バンコクトライアングル――恋の逃避行――

まゆり

文字の大きさ
1 / 15

1

しおりを挟む
 えっと、47Bって……?

 サウスイースト航空バンコク行きの最終搭乗案内を聞きながら、動く歩道を全速力で突っ走り、やっとのことで機内にたどり着いた。

 Bの座席は、窓際の三列の真ん中だ。
 混んでいなければ三席独り占めしていけるのに、機内を見回すと、ほとんど空席が見当たらない混みようだった。

 荷物をロッカーに入れる人々を掻き分けながら、47列目にたどり着く。
 窓際のAの席に男がひとりで座っている。
 ちぇ、先客がいたか。47、48、49と書かれたロッカーを開け、荷物のボストンバッグを上げようとした。

「だいじょうぶ?」

 Aの席に座っていた男がこちらを向いて、言った。
 わ、イケメン。
 すらりと背が高く、ちょっとホストっぽいスーツがいただけないけど、ハーフっぽい顔立ちがけっこう好みなんですけど。
 男は座席から立ち上がると、ひょいとあたしのバッグをつかみ、ロッカーに収めた。

「あ、ありがとうございます」
「こちらこそ、こんなに可愛い子と隣って、俺ラッキー」

 ラッキーだって、ラッキーだって、ラッキーだって?

「名前、なんていうの?」
「あたしは月子」

 使い慣れている偽名を口にした。
 本当の名前なんてダサすぎて誰にも言えない。

「俺はシンヤ」

 なんとなく上手く行き過ぎているような気がして、あたしはシンヤの顔とか、全体の雰囲気をチェックする。

 ケンカの弱そうなイケメン。
 どう考えてもあいつらの回し者ではない。
 もっとガタイがでかくて、目つきが悪く、環境に溶け込む目立たない格好をしているはずだ。

 なにしろ、成田まで来るのも大変だった。
 あいつらを振り切って、高速を闇雲に走り、車から飛び降りて無理矢理リムジンバスに乗せてもらい、やっとターミナルまで来た。

 持つべきものは友達だ。
 留学先で知り合ったスピード狂のタクがいなかったら、あたしはとても日本から脱出できなかったと思う。

 それにしても、最終搭乗案内でさんざん人をせかしておいて、いったいどれだけ待たせるつもりなんだろう、と思っていたら、通路を走ってきた男があたしの隣のCの席に座った。

 げっ、絶対にあたしが最後だと思ったのに、上には上がいたか。

「あの、バンコクまでですか?」

 冴えないバックパッカー風。
 そして眠そうな麻呂顔。
 全然好みじゃない。
 でも、こいつも、どう考えてもあいつらの仲間ではない。
 とりあえず安心。

「は、はい」
「それじゃ一緒ですね。よかった」

 パスポートも留学時代の友達に頼み込んで、借りた。
 紛失したと嘘をついて、あたしの写真が入ったものをつくらせてもらったのだ。
 あいつらに捕まらないかとひやひやしたけど、ばれずに偽造することができた。
 これでやっと、国外に逃亡できる。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~【after story】

けいこ
恋愛
あの夜、あなたがくれた大切な宝物~御曹司はどうしようもないくらい愛おしく狂おしく愛を囁く~ のafter storyです。 よろしくお願い致しますm(_ _)m

閉じ込められた未亡人は、当主となった義息と契約する。

黒蜜きな粉
恋愛
借金の肩代わりとして後妻に入った私は、 妻と呼ばれながら屋敷の離れで「いないもの」として暮らしていた。 ある雪の日、夫が事故死したと告げられる。 だが、葬儀に出ることすら許されず、私は部屋に閉じ込められた。 新たに当主となった継子は言う。 外へ出れば君は利用され奪われる、と。 それが保護であり、同時に支配なのだと理解したとき、 私はその庇護を条件付きの契約に変えることを選ぶ。 短いお話です。 ※第19回恋愛小説大賞にエントリーしております。

エリート警察官の溺愛は甘く切ない

日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。 両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉

白椿の咲く日~ひそかな恋、遠い日の思いは

紫さゆり
恋愛
結婚を控えた真由子は、久しぶりに異母姉の稚子(わかこ)と会う。 真由子の母の雪江は、大学教授であり著名な歌人の水上実之(みなかみさねゆき)の後添いとして水上家に嫁いだ。 婚約者の諒人(りょうと)のことなど、真由子は稚子と色々語り合ううち、庭の白椿の木は真由子がなついていた異母兄、靖之が植えたものだと知る。 白椿の木をめぐっての、ひそかな大人の恋物語です。

有名俳優の妻

うちこ
恋愛
誰もが羨む結婚と遺伝子が欲しかった そこに愛はいらない

行き遅れ王女、重すぎる軍団長に肉で釣られる

春月もも
恋愛
25歳、独身、第四王女システィーナ。 夜会でも放置されがちな行き遅れ王女の前に、ある夜突然現れたのは、ローストビーフを差し出す重すぎる第三軍団長だった。 形のない愛は信じない。 でも、出来立ての肉は信じてしまう。 肉に釣られ、距離を詰められ、気づけば下賜され、そして初夜へ。 これは、行き遅れ王女が重たい愛で満たされるまでの、ちょっとおかしなお話。

降っても晴れても

凛子
恋愛
もう、限界なんです……

恋愛の醍醐味

凛子
恋愛
最近の恋人の言動に嫌気がさしていた萌々香は、誕生日を忘れられたことで、ついに別れを決断。 あることがきっかけで、完璧な理想の恋人に出会うことが出来た萌々香は、幸せな日々が永遠に続くと思っていたのだが……

処理中です...