百物語 厄災

嵐山ノキ

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第四十三話 退職の日

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 私の友人と同じ会社のJさんは、45年勤めたその会社を退職することになった。
 部長職までの出世で、多くの部署のまとめ役として働いてきたことは誇りでもあり、退職日の夜に行われた送別会にも関係してきた部署から大勢の参加者が集まった。
 これまでの会社生活に思いを馳せたJさん。その中で多くの出会いや別れがあったが、なぜかこの日はある3人のことが頭をよぎったそうだ。
 1人目はJさんの数年後の入社で、直属の部下でもあった課長職の男性。
 勤務中に倒れ、数日後に亡くなってしまった。くも膜下出血だった。
 退職する当日、最後の荷物整理をしているとその亡くなった課長が作った書類が出てきた。2人で企画をまとめた社内プロジェクト立ち上げの資料だった。
 2人目はJさんの部署に配属になった新入社員の男性。入社して半年も経たずに精神を病み、数ヶ月休職してそのまま復帰することなく退職した。
 送別会の場所が、ちょうどその彼が入社したときの歓迎会で使われた店だった。
 3人目はJさんの妻だった。
 昨年に体調不良を訴え、病院で検査したところ癌が見つかった。すでに末期で、3ヶ月も保たずに亡くなってしまった。
 送別会の後の二次会で訪れたスナックの店の名前が、妻の名前と同じだった。

「もう会うことのない3人も、私の門出を祝ってくれていたのではないかと思うのです」

 私の取材に対してJさんはニッコリとしながらこう語ったが、紹介してくれた友人の見解は違っていた。

「亡くなった課長はいつもかなりJさんから責められていて、会社で倒れたのも仕事を押しつけられて残業続きだったことや、毎日叱責されていたストレスも関係しているんじゃないかと思う」

 どうもJさんと亡くなられた課長の中は必ずしも良好ではなかったようだ。

「すぐやめたという新人は、再就職先が見つからず自ら命を絶っていたらしいよ。そもそもやめた理由もJさんからのパワハラだったんだ。一度使えない新人だとレッテルを貼ってからは、他の社員の前で叱る、コピーやシュレッダーなどの雑用しか与えないといった追い込み方をしていたけれど、会社側で問題にされなかったみたいだ」

 さらにJさんの妻についても友人は知っていた。

「Jさんは同じ部署の女性の部下と不倫関係にあって、それが奥さんの心労になっていたみたいだ。不倫相手は俺も知っているけれど、だいぶ気が強くて奥さん宛にJさんと別れるよう直接電話をすることすらあったって」

 こちらの衝撃が覚めないうちに友人はこう締めくくった。

「だから退職の日にこの人たちに関係のある出来事が起きたのは、退職しても逃がさないぞという意思みたいなものを感じるよね」

 Jさんがその後どうしているかは、特に知らないそうだ。
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