恋愛掌編小説集

まゆり

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お姫様救助隊

2

プレゼントって……死体ってこと? やだー気に入るわけないじゃんよ、お馬鹿さん。
 男は後ろ手にドアを閉めると、あたしをいきなり玄関先で押し倒した。ちょっとちょっとなにすんのよー。死体を送りつけてきたり押し倒したり、そういう嫌がらせはやめてってば。
「畜生、このアマ。てめえの男の死体を見てもびびらねえなんて、懲りねえ女だ。金は一式組のおやっさんが返したっつーのに、借金取りをしつこく送ってきやがってよお。うちの坊ちゃんを馬鹿にすんじゃねえ」
「ちょっと、てめえの男って、何のことよ。あたしは引っ越してきたばかりなんだってば」
「うるせえ、そのクソ女」
 男があたしの首を絞める。ドアが開く。今度は誰なんだ。く、苦しい。なんだかわけのわからないまま殺されちゃうのか? うああああああ。
 
 ここはどこなんだろう。だれかにお姫様だっこされている。眠っていたのだろうか。目を開ける。げっウサギ耳男。
「やっと気が付いた? 危ないところだった」
 何であんたがここにいるのよ? ここはあたしの部屋。なんだか嫌なにおい。ママが送ってきた大量のいわしを冷蔵庫で腐らせたときみたいな……。辺りを見回すと、さっきのサングラス男が血だらけになって転がっている。
「……殺しといた」
「……どういうことよ、で、何であんたがここにいるの?」
「呼んだでしょ、『お姫様救助隊』。まさかビデオボックスの子だとは思わなかった。呼ばれる前に、一回抜いて、雑念を払っとかないと、プロの仕事はできないからね」
「なにそれ? わけわかんなーい」
「……しまった。場所を間違えたか? ○○ハイツの×××号室でしょ?」
「そうだけど」
「じゃあ間違いない。本当に呼ばなかった?」
「その『お姫様救助隊』って何よ」
「ああ、簡単に言うと女性用風俗。すげー淫乱女と一緒で、今手がはなせねーから代わりに行ってくれって、知り合いのセラピから電話があったんだ。緊急にシたいって女が電話かけてきたって」
 
 なんだか混乱してきた。あの不動産屋が、副業で女風? わからないでもない。でも本業と副業を混同しないでくれ。
 あたしは三島さんに電話をして、今までの経緯を簡単に説明した。
「ああ、申し訳ない。その物件はね、元闇金の事務所。つかまって競売に出てたのをうちで安く買ったんだ」 
 それを早く言え。
「でもさあ、三島さんのお友達がひとり殺しちゃってんだけど、どーすんのよ。それにもう一体死体もあるし」
「……そいつら、どーしよーもないチンピラだから、その辺に捨てとけばいいよ」
「クール宅急便で三島さんとこ、送ろうか?」
「……品名に死体って書くのを忘れずに。ってのは冗談だけど、そこにまだ忘れ物があるからこれから取りに行くわ」
 電話を切ろうとしたときに、三島の悲鳴が聞こえた。声は遠いが話し声も聞こえてくる。

 ――ぎゃあああ、何するんだ。知らなねえってば。闇金がドロンした後に返済された金一億? 俺知らないってば……殺さないでくれー、お願いだ。え、その一億円のせいで、あんたのダンナが殺されたって? ああ、一色会の坊ちゃんの一億? 返済したのに、されてないって取り立てたばっかりに? 俺じゃねえんだよー、ゆ、許してくれー。くくくく、苦しい。うう、本当のことを話せば殺さないって約束するか? わかったよ、言うから殺さないでくれ。金はあの元闇金の事務所があったマンションの、天井裏だ。ちゃんと一億隠してある。嘘じゃない。わっ、殺さないって約束じゃないかああああ、うああああああ――
 断末魔と思われる三島の声。ドアが閉まる音。
 
 さて、状況を整理してみよう。
 天井裏に一億円。死体はここにふたつ、電話の向こうにひとつ。こっちに向かっている殺された闇金経営者の女。ヤクザを殺した、ウサギ耳好きの女風セラピ。
 何を取るか。
 そんなこと、考えるまでもない。
 あたしとウサギ耳男は、天井裏の金を探した。   
                               (了)                                   
                          
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