百物語 厄災

嵐山ノキ

文字の大きさ
48 / 101

第四十八話 人数の合わない発表会

しおりを挟む
 Oさんが市民の集まるホールに来ていたときのことだという。
 目的は大正琴の発表会を見ること。
 これはOさんの叔母が地域のクラブに参加しており、その晴れ舞台として地域ホールで発表会が催されることになったのを見ることになったのである。
 発表者の身内ばかりが集まる小規模な発表会。
 Oさんは叔母とは仲がよく、叔母が人前でどのように演奏するのだろうかという興味もあって、さほど嫌でもなく参加した。
 演目の紙がめくられる。「春の小川」。
 なるほど、知っている曲が多そうだとOさんは思った。
 そして発表者が舞台に現れ、すでに置かれていた大正琴の前に座る。
 そこでOさんは違和感を覚えた。
 大正琴の数と発表者の数が合わないのである。
 ずらずらと登場したのが5人だが、大正琴は6つ。
 1つの席が空いたまま、演目が始まってしまった。
 「春の小川」が演奏される。

「ああ、当日になって病気とかで来られない人もいるんだ」

 Oさんは一人で納得して、叔母たちの演奏を見ることにした。
 実際に演奏しているのを見るのは初めてだった。
 自分の手元をずっと見ながら必死に演奏する人。
 右手を細かく動かして何かを調整している人。
 客席の方を眺めながらも余裕げに手を動かす人。
 クラブの中でも技量の差があるし、演奏の仕方も様々だとOさんは思った。
 ところがここでOさんは不思議なものを目撃する。
 持ち主が現れなかった大正琴の弦が、動いているように見えたのだ。
 曲に合わせているのかどうかはOさんは専門外なのでよくわからないが、とにかく弦が何かに引っ張られるように震えたりたわんだりしている。
 目の錯覚かと思って瞬きを繰り返したが、やはり動いているように思われた。
 不思議な気分が覚めず、他の客に尋ねることもできないまま次の曲「さくらさくら」が始まってしまった。
 しかしそこからは、大正琴がひとりでに動くことはなかったという。
 後日、Oさんは叔母に発表会で目撃した事象について話した。
 そして、こう聞いたという。

「ねえ、あのクラブでもしかして、誰か亡くなった人とかいたの?」

 亡くなったクラブのメンバーが発表会に出たくてその時だけ現れたのではないか、そうOさんは考えていた。

「うーん、亡くなった人はいないんだけど……」

 叔母は言葉を濁しながらこう続けた。

「事件を起こして服役してる人がいて。その、捕まってからは会っていないし、発表会の話も多分、伝わってないんじゃないかと思うねえ」

 どんな事件で服役したのかについて、叔母は教えてくれなかったとのことだ。
 結局、何があのとき大正琴を動かしていたのか、Oさんは予想も付かないという。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/2/22:『まどのそと』の章を追加。2026/3/1の朝頃より公開開始予定。 2026/2/21:『おとどけもの』の章を追加。2026/2/28の朝頃より公開開始予定。 2026/2/20:『くりかえし』の章を追加。2026/2/27の朝頃より公開開始予定。 2026/2/19:『おとしもの』の章を追加。2026/2/26の朝頃より公開開始予定。 2026/2/18:『ひざ』の章を追加。2026/2/25の朝頃より公開開始予定。 2026/2/17:『うしろまえ』の章を追加。2026/2/24の朝頃より公開開始予定。 2026/2/16:『おちば』の章を追加。2026/2/23の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

短い怖い話 (怖い話、ホラー、短編集)

本野汐梨 Honno Siori
ホラー
 あなたの身近にも訪れるかもしれない恐怖を集めました。 全て一話完結ですのでどこから読んでもらっても構いません。 短くて詳しい概要がよくわからないと思われるかもしれません。しかし、その分、なぜ本文の様な恐怖の事象が起こったのか、あなた自身で考えてみてください。 たくさんの短いお話の中から、是非お気に入りの恐怖を見つけてください。

【電子書籍化】ホラー短編集・ある怖い話の記録~旧 2ch 洒落にならない怖い話風 現代ホラー~

榊シロ
ホラー
【1~4話で完結する、語り口調の短編ホラー集】 ジャパニーズホラー、じわ怖、身近にありそうな怖い話など。 八尺様 や リアルなど、2chの 傑作ホラー の雰囲気を目指しています。現在 150話 越え。 === エブリスタ・小説家になろう・カクヨムに同時掲載中 【総文字数 800,000字 超え 文庫本 約8冊分 のボリュームです】 【怖さレベル】 ★☆☆ 微ホラー・ほんのり程度 ★★☆ ふつうに怖い話 ★★★ 旧2ch 洒落怖くらいの話 ※8/2 Kindleにて電子書籍化しました 『9/27 名称変更→旧:ある雑誌記者の記録』

タクシー運転手の夜話

華岡光
ホラー
世の中の全てを知るタクシー運転手。そのタクシー運転手が知ったこの世のものではない話しとは・・

処理中です...