会議の間〉
「こっちがストレア王都の全体図、こっちが城の見取り図だ。手に入れんのに相当苦労したが……とにかく、これで作戦の本筋を練れる。イシハラと数日話し合って決まった概要はこうだ」
一堂に会したメンバーの前でド=ゴーンが説明を始める。会議の間と称された広々としたその空間には屋根から伸びる木の根が壁一面に張りついていて所々に草が自生している。灰色の壁には彫刻が施され、心なしか日の光がどこかから漏れている錯覚に陥る。注目を集め弁を振るうド=ゴーンが教卓代わりにしている祭壇のようなものから察するに地下の礼拝堂か何かだったのだろうと要らない考察をしてみた。
総勢20人くらいの集まったメンバーの注目を明け渡すようにド=ゴーンは俺の役割を説明し始める。
「本作戦での最重要任務につくのがイシハラだ、6日後に開催される〈プロフェッショナルバトルオリンピア〉に出場し、予選を勝ち抜いて【警備兵】の門戸を開放させる。上級区に入れるようになったムセン嬢達が城へ忍び込んでお友達を救出……もしもイシハラが予選を通過できなければそれだけでご破算になるわけだ」
その場合の予備案(バックアッププラン)はない、それができなければ力ずくの正面突破しかなくなる。というのもストレア王都があまりに閉鎖的で情報が少なすぎるからだ。その原因となっているのが蔓延する職業差別。
【底辺職】の生活圏は非常に狭くーー関われる人間も限られてくる。レジスタンスメンバーが集められる情報は奴隷や悪徳商人からわずかな活動資金で買ったものであり確かなものではない。
上級区以上に入った事のある人間は誰もおらず、真偽など確かめようもない。つまりどうしようもなく閉ざされた道の僅かな隙間から漏れる光明は、向こうから開かれるその扉からしか得られないのだ。
「大会本選は予選の2日後……場所は上級区にある闘技場だ。イシハラが予選を通過すれば【警備兵】は上級区出入り可能になるわけだが……ムセン嬢達はお友達を助ける前にここの『鍵』をどうにかして欲しい」
ド=ゴーンは広げた王都全景の地図を指さす、かなり大雑把な地図のそこには丸印が記されていた。
「この場所は何ですか?」
「地下下水道の入口だ、上級職の奴等が出した生活排水を【底辺地区の最下層】へと流す仕組みが造られていると聞いている場所だが普段は鍵がかけられてるらしい」
「ニャ……酷いにゃ……最下層の人達は汚れた水で生活してるってことかニャ……」
「だが、つまりは繋がっていて侵入できるということだな?」
「あぁそうさ、あたぃらは最下層から侵入して鍵が開くのを待つ。鍵を開けて合流したのちに城のある【特別区】へ入る手筈にかかるわけさ」
「つまりオレらぁ入って鍵を探して開けるだけか、楽勝じゃねーか」
「だが、鍵を持ってるのは恐らく上級区を巡回している区の【衛兵隊長】だ。上級区を任される衛兵はそこらの騎士と実力は遜色ねえと聞いている、はっきり言うがお前らが残り日数で【職業展開】を会得しねぇと勝ち目はゼロだ。どんな方法で鍵を得るかは現場判断に任せるがな」
「「「「…………」」」」
上級区侵入を任されるムセン、猫娘、ヤンキー、爺さんはそれを聞いて真剣とも不安とも取れる顔をする。見かねたシャベリューが声をかけた。
「あっしも嬢さん達と行きますぜ、荷車を引く地竜まで検問に引っ掛かるなんてこたぁねぇでしょう?」
「ああ、馬や地竜は貴族の脚にも必要だからな」
「頼りにならねぇたぁ思いやすが……これでも野良魔物くれぇなら退治できやすからね。乗り掛かった舟っつーことで協力させてもらいやすよ」
「……シャベリューさん……ありがとうございます。とても心強いです」
「それで合流した後は? お前らレジスタンスメンバーはどう動くつもりだ?」
「まずはあたぃが城への侵入経路を探す、整い次第……突入。あんたら警備兵たちはそのままお友達を助け出して地下下水道まで戻って脱出しな」
「……え? ツバキさん達はどうするのですか?」
「お忘れか? 某らはレジスタンス……改革を成さずして帰る場所は無し。だがお主らには関係の無い事……」
「あぁ、そうだ。そっから先はこの国の住民である俺らの仕事だ、安心しな。用が済んだら脱出して近くの村で祝杯だ、おめぇらは先に準備しといてくれ」
ふむ、救出から先は完全に別行動ーーもとい離別するわけだ。俺達はシューズを救えればそれでいいし、レジスタンス達は城へのルートが拓かれればそれでOK。
そこから先、『何をするか』はこいつらの勝手だ。聞かない方がいいだろうし話す気もないだろう、聞いてしまえば反対意見が出て揉めることになるだろうしな。今は内部で二分してる時間などない、特にムセンなんかは100%反対する。
理想論でこの強大な現実がひっくり返るわけはない、血を流さない改革など起きはしないのだ。
と、独白するのを堪(こら)える。危ない危ない、口に出したらこいつらの覚悟が台無しだ。
大まかな作戦発表を終え、皆はチーム毎に別れ個々の役割を頭に叩き込んでいる。
俺とド=ゴーンはそれを眺めながら話しをする。
「首をとるつもりか、玉砕自爆するつもりか、どっちなんだ? これは単なる興味本位の質問だ」
「……ばっはっはっ、珍しく無粋じゃねえか。お前さんのことはたった数日の間でも良ーくわかったつもりだったが……俺の見込み違いか?」
「気になったことは知らなきゃ気が済まない性質もあるからな、その時の気分次第だ」
「なるほど、だったら寝て忘れるこった。明日になりゃあ気にならなくなるさ」
「ガキ達はどうするつもりだ? どんな手段を取るにせよ、一日で国が変わるわけはない。悪くなる可能性だってある、放っておくつもりか?」
「安心しな、ミチュリんは地下下水道に残す。あいつには夢があるからな、たとえ俺らが死んでも国が変わるその日まで諦めたりはしねぇ。ガキ共の事だって面倒見てくれるだろう。お前さんが引き取ってくれるだろうと思ってたりもするんだがな?」
「大層な見込み違いだな」
「ばっはっはっ! 明日になりゃあ気が変わるさ!」
こいつらがただの話し合いをする為に行くわけじゃないと確信する。
考え違いでなければーーいや、その先は言うまい。
「感謝するぜイシハラ、お前さんが来なけりゃあジリ貧だった……何も成せないままに終わっていた。きっと職業神とやらが望みを与えてくれたんだろう、この千載一遇の好機を逃すわけにゃあいかねぇんだ。残り時間は少ねぇが……それまで宜しく頼むぜ」
「わかった」
それだけ返事をしてこの場を去る。
俺がジャンプ主人公じゃなくて良かったなド=ゴーン。正義感溢れる熱血漢だったら邪魔されてるところだったぞ。
この話は墓場まで持っていってやるさ、安心しろ。
ま、気分屋だから明日にはどうなるか保証はしないけどな。
0
あなたにおすすめの小説
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
最強賢者の最強メイド~主人もメイドもこの世界に敵がいないようです~
津ヶ谷
ファンタジー
綾瀬樹、都内の私立高校に通う高校二年生だった。
ある日、樹は交通事故で命を落としてしまう。
目覚めた樹の前に現れたのは神を名乗る人物だった。
その神により、チートな力を与えられた樹は異世界へと転生することになる。
その世界での樹の功績は認められ、ほんの数ヶ月で最強賢者として名前が広がりつつあった。
そこで、褒美として、王都に拠点となる屋敷をもらい、執事とメイドを派遣してもらうことになるのだが、このメイドも実は元世界最強だったのだ。
これは、世界最強賢者の樹と世界最強メイドのアリアの異世界英雄譚。
クラスの陰キャボッチは現代最強の陰陽師!?~長らく継承者のいなかった神器を継承出来た僕はお姉ちゃんを治すために陰陽師界の頂点を目指していたら
リヒト
ファンタジー
現代日本。人々が平和な日常を享受するその世界の裏側では、常に陰陽師と人類の敵である妖魔による激しい戦いが繰り広げられていた。
そんな世界において、クラスで友達のいない冴えない陰キャの少年である有馬優斗は、その陰陽師としての絶大な才能を持っていた。陰陽師としてのセンスはもちろん。特別な神具を振るう適性まであり、彼は現代最強の陰陽師に成れるだけの才能を有していた。
その少年が願うのはただ一つ。病気で寝たきりのお姉ちゃんを回復させること。
お姉ちゃんを病気から救うのに必要なのは陰陽師の中でも本当にトップにならなくては扱えない特別な道具を使うこと。
ならば、有馬優斗は望む。己が最強になることを。
お姉ちゃんの為に最強を目指す有馬優斗の周りには気づけば、何故か各名門の陰陽師家のご令嬢の姿があって……っ!?
生贄にされた少年。故郷を離れてゆるりと暮らす。
水定ゆう
ファンタジー
村の仕来りで生贄にされた少年、天月・オボロナ。魔物が蠢く危険な森で死を覚悟した天月は、三人の異形の者たちに命を救われる。
異形の者たちの弟子となった天月は、数年後故郷を離れ、魔物による被害と魔法の溢れる町でバイトをしながら冒険者活動を続けていた。
そこで待ち受けるのは数々の陰謀や危険な魔物たち。
生贄として魔物に捧げられた少年は、冒険者活動を続けながらゆるりと日常を満喫する!
※とりあえず、一時完結いたしました。
今後は、短編や別タイトルで続けていくと思いますが、今回はここまで。
その際は、ぜひ読んでいただけると幸いです。
勇者パーティーを追放されたので、張り切ってスローライフをしたら魔王に世界が滅ぼされてました
まりあんぬさま
ファンタジー
かつて、世界を救う希望と称えられた“勇者パーティー”。
その中で地味に、黙々と補助・回復・結界を張り続けていたおっさん――バニッシュ=クラウゼン(38歳)は、ある日、突然追放を言い渡された。
理由は「お荷物」「地味すぎる」「若返くないから」。
……笑えない。
人付き合いに疲れ果てたバニッシュは、「もう人とは関わらん」と北西の“魔の森”に引きこもり、誰も入って来られない結界を張って一人スローライフを開始……したはずだった。
だがその結界、なぜか“迷える者”だけは入れてしまう仕様だった!?
気づけば――
記憶喪失の魔王の娘
迫害された獣人一家
古代魔法を使うエルフの美少女
天然ドジな女神
理想を追いすぎて仲間を失った情熱ドワーフ
などなど、“迷える者たち”がどんどん集まってくる異種族スローライフ村が爆誕!
ところが世界では、バニッシュの支援を失った勇者たちがボロボロに……
魔王軍の侵攻は止まらず、世界滅亡のカウントダウンが始まっていた。
「もう面倒ごとはごめんだ。でも、目の前の誰かを見捨てるのも――もっとごめんだ」
これは、追放された“地味なおっさん”が、
異種族たちとスローライフしながら、
世界を救ってしまう(予定)のお話である。
~唯一王の成り上がり~ 外れスキル「精霊王」の俺、パーティーを首になった瞬間スキルが開花、Sランク冒険者へと成り上がり、英雄となる
静内燕
ファンタジー
【カクヨムコン最終選考進出】
【複数サイトでランキング入り】
追放された主人公フライがその能力を覚醒させ、成り上がりっていく物語
主人公フライ。
仲間たちがスキルを開花させ、パーティーがSランクまで昇華していく中、彼が与えられたスキルは「精霊王」という伝説上の生き物にしか対象にできない使用用途が限られた外れスキルだった。
フライはダンジョンの案内役や、料理、周囲の加護、荷物持ちなど、あらゆる雑用を喜んでこなしていた。
外れスキルの自分でも、仲間達の役に立てるからと。
しかしその奮闘ぶりは、恵まれたスキルを持つ仲間たちからは認められず、毎日のように不当な扱いを受ける日々。
そしてとうとうダンジョンの中でパーティーからの追放を宣告されてしまう。
「お前みたいなゴミの変わりはいくらでもいる」
最後のクエストのダンジョンの主は、今までと比較にならないほど強く、歯が立たない敵だった。
仲間たちは我先に逃亡、残ったのはフライ一人だけ。
そこでダンジョンの主は告げる、あなたのスキルを待っていた。と──。
そして不遇だったスキルがようやく開花し、最強の冒険者へとのし上がっていく。
一方、裏方で支えていたフライがいなくなったパーティーたちが没落していく物語。
イラスト 卯月凪沙様より
レベルアップは異世界がおすすめ!
まったりー
ファンタジー
レベルの上がらない世界にダンジョンが出現し、誰もが装備や技術を鍛えて攻略していました。
そんな中、異世界ではレベルが上がることを記憶で知っていた主人公は、手芸スキルと言う生産スキルで異世界に行ける手段を作り、自分たちだけレベルを上げてダンジョンに挑むお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる